板に描いた肖像——サミュエル・ラヴェット・ウォルドー
九点のうち六点が、画布ではなく板に描かれている。この時期の肖像としては多い。自画像、途中で止まった妻の肖像、そして路上に暮らす人の肖像。注文の絵とそうでない絵が混ざる九点を、支持体から見る。板は重く割れやすい。それでも二百年を経て残っている。

絵筆を持つ自画像
一枚の板絵から始めたい。

縦長の画面である。
男性が、椅子に座る。
黒い上着に、白い襟巻き。
右手に、細い筆を持つ。
そして、左手に絵の具を載せた板。
背景は、暗い緑がかった色。
左下に、赤い布が見える。
道具が、職を示す
手に持つものを見たい。
筆と、絵の具の板である。
つまり、画家であることを示している。
肖像で持ち物は説明である。
筆の持ち方
右手を見たい。
細い筆を、指先で持つ。
そして、先が下を向く。
つまり、いま描いているわけではない。
道具を示すために持っている。
絵の具の板
左手の板を見たい。
親指を通す穴がある。
そして、縁に絵の具が並ぶ。
赤、白、黄、そして暗い色。
つまり、使う色が置かれている。
支持体は、板
技法欄を見たい。
油彩、板とある。
つまり、画布ではない。
九点のうち、六点が板である。
縦長の判型
寸法を見たい。
縦83.8センチ、横57.2センチ。
つまり、縦横の比が一・五に近い。
肖像の規格より、細長い。
椅子に座った姿を収めるための形だろう。
板に描くということ
板は、硬く、表面が平らである。
そして、細かい描写に向く。
一方、重く、大きくは作れない。
反りや割れの心配もある。
なぜ、板が多いのか
九点のうち六点が板である。
これは、多い。
理由は、館の記録に示されない。
材料の入手のしやすさかもしれない。
もっとも、断定はしない。
上着の色
上着を見たい。
暗く、青みを帯びる。
そして、背景も青緑である。
つまり、同系色で統一されている。
顔と襟だけが、明るい。
白い襟巻き
首元を見たい。
白い布が、大きく結ばれる。
そして、顎の下で膨らむ。
暗い上着との差が、顔の位置を決める。
衣の描き方
衣を見たい。
暗く、襞が大きい。
そして、細部は追われていない。
顔だけが、細かく描かれる。
顔の描き方
顔を見たい。
頬に赤みがあり、目に光が入る。
そして、口元が引き締まる。
つまり、こちらを見据えている。
背景の緑
背景を見たい。
暗い緑がかった色である。
そして、右上がわずかに明るい。
つまり、平らな一色ではない。
かすかな階調が付けられている。
一八一五年ごろ
制作年は、一八一五年ごろとされる。
作者は一七八三年生まれと記録される。
つまり、三十二歳ごろの仕事である。
そして、一八六一年に没している。

顔だけが、仕上がっている
二点目は、途中で止まっている。
顔は、はっきり描かれる。
頬に赤みがあり、目に光が入る。
一方、衣は白く塗られただけである。
そして、背景も刷毛の跡が残る。
顔の完成度
顔を細かく見たい。
眉、瞼、鼻筋、唇。
いずれも、はっきり描かれる。
そして、頬に赤みが入る。
つまり、顔だけが仕上がっている。
未完成という状態
館の記録は、未完成とは書かない。
しかし、画面を見れば分かる。
顔が仕上がり、他が途中である。
描く順序が、見える
未完成の絵には、価値がある。
制作の順序が分かるからである。
まず、下地を塗る。
次に、人物の位置を置く。
そして、顔から仕上げる。
なぜ、顔からか
依頼主が見に来るのは、顔だからである。
似ているかどうかが、まず問われる。
そして、承諾を得てから残りを描く。
つまり、商いの都合が順序を決めている。
背景の刷毛
背景を見たい。
薄紫がかった灰色である。
そして、刷毛の跡が斜めに走る。
つまり、下塗りの段階である。
身内の肖像
題の姓を見たい。
作者と同じである。
つまり、身内の肖像だろう。
注文ではないから、急ぐ必要がない。
未完成のまま残ったのも、そのためかもしれない。
白い衣の刷毛
衣を見たい。
白い絵の具が、広く置かれる。
そして、筆の跡がそのまま残る。
つまり、まだ形になっていない。
胸元に、細い線が数本走る。
途中で、止まる理由
なぜ、絵は途中で止まるのか。
依頼主の都合、支払いの問題、画家の事情。
さまざまな理由がありうる。
この一枚については、記録がない。
だから、当サイトは推測を書かない。
一点目と、同じ来歴
一点目と二点目は、同じ基金で購入されている。
そして、同じ年、一九二二年である。
つまり、二枚がまとめて館へ入った。
いずれも、身内に関わる絵である。

