緑の紙に、水彩で描く——ウィリアム・リッカビー・ミラー
支持体は、薄い緑の網目紙である。地の色があるから、白は後から置くことになる。水彩とグワッシュと黒鉛という三つの材料が、一枚の中で役割を分ける。渓谷を描いた八点で、その順序を追う。白い水の描き方が、順序をいちばんよく示している。

緑の紙に、水彩で
一枚の水彩から始めたい。

縦長の画面である。
上部の角が、丸く落とされる。
中央に、岩を流れ落ちる水。
左右に、密な木立。
手前に、大きな岩が並ぶ。
奥に、空が見える。
紙の色
技法欄を見たい。
薄い緑の網目紙、とある。
つまり、白い紙ではない。
色の付いた紙
色の付いた紙は、中間の明るさになる。
そして、その上に暗い色と明るい色を置く。
つまり、明暗の幅が広がる。
網目紙という種類
技法欄には、紙の種類も記される。
網目紙とある。
つまり、漉くときの網の跡が残る紙である。
緑という選択
緑の紙は、風景に向く。
葉も、草も、緑だからである。
つまり、地の色が主題に合う。
三つの材料
技法欄には、三つの材料がある。
水彩、グワッシュ、そして黒鉛。
水彩とグワッシュ
水彩は、透明である。
そして、下の紙の色が透ける。
一方、グワッシュは不透明である。
つまり、下を隠せる。
水の動き
流れを見たい。
岩のあいだを、白く落ちる。
そして、下で泡立つ。
つまり、勢いがある。
白い水
水の流れを見たい。
白く、明るい。
つまり、グワッシュだろう。
白を、後から置く
透明な水彩では、明るい部分は紙の色に頼る。
しかし、緑の紙では白くならない。
だから、白い絵の具を置く。
岩の数
手前の岩を数えたい。
大小あわせて、十以上ある。
そして、一つずつ違う形である。
岩の描き方
手前の岩を見たい。
一つずつ、明暗が付く。
そして、面の境が線で示される。
つまり、形が追われている。
葉の描き方
木立を見たい。
小さな筆触が、密に重なる。
そして、明るい黄緑と暗い緑が混ざる。
つまり、光の当たり方で色を変えている。
上部の空
画面の上を見たい。
木のあいだから、空が見える。
そして、白い雲が浮かぶ。
つまり、閉じきってはいない。
角の丸み
画面の上部を見たい。
左右の角が、丸く落とされる。
つまり、意図された形である。
なぜ、角を落とすか
角を落とすと、画面がやわらかくなる。
そして、額の形にも合う。
つまり、仕上げの一部である。
大きな水彩
寸法を見たい。
縦50.6センチである。
つまり、水彩としては大きい。
一八五六年という年
制作年は、一八五六年である。
作者は一八一八年生まれと記録される。
つまり、三十八歳ごろの仕事である。
作者について
館の記録を見たい。
英国のステインドロップで生まれた。
そして、ニューヨークで没している。
つまり、海を渡ってきた画家である。
一八九三年の寄贈
来歴を見たい。
館の記録では、一八九三年の寄贈である。
そして、作者の没年も一八九三年である。
没した年に、館へ
つまり、没した年に館へ渡っている。
そして、寄贈者の姓は作者と同じ。
つまり、身内だろう。

一点目と、対に近い
二点目は、一点目とよく似ている。
同じ年、同じ紙、同じ技法。
そして、寸法もほぼ同じ。
寸法の比較
一点目が50.6センチ掛ける36.4センチ。
二点目が50.5センチ掛ける35.7センチ。
つまり、一センチ以内の差である。
谷という地形
題にある語は、切り立った谷を意味する。
そして、その地形は川が削って作る。
つまり、岩と水の景になる。
同じ場所の、別の眺め
題を見たい。
いずれも、同じ谷の名を含む。
そして、二点目には地名が加わる。
同じ場所を、二度
同じ場所を、角度を変えて描く。
つまり、繰り返しの記録である。
白い縁
画像の周囲を見たい。
白い帯がある。
つまり、印画紙の縁だろう。
描かれているもの
画面を見たい。
中央に、浅い流れ。
左右に、木立と岩。
奥に、山と空。
手前に、大きな岩。
空が、見える
一点目より、空が広い。
そして、雲が浮かぶ。
つまり、開けている。
岩の量
手前を見たい。
大きな岩が、いくつも並ぶ。
そして、水がそのあいだを流れる。
右下の署名
画面の右下を見たい。
小さな文字がある。
つまり、署名だろう。
岩を、数える
岩を数えたい。
十以上ある。
そして、一つずつ形が違う。
つまり、省略していない。

