鋼に金で描き、重さまで記録する——クンツ・ロッホナー
胸甲の重さは3,472.8グラム、と館の記録は書く。小数第一位までの数字が、八点すべてに並ぶ。着るための道具だからこそ、重さが情報になる。金の帯で飾られた十六世紀の甲冑を、装飾と機能の両面から見たい。

鋼に、金で描く
一点の胸甲から始めたい。

胸を覆う鉄の板である。
中央が、縦に盛り上がる。
そして、下部に別の板が続く。
表面に、金色の模様がある。
模様は、渦を巻く葉と花。
縁に、細い帯が巡る。
重さが、記録される
館の記録を見たい。
寸法だけでなく、重さがある。
3,472.8グラムとある。
つまり、三・五キロほどである。
全身の重さ
十六世紀の全身の甲冑は、二十キロから二十五キロほどとされる。
そして、それを着て動く。
つまり、訓練が要る。
もっとも、館の記録は総重量を示さない。
着るための重さ
三・五キロを、胸に着ける。
そして、それは全身の一部にすぎない。
全部を着れば、二十キロを超える。
数字が、細かい
重さの記録を見たい。
小数点以下まで記されている。
つまり、〇・一グラム単位である。
なぜ、そこまで量るか
甲冑は、着て動くための道具である。
そして、重さが性能を決める。
つまり、重さは作品の性質である。
三つの寸法
寸法の記録を見たい。
高さ、幅、そして奥行き。
つまり、立体として測られている。
平らな板ではないからである。
金の模様
表面を見たい。
金色の模様が、地の鋼と対比される。
そして、その模様が細かい。
金を、鋼に載せる
鋼に金を載せる方法は、いくつかある。
表面を刻んで金を埋める方法。
あるいは、水銀を使う鍍金の方法。
館の記録は、技法欄に「鋼、金」とだけ記す。
記録が、示さないこと
つまり、どの方法かは分からない。
だから、当サイトも断定しない。
見えているのは、金色の模様である。
模様の位置
模様の位置を見たい。
胸の中央と、縁に集中する。
そして、面の中ほどは空いている。
つまり、全面を埋めていない。
模様の内容
模様を見たい。
渦を巻く茎に、葉と花が付く。
そして、その茎が縦に伸びる。
つまり、植物の意匠である。
縦の稜線
胸甲の中央を見たい。
縦に、稜が走る。
そして、そこで面が折れる。
稜の役割
尖った面は、打撃を逸らす。
つまり、実用の形である。
装飾ではない。
下部の板
胸甲の下を見たい。
別の板が、重なって続く。
そして、腰の周りを覆う。
つまり、動けるように分割されている。
留め具の跡
板の縁を見たい。
小さな穴や金具がある。
つまり、他の部品とつなぐための跡である。
甲冑は、組み立てて着る。
分割という設計
一枚の板では、体が曲がらない。
だから、複数の板を重ねる。
そして、留め具でつなぐ。
作者について
館の記録を見たい。
ドイツのニュルンベルクの人とされる。
そして、一五一〇年生まれ、一五六七年没。
つまり、十六世紀の甲冑師である。
手続きの時間
寄贈と受け入れに差が出るのは、手続きのためである。
そして、記録には両方の年が残る。
当サイトでは、繰り返しこの点に触れてきた。
一九一三年の寄贈
来歴を見たい。
館の記録では、一九一三年の寄贈である。
そして、受け入れは一九一四年。
つまり、一年の差がある。

顔を、覆う兜
二点目は、兜である。
頭の全体を覆う。
そして、顔の前にも板がある。
その板に、横長の隙間。
さらに、下部に丸い穴が並ぶ。
表面に、細い模様の帯が走る。
兜の形
形を見たい。
丸い頭部に、尖った前面。
そして、後ろが下へ伸びる。
つまり、首の後ろも覆う。
隙間から、見る
顔の前の隙間を見たい。
横に細長い。
つまり、視野を確保する開口である。
視野と、防御
隙間が広ければ、よく見える。
しかし、危険も増す。
つまり、両立しない条件である。
穴の配置
穴を見たい。
四つの塊に分かれて並ぶ。
そして、それぞれが円形に配される。
つまり、装飾も兼ねている。
丸い穴の役割
下部の穴を見たい。
小さな丸が、放射状に並ぶ。
つまり、息をするための穴である。
開閉する仕組み
顔の前の板は、上へ開く。
そして、留め具で固定する。
つまり、着けたまま顔を出せる。
表面の模様
表面を見たい。
細い帯が、いくつも走る。
そして、その中に細かい模様がある。
つまり、線状に飾られている。
三キロの兜
重さを見たい。
2,975グラムである。
つまり、三キロ弱を頭に載せる。
首への負担
三キロを頭に載せると、首に来る。
そして、長くは着けていられない。
つまり、着脱の速さも重要になる。
制作年が、一年
年代を見たい。
一五五〇年とある。
つまり、幅がない。
八点の中で、これだけである。
一九三九年の寄贈
来歴を見たい。
一点目、三点目とは違う寄贈である。
そして、故人を記念する寄贈とされる。