色のない一枚
三点目の画像は、灰色の階調だけである。
つまり、古い記録写真とみられる。
だから、色は分からない。
当サイトも、色を語らない。
描かれた人
題を見たい。
人名と、その人の呼び名が入る。
そして、物乞いという語がある。
つまり、路上で暮らす人を描いている。
呼び名という情報
題には、呼び名が入る。
つまり、通り名で知られていた人物だろう。
そして、その名が絵の題になった。
記録として、具体的である。
誰が、描かれるか
肖像は、代金を払える人が注文する。
だから、描かれるのは町の一部である。
そのなかで、この一枚は例外にあたる。
注文ではない絵
この絵は、注文ではないだろう。
つまり、画家が自分で描いた。
そして、題に呼び名まで記している。
その人を知っていたということだろう。
もっとも、館の記録は経緯を示さない。
顔の描き方
顔を見たい。
頬がこけ、額に皺がある。
そして、髪が乱れる。
つまり、整えていない。
他の肖像とは、まったく違う。
目の表情
目を見たい。
こちらを見据えている。
そして、瞼が下がる。
強い視線である。
背景の暗さ
背景を見たい。
ほとんど黒である。
そして、顔と襟だけが明るい。
明暗の差が、きわめて大きい。
小さな画面
寸法を見たい。
縦50.5センチ、横37.5センチ。
つまり、九点の中で最も小さい。
注文の肖像より、一回り小さい。
一九〇四年の寄贈
来歴を見たい。
館の記録では、一九〇四年の寄贈である。
つまり、九点の中で最も早く館へ入った。
五人の子ども
四点目は、大きな群像である。

五人の子どもが、並ぶ。
左に、黒い上着の年長の少年。
その隣に、白い衣の幼い子。
中央に、黒い衣の少年が腰かける。
右に、白いズボンの少年。
そして、犬が一匹いる。
背景に、赤い幕が垂れる。
大きな画面
寸法を見たい。
縦177.8センチ、横146.1センチ。
つまり、九点の中で最も大きい。
五人を入れるには、この寸法が要る。
衣の色
五人の衣を見たい。
黒が二人、白が二人。
そして、中央の一人が黒である。
つまり、黒と白が交互に並ぶ。
大きな画面を、明暗で整理している。
年齢を、描き分ける
五人の顔を見比べたい。
年長の少年は、顔が細い。
そして、幼い子は丸い。
つまり、年齢の差が描き分けられている。
手の連なり
五人の手を見たい。
左の少年が、幼い子の手を取る。
そして、幼い子が右を指す。
つまり、動きが左から右へ伝わる。
犬という同席者
中央の少年の膝に、犬がいる。
そして、白と茶の毛である。
子どもの肖像に犬を添えるのは、よくある型である。
赤い幕
背景を見たい。
赤い布が、上から垂れる。
そして、左右に広がる。
つまり、幕である。
肖像の背景として、繰り返し使われる。
一八五九年の寄贈
来歴を見たい。
館の記録では、一九五九年の寄贈である。
そして、故人を記念する寄贈とされる。
記念の形で作品が館へ渡ることは多い。
床の敷物
足元を見たい。
模様のある敷物が広がる。
そして、緑と赤の花の形が見える。
つまり、室内である。
一枚に、五人
対の肖像を五枚描く方法もある。
しかし、この絵は一枚に五人を収めた。
つまり、家族としてまとめている。
そして、大きな一枚になる。