小さな素描
三点目は、きわめて小さい。
画面は、縦6.9センチ、横12.5センチ。
つまり、手のひらより小さい。
台紙の上の文字
画像を見たい。
絵の上に、手書きの文字がある。
そして、三行ほど書かれている。
手書きという情報
印刷ではなく、手書きである。
つまり、その場か、後で書き加えたものである。
そして、筆跡も情報になる。
何が、書かれているか
地名らしき語が読める。
そして、年らしき数字もある。
つまり、いつ、どこで描いたかを記している。
読み取れる範囲
もっとも、全文は読み取れない。
館の記録も、全文を示していない。
だから、当サイトは「文字がある」とだけ書く。
額の縁
画像を見たい。
外側に、細い枠が写る。
つまり、額に入っている。
台紙という要素
絵は、台紙に貼られている。
そして、その台紙に文字が書かれる。
つまり、台紙も作品の一部である。
「画面」という寸法
寸法の記録を見たい。
画面、とある。
つまり、台紙を含まない寸法である。
表記が、状態を示す
台紙があるから、画面の寸法を記す。
つまり、言葉が状態を示している。
描かれているもの
小さな画面を見たい。
道が、左から右へ伸びる。
そして、両側に木立。
手前に、岩と草。
淡彩という方法
薄めたインクを、筆で広く塗る。
そして、影の面を作る。
つまり、線ではなく面で描く。
インクと淡彩
技法欄を見たい。
インクと淡彩とある。
つまり、線と面を組み合わせる。
一八七三年という年
制作年は、一八七三年である。
一点目、二点目から十七年後である。
そして、同じ谷を描いている。
二〇〇二年の寄贈
来歴を見たい。
館の記録では、二〇〇二年の寄贈である。
つまり、八点の中で最も新しく館へ入った。
十七年後の、同じ場所
同じ場所を、十七年後にまた描く。
つまり、繰り返し訪れている。
三つの材料に、二つ加わる
四点目は、技法欄が長い。

技法欄を見たい。
材料が、五つ挙げられている。
艶を、部分に加える
全面に艶を出すと、平坦になる。
そして、部分だけに加えれば、そこが際立つ。
つまり、使い分けである。
アラビアゴムという材料
アラビアゴムは、樹脂を溶かしたものである。
そして、水彩に混ぜると艶が出る。
つまり、部分的に光沢を加えられる。
水に、艶を
滝の水を見たい。
白く、明るい。
そして、艶がある。
つまり、アラビアゴムが効いている。
ペンとインク
技法欄には、ペンとインクもある。
つまり、細い線を引いている。
五つの材料
材料を数えたい。
水彩、ペンとインク、黒鉛、グワッシュ、アラビアゴム。
つまり、五つである。
八点の中で、最も多い。
線と、面
ペンで輪郭を引き、水彩で面を塗る。
そして、グワッシュで明るい部分を足す。
つまり、工程が多い。
タン色の紙
紙の色を見たい。
黄褐色である。
つまり、一点目、二点目の緑とは違う。
冬の色
タン色の紙は、枯れた景に合う。
そして、葉のない木立と調子が揃う。
つまり、紙の色が主題に合っている。
紙の色と、画面の調子
黄褐色の紙では、全体が暖かい色になる。
そして、緑の紙では冷たい色になる。
つまり、紙が調子を決める。
冬の景
画面を見たい。
木に葉がない。
そして、枝だけが伸びる。
つまり、冬か、早春である。
幹の湾曲
左の木を見たい。
幹が、大きく右へ曲がる。
そして、枝が画面の上を覆う。
つまり、枠の役目をしている。
枝の描写
枝を見たい。
細い線が、いくつも分かれる。
そして、先まで描かれる。
つまり、時間のかかる仕事である。
滝の位置
画面の中ほどを見たい。
水が、岩のあいだを落ちる。
そして、白く光る。
つまり、画面で最も明るい。
一九九二年の購入
来歴を見たい。
館の記録では、一九九二年の購入である。
そして、ある人物を記念する寄付によるとされる。
一八五〇年という年
制作年は、一八五〇年である。
八点の中で、最も早い。
そして、作者は三十二歳ごろになる。

