二枚並べて、背景がつながる——勝川春章
二枚続き、三枚続きという形式の錦絵である。ところが館の寸法欄には、一枚分の数字しかないことがある。別々にも売れる版画が、並べたときだけ一つの場面になる。境目の処理と背景の連続から、その仕組みを六点で見る。

二枚で、一つの場面
一組の版画から始めたい。

二枚の紙が、並ぶ。
左に、男の姿の役者が立つ。
右に、女の姿の役者が立つ。
いずれも、細長い紙である。
背景には、格子の模様の壁。
上部に、簾が下がる。
二枚続きという形式
この作品は、二枚で一組である。
つまり、続き絵である。
そして、二枚を並べて一つの場面になる。
三枚続きもある
続き絵には、二枚のものと三枚のものがある。
そして、五枚のものもある。
つまり、枚数で場面の幅が決まる。
横に広い場面は、枚数を増やす。
寸法の記録が、一枚分
館の記録を見たい。
寸法が、一枚分だけ記されている。
つまり、もう一枚の寸法はない。
記録の不揃い
続き絵では、各枚の寸法を記すこともある。
そして、代表の一枚だけを記すこともある。
館の記録は、後者である。
当サイトは、その表記をそのまま伝える。
紙を、並べる
続き絵は、別々の紙に摺る。
そして、後で並べる。
つまり、境目が必ず残る。
その境をどう扱うかが、工夫になる。
背景が、つながる
二枚の背景を見たい。
格子の模様が、左右で続く。
そして、簾も続く。
つまり、並べたときに一つの空間になる。
別々にも、売れる
続き絵は、一枚ずつでも売られた。
つまり、買う人が枚数を選べる。
そして、揃えれば場面が完成する。
境目の処理
二枚の境を見たい。
人物は、境をまたがない。
つまり、一枚に一人ずつ収まる。
そうすれば、一枚ずつでも成立する。
上部の簾
上を見たい。
黄色い簾が、二枚にまたがる。
そして、その下に横木がある。
つまり、屋内の設えである。
壁の模様
背景の壁を見たい。
四角い形が、規則的に組み合う。
そして、灰色である。
つまり、幾何学的な模様である。
二人の関係
二人の姿勢を見たい。
いずれも、正面をやや外して立つ。
そして、互いのほうを向いていない。
つまり、並んでいるだけである。
会話の場面ではない。
錦絵という技法
技法欄を見たい。
錦絵とある。
つまり、多色摺の版画である。
色版を、重ねる
多色摺では、色ごとに版を彫る。
そして、順に摺り重ねる。
つまり、十枚以上の版を使うこともある。
摺りの回数
色の数だけ、紙を版に当てる。
つまり、十回以上摺ることになる。
そして、そのたびに位置を合わせる。
一枚の完成には、時間がかかる。
見当という仕組み
色がずれないように、版木に印を彫る。
そして、紙をその印に合わせる。
つまり、位置を決める仕組みである。
当サイトの
二色か三色で、摺るでも触れた。
衣の模様
二人の衣を見たい。
左の役者は、菊の模様。
そして、右の役者は、大きな花の模様。
つまり、模様が細かく摺り分けられている。
彫師の仕事
模様を彫るのは、彫師である。
そして、絵師の描いた版下を板に写す。
つまり、絵師の線は他人の手を経る。
版画は、分業の産物である。
模様を、摺る手間
細かい模様は、彫るのが難しい。
そして、色ごとに版が要る。
つまり、手間と費用がかかる。
顔の描き方
二人の顔を見たい。
輪郭が細く、目が小さい。
そして、口元が引き締まる。
つまり、個人の顔として描かれている。
何が、変えたのか
似顔が現れた理由は、いくつか考えられる。
版画の技術が上がったこと。
そして、役者そのものへの関心が高まったこと。
もっとも、館の記録は説明していない。
似顔という段階
初期の役者絵では、顔を似せなかった。
そして、紋で人を示した。
一方、この時期には顔を似せる。
つまり、似顔絵の段階に入っている。
五十四歳の仕事
五十四歳という年齢を考えたい。
つまり、活動の後半である。
そして、没年までは十二年ある。
一七八〇年ごろ
制作年は、一七八〇年ごろとされる。
作者は一七二六年生まれと記録される。
つまり、五十四歳ごろの仕事である。
そして、一七九二年に没している。

