画家を知る

縁が塗り残された肖像——ヤコブ・アイクホルツ

小さな板の三枚は、楕円の内側だけが描かれ、外は木の地が見えている。制作の順序が、そのまま残っているということである。別の二枚は、画布から板へ画面を移す処置を受けている。作られる側と、守られる側の記録である。

レイガン姉妹
《レイガン姉妹》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

白い衣の二人

一枚の大きな肖像から始めたい。

レイガン姉妹
ヤコブ・アイクホルツ《レイガン姉妹》1818年。油彩、カンヴァス。縦151.2センチ、横108センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。《レイガン姉妹》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

縦長の画面である。

二人の少女が、並んで立つ。

いずれも、白い衣を着ている。

左の一人は、麦わらの帽子をかぶる。

そして、その帽子に花が飾られる。

右の一人は、大きな帽子を手に持つ。

帽子には、桃色の帯と花がある。

背景の左に、石の壁。

右に、赤い幕が垂れる。

白の重なり

二人の衣を見たい。

いずれも、白である。

そのため、境目が分かりにくい。

そこで、影で分ける。

左の衣に灰色の襞、右の衣に薄い黄。

同じ白でも、調子を変えている。

衣の形

衣の形を見たい。

胸のすぐ下で切り替わる。

そして、そこから裾まで直線的に落ちる。

つまり、十九世紀初めの装いである。

袖は短く、腕が見える。

桃色という一点

右の帽子に、桃色の帯がある。

そして、大きく結ばれる。

白い画面の中で、それが最も強い色である。

視線は、まずそこへ行く。

帽子という道具

二つの帽子を見たい。

一つは頭の上、一つは手の中。

つまり、同じ物が二通りに使われている。

かぶる帽子と、見せる帽子。

構図に変化を作る工夫である。

花という持ち物

帽子の中に、花が入る。

そして、左の帽子にも花が飾られる。

つまり、二人とも花を持つ。

肖像で花を持たせるのは、当時の型である。

左の手にある箱

左の少女の手を見たい。

小さな箱のようなものを持つ。

そして、下へ垂れる。

書物か、袋だろうか。

館の記録に、説明はない。

顔の向き

二人の顔を見たい。

いずれも、こちらを向く。

そして、視線が同じ高さにある。

つまり、正面性が強い。

並んだ二人が、同じ姿勢をとる。

触れる手

右の少女の手を見たい。

左の少女の肩に置かれる。

つまり、二人が触れている。

姉妹の関係が、手で示される。

背景の建築

背景の左を見たい。

石の壁と、丸い飾りがある。

そして、その上に空が見える。

つまり、屋外の建築である。

空の色

背景の上部を見たい。

灰色の雲が広がる。

そして、わずかに青が見える。

つまり、曇りの空である。

明るい衣と、暗い空。

その対比が、人物を前へ出す。

赤い幕

背景の右に、赤い布が垂れる。

つまり、幕である。

肖像の背景に幕を置くのは、当時の型である。

そして、赤は暗い画面を引き締める。

大きな画面

寸法を見たい。

縦151.2センチ、横108センチ。

つまり、九点の中で最も大きい。

二人を立たせるには、この寸法が要る。

足元の床

画面の下部を見たい。

石らしき平らな面がある。

そして、その手前に段がある。

つまり、建物の外の階段だろう。

二人が立つ場所を、そこで示している。

一八一八年という年

制作年は、一八一八年である。

作者は一七七六年生まれと記録される。

つまり、四十二歳ごろの仕事である。

そして、一八四二年に没している。

生まれた町と、没した町

館の記録には、地名がある。

生まれた町と、没した町が同じである。

つまり、生涯を一つの町で過ごした。

北米の内陸にある町である。

ヘンリー・アイクホルツ・リーマン
ヤコブ・アイクホルツ《ヘンリー・アイクホルツ・リーマン》1835年ごろ。油彩、カンヴァス。縦76.5センチ、横64.2センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。《ヘンリー・アイクホルツ・リーマン》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

