画面に、名前が書かれている——エルブリッジ・エイアー・バーバンク
九点の上部には、描かれた人の名と出身の集団名が書き込まれている。名の失われる肖像が多いなかで、これは例外である。同時に、外から来た者が描いたという事実もある。記録の価値と視線の非対称を、両方見る。綴りは描いた人の耳によるものであることも、書き添えておきたい。

名前が、画面に書かれている
一枚の小さな肖像から始めたい。

縦長の小さな画面である。
男性の横顔が描かれる。
赤い布を、体に巻いている。
髪は長く、後ろで束ねられる。
頭に、羽根が数本立つ。
胸元に、丸い金属の飾り。
背景は、灰色がかった緑である。
画面の上部の文字
画面の上を見たい。
文字が、二行に書かれている。
上の行が、その人の名。
下の行が、出身の集団の名である。
名を、記すということ
これは、この連作の要点である。
描かれた人の名が、画面に書かれている。
そして、館の記録にも題として残っている。
つまり、誰を描いたか分かる。
名の残らない肖像
当サイトでは、繰り返し触れてきた。
肖像の人物の名は、失われやすい。
そして、《男性の肖像》とだけ記される。
この連作は、その逆である。
名の書き方について
もっとも、注意も要る。
画面の名は、描いた人が耳で聞いて綴ったものである。
つまり、その集団自身の表記とは限らない。
当サイトの日本語表記も、その綴りに沿った近似である。
正確な発音や表記を示すものではない。
集団の名
下の行には、集団の名がある。
そして、九点でそれぞれ異なる。
つまり、複数の集団を訪ねて描いている。
制作された時期
制作年は、一八九九年から一九一〇年である。
つまり、二十世紀の変わり目にあたる。
この時期、米国の先住民政策は居留地制度のもとにあった。
そして、同化を進める政策が取られていた。
肖像は、その時期に描かれている。
誰が、誰を描いたか
描いたのは、東部で学んだ画家である。
そして、描かれたのは各地の先住民である。
つまり、外から来た者が描いている。
その非対称を、まず記しておきたい。
記録としての価値
一方で、この連作には記録としての価値がある。
名が残り、集団の名が残り、年も残る。
そして、装いと髪型が細かく描かれる。
つまり、その人がそこにいたことが残っている。
描かれた側の言葉
もっとも、描かれた側の記録は残っていない。
どう思って座ったのか。
そして、代金や約束があったのか。
館の公開記録は、そこまで示さない。
だから、当サイトも書かない。
赤い布
一点目の赤い布を見たい。
体の大半を覆う。
そして、画面の下半分を占める。
つまり、最も大きな色面である。
赤という色
九点のうち、五点に赤が現れる。
そして、いずれも布である。
つまり、当時よく使われた材料だろう。
もっとも、館の記録に説明はない。
羽根の飾り
頭の羽根を見たい。
数本が、後ろへ向かって立つ。
そして、根元に赤い糸が巻かれる。
細い線で、一本ずつ描かれる。
横顔という角度
顔の向きを見たい。
ほぼ真横である。
つまり、横顔である。
九点のうち、八点が横顔に近い。
なぜ、横顔か
横顔には、理由がありうる。
まず、輪郭がはっきりする。
そして、髪型と装いがよく見える。
さらに、記録として比較しやすい。
比較を、前提にする
同じ角度、同じ寸法で描けば、比べられる。
つまり、この連作は比較を前提にしている。
一人ずつの肖像でありながら、集めて見るものである。

年配の人物
二点目は、年配の人物である。
横顔が描かれる。
髪は、黒く、肩まで切り揃えられる。
そして、赤い布を体に巻く。
顔に、深い皺がある。
背景は、灰緑色である。
皺を、描く
顔を見たい。
額、目の下、口の周り。
いずれにも、線が刻まれる。
つまり、年齢が隠されていない。
髪の形
髪を見たい。
前は額の上で切り揃えられる。
そして、横は肩の高さで揃う。
つまり、決まった形に整えられている。
髪型は、集団や役割を示すことがある。
一点目との違い
一点目と比べたい。
一点目は、羽根と飾りがある。
そして、二点目には何もない。
つまり、装いの量が違う。
寸法は、ほぼ同じ
寸法を比べたい。
一点目が33.1センチ掛ける22.8センチ。
二点目が33.4センチ掛ける22.8センチ。
つまり、三ミリしか違わない。