傘をさす人物
二点目は、一人である。
役者が、傘をさして立つ。
傘は、赤と白の輪の模様。
そして、大きく画面の上を覆う。
衣は、格子と縞の組み合わせ。
腰に、刀を差す。
背景に、竹垣と梅の枝。
縦長の画面
寸法を見たい。
縦29.2センチ、横14センチ。
つまり、縦横の比が二対一である。
細長い紙に、立ち姿を収める。
傘という道具
傘を見たい。
骨が放射状に並ぶ。
そして、その間に赤と白の面。
つまり、模様が構造に沿う。
赤と白の輪
傘の模様を見たい。
中心から外へ、輪が並ぶ。
そして、赤と白が交互になる。
つまり、同心円の模様である。
傘が、画面を占める
傘は、画面の上三分の一を占める。
つまり、顔より大きい。
そして、視線がまずそこへ行く。
顔の位置
顔を見たい。
傘の下に、小さく収まる。
つまり、隠れかけている。
もっとも、それが構図の妙である。
衣の格子
衣を見たい。
格子の模様が、大きく入る。
そして、その上に縞が重なる。
つまり、二種類の模様が同居する。
竹垣
背景を見たい。
縦の線が、密に並ぶ。
つまり、竹を組んだ垣である。
そして、その上に梅の枝。
背景の情報
背景には、二つの情報がある。
竹垣は、場所を示す。
そして、梅は、季節を示す。
つまり、無駄なく置かれている。
梅という季節
梅の花を見たい。
小さな点で示される。
つまり、早春である。
背景が、季節を告げる。
足元の履物
足元を見たい。
厚い底の履物を履く。
そして、その形がはっきり描かれる。
つまり、雪や雨のための履物だろう。
腰の刀
腰を見たい。
刀の柄と鞘が見える。
そして、斜めに差される。
つまり、武士の役だろう。
一九一四年の購入
来歴を見たい。
館の記録では、一九一四年に基金で購入された。
そして、他の五点は一九一八年である。
つまり、四年の差がある。
黒い衣の立ち姿
三点目は、色数が少ない。

女の姿の役者が、立つ。
上半身は、黒い衣。
そして、裾に花の模様が広がる。
胸に、丸い紋がある。
背景は、上が明るく、下が黄土色。
右に、文字と印がある。
立ち姿の型
姿勢を見たい。
体をわずかにひねり、顔を横へ向ける。
そして、足元が裾に隠れる。
つまり、女方の立ち姿の型である。
黒という面
上半身の黒を見たい。
大きく、平らである。
そして、模様がない。
つまり、単純な面である。
黒の摺り
黒い面を摺るには、墨を厚く置く。
そして、むらが出やすい。
つまり、大きな黒い面は難しい。
三点目では、それが均一に摺られている。
単純と、複雑
上半身は単純、下半身は複雑である。
つまり、対比がある。
その差が、画面に緊張を作る。
帯の位置
腰を見たい。
帯が、高い位置で結ばれる。
そして、上半身と下半身を分ける。
つまり、色の切り替えの線でもある。
裾の模様
裾を見たい。
赤と白の花が、散る。
そして、緑の葉が添えられる。
つまり、細かい摺りである。
紋という記号
胸の紋を見たい。
丸い形で、白く抜かれる。
そして、黒い衣の上にある。
つまり、最も目立つ位置である。
顔を似せても、紋は残る
顔を似せる時代になっても、紋は描かれる。
つまり、二重に人を示している。
そして、遠くからでも分かる。
右の文字
画面の右を見たい。
小さな文字と、印がある。
つまり、絵師の署名と版元の印だろう。
版画には、こうした表示が入る。
背景の色
背景を見たい。
上が白に近く、下が黄土色である。
そして、その境が水平に走る。
つまり、床と壁の境だろう。
白く抜く
紋を白く見せるには、その部分を摺らない。
つまり、紙の白を残す。
そして、周囲を黒で埋める。
引き算で作る白である。
裾の広がり
裾を見たい。
下へ行くほど、布が広がる。
そして、床に届いて溜まる。
つまり、三角形の輪郭になる。
細長い紙の中で、下を重くしている。
制作年が、二年に絞られる
制作年は、一七八七年から八八年とされる。
つまり、二年の幅である。
演目の記録から推定したのだろう。
記録としての版画
版画は、興行の記録として使える。
そして、誰がいつ何を演じたかが分かる。
つまり、芝居の歴史の資料でもある。
年が絞れる理由
芝居は、月ごとに演目が変わる。
そして、役者の名と演目が分かれば、年が決まる。
つまり、版画は興行の記録でもある。

