六枚が、白黒で残る——ベンジャミン・トロット
九点のうち六点は色のない記録写真で、うち一点は写真を撮った写真である。色のある三点では、水色の背景や橙の布が画面の構成を担っていると分かる。同じ画家でも、画像の質が鑑賞を左右する。見えているのは器物ではなく、二重に媒介された像である。

白黒で残る、小さな肖像
一枚の細密画から始めたい。

四角い画面である。
そこに、男性の胸像が描かれる。
髪は、乱れて額にかかる。
暗い上着に、白い大きな襟巻き。
背景は、灰色である。
そして、外側に額が写る。
色のない画像
この一枚の画像は、灰色の階調だけである。
つまり、古い記録写真とみられる。
だから、色は分からない。
当サイトも、色を語らない。
額ごと、撮影する
画像の外側を見たい。
明るい枠が、絵を囲む。
つまり、額を含めて撮影されている。
そして、額の表面に光が反射する。
四角と、楕円
四角い画面には、利点がある。
画面の隅まで使えるからである。
そして、上半身がゆったり入る。
一方、楕円は顔に視線を集める。
つまり、形が見え方を変える。
四角い画面
画面の形を見たい。
四角である。
九点のうち、四角はこれだけである。
他の八枚は、楕円である。
象牙という支持体
技法欄を見たい。
水彩、象牙とある。
つまり、象牙の薄板に水彩で描く。
水彩という技法
技法にも触れたい。
水で溶いた絵の具を、細い筆で置く。
そして、点を重ねて色を作る。
厚く塗ることはできない。
薄く、何度も重ねる。
象牙の性質
象牙は、薄く削ると半透明になる。
そして、下から光が透ける。
その透過が、肌の色を明るくする。
もっとも、現在は取引が厳しく規制されている。
白い襟巻き
首元を見たい。
白い布が、大きく巻かれる。
そして、顎の下で膨らむ。
暗い上着との差が、顔の位置を決める。
顔の描写
顔を見たい。
眉が濃く、目の下に影がある。
そして、口元が引き締まる。
つまり、緊張した表情である。
九センチ足らずの画面で、これが読める。
髪の乱れ
髪を見たい。
額の上で、無造作に分かれる。
そして、こめかみに垂れる。
つまり、整えられていない。
十九世紀初めの流行である。
生年が、分からない
作者の記録を見たい。
生年は、およそ一七七〇年とされる。
つまり、確定していない。
そして、没年は一八四三年である。
一八一〇年ごろ
制作年は、一八一〇年ごろとされる。
作者は、四十歳ごろになる。
九点の中では、早い時期の作である。
生年が不確かな理由
生年の記録が残らないことは、珍しくない。
出生の記録が失われれば、推定になる。
そして、活動の開始から逆算する。
館の記録は、そのことを隠さない。

二重の枠
二点目の画像を見たい。
灰色の台紙の上に、細い枠がある。
そして、その内側に楕円の絵。
つまり、二重の構造である。
枠の細さ
内側の枠を見たい。
細く、平らである。
そして、光を受けて白く光る。
つまり、金属だろう。
台紙の質感
台紙を見たい。
布のような細かい目が見える。
つまり、布張りの台紙だろう。
撮影のために置かれたものである。
頭の飾り
頭を見たい。
暗い色の飾りが、髪に留められる。
そして、光を受けて艶がある。
つまり、金属か宝石だろう。
描かれているもの
画面を見たい。
若い男性が、こちらを向く。
髪は、巻いて額の上で立つ。
暗い上着に、白い襟巻き。
そして、白い胸当てが見える。
白い胸当て
胸元を見たい。
白い布が、三角に見える。
そして、暗い上着に囲まれる。
視線は、そこから顔へ上がる。
背景の階調
背景を見たい。
上部が明るく、下部が暗い。
つまり、平らではない。
わずかな階調が付けられている。
一八一五年ごろ
制作年は、一八一五年ごろとされる。
九点のうち、四枚がこの年ごろである。
つまり、最も多い時期である。
楕円の中の顔
顔の位置を見たい。
画面の中央よりやや上にある。
そして、肩が下部で切れる。
つまり、胸から上である。