結い上げた髪
三点目は、髪が特徴的である。
黒い髪が、頭の上で大きく巻かれる。
そして、両側に丸い形を作る。
つまり、結い上げた髪型である。
装いの色
衣を見たい。
紺色の上衣に、赤い布。
そして、緑と赤の帯が腰にある。
首に、白と赤の飾り。
腕に、金属の輪。
腕の輪
腕を見たい。
金属の輪が、手首にある。
そして、光を受けて明るい。
小さな部分だが、丁寧に描かれる。
装身具は、記録として重要である。
首の飾り
首元を見たい。
白と赤の小さな珠が、並ぶ。
そして、幾重にも巻かれる。
つまり、細かい細工である。
一粒ずつ描き分けられている。
若い顔
顔を見たい。
頬が丸く、皺が少ない。
つまり、若い人物である。
二点目とは、対照的である。
三枚の背景
三枚の背景を比べたい。
いずれも、灰色がかった緑である。
そして、階調もほぼ同じ。
つまり、揃えて描かれている。
連作としての統一である。
背景の筆
背景を細かく見たい。
刷毛の跡が、斜めに走る。
そして、平らに均されていない。
つまり、速く塗られている。
主題は人物であり、背景ではない。
同じ年の三枚
制作年を見たい。
二点目と三点目は、いずれも一九〇四年である。
そして、後で見る三枚も同じ年である。
つまり、一年に多くを描いている。
座った姿
四点目も、一九〇四年である。

若い人物が、横を向いて座る。
髪は、黒く、肩まで垂れる。
そして、頭に細い紐を巻く。
衣は、紺と赤。
膝の上に、白い布が広がる。
書き込みの位置
文字の位置を見たい。
いずれも、画面の左上か右上である。
そして、人物と重ならない。
つまり、余白に書かれている。
構図を邪魔しない配置である。
誰が、書いたか
文字は、描いた本人が書いたのだろう。
そして、画面の一部として残っている。
つまり、後から付けた札ではない。
絵と記録が、一体になっている。
年も、書かれている
画面の上部を見たい。
名と集団名に加えて、年がある。
つまり、三つの情報が書き込まれている。
九点のうち、年まで書かれるものがいくつかある。
手の位置
手を見たい。
膝の上で、軽く重なる。
そして、指が伸びる。
つまり、静かな姿勢である。
髪の紐
頭を見たい。
細い紐が、額の上を横切る。
そして、髪を押さえている。
つまり、実用の道具である。
座った姿勢
姿勢を見たい。
他の多くは、胸から上である。
そして、この一枚は膝まで見える。
つまり、切り取る範囲が広い。
若さの描写
顔を見たい。
頬が丸く、皺がない。
そして、目が大きい。
つまり、若い人物である。
九点の中では、最も若く見える。
白い布
膝の上の布を見たい。
白く、大きい。
そして、画面の下半分を占める。
暗い衣との差が大きい。
三枚の年
四点目までの年を並べたい。
一九〇一年、一九〇四年が三枚。
つまり、近い時期に集中している。
一年のうちに、複数の場所を訪ねたのだろう。
旅という前提
各地の人を描くには、移動が要る。
そして、当時は鉄道が延びていた。
つまり、遠方へ行けるようになっていた。
もっとも、館の記録に旅程は示されない。
何枚、描いたか
この連作は、九点だけではない。
館の収蔵番号は、三桁に及ぶ。
つまり、多数が同じ組として管理されている。
九点は、その一部である。
赤い襟
上衣の襟を見たい。
赤く、幅が広い。
そして、紺の上に置かれる。
つまり、二色の対比である。

