暮らしと名画

同じ椅子が、二脚並んでいる——ダンカン・ファイフ父子商会ほか九脚

作者も年も寸法も同じで、番号だけが一つ違う。揃いの家具だからである。カップと受皿は二つで一件、椅子は二脚で二件。この差はどこから来るのか。三十回にわたって見てきた単位の話を、ここで閉じたい。張り地はたいてい新しく、そのことも記録に書かれている。

サイドチェア
ディー・ファイフ父子商会《サイドチェア》メトロポリタン美術館蔵

同じ椅子が、二脚並んでいる

当サイトで、こういう並びに出会うことがある。

《サイドチェア》。

《サイドチェア》。

作者も、年も、寸法も同じである。

番号だけが、一つ違う。

二〇一三・二二の一。

二〇一三・二二の二。

つまり、同じ椅子が二脚ある。

そして館は、二脚を二件として登録している。

前の回に見たカップと受皿は、二つで一件だった。

椅子は、二脚で二件である。

同じ「二つ」でも、扱いが違う。

サイドチェア
ディー・ファイフ父子商会《サイドチェア》1841年。館の記録では、ローズウッドとその薄板、副材にトネリコ、張り地は復元。高さ82.6センチ、幅43.5センチ、奥行き47センチ。番号は2013.22.1。アメリカ。メトロポリタン美術館蔵。ディー・ファイフ父子商会《サイドチェア》メトロポリタン美術館蔵

背もたれが、大きく曲がっている。

上の横木が弧を描き、その中央から縦の板が下りている。

その板は、上が広く、下がすぼまり、途中に切り込みがある。

座面は、赤と金の模様の布で覆われている。

脚は四本。

前の二本は、細く削られ、旋盤で丸みが付けられている。

後ろの二本は、まっすぐ後方へ流れている。

木は、暗い赤褐色である。

サイドチェア
ディー・ファイフ父子商会《サイドチェア》1841年。館の記録では、ローズウッドとその薄板、副材にトネリコ。高さ82.6センチ、幅43.5センチ、奥行き47センチ。番号は2013.22.2。前の一脚と寸法がまったく同じである。メトロポリタン美術館蔵。ディー・ファイフ父子商会《サイドチェア》メトロポリタン美術館蔵

もう一脚である。

背もたれの形も、脚の形も、同じである。

座面の布の模様も同じである。

寸法は、縦八二・六センチ、横四三・五センチ、奥行き四七センチ。

前の一脚と、一ミリの差もない。

同じ工房で、同じ型で作られた。

そして、技法の欄にわずかな違いがある。

一脚には「張り地は復元」と書かれている。

もう一脚には、その語がない。

同じ日に作られた二脚でも、記録の細かさが違う。

揃いの家具

椅子は、揃いで作られる。

食卓を囲むなら、六脚、八脚、十二脚。

同じ形、同じ寸法のものを並べる。

だから、二脚あるということは、もとはもっとあったということである。

番号の二〇一三・二二の一と二も、そのことを示している。

一と二があるのだから、三や四があってもおかしくない。

館に入ったのが二脚だった、というだけである。

サイドチェア
ジョージ・エイ・シャスティ商会《サイドチェア》1881年から1882年。館の記録では、サテンウッド、パープルハート、真鍮の脚輪、張り地は復元。座面の高さ51.4センチ、前後の長さ58.4センチ。番号は2009.226.3。アメリカ、ニューヨーク。メトロポリタン美術館蔵。ジョージ・エイ・シャスティ商会《サイドチェア》メトロポリタン美術館蔵

明るい黄色の木で作られている。

背もたれの上部に、木を象嵌した帯がある。

そこに、細かい模様が並んでいる。

その下に、青と緑の織物を張った小さな背当て。

座面は、深い緑の地に、金と白の花模様。

脚は細く、旋盤で削った形をしている。

そして、脚の先に小さな車輪が付いている。

真鍮の脚輪である。

寸法の欄が、変わっている。

座面の高さ。前後の長さ。背もたれの上端から床まで。

座面の前の幅。座面の後ろの幅。

五つの数字が並んでいる。

前の一脚は、高さと幅と奥行きの三つだった。

こちらは、五つに分けて測っている。

サイドチェア
ジョージ・エイ・シャスティ商会《サイドチェア》1881年から1882年。館の記録では、サテンウッド、パープルハート、真鍮の脚輪、張り地は復元。寸法は前の一脚とすべて同じである。番号は2009.226.4。メトロポリタン美術館蔵。ジョージ・エイ・シャスティ商会《サイドチェア》メトロポリタン美術館蔵

そして、もう一脚。

寸法の五つの数字が、すべて同じである。

象嵌の模様も、布の模様も同じ。

番号は、二〇〇九・二二六の三と四。

こちらも、一と二があったはずである。

つまり、少なくとも四脚の揃いだった。

座面の高さを、測る理由

家具の寸法の欄には、独特の項目がある。

座面の高さ。

これは、絵画にも、掛軸にも、甲冑にもない欄である。

なぜ測るのか。

使うための道具だからである。

座面が高すぎれば、足が床に届かない。

低すぎれば、立ち上がりにくい。

五一・四センチという数字は、いまの椅子とほとんど同じである。

人の身体は、百五十年で変わっていない。

だから、寸法もほとんど変わらない。

前の回に見た甲冑では、重さが記録されていた。

こちらでは、座面の高さが記録される。

いずれも、身体に関わる数字である。

使う道具の記録には、身体の寸法が入る。

肘掛けのある椅子

肘掛け椅子
ユリウス・デソワール《肘掛け椅子》1853年。館の記録では、ローズウッド、張り地は交換されたもの。高さ139.7センチ、幅71.8センチ、奥行き71.1センチ。番号は1995.150.2。アメリカ。メトロポリタン美術館蔵。ユリウス・デソワール《肘掛け椅子》メトロポリタン美術館蔵

高さが一メートル四十センチ近い。

九点でいちばん大きい。

背もたれの上に、彫刻が載っている。

葉と花が絡み合い、その中央に人の顔らしい形がある。

肘掛けの先にも、彫りがある。

犬か獅子の頭のような形である。

座面と背もたれは、淡い緑の織物で覆われている。

そこに、白い花の模様が織り出されている。

脚は太く、下へ向かって細くなる。

木は、暗い赤褐色である。

肘掛け椅子
ユリウス・デソワール《肘掛け椅子》1853年。館の記録では、ローズウッド、副材に栗、張り地は現代のもので、下張りは当初のものが残る。高さ139.7センチ、幅71.8センチ、奥行き71.1センチ。番号は1995.150.3。メトロポリタン美術館蔵。ユリウス・デソワール《肘掛け椅子》メトロポリタン美術館蔵

もう一脚である。

寸法は、まったく同じ。

彫刻も、布も同じ。

そして、この一点の画像は、白黒に近い古い写真である。

上部と右側に、白い書き込みが写り込んでいる。

撮影のときの覚え書きだろう。

技法の欄を比べると、書き方が違う。

一脚は「張り地は交換されたもの」。

もう一脚は「張り地は現代のもので、下張りは当初のものが残る」。

後者のほうが、細かい。

下張りとは、表の布の下にある詰め物と布のことである。

そこが当初のまま残っている。

同じ日に作られ、同じ家で使われ、同じ日に館へ入った二脚である。

それでも、記録の細かさが違う。

調べた人が違うのか、調べた時期が違うのか。

館の記録は、そこまで書いていない。