同じ形式の一枚
三点目は、二点目とよく似ている。
灰色の台紙、細い枠、楕円の絵。
つまり、同じ形式で撮影されている。
撮影の条件が、揃う
同じ日に撮れば、条件が揃う。
光の角度、露出、背景の色。
つまり、比べやすくなる。
館の記録写真には、こうした配慮がある。
同じ時期に、撮られた
二点目と三点目の画像は、同じ日に撮られたのだろう。
背景も、枠も、光の当たり方も似ている。
つまり、まとめて撮影されている。
描かれているもの
画面を見たい。
若い男性が、こちらを向く。
髪は、短く巻かれる。
暗い上着に、白い襟巻き。
そして、白い胸当て。
顔の向き
三枚の顔の向きを見たい。
いずれも、わずかに斜めを向く。
そして、視線はこちらへ来る。
つまり、正面よりやわらかい角度である。
細密画では、この角度が多い。
三枚の共通点
一点目から三点目までを並べたい。
いずれも、若い男性である。
そして、暗い上着に白い襟巻き。
つまり、装いが揃っている。
型が、揃う理由
同じ時期の男性の肖像は、装いが似る。
そして、切り取る範囲も決まっている。
つまり、型がある。
その中で、顔と髪だけが違う。
対の肖像という形式
夫婦の肖像は、対で作られることが多い。
同じ寸法、同じ時期、同じ形式。
そして、二つを並べて持つ。
細密画では、箱に収めることもある。
同じ寄贈
来歴を見たい。
一点目から四点目までは、同じ人物の寄贈である。
そして、年は二〇〇六年。
つまり、四枚がまとめて館へ入った。
小さな一枚
四点目は、寸法が小さい。

縦5.6センチ、横4.6センチである。
つまり、九点の中で最も小さい。
楕円の枠に、絵が収まる。
そして、枠に細かい彫りがある。
上部に、飾りと輪がある。
枠の彫り
枠を見たい。
葉の形が、連なって彫られる。
そして、細かい。
つまり、手の込んだ金具である。
小ささの理由
なぜ、これほど小さいのか。
身に着けるためである。
大きければ、重く、邪魔になる。
つまり、用途が寸法を決めている。
上部の飾り
枠の上を見たい。
小さな装飾が付く。
そして、その上に輪がある。
つまり、紐を通して吊るす。
身に着けるための仕立てである。
四枚目の楕円
画面の形を見たい。
楕円である。
二点目、三点目と同じである。
つまり、四枚のうち三枚が楕円である。
題に、名がない
題を見たい。
《紳士の肖像》である。
つまり、名が分からない。
九点のうち、名のないのはこれだけである。
名が、失われる理由
肖像の人物の名は、家に伝わる。
そして、代を経るうちに曖昧になる。
売られれば、さらに薄くなる。
当サイトでも、繰り返しこの点に触れてきた。
描かれているもの
画面を見たい。
男性が、こちらを向く。
髪は、額の上で分かれる。
暗い上着に、白い襟巻き。
つまり、三枚と同じ型である。