軍装の男
五点目は、軍装である。
濃紺の上着に、金色の房飾り。
そして、白い襟。
顔は、細く、頬がこける。
髪は、乱れて立つ。
背景は、黄土色である。
顔の細さ
顔を見たい。
頬がこけ、顎が尖る。
そして、目のまわりに影がある。
つまり、痩せた顔である。
理想化されていない。
背景が、粗い
背景を見たい。
筆の跡が、大きく残る。
そして、平らに均されていない。
つまり、仕上げられていない。
顔と、背景の差
顔は、細かく描かれる。
一方、背景と衣は粗い。
つまり、二点目と同じ状態である。
顔から描き、他が途中で止まっている。
画布という支持体
技法欄を見たい。
この一枚は、画布である。
つまり、板ではない。
九点のうち、画布は三枚だけである。
二枚の未完成
九点のうち、二枚が途中である。
二点目と、五点目である。
いずれも、顔だけが仕上がっている。
制作年は、確定している
制作年は、一八一九年である。
つまり、推定ではない。
未完成でも、年が分かる場合がある。
記録が残っていたのだろう。
小さめの寸法
寸法を見たい。
縦64.3センチ、横53.3センチ。
つまり、規格より小さい。
胸から上だけを描く寸法である。
房飾りの金
肩の飾りを見たい。
細い糸が、いくつも垂れる。
そして、金色に光る。
暗い上着の中で、明るい点になる。

仕上げられた一枚
六点目は、丁寧に仕上げられている。
年配の男性が、椅子に座る。
黒い上着に、白い襟飾り。
髪は、白く、後ろへ流れる。
背景に、赤い幕。
右手を、椅子の肘に置く。
座り方
姿勢を見たい。
椅子に深く腰かける。
そして、体をやや右へ向ける。
顔は、正面に近い。
つまり、ねじれがある。
赤い幕、再び
背景の赤い幕を見たい。
四点目にも、同じものがあった。
つまり、繰り返し使われる道具立てである。
画家が持つ引き出しの一つだろう。
白い襟飾り
首元を見たい。
白い布が、細かく襞を作る。
そして、顎の下で膨らむ。
暗い上着の中で、そこだけが明るい。
白い髪
髪を見たい。
白く、耳の上で膨らむ。
そして、後ろへ流れる。
つまり、整えられた髪である。
顔の皺
顔を見たい。
額に横の線があり、目の下に影がある。
そして、口元が引き締まる。
年齢が、隠されていない。
板という支持体
技法欄を見たい。
油彩、板とある。
そして、寸法は83.8センチ掛ける65.1センチ。
つまり、かなり大きな板である。
一九二三年の寄贈
来歴を見たい。
館の記録では、一九二三年の寄贈である。
一点目、二点目の翌年にあたる。
つまり、続けて館へ入っている。
大きな板の難しさ
大きな板には、難しさがある。
まず、重い。
次に、湿気で反る。
そして、割れることがある。
それでも使うのは、表面の質のためだろう。
色のない、もう一枚
七点目も、記録写真である。

灰色の階調だけの画像である。
つまり、色は分からない。
少女が、立っている。
白い衣で、袖が大きく膨らむ。
右手を、花に伸ばす。
足元に、花の束が置かれる。
背景は、暗い。
立ち姿
姿勢を見たい。
まっすぐ立ち、体は正面を向く。
そして、右手だけが横へ伸びる。
つまり、静かな姿勢である。
膨らんだ袖
袖を見たい。
肩から肘まで、大きく膨らむ。
そして、肘から下は細い。
つまり、当時の流行の形である。
一八三〇年代の装いである。
花という主題
花を見たい。
右手が触れる先に、小さな花がある。
そして、足元に大きな束。
つまり、花が二か所にある。
子どもの肖像で、よく使われる型である。
背景の暗さ
背景を見たい。
暗く、輪郭が曖昧である。
そして、右側に葉らしき形がある。
つまり、屋外かもしれない。
もっとも、白黒では判別しにくい。
題に、名がない
題を見たい。
《花を持つ少女の肖像》である。
つまり、名が分からない。
九点のうち、名のないのはこれだけである。
名が、失われる理由
肖像の人物の名は、家に伝わる。
そして、代を経るうちに曖昧になる。
売られれば、さらに薄くなる。
当サイトでも、繰り返しこの点に触れてきた。
一九七三年の遺贈
来歴を見たい。
館の記録では、一九七三年の遺贈である。
つまり、九点の中で最も新しく館へ入った。
板の大きさ
技法欄を見たい。
油彩、板とある。
そして、縦103.8センチ。
つまり、一メートルを超える板である。
かなり大きい。