黒い上着の若者

二点目は、若い男性である。

胸から上が描かれる。

黒い上着に、黒い襟巻き。

そして、白い胸当てが見える。

髪は、豊かで暗い。

背景は、暗い茶と緑。

襟巻きという装い

首元を見たい。

黒い布が、幾重にも巻かれる。

そして、顎の下まで届く。

つまり、当時の男性の装いである。

十九世紀の前半に流行した。

三色だけの画面

色を見たい。

黒い衣、白い布、そして肌の色。

つまり、三色しかない。

背景も、暗い中間色である。

白い三角

胸元の白い布を見たい。

三角形に見える。

そして、黒い上着に囲まれる。

つまり、黒の中の白い点である。

視線は、そこから顔へ上がる。

髪の描き方

髪を見たい。

暗い茶色で、額の上で分かれる。

そして、耳の横で膨らむ。

つまり、整えられた髪である。

鬘ではなく、地毛だろう。

顔の描き方

顔を見たい。

頬に赤みがあり、目に光が入る。

そして、口元がわずかに緩む。

若さが、そのまま描かれている。

題の姓

題の姓に注目したい。

作者の姓が、名の一部に含まれる。

つまり、縁のある人物だろう。

館の記録は、関係までは示さない。

だから、当サイトも断定しない。

一八三五年という年

制作年は、一八三五年ごろとされる。

作者は、五十九歳ごろになる。

そして、没年の七年前にあたる。

九点の中では、遅い時期の作である。

規格に近い寸法

寸法を見たい。

縦76.5センチ、横64.2センチ。

つまり、三十インチ掛ける二十五インチに近い。

当時の肖像の標準的な寸法である。

ミス・リーマン
ヤコブ・アイクホルツ《ミス・リーマン》1808年ごろ。油彩、板。縦21センチ、横17センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。《ミス・リーマン》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

小さな板の一枚

三点目は、寸法が小さい。

縦21センチ、横17センチである。

そして、支持体は板である。

画面には、少女の横顔が描かれる。

桃色の衣を着ている。

首に、細い飾り。

耳に、輪の飾り。

桃色の衣

少女の衣を見たい。

明るい桃色である。

そして、胸元に白い縁飾り。

つまり、当時の子どもの装いである。

暗い背景の中で、その色が浮かぶ。

塗り残された縁

画面の周囲を見たい。

暗い色が、楕円に塗られる。

そして、その外は塗られていない。

つまり、板の地が見えている。

首と耳の飾り

首元を見たい。

細い鎖のような飾りがある。

そして、耳に輪の飾り。

つまり、装身具を着けている。

小さな画面でも、細部が描かれる。

未完成という状態

なぜ、縁が塗られていないのか。

途中で止まっているからだろう。

そして、そのまま残った。

館の記録は、未完成とは書かない。

しかし、画面を見れば分かる。

描く順序が、見える

未完成の絵には、価値がある。

制作の順序が分かるからである。

まず、楕円の暗い地を塗る。

そして、その中に人物を描く。

最後に、周囲を仕上げる。

板という支持体

支持体にも触れたい。

三点目から五点目は、板である。

そして、他の六点は画布か、移された板。

つまり、小さな絵には板が使われている。

板は硬く、細かい描写に向く。

下部の文字

画面の下に、文字が見える。

そして、右下にも小さな文字がある。

日付か、署名だろう。

もっとも、画像からは読み取れない。

横顔という角度

顔の向きを見たい。

ほぼ真横である。

つまり、横顔である。

九点の中で、横顔は三枚ある。

いずれも、この小さな板の絵である。

もう一枚の小さな板

四点目も、同じ形式である。

ジョゼフ・リーマン
ヤコブ・アイクホルツ《ジョゼフ・リーマン》1808年ごろ。油彩、板。縦22.9センチ、横17.2センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。《ジョゼフ・リーマン》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