写真の写真
五点目の画像は、特殊である。
黒い縁があり、その内側に白い紙。
そして、その中に楕円の絵がある。
つまり、写真を撮った写真である。
黒い縁
画像の外側を見たい。
黒い帯が、上下左右にある。
つまり、印画紙の外である。
作品とは無関係の部分である。
縁に写る文字
画像の左上を見たい。
小さな文字が、縦に並ぶ。
そして、白い帯がある。
つまり、印画紙の縁だろう。
いつの複写か
複写がいつ行われたかは、記録にない。
そして、もとの写真の年も分からない。
つまり、二重に不明である。
館の記録は、そこまで示していない。
画像の履歴
作品には、来歴がある。
そして、画像にも履歴がある。
撮影、複写、そして公開。
その過程で、情報は少しずつ失われる。
記録の記録
なぜ、こうなるのか。
古い写真を、複写したのだろう。
そして、その複写が公開画像になっている。
つまり、二重の記録である。
粗さが、示すもの
粗い画像は、扱いが難しい。
細部の判断ができないからである。
そして、当サイトも記述を控える。
見えないものは、書かない。
情報が、劣化する
複写を重ねると、細部が失われる。
そして、階調も狭くなる。
五点目の画像は、他より粗い。
それでも、公開する
もっとも、公開されているだけでも意味がある。
姿は伝わり、寸法と年代も記録されている。
見えないよりは、粗くても見えるほうがよい。
描かれているもの
画面を見たい。
女性が、こちらを向く。
髪は、額の上で細かく巻かれる。
そして、白い大きな襟飾り。
肩に、暗い色の布が掛かる。
髪の飾り
頭を見たい。
暗い色の飾りが、髪の上にある。
そして、細かい形をしている。
装身具だろう。
襟飾りの細かさ
襟を見たい。
幾重にも重なる縁飾りがある。
そして、放射状に広がる。
つまり、手の込んだ装いである。

二枚を、比べる
五点目と六点目を並べたい。
一方は女性、他方は男性。
そして、いずれも同じ姓である。
つまり、同じ家の二人である。
対になる、もう一枚
六点目は、五点目と対をなす。
題の姓が、同じである。
そして、制作年も同じ。
つまり、夫婦の肖像である。
寸法が、ほぼ同じ
寸法を比べたい。
五点目が7.6センチ掛ける6センチ。
六点目が7.5センチ掛ける6センチ。
つまり、一ミリしか違わない。
同じ規格の象牙板だろう。
同じ寄贈
来歴を見たい。
いずれも、一九九二年の寄贈である。
そして、寄贈者の姓が題と同じ。
つまり、子孫が館へ渡したのだろう。
家に、伝わる
対の肖像が離れずに残るのは、幸運である。
相続で分かれることが多いからである。
この二枚は、家に伝わり続けた。
そして、まとめて館へ入った。
描かれているもの
画面を見たい。
男性が、こちらを向く。
髪は、豊かで巻く。
暗い上着に、白い襟巻き。
背景は、暗い。
制作年が、同じ
いずれも、一八二五年ごろとされる。
つまり、同じ時期に描かれた。
対の肖像では、当然のことである。
背景の暗さ
五点目と六点目の背景を比べたい。
五点目は、比較的明るい。
そして、六点目は暗い。
つまり、対でも背景を揃えていない。
真珠の並ぶ枠
七点目は、枠が華やかである。

楕円の絵を、枠が囲む。
そして、その枠に白い珠が並ぶ。
真珠だろう。
上部に、金色の吊り金具。
色のある画像
この一枚は、色がある。
つまり、新しく撮影されている。
そして、細部まで読める。
上部の金具
枠の上を見たい。
金色の金具が付く。
そして、輪の形をしている。
つまり、紐や鎖を通す。
珠の数
珠を数えたい。
三十を超えるだろう。
そして、等間隔に並ぶ。
つまり、手の込んだ細工である。
費用の内訳
細密画の費用を考えたい。
まず、象牙の板。
次に、画家の手間。
そして、枠の金と珠。
つまり、絵だけの値段ではない。
描かれているもの
画面を見たい。
若い男性が、こちらを向く。
髪は、明るい色で巻く。
暗い上着に、白い襟巻き。
背景に、水色が見える。
背景の水色
背景を見たい。
淡い水色である。
そして、右上が明るい。
つまり、空を思わせる色である。
色のある画像だから、これが分かる。
顔の色
顔を見たい。
頬に赤みがあり、唇も赤い。
そして、肌が明るい。
象牙の透過が、そこに働いている。
遺贈の年と、受け入れの年
来歴を見たい。
遺贈は一九五五年、受け入れは一九五六年。
つまり、一年の差がある。
遺言の手続きに時間がかかるためだろう。
寄贈者の姓
寄贈者の姓を見たい。
題の人物と同じである。
つまり、子孫だろう。
家に伝わった一枚である。