三点目と、似た構図
四点目は、三点目とよく似ている。
女の姿の役者が、立つ。
上半身は、黒い衣。
そして、裾に模様が広がる。
背景に、竹垣がある。
二枚の寸法
寸法を比べたい。
三点目が32.5センチ掛ける14.8センチ。
四点目が32.1センチ掛ける14.4センチ。
つまり、ほぼ同じである。
型が、繰り返される
二枚を並べると、構図が近い。
つまり、型がある。
そして、その型の中で細部を変える。
何が違うか
三点目の裾は、赤い花。
そして、四点目の裾は、細かい草の模様。
つまり、模様が違う。
竹垣の描き方
竹垣を見たい。
縦の線が、密に並ぶ。
そして、その上に横木がある。
つまり、二点目の背景と同じ形式である。
背景も、違う
三点目の背景は、平らな色面。
そして、四点目には竹垣がある。
つまり、場所が示されている。
二枚の共通点
三点目と四点目を並べたい。
いずれも、上半身が黒、裾に模様。
そして、寸法もほぼ同じ。
つまり、同じ型で作られている。
揃いで、売られたか
同じ型の二枚は、揃いかもしれない。
もっとも、制作年に五年ほどの差がある。
だから、断定はしない。
館の記録も、組の情報を示していない。
「おそらく」という表記
制作年を見たい。
おそらく一七八二年、とされる。
つまり、確定していない。
一年に絞りながら、留保する
年を一年に絞りながら、確定はしない。
これは、慎重な書き方である。
館の記録には、こうした表現が多い。
記録の言葉を、落とさない
「おそらく」「〜ごろ」「〜か」。
いずれも、確からしさの度合いを示す。
そして、それを落とすと意味が変わる。
だから、そのまま訳す。
当サイトの方針
当サイトは、その表記をそのまま伝える。
つまり、「おそらく」を落とさない。
推測を断定に変えることは、しない。
顔の描写
顔を見たい。
面長で、目が細い。
そして、口が小さい。
つまり、女の役を演じる役者の顔である。
化粧と、衣
女の姿を作るのは、化粧と衣である。
そして、髪型と姿勢が加わる。
つまり、演技の一部である。
版画は、その姿を写す。
女方という役
歌舞伎では、男性が女の役を演じる。
つまり、描かれているのは男性である。
そして、装いと化粧で女の姿になる。
描き分けの難しさ
女方の肖像には、難しさがある。
女らしく描きすぎれば、役者と分からない。
そして、男らしく描けば、役に合わない。
その中間を、線で探ることになる。
大きな笠の人物
五点目は、被り物が目立つ。

女の姿の役者が、歩く。
頭に、大きな笠をかぶる。
そして、その笠に飾りが立つ。
衣は、赤と白と茶の模様。
手に、細長い棒を持つ。
背景は、淡い黄土色である。
笠の大きさ
笠を見たい。
顔の幅より大きい。
そして、画面の上部を占める。
二点目の傘と、役割が近い。
笠の飾り
頭を見たい。
笠の上に、細長い飾りが立つ。
そして、赤と白の縞がある。
つまり、舞踊の装束だろう。
手にした棒
手を見たい。
細長い棒を、斜めに持つ。
そして、先が下を向く。
つまり、舞の道具である。
衣の模様
衣を見たい。
赤い三角と、白い面が交互に並ぶ。
そして、茶色の地に置かれる。
つまり、幾何学的な模様である。
動きのある姿勢
姿勢を見たい。
体をひねり、片足を前に出す。
そして、衣の裾が流れる。
つまり、歩いている最中である。
静止した絵で、動きを示す
版画は、静止した画面である。
そこで、衣の流れと足の位置で動きを作る。
つまり、線の傾きが働く。
一人目と、同じ役者
五点目の役者名を見たい。
一点目の右に立つ役者と、同じである。
つまり、同じ人物を二度描いている。
役者絵という商い
役者絵は、興行に合わせて売られる。
そして、人気のある役者ほど売れる。
つまり、版元は人気を追う。
商いの仕組みが、画題を決めている。
同じ役者を、繰り返す
人気のある役者は、繰り返し描かれる。
そして、そのたびに演目が変わる。
つまり、同じ顔が別の役で登場する。
顔を、比べる
一点目と五点目の顔を比べたい。
いずれも、面長で目が細い。
そして、鼻筋が通る。
つまり、同じ特徴が繰り返される。
三年の差
一点目は一七八〇年ごろ、五点目は七七年ごろ。
つまり、三年ほどの差である。
同じ役者を、近い時期に描いている。
似顔の証拠
同じ特徴が繰り返されるなら、似顔である。
つまり、実在の顔に近づけている。
そこが、初期の役者絵との差である。