正面を向く一枚
五点目は、正面を向く。
九点のうち、これだけである。
髪は、両側に長く垂れる。
そして、赤い布を体に巻く。
顔は、暗く、細部が読みにくい。
背景は、紫がかった灰色。
布の赤
赤い布を見たい。
濃く、暗い赤である。
そして、画面の下半分を覆う。
一点目の赤より、沈んでいる。
同じ赤でも、明るさが違う。
背景の色
背景を見たい。
紫がかった灰色である。
つまり、他の八点とは違う。
九点の中で、これだけが異なる。
顔が、暗い
顔を見たい。
影が深く、目や口が見えにくい。
つまり、逆光に近い。
他の八点は、顔が明るい。
顔の細部
顔を細かく見たい。
頬に、赤みが差す。
そして、額に横の線が入る。
暗い中でも、細部は描かれている。
布の襞
赤い布の襞を見たい。
太い筆で、大きく置かれる。
そして、細かい皺は追わない。
顔と布で、描き方を変えている。
正面と、横顔
正面と横顔では、伝わるものが違う。
横顔は、輪郭と装いを示す。
そして、正面は、視線を示す。
この一枚だけが、こちらを見ている。
分け目
髪を見たい。
中央で、真っ直ぐに分かれる。
そして、左右へ垂れる。
つまり、決まった形に整えられている。
髪の垂れ方
髪を見たい。
両側に、まっすぐ垂れる。
そして、胸の高さまで届く。
つまり、束ねていない。
十一年の幅
九点の年代を並べたい。
一八九九年、一九〇一年、一九〇三年。
一九〇四年が五枚、そして一九一〇年。
つまり、一九〇四年に集中している。
一八九九年という年
制作年は、一八九九年である。
九点の中で、最も早い。
そして、最も遅い一枚とは十一年の差がある。

白い髪
六点目は、髪が白い。
そして、肩の高さで切り揃えられる。
顔には、深い皺がある。
体には、灰色がかった白い布。
背景は、灰緑色である。
布の質感
体を覆う布を見たい。
厚みがあり、襞が大きい。
そして、表面に光沢が少ない。
つまり、毛織物だろう。
赤い布とは、質感が違う。
白と灰色
色を見たい。
髪の白、布の灰白、背景の灰緑。
つまり、色の幅が狭い。
赤い布の五枚とは、対照的である。
髪の描き方
白い髪を見たい。
一束ずつ、筆の跡が残る。
そして、灰色と白が混ざる。
つまり、平らに塗っていない。
年齢の記録
顔を見たい。
頬がこけ、口元が下がる。
そして、皺が深い。
つまり、高齢の人物である。
九点の年齢
九点を見比べたい。
若い人が三人、年配が四人ほど。
そして、判断しにくいのが二人。
つまり、年齢の幅がある。
集団の記録
画面の上部には、集団名がある。
そして、九点でいくつかの名が繰り返される。
つまり、同じ場所で複数を描いている。
赤い布の一枚
七点目も、赤い布である。

横顔が描かれる。
髪は、黒く、耳の下で切り揃えられる。
そして、赤い布を体に巻く。
顔に、皺がある。
背景は、灰緑色である。
顔の向き
顔を見たい。
ほぼ真横である。
そして、視線は前方へ向かう。
つまり、こちらを見ていない。
七枚に共通する角度である。
首の線
首から肩への線を見たい。
赤い布に隠れて、肩が見えない。
つまり、輪郭が単純になる。
顔と髪だけが、形を持つ。
飾りのない一枚
装いを見たい。
首の飾りも、羽根もない。
つまり、赤い布だけである。
一点目の飾りの多さとは、対照的である。
同じ人か、別の人か
九点は、いずれも別の名を持つ。
つまり、九人の別々の人物である。
そして、同じ集団名が繰り返される場合もある。
同じ場所で、複数を描いたということである。
描き分ける方法
九点は、同じ寸法、同じ角度である。
では、何で区別するか。
髪型、装い、皺の深さ、そして布の色。
つまり、細部で描き分けている。
背景の統一
背景を見たい。
九点のうち、七点が灰緑色である。
そして、階調もほぼ同じ。
つまり、背景を揃えている。
連作という形式
同じ形式で多数を描く仕事は、他にもある。
寸法を揃え、角度を揃え、背景を揃える。
そして、名を書き込む。
つまり、図鑑に近い作りである。
もっとも、対象は人である。
そこに、難しさがある。
揃えることの効果
背景を揃えると、人物の差が際立つ。
そして、並べたときに統一が生まれる。
つまり、連作としての作りである。