金の枠
八点目も、色がある。
楕円の絵を、金の枠が囲む。
そして、上部に吊り金具。
つまり、七点目より簡素である。
描かれているもの
画面を見たい。
女性が、こちらを向く。
髪は、黒く、細かく巻かれる。
そして、頭に暗い色の飾り。
白い衣に、白い縁飾り。
肩に、橙色の布が掛かる。
橙という色
肩の布を見たい。
明るい橙である。
そして、画面で最も強い色である。
白い衣と、暗い背景。
その間に、橙が入る。
白い衣
衣を見たい。
白く、袖が膨らむ。
そして、光の当たる面が明るい。
つまり、薄い布だろう。
縁飾りの描写
首元を見たい。
白い縁飾りが、幾重にも重なる。
そして、透けている。
八センチの画面で、この細かさである。
下部の書き込み
画面の下を見たい。
小さな文字が見える。
署名だろう。
つまり、作者が書き込んでいる。

簡素な枠
九点目の枠を見たい。
細い金属の縁である。
そして、上部に輪がある。
つまり、装飾がほとんどない。
背景の明るさ
背景を見たい。
明るい灰色で、平らである。
そして、人物の輪郭がはっきりする。
暗い背景の八点目とは、対照的である。
三つの枠
七点目、八点目、九点目の枠を比べたい。
真珠の並ぶもの、金の平らなもの、細い縁のもの。
つまり、まったく違う。
同じ画家の絵でも、仕立ては注文主による。
描かれているもの
画面を見たい。
若い男性が、こちらを向く。
髪は、巻いて額の上で立つ。
暗い上着に、白い襟巻き。
背景は、明るい灰色。
九点の内訳
九点をまとめたい。
すべて、象牙に水彩の細密画である。
そして、男性が七人、女性が二人。
寸法は、5.6センチから8.9センチ。
寸法の幅
寸法を並べたい。
最小が5.6センチ、最大が8.9センチ。
つまり、差は大きくない。
細密画の標準的な範囲に収まる。
制作年の分布
年代を並べたい。
一八一〇年ごろが二枚、一八一五年ごろが四枚。
そして、一八二五年ごろが三枚。
つまり、十五年ほどに収まる。
女性の二枚
女性の二枚を見たい。
いずれも、白い衣に縁飾りがある。
そして、髪を細かく巻く。
つまり、こちらにも型がある。
男性の肖像が、多い
九点のうち、七枚が男性である。
そして、いずれも暗い上着に白い襟巻き。
つまり、同じ型が繰り返される。
型の中の差
もっとも、九点はすべて違う。
髪の量、顔の向き、背景の明るさ。
そして、枠の形式。
型は同じでも、細部は変わる。
色のない六枚
画像についても、まとめたい。
九点のうち、六点が色のない記録写真である。
そして、三点は色のある写真である。
二〇〇六年の五枚
二〇〇六年に、五枚が館へ入っている。
そして、そのうち五枚すべてが白黒である。
つまり、新しく収蔵されても、撮り直されるとは限らない。
撮影には、順番がある
館の収蔵品は、膨大である。
そして、撮影には人手と時間がかかる。
展示の機会が少ないものは、順番が後になる。
当サイトでは、繰り返しこの点に触れてきた。
失われるもの
色が分からないと、何が分からないか。
まず、衣の色である。
次に、背景の色。
そして、象牙の透過による肌の明るさ。
色があると、分かること
一方、色のある三枚では、それが分かる。
七点目の水色の背景。
そして、八点目の橙色の布。
つまり、色が画面の構成を担っている。
六枚と、三枚
同じ画家の作品でも、見え方が違う。
六枚は明暗だけ、三枚は色まで。
つまり、公開画像の質が鑑賞を左右する。
記録の細かさ
九点の記録を、まとめておきたい。
作者の生年は、およそ一七七〇年。
つまり、確定していない。
一方、作品の寸法はミリ単位で記録される。
分かることと分からないことが、混在している。
写真という媒介
美術館の公開画像は、作品そのものではない。
作品を撮った写真である。
そして、五点目は写真を撮った写真である。
見えているのは、二重に媒介された像である。
そのことを知って見ると、画像の粗さも情報になる。