男の役の一枚
六点目は、男の姿である。
役者が、身をかがめる。
赤い上衣に、縞の袴。
そして、腰に刀を差す。
背景に、障子と黒い枠。
上部に、雲の模様。
赤い上衣
上衣を見たい。
鮮やかな赤である。
そして、画面で最も強い色である。
暗い枠と、白い障子のあいだにある。
障子という背景
背景を見たい。
格子の入った白い面がある。
つまり、障子である。
そして、その周りに黒い枠。
黒い枠の形
枠を見たい。
上部が尖った弧を描く。
つまり、独特の形である。
寺院の窓の形だろうか。
館の記録に、説明はない。
縞の袴
下半身を見たい。
縦の縞が、密に並ぶ。
そして、赤と白が交互になる。
つまり、上衣とは違う模様である。
上部の雲
画面の上を見たい。
白い雲の形が、散る。
そして、金色に近い地の上にある。
つまり、装飾として置かれている。
顔の線
顔を見たい。
眉が吊り上がり、目が見開かれる。
そして、口が横に結ばれる。
つまり、力を込めた表情である。
身をかがめる姿勢
姿勢を見たい。
膝を曲げ、腰を落とす。
そして、片腕を前へ出す。
つまり、構えの姿勢である。
荒事の表情
歌舞伎には、力を誇張する演技がある。
そして、顔の線でそれを示す。
六点目の顔にも、その線がある。
六点の中で、最も早い
制作年は、一七六〇年代ごろとされる。
つまり、六点の中で最も早い。
そして、最も遅い一枚とは二十年以上の差がある。
年代の幅
年代を並べたい。
一七六〇年代、七七年ごろ、七〇年代。
八〇年ごろ、おそらく八二年、八七から八八年。
つまり、二十年以上に分布する。
二十年の変化
六点を年代順に見たい。
早い一枚は、背景が装飾的である。
そして、後の五枚は、背景が単純になる。
つまり、人物へ集中していく。
六点の判型
寸法を並べたい。
縦は29.2センチから32.5センチ。
そして、横は14センチから14.9センチ。
つまり、ほぼ同じである。
細判という規格
この寸法は、細判と呼ばれる。
そして、当時もっとも数が多かった。
安く、扱いやすく、揃いで買える。
六点の主題
主題を見たい。
女の姿の役者が三点。
そして、男の姿が三点。
つまり、半々である。
一人の絵師の幅
同じ絵師が、両方を描く。
そして、それぞれに型がある。
女方は立ち姿、男の役は動きのある姿勢。
収蔵の年
来歴をまとめたい。
五点が一九一八年、一点が一九一四年。
つまり、ほぼ同じ時期に館へ入った。
日本の版画が、集められた時期
二十世紀の初め、欧米で日本の版画が集められた。
そして、美術館が組織的に購入した。
当サイトでは、繰り返しこの点に触れてきた。
遺贈による購入
来歴の表記を見たい。
ある人物の遺贈による購入、とある。
つまり、遺された資金で買っている。
寄贈ではなく、購入である。
資金の出所を、記す
館は、購入の資金の出所を記録する。
つまり、誰の資金かが公開されている。
そして、それが記録として残る。
似顔絵の時代へ
最後に、この六点の位置を確かめたい。
初期の役者絵は、紋で人を示した。
そして、この六点では顔を似せる。
さらに二十年後には、大首絵が現れる。
途中の位置
つまり、六点は途中にある。
紋の時代と、大首絵の時代のあいだである。
そして、その途中で顔が個人のものになっていった。
六点は、その変化の記録である。