全身の一枚
八点目は、寸法が違う。
縦76.8センチ、横44.4センチである。
つまり、他の八枚の五倍以上の面積になる。
そして、全身が描かれる。
大きな画面の効果
大きく描くと、何が変わるか。
まず、細部が描ける。
そして、全身の姿勢が入る。
つまり、情報量が増える。
立ち姿
姿勢を見たい。
正面を向いて立つ。
そして、両手を体の前で組む。
足元は、裸足である。
縞の織物
肩から掛かる布を見たい。
黄、緑、赤、黒の縞である。
そして、山形の模様が並ぶ。
つまり、織物である。
九点の中で、最も色が多い。
足元
足元を見たい。
裸足で、床に立つ。
そして、影が落ちる。
つまり、光の向きが分かる。
花模様のズボン
下半身を見たい。
青い地に、白い花の模様。
つまり、布地の模様が描き込まれている。
首と腕の飾り
装身具を見たい。
首に、大きな飾りが下がる。
そして、腕にも輪がある。
いずれも、金属らしく光る。
背景の色
背景を見たい。
灰色がかった茶である。
そして、他の八点より暖かい。
つまり、色を変えている。
なぜ、この一枚だけ大きいか
理由は、記録にない。
もっとも、装いの情報量が多い。
織物の模様、装身具、そして全身の姿。
小さな画面では、収まらない。
一九一〇年という年
制作年は、一九一〇年である。
九点の中で、最も遅い。
そして、最も早い一枚とは十一年の差がある。

情報の量の差
九点を見比べたい。
名と集団名だけのものが多い。
そして、年まで書かれたものがある。
さらに、地名まで書かれたものが一枚。
つまり、記録の詳しさが一定ではない。
四つの情報
九点目の上部を見たい。
名、集団名、地名、そして年。
つまり、四つの情報が書かれている。
九点の中で、最も詳しい。
記録の不揃い
なぜ、詳しさが違うのか。
その日の余裕かもしれない。
あるいは、後から書き足したのかもしれない。
館の記録は、理由を示していない。
だから、当サイトも推測を書かない。
地名という情報
地名があることに注目したい。
どこで描いたかが分かる。
つまり、記録としての精度が上がる。
正面に近い顔
顔を見たい。
やや斜めを向く。
そして、こちらを見ている。
九点の中で、視線の合うのは二枚だけである。
顔の色
顔を見たい。
黄土色がかった肌の色である。
そして、頬に赤みがある。
つまり、光を受けている。
背景の灰色との差が大きい。
羽根と、赤い糸
頭を見たい。
白い羽根が一本、高く立つ。
そして、赤い糸が根元に巻かれる。
一点目の羽根と、似た形である。
胸元の丸い金属
胸に、丸い金属の飾りがある。
そして、光を受けて明るい。
一点目にも、同じ形があった。
つまり、繰り返し現れる品である。
装いの細部
衣を見たい。
緑の上衣に、白い縁飾り。
そして、細かい珠の模様が並ぶ。
胸元に、赤い布と丸い金属。
珠を、描く
珠の模様を見たい。
小さな点が、いくつも並ぶ。
そして、白と青が交互になる。
つまり、一粒ずつ描かれている。
赤い布の反復
九点のうち、赤い布は五枚に現れる。
そして、いずれも体を覆う。
つまり、共通する装いである。
もっとも、館の記録に説明はない。
九点をまとめる
最後に、九点を整理したい。
小さな画面が八枚、大きな画面が一枚。
そして、横顔が七枚、正面に近いものが二枚。
制作年は、一八九九年から一九一〇年である。
同じ規格
八枚の寸法を並べたい。
縦は、33.1から33.5センチ。
横は、22.8から23.4センチ。
つまり、ほぼ同じである。
規格が、比較を可能にする
同じ寸法で描くと、並べたときに揃う。
そして、人物の差だけが見える。
つまり、規格そのものが記録の方法である。
この連作をどう見るか
最後に、見方について書いておきたい。
この連作には、二つの面がある。
一つは、名を残した記録としての面。
もう一つは、外から来た者が描いたという面。
二つを、分けて見る
記録の価値と、視線の非対称。
その両方を、同時に見たい。
どちらか一方だけでは、足りない。
名を、読む
九点の題は、いずれも人の名である。
《男性の肖像》ではない。
つまり、その人がそこにいたことが記されている。
名の限界
もっとも、綴りは描いた人の耳による。
そして、当サイトの日本語表記も近似でしかない。
正確な名は、その言語の話者に属している。
そのことを、書き添えておきたい。
見えているもの
見えているのは、九人の姿である。
髪型、装い、皺、そして視線。
いずれも、百年以上前の一日の記録である。
そして、その日の名前が画面に残っている。