白に近い紙
五点目の紙を見たい。
オフホワイト、とある。
つまり、白に近い。
三つの紙の色
これで、三種類の紙が出た。
薄い緑、タン色、そしてオフホワイト。
つまり、使い分けている。
灰色の階調
画像を見たい。
黒に近い部分から、白い部分まで。
つまり、階調は広い。
そして、明暗の設計は読める。
色のない画像
この一枚の画像は、灰色の階調だけである。
つまり、古い記録写真とみられる。
だから、水彩の色は分からない。
水彩と、白黒画像
水彩は、色が主役である。
そして、その色が失われている。
つまり、惜しい。
大きな木
画面を見たい。
中央に、大きな木が立つ。
そして、枝が四方へ広がる。
木の年齢
木を見たい。
幹が太く、枝が広い。
そして、樹形が複雑である。
つまり、古い木である。
題の呼び名
題を見たい。
おばあさんの木、とある。
つまり、地元の呼び名だろう。
名のある木
土地には、名の付いた木がある。
そして、目印になる。
つまり、地図の代わりでもある。
呼び名が、題になる
正式な名ではない。
そして、その土地の人が呼ぶ名である。
つまり、題が土地の記憶を運ぶ。
道と、柵
木の下を見たい。
道が奥へ伸びる。
そして、右に柵がある。
つまり、人の通る道である。
柵の描写
道の脇を見たい。
木の柵が、斜めに走る。
そして、横木が二本。
つまり、簡素な柵である。
小さな人影
道の奥を見たい。
小さな人物が見える。
つまり、木の大きさを示す基準である。
空の雲
上部を見たい。
雲が、大きく広がる。
そして、明暗が付く。
つまり、厚みが示される。

緑の紙、再び
六点目の紙を見たい。
薄い緑である。
つまり、一点目、二点目と同じである。
判型
寸法を見たい。
縦45.4センチ、横37.1センチ。
つまり、縦長である。
一点目、二点目と同じ方針である。
明るい画面
画面を見たい。
木立が、明るい黄緑である。
そして、空が青い。
つまり、初夏だろう。
木漏れ日
画面の中ほどを見たい。
葉のあいだから、光が入る。
そして、地面に明るい斑を作る。
空の青
上部を見たい。
青い空が見える。
そして、白い雲が浮かぶ。
つまり、晴れている。
白の使い方
明るい部分を見たい。
白い絵の具が、点として置かれる。
つまり、グワッシュである。
緑の階調
緑を見たい。
暗い緑から、明るい黄緑まで。
つまり、幅が広い。
紙の緑が、生きる
薄い緑の紙は、中間の緑になる。
そして、その上に明暗を足す。
つまり、緑の階調が作りやすい。
五点目との差
五点目は、白に近い紙である。
そして、六点目は緑の紙。
つまり、同じ年に別の紙を使っている。
横長の一枚
七点目は、横長である。

縦28.7センチ、横41センチ。
つまり、横が縦の一・四倍ある。
横長の効果
横長にすると、視線が左右に動く。
そして、広がりが出る。
つまり、開けた眺めに向く。
八点の中で、唯一の横長
判型を見たい。
他の七点は、縦長か、小さな素描である。
つまり、横長はこれだけである。
色のない画像
この一枚も、灰色の階調だけである。
そして、周囲に白い縁がある。
つまり、古い記録写真とみられる。
描かれているもの
画面を見たい。
右に、大きな柳の木。
左に、水面と建物。
手前に、道と小さな人影。
奥に、雲の広がる空。
木の位置
木の位置を見たい。
画面の右寄りである。
そして、左が開ける。
つまり、非対称の構図である。
柳の枝
木を見たい。
細い枝が、垂れる。
そして、葉が細長い。
つまり、柳である。
建物という要素
左を見たい。
小さな家が数軒ある。
そして、屋根と煙突が見える。
つまり、人の住む場所である。
都市の風景か
題には、地名が入る。
そして、その名は都市の一部である。
つまり、都市の周縁だろう。
一九六六年の購入
来歴を見たい。
館の記録では、一九六六年に基金で購入された。
つまり、四点の寄贈より後である。
開けた画面
空を見たい。
画面の半分近くを占める。
そして、雲が広がる。
つまり、開けた眺めである。