暗い青の画面
八点目は、色が抑えられている。
男性が、椅子に座る。
暗い上着に、白い襟巻き。
髪は、暗く、額の上で分かれる。
背景は、暗い青緑である。
右下に、赤い布が見える。
白い襟巻き
首元を見たい。
白い布が、大きく結ばれる。
そして、暗い衣に囲まれる。
九点のうち、五枚に同じ形の襟巻きがある。
つまり、当時の男性の装いである。
顔の向き
顔を見たい。
やや左を向く。
そして、視線はこちらへ来る。
つまり、体と顔の向きがずれている。
右下の赤
画面の右下を見たい。
赤い布が、わずかに見える。
椅子の張りだろう。
一点目にも、同じものがあった。
制作年に幅がある
年代を見たい。
一八一七年から二〇年ごろとされる。
つまり、三年の幅がある。
肖像の制作年は、記録が残りにくい。
規格に近い寸法
寸法を見たい。
縦76.8センチ、横64.1センチ。
つまり、三十インチ掛ける二十五インチに近い。
当時の肖像の標準的な寸法である。

黄色い胴衣
九点目は、色が明るい。
男性が、椅子に座る。
暗い緑の上着に、黄色い胴衣。
そして、白い襟巻き。
左手に、白い紙を持つ。
背景は、暗い緑と茶。
右下に、赤い布が見える。
上着の緑
上着を見たい。
暗い緑である。
そして、背景も緑と茶。
つまり、同系色である。
その中で、黄色い胴衣だけが違う。
黄色という一点
胴衣の黄色に注目したい。
明るく、鮮やかである。
そして、暗い上着に囲まれる。
つまり、暗い中の一点である。
九点の中で、最も強い色である。
金色の釦
胴衣の釦を見たい。
小さく、金色に光る。
そして、縦に四つ並ぶ。
黄色い面の上で、点として目立つ。
顔の描き方
顔を見たい。
頬に赤みがあり、目に光が入る。
そして、口元がわずかに緩む。
つまり、穏やかな表情である。
手に持つ紙
左手を見たい。
白い紙を持つ。
そして、指のあいだにある。
書類だろう。
持ち物が、職や関心を示す。
板の寸法
技法欄を見たい。
油彩、板とある。
そして、縦84センチ、横64センチ。
つまり、一点目、六点目とほぼ同じ大きさである。
同じ規格の板
三枚の板の寸法を並べたい。
83.8センチ掛ける57.2センチ。
83.8センチ掛ける65.1センチ。
そして、84センチ掛ける64センチ。
つまり、縦がほぼ同じである。
板にも、規格がある
画布に規格があるように、板にもあるのだろう。
同じ寸法の板が、複数用意されていた。
つまり、まとめて仕入れていた可能性がある。
もっとも、館の記録は示していない。
九点の内訳
九点をまとめたい。
板が六枚、画布が三枚。
そして、成人の肖像が六枚、子どもが二枚。
さらに、群像が一枚である。
制作年の分布
年代を並べたい。
一八一五年ごろ、一七から二〇年ごろ。
一八一九年が二枚、二三年、二六年ごろ。
二八年、三三から三四年ごろ、三五年ごろ。
つまり、二十年ほどに分布する。
主題の幅
描かれた人を見たい。
画家自身、その妻、路上の人。
軍人、年配の紳士、牧師。
そして、子どもたち。
つまり、社会の幅が広い。
注文と、そうでない絵
九点のうち、注文でないものがある。
自画像、妻の肖像、そして路上の人の肖像。
いずれも、代金の発生しない絵だろう。
二枚の未完成
そして、二枚が途中で止まっている。
一枚は妻の肖像、もう一枚は軍人の肖像。
つまり、注文の絵も止まることがある。
理由は、記録にない。
二枚の記録写真
画像についても、まとめたい。
九点のうち、二点が色のない記録写真である。
そして、七点は色のある写真である。
差が生じる理由
理由は、撮影の時期だろう。
古い写真が残り、撮り直されていない。
展示の機会が少なければ、順番も後になる。
見えているのは、写真である
美術館の公開画像は、作品そのものではない。
作品を撮った写真である。
だから、撮影の条件が見え方を決める。
色のない二枚では、色が失われている。
板を、見る
最後に、支持体へ戻りたい。
九点のうち六点が板である。
これは、この時期の肖像としては多い。
板は重く、割れやすい。
それでも、二百年を経て残っている。
支持体の選択も、絵の一部である。