顔の開いた兜
三点目も、兜である。
もっとも、顔が開いている。
上部に、高い稜が立つ。
前に、庇が突き出る。
側面に、耳を覆う板。
表面に、渦と葉の模様。
縁に、丸い鋲が並ぶ。
二つの兜を、比べる
二点目は、顔を覆う。
そして、三点目は、顔が開く。
つまり、用途が違う。
庇の役割
前の庇を見たい。
前へ突き出る。
つまり、上からの打撃を受ける。
そして、日差しも遮る。
開いた兜の利点
顔が開けば、視野が広い。
そして、息もしやすい。
つまり、動きやすい。
軽さの差
重さを比べたい。
二点目が2,975グラム。
そして、三点目が1,786グラム。
つまり、千二百グラムの差がある。
耳を覆う板
側面を見たい。
丸い板が、耳の位置にある。
そして、そこに穴が開く。
つまり、音を通すための穴である。
用途と、重さ
覆えば重く、開けば軽い。
つまり、防御と軽さは反比例する。
どちらを取るかは、状況による。
上部の稜
頭頂を見たい。
高い稜が、前後に走る。
つまり、屋根のような形である。
打撃を逸らすための形だろう。
模様の内容
表面の模様を見たい。
渦を巻く茎と、葉。
そして、動物らしき形もある。
つまり、一点目と同じ系統の意匠である。
鋲の並び
縁の鋲を見たい。
丸く、等間隔に並ぶ。
つまり、内側の裏地を留めている。
繊維という記録
技法欄を見たい。
鋼、革、繊維とある。
つまり、布も使われている。
三点の共通点
一点目から三点目までを見たい。
いずれも、金の模様がある。
そして、状態がよい。
つまり、同じ扱いを受けてきたのだろう。
内側の裏地
甲冑の内側には、布や革が張られる。
そして、衝撃を和らげる。
つまり、鉄だけでは着られない。
塗られた部品
四点目から、性格が変わる。

肩を覆う板である。
そして、湾曲している。
表面は、暗く、くすんでいる。
そこに、赤と黒の模様がある。
模様は、渦と直線の組み合わせ。
長い題
館の題を見たい。
きわめて長い。
そして、ある人物の名と称号が並ぶ。
称号が、並ぶ
題には、複数の称号が並ぶ。
領地の名、帝国における地位、そして役職。
つまり、身分が細かく記される。
館は、それをそのまま題にしている。
誰のための甲冑か
題によれば、一人の貴族のために作られた。
そして、その人の生没年も記される。
一五一五年生まれ、一五六五年没とされる。
一領の甲冑
四点目から八点目までは、同じ一領の部品である。
つまり、もとは一つの甲冑だった。
そして、いまは部品ごとに番号が付く。
番号が、分ける
一領の部品でも、番号は別々である。
つまり、館の管理上は別の作品である。
そして、それぞれに寸法と重さが記録される。
部品として、残る
甲冑は、部品の集合である。
そして、散逸すれば部品だけが残る。
つまり、全体は失われている。
何が、残ったか
残っているのは、肩当て、腿当て、馬の首の板。
そして、槍の手当てと、もう一枚の首の板。
つまり、全体のごく一部である。
赤と黒
色を見たい。
赤と黒である。
そして、金色の地に置かれる。
つまり、三色の組み合わせである。
塗られている
四点目の表面を見たい。
赤と黒の絵の具がある。
つまり、鋼の上に塗られている。
「おそらく塗り直された」
館の記録を見たい。
後の時代に塗り直された可能性がある、とある。
つまり、この塗りは当時のものではないかもしれない。
二重の不確かさ
塗り直されたかどうかも、確定していない。
そして、いつ塗られたかも分からない。
なぜ、塗り直すか
甲冑が飾りとして扱われた時期がある。
そして、見栄えのために塗られることがあった。
もっとも、この一点の事情は記録にない。
それでも、記録する
館は、その可能性を明記する。
つまり、見る側に判断の材料を渡す。
隠さないという方針である。
当サイトの扱い
当サイトも、その表記をそのまま伝える。
つまり、模様を当時のものとして語らない。
表面の状態
表面を見たい。
くすみ、錆びている。
そして、金の部分も曇る。
つまり、一点目から三点目とは状態が違う。
肩当ての形
形を見たい。
肩から腕の付け根を覆う。
そして、上部に立ち上がりがある。
つまり、首を守る形である。
状態の差
同じ作者の品でも、状態が違う。
保管の環境や、修復の履歴による。
館の記録は、そこまで示していない。