風景ではない一枚
八点目は、静物である。
そして、油彩である。
小さな板
寸法を見たい。
縦18.4センチ、横26.4センチ。
つまり、八点の中で最も小さい。
技法が、違う
七点は水彩か素描である。
そして、八点目だけが油彩である。
つまり、例外にあたる。
描かれているもの
画面を見たい。
卓の上に、林檎が三つ。
赤と黄が混ざる。
そして、緑の葉が添えられる。
手前に、枯れた葉が一枚。
背景は、暗い茶。
題の意味
題を見たい。
自然からの習作、とある。
つまり、実物を見て描いたということである。
習作という言葉
習作は、練習や研究を意味する。
もっとも、必ずしも未完成ではない。
つまり、完成した習作もある。
「自然から」という語
この語は、想像ではないことを示す。
そして、当時よく使われた表現である。
つまり、写生を明示している。
林檎の表面
林檎を見たい。
赤と黄の境が、ぼやける。
そして、小さな斑がある。
つまり、実物の細部が写されている。
葉の描写
葉を見たい。
緑で、葉脈が線で示される。
そして、縁が波打つ。
つまり、実物を見て描いている。
光の点
林檎の表面を見たい。
明るい点がある。
そして、そこが最も光る。
つまり、丸い面の反射である。
枯れた葉
手前を見たい。
茶色い葉が、一枚落ちている。
そして、縁が丸まる。
つまり、枯れている。
卓の面
卓を見たい。
淡い色で、水平に走る。
そして、手前の縁が見える。
つまり、目の高さが卓に近い。
完全でないものを、描く
新鮮な葉だけでなく、枯れた葉も置く。
つまり、見えたとおりに描いている。
板という支持体
技法欄を見たい。
油彩、板とある。
つまり、画布ではない。
小さな絵には、板が使われることがある。
影の向き
林檎の影を見たい。
いずれも、左へ落ちる。
つまり、光は右から来ている。
画面全体で、向きが揃っている。
八点の内訳
八点をまとめたい。
水彩が五点、素描が一点。
そして、油彩が一点、水彩の小品が一点。
つまり、水彩が中心である。
紙の色の内訳
紙の色を並べたい。
薄い緑が三点、緑が一点。
タン色が二点、オフホワイトが一点。
つまり、色の付いた紙が多い。
色の付いた紙という方法
白い紙に描けば、明るい部分は紙の色になる。
一方、色の付いた紙では、白を足す必要がある。
つまり、工程が増える。
それでも、選ぶ理由
色の付いた紙には、利点がある。
まず、中間の調子が最初からある。
そして、明暗の幅が広がる。
当サイトで、繰り返し触れた工夫
同じ工夫は、他の画家にも見られた。
そして、そのたびに触れてきた。
つまり、当時よく使われた方法である。
制作年の分布
年代を並べたい。
一八五〇年、五三年、五六年が二点。
一八五八年が二点、六三年、七三年。
つまり、二十三年に分布する。
四点の寄贈
来歴を見たい。
八点のうち四点が、同じ人物の寄贈である。
そして、年は一八九三年。
没した年の、寄贈
作者は、一八九三年に没している。
つまり、没した年に四点が館へ渡った。
遺族の判断
寄贈者の姓は、作者と同じである。
つまり、遺族だろう。
そして、遺された作品を館へ渡した。
記録が、示すこと
館の記録は、寄贈者の名と年を残す。
そして、その二つを並べると事情が見える。
名と、年が語る
没年と寄贈年が同じ。
そして、寄贈者の姓が作者と同じ。
つまり、記録の二つの欄が、一つの事情を語っている。