少年の横顔が描かれる。

髪は、明るい金色。

暗い色の上着に、白い襟。

そして、上着に白い釦が並ぶ。

手に、小さな赤いものを持つ。

髪の色

少年の髪を見たい。

明るい金色である。

そして、短く切られている。

暗い上着との差が大きい。

その差が、顔の輪郭を作る。

三点目と同じ作り

三点目と比べたい。

いずれも、楕円の中に横顔がある。

そして、周囲が塗り残されている。

つまり、同じ形式である。

木目という情報

塗り残しから、板の様子が分かる。

木目が、縦に走る。

そして、節はない。

つまり、まっすぐな板である。

支持体そのものが見える機会は、少ない。

木の地が、見える

塗り残された部分を見たい。

木の色と、木目が見える。

そして、暗い絵の具が飛び散っている。

つまり、筆を払った跡だろう。

制作の痕跡が、そのまま残る。

手に持つもの

少年の手を見たい。

小さく、赤いものを持つ。

果実だろうか、あるいは玩具か。

館の記録に、説明はない。

だから、形の説明にとどめる。

襟の白

首元の白い襟を見たい。

大きく折り返される。

そして、暗い上着に接する。

その境が、顔の位置を決める。

三枚に共通する作りである。

白い釦

上着の釦を見たい。

小さく、白く光る。

そして、二列に並ぶ。

暗い上着の中で、点として目立つ。

ジェイコブ・リーマンか
ヤコブ・アイクホルツ《ジェイコブ・リーマンか》1808年ごろ。油彩、板。縦22.9センチ、横17.5センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。《ジェイコブ・リーマンか》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

三枚目の小さな板

五点目も、同じ形式である。

男性の横顔が描かれる。

髪は、明るい茶。

暗い上着に、白い襟。

そして、胸元に緑の釦が並ぶ。

背景は、暗い紫がかった色。

緑の釦

胸元の釦を見たい。

緑がかって光る。

そして、縦に並ぶ。

四点目の白い釦と、色が違う。

三枚の中で、細部が変えられている。

題に、疑問符が付く

館の記録では、題に疑問符が付く。

つまり、名が確定していない。

姓は分かるが、名が不確かなのだろう。

当サイトも、記録のとおり疑問符付きで伝える。

なぜ、名が揺れるか

肖像の人物の名は、家に伝わる。

そして、代を経るうちに曖昧になる。

三人が同じ姓であれば、なおさら混同しやすい。

楕円の地

三枚の背景を比べたい。

三点目は暗い茶、四点目は暗い緑がかった色。

そして、五点目は暗い紫がかった色。

つまり、少しずつ違う。

同じ形式でも、色を変えている。

三枚の関係

三点目、四点目、五点目を並べたい。

いずれも、同じ姓の人物である。

そして、同じ年、同じ形式、ほぼ同じ寸法。

つまり、一家をまとめて描いたのだろう。

三枚の寸法

寸法を比べたい。

21センチ、22.9センチ、22.9センチ。

横は、17センチ、17.2センチ、17.5センチ。

つまり、わずかに違う。

板を一枚ずつ切り出したからだろう。

小さな肖像の用途

小さな板の肖像は、どう使われたか。

壁に掛けるには、小さすぎる。

そして、身に着けるには大きい。

つまり、卓や棚に置いたのだろう。

もっとも、これは推測である。

二点目との関係

二点目の姓も、同じである。

そして、制作年は一八三五年ごろ。

つまり、三枚から二十七年後である。

同じ一家を、長い年月にわたって描いたのかもしれない。

もっとも、館の記録は関係を明示しない。

ジュリアナ・ヘイゼルハースト
ヤコブ・アイクホルツ《ジュリアナ・ヘイゼルハースト》1820年ごろ。油彩、カンヴァス。縦75.3センチ、横62.9センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。《ジュリアナ・ヘイゼルハースト》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