左右で、違う
五点目は、一対である。
そして、寸法が左右で違う。
右が高さ15.2センチ。
左が高さ19センチ。
一対という記録
館は、二枚をまとめて一点として登録する。
そして、右と左の寸法を別々に記す。
つまり、一つの番号に二つの数字がある。
なぜ、違うのか
左右で寸法が違うのは、理由がある。
馬上槍試合では、左側が狙われる。
だから、左を大きく、厚くする。
もっとも、館の記録は理由を示さない。
重さも、違う
重さを見たい。
右が587グラム、左が726グラム。
つまり、左のほうが百四十グラム重い。
形の違い
二枚の形を見たい。
いずれも、下が丸い。
そして、左のほうが縦に長い。
つまり、覆う範囲が広い。
非対称という設計
左右対称に作らない。
つまり、用途に合わせて変える。
甲冑には、こうした非対称が多い。
模様の構成
表面を見たい。
赤と黒の線が、組み合う。
そして、直角に折れる。
つまり、幾何学的である。
四点目と、同じ模様
四点目の模様と比べたい。
同じ赤と黒である。
そして、線の組み方も似る。
つまり、同じ一領の部品と分かる。
縁の金具
縁を見たい。
小さな金具が付く。
つまり、腰の板とつなぐための部品である。
模様で、組を知る
部品が散らばっても、模様が揃えば同じ組である。
つまり、模様が識別の手がかりになる。
館の分類も、それにもとづくのだろう。

馬の甲冑
六点目は、人のためではない。
馬の首を覆う板である。
そして、細長く、湾曲する。
馬の負担
馬にも甲冑を着せれば、重くなる。
そして、馬の負担が増える。
つまり、馬にも力が要る。
馬にも、甲冑
馬上槍試合では、馬も守る。
つまり、馬用の甲冑がある。
そして、それも同じ工房で作られる。
首の板
首を覆う甲冑は、板を並べて作る。
そして、鱗のように重ねる。
つまり、首が曲がるようにする。
湾曲した形
形を見たい。
弓なりに曲がる。
つまり、馬の首の曲面に沿う。
平らな板ではない。
一枚だけ、残る
六点目は、その一枚である。
つまり、他の板は失われている。
二百六十グラム
重さを見たい。
261グラムである。
つまり、八点の中で最も軽い。
縁の切り欠き
板の端を見たい。
切り欠きがある。
つまり、他の板と重ねるための形である。
板一枚の重さ
一枚が二百六十グラムである。
そして、首を覆うには何枚も要る。
つまり、全体では数キロになる。
真鍮という材料
技法欄を見たい。
鋼、真鍮、金、絵の具とある。
つまり、真鍮も使われている。
三つの寸法
寸法の記録を見たい。
長さ、高さの二つである。
つまり、奥行きは記されない。
細長い板だからだろう。
真鍮の役割
真鍮は、黄色く光る。
そして、鋼と色が違う。
つまり、装飾として使われたのだろう。
槍の手当て
七点目は、武具の部品である。