赤い肩掛け

六点目は、若い女性である。

白い衣を着ている。

そして、肩から赤い布を掛ける。

その布には、細かい模様がある。

髪は、黒く、額のまわりで巻かれる。

背景の右に、柱。

左に、空と草地が見える。

袖の形

袖を見たい。

肩の部分が膨らむ。

そして、肘から下は細い。

つまり、当時の流行の形である。

装いは、年代を示す手がかりになる。

模様のある布

赤い布を見たい。

縁に、細かい模様が並ぶ。

そして、青と黄が混ざる。

つまり、織りの模様である。

輸入の織物かもしれない。

もっとも、館の記録に説明はない。

右の柱

背景の右を見たい。

太い柱が立つ。

そして、暗い色である。

つまり、建築の要素である。

肖像の背景として、繰り返し使われる。

白と赤

配色を見たい。

衣の白と、肩掛けの赤。

そして、背景の暗い茶と青。

つまり、白と赤が対比される。

面積は白のほうが広い。

しかし、赤のほうが強い。

髪の巻き

髪を見たい。

額の両側で、細かく巻かれる。

そして、頭頂で結い上げられる。

十九世紀初めの髪型である。

手の位置

両手を見たい。

胸の前で、布を押さえる。

そして、指が細く描かれる。

手は、肖像で技量の出る部分である。

背景の空

左を見たい。

青い空と、雲がある。

そして、下に緑の草地。

つまり、屋外である。

暗い右側と、明るい左側。

その差が、画面を斜めに分ける。

支持体が、移された二枚

七点目と八点目には、特別な記録がある。

ロバート・コールマン
ヤコブ・アイクホルツ《ロバート・コールマン》1820年ごろ。油彩。カンヴァスから板へ移された画面。縦91.7センチ、横71センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。《ロバート・コールマン》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

技法欄を見たい。

カンヴァスから板へ移された、とある。

つまり、もとは画布に描かれていた。

そして、後に板へ移されている。

いつ行われたか

こうした処置は、十九世紀から二十世紀に多い。

そして、当時は正当な保存の方法とされた。

つまり、いまの基準で判断すべきではない。

その時代の知識と道具の中での判断である。

画面を、移す

どういうことか。

絵の具の層だけを、支持体から剥がす。

そして、別の支持体に貼り直す。

つまり、絵の中身を引っ越しさせる。

なぜ、移すのか

画布が傷むからである。

たるみ、破れ、あるいは腐る。

そのとき、絵の具の層を救う方法がある。

裏から画布を削り取り、新しい支持体へ貼る。

危険な処置

もっとも、これは危険な処置である。

絵の具の層は、薄く、脆い。

削りすぎれば、絵が失われる。

現在では、めったに行われない。

過去の判断

この二枚が、いつ移されたかは記録にない。

そして、誰が行ったかも分からない。

つまり、過去のある時点の判断である。

いま見えているのは、その結果である。

二枚とも、同じ

七点目と八点目は、いずれも移されている。

つまり、対の二枚がまとめて処置された。

同じ持ち主のもとにあったのだろう。

そして、同じ時期に傷んだ。

記録に、残す

重要なのは、記録に残っていることである。

技法欄に、移されたと書いてある。

つまり、隠していない。

見る側は、その事実を知ったうえで見られる。

画面を、見る

画面を見たい。

年配の男性が、卓に肘を置く。

黒い上着に、黄色い胴衣。

そして、白い襟巻き。

卓に、緑の布とインク壺らしきものがある。

背景の右に、赤い布。

顔の描き方

顔を見たい。

頬がこけ、目の下に影がある。

そして、口元が引き締まる。

つまり、年齢が隠されていない。

見えるとおりに描く肖像である。

黄色い胴衣

胴衣の黄色に注目したい。

明るく、鮮やかである。

そして、黒い上着に囲まれる。

つまり、暗い中の一点である。

大きめの寸法

寸法を見たい。

縦91.7センチ、横71センチ。

つまり、規格より一段大きい。

卓と道具を入れるには、幅が要る。

卓の上の道具

卓を見たい。

緑の布が掛かる。

そして、その上にインク壺と羽根がある。

つまり、書き物の道具である。

職や関心を示す持ち物である。

アン・オールド・コールマン(ロバート・コールマン夫人)
ヤコブ・アイクホルツ《アン・オールド・コールマン(ロバート・コールマン夫人)》1820年ごろ。油彩。カンヴァスから板へ移された画面。縦92センチ、横71.7センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。《アン・オールド・コールマン(ロバート・コールマン夫人)》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

座る姿勢

八点目の姿勢を見たい。

椅子に深く腰かける。

そして、体をやや右へ向ける。

七点目は左を向いていた。

つまり、並べると二人が向き合う。

対になる、もう一枚

八点目は、七点目と対をなす。

年配の女性が、椅子に座る。

黒い衣に、白い被り物。

そして、首元に白い布。

膝の上で、手を組む。

背景に、赤い幕。

寸法が、揃う

寸法を比べたい。

七点目が91.7センチ掛ける71センチ。

八点目が92センチ掛ける71.7センチ。

つまり、ほぼ同じである。

対として作られている。

同じ処置を、受ける

技法欄も、同じである。

いずれも、カンヴァスから板へ移されている。

つまり、二枚がまとめて処置を受けた。

同じ場所で、同じ時期に保存されていたのだろう。

黒い衣

衣を見たい。

黒く、光沢が少ない。

そして、襞が大きい。

つまり、厚い布だろう。

暗い面が、画面の大半を占める。

白い被り物

頭の布を見たい。

細かい襞が寄る。

そして、顔を囲む。

暗い衣の中で、そこだけが明るい。

膝の上の白い布

手元を見たい。

白い布を持つ。

手巾だろう。

そして、その白が画面の下部を明るくする。

赤い幕、再び

背景の赤い幕を見たい。

一点目、六点目、七点目にもあった。

つまり、繰り返し使われる道具立てである。

画家が持つ引き出しの一つだろう。

サミュエル・ヒュームズ
ヤコブ・アイクホルツ《サミュエル・ヒュームズ》1825年ごろ。油彩、カンヴァス。縦73.7センチ、横61.3センチ。メトロポリタン美術館蔵。マリア・デウィット・ジェサップ基金による購入、1959年。《サミュエル・ヒュームズ》メトロポリタン美術館蔵

眼鏡をかけた男

九点目は、眼鏡をかけている。

年配の男性である。

白い髪に、丸い眼鏡。

黒い上着に、白い胸当て。

そして、左手に赤い小さなものを持つ。

背景は、暗い。

白い髪

髪を見たい。

白く、耳の上で膨らむ。

そして、額が広い。

つまり、年配の人物である。

九点の中で、最も年長に見える。

眼鏡を、描く

眼鏡の枠を見たい。

細い金属の線である。

そして、耳へ回る。

つまり、細い線で描かれている。

顔の上に線を引く難しさがある。

硝子の扱い

眼鏡の硝子を見たい。

顔の輪郭が、その向こうに透ける。

つまり、透明を描いている。

線だけを描いて、面を描かない。

背景の暗さ

背景を見たい。

ほとんど黒に近い。

そして、模様も家具もない。

つまり、人物だけを見せる作りである。

一点目の凝った背景とは、対照的である。

白い胸当て

胸元を見たい。

白い布が、大きく広がる。

そして、黒い上着に囲まれる。

二点目と、同じ構成である。

手に持つもの

左手を見たい。

赤く、小さいものを持つ。

そして、指のあいだにある。

紙か、印章だろうか。

館の記録に、説明はない。

九点をまとめる

最後に、九点を整理したい。

大きな肖像が二枚、規格の肖像が四枚。

そして、小さな板の肖像が三枚。

つまり、すべてが肖像である。

寸法の幅

寸法を並べたい。

最小が21センチ、最大が151.2センチ。

つまり、七倍以上の差がある。

同じ画家が、両端を手がけている。

制作年の分布

年代を並べたい。

一八〇八年ごろが三枚。

一八一八年が一枚、一八二〇年ごろが三枚。

一八二五年ごろが一枚、一八三五年ごろが一枚。

つまり、二十七年に分布する。

一つの町の記録

作者は、一つの町で生まれ、そこで没した。

そして、その町の人々を描き続けた。

九点のうち、複数が同じ姓を持つ。

つまり、一家をまとめて描いている。

地方の画家

大きな都市の外にも、画家はいた。

そして、注文を受けて働いた。

競争相手が少なければ、注文が集まる。

九点は、その記録である。

未完成と、移された画面

九点の中で、目を引くのは二種類である。

一つは、縁の塗り残された三枚。

もう一つは、支持体を移された二枚。

いずれも、完成した絵とは違う情報を持つ。

制作と、保存

塗り残しは、制作の途中を示す。

そして、支持体の移動は、保存の判断を示す。

つまり、絵の一生の両端である。

作られるところと、守られるところ。

記録が、あるから分かる

いずれも、館の記録があるから分かる。

技法欄に、移されたと書いてある。

そして、寸法の記録が未完成を裏づける。

記録は、見ることを助ける道具である。

見えているものだけが、絵のすべてではない。

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