円錐形の板である。
そして、中央に丸い穴。
表面に、赤と黒の模様。
縁に、丸い鋲が並ぶ。
何のための部品か
題を見たい。
槍の手当てとある。
つまり、槍に取り付ける円盤である。
鋲の並び
縁の鋲を見たい。
丸く、等間隔に並ぶ。
つまり、裏地を留めている。
三点目の兜と、同じ作りである。
手を、守る
槍を構えるとき、手が前に出る。
そして、そこが狙われる。
だから、円盤で手を覆う。
中央の穴
穴を見たい。
丸く、中央にある。
つまり、そこに槍の柄が通る。
模様の配置
表面の模様を見たい。
穴を中心に、放射状に広がる。
つまり、円の形に沿っている。
円錐という形
形を見たい。
平らではなく、円錐状である。
つまり、打撃を逸らす形である。
直径三十三センチ
寸法を見たい。
直径33.3センチである。
つまり、皿ほどの大きさである。
重さ
重さを見たい。
1,454グラムである。
つまり、一・五キロ弱を槍に付ける。
手当ての位置
槍のどこに付くか。
握る位置のすぐ前である。
つまり、手を後ろに隠す。
槍全体の重さ
槍そのものも重い。
そこに、一・五キロが加わる。
つまり、扱うには力が要る。

もう一枚の、首の板
八点目も、馬の首の板である。
六点目と、同じ部位である。
そして、同じ一領に属する。
明るい鋼
八点目の表面を見たい。
鋼が明るく、光る。
そして、金の帯がはっきり見える。
つまり、洗浄されている。
表面の状態が、違う
六点目は、くすんで塗られている。
一方、八点目は、鋼が明るい。
つまり、状態が違う。
塗りの記録がない
八点目の年代欄を見たい。
塗り直しの記載がない。
つまり、四点目から七点目とは違う。
同じ組でも、扱いが違う
同じ一領の部品でありながら、記録が違う。
そして、見た目も違う。
なぜ、差が出るか
一部だけが塗られた可能性がある。
あるいは、一部だけが洗浄された可能性もある。
館の記録は、示していない。
題の末尾
館の題を見たい。
末尾に、余分な一文字が付いている。
つまり、入力の際の乱れだろう。
記録は、人が作る
美術館の記録は、人が入力する。
そして、長い年月と多くの担当者による。
だから、まれにこうした乱れが残る。
誤りを、直すか
記録の誤りは、いずれ直される。
しかし、直るまでは残る。
そして、当サイトはその時点の記録を伝える。
隠されていない
もっとも、公開されているから気づける。
そして、当サイトも書いておける。
ビロードという材料
技法欄を見たい。
鋼、金、革、そして繊維とある。
さらに、その繊維がビロードと注記される。
内側の布
ビロードは、内側に張られたのだろう。
そして、馬の首に直接触れる。
つまり、馬を傷めないための工夫である。
六センチの板
寸法を見たい。
高さ6センチ、幅27センチ。
つまり、細長い。
そして、重さは236グラムである。
材料の記録が、細かい
八点の技法欄を並べたい。
鋼と金だけのもの。
鋼、革、繊維のもの。
そして、真鍮や絵の具を含むもの。
つまり、材料が一点ずつ違う。
八点の内訳
八点をまとめたい。
胸甲が一点、兜が二点。
そして、一領の部品が五点である。
重さの幅
重さを並べたい。
最軽が236グラム、最重が3,472.8グラム。
つまり、十五倍近い差がある。
部品の重さ
甲冑の全体は、二十キロを超える。
そして、八点を合わせても十一キロほどである。
つまり、まだ半分に満たない。
一領が、散る
甲冑は、部品の集合である。
だから、散逸しやすい。
そして、部品ごとに売られる。
五点が、揃って残る
四点目から八点目は、同じ寄贈で館へ入った。
つまり、五点が離れずに伝わった。
散逸した中では、幸運である。
一人の収集
来歴を見たい。
八点のうち七点が、同じ人物の寄贈である。
そして、年は一九一三年。
甲冑を、集める
甲冑だけを集める収集家がいる。
そして、その収集が館へ入る。
つまり、美術館の甲冑の部門は、そうして作られた。
数字で、見る
最後に、記録の性格に触れたい。
甲冑の記録には、数字が多い。
高さ、幅、奥行き、そして重さ。
道具としての記録
なぜ、そこまで測るか。
甲冑は、着て動くための道具だからである。
つまり、性能が数字に表れる。
見えないものを、数字が示す
写真では、重さは分からない。
しかし、記録には書いてある。
三・五キロの胸甲、二百三十六グラムの板。
その差を知って見ると、見え方が変わる。



