円の縁を回る文字——19世紀アメリカのメダル九点
文字は上から始まり、左右に分かれて縁を降りていく。下の縁では、年だけが水平に置かれる。円弧に沿って文字を彫るのは難しく、しかも型の上では左右が逆である。小さな円板に刻まれた文字を読みたい。彫る順序と読む順序を追いたい。

円の縁を、文字が回る
メダルを九点、記録の欄で並べてみる。
九点とも、金属の円板である。
中央に、人物の横顔か、場面が浮き彫りにされる。
そして、その周りを文字が回る。
縁に沿って、円弧を描いて並ぶ。
上から始まり、左右に分かれて下へ降りる。
あるいは、下の縁で年が水平に置かれる。
この縁の文字を、銘という。
彫るのは、逆向きである
メダルの型は、へこませて彫る。
打てば、盛り上がって出る。
つまり、型と製品は凹凸が逆になる。
そして、文字も左右が逆になる。
彫る人は、鏡に映した文字を彫ることになる。
これは、たいへんな技術である。
前の回で、版画の彫りの話をした。
こちらは、金属に、逆向きに、円弧に沿って彫る。
三つの難しさが重なっている。
円に沿って、文字を並べる
円弧に沿って文字を置くのは、難しい。
一文字ずつ、傾きを変える必要がある。
外側と内側で、必要な幅も違う。
前の回で、光輪の文字が扇形に歪む話をした。
同じことが、こちらでも起きている。
文字の上が広く、下が狭い。
そして、間隔を揃えなければならない。
彫る側の技術が、そのまま出る。
浮き彫りの、高さ
メダルの浮き彫りは、ごく浅い。
高さは、数ミリに満たない。
その中で、顔の丸みを出す。
鼻の高さと、頬の張りを表す。
つまり、薄い層で立体を作る。
前の回で、浮き彫りの話をした。
文字も、同じ高さで浮き出る。
だから、光の当たり方で読みやすさが変わる。
斜めから光を当てれば、影が出る。
正面から当てれば、消えかける。
中央を、空けておく
文字を縁に回すのは、中央を空けるためでもある。
中央には、顔か場面が来る。
そこに文字が重なれば、見にくい。
だから、外へ追い出す。
つまり、文字は額縁のような位置に置かれる。
前の回で、絵の署名が隅へ寄る話をした。
こちらは、隅ではなく円周である。
しかし、考え方は同じだ。
主役を邪魔しない場所を選ぶ。

小さな青銅の円板である。
中央に、男性の横顔が浮き出る。
顔は右を向く。
髪は後ろで束ねられる。
首元に、布が結ばれる。
上着の襟が、肩に広がる。
その周りを、大きな文字が回る。
上から左右へ、分かれて降りる。
下の縁に、二つの年が水平に並ぶ。
縁の内側に、細かい点が並ぶ。
金属の色は、赤みを帯びた褐色である。
数字は、水平に置く
九点のうち四点は、下の縁に年が入る。
そして、いずれも水平である。
円弧に沿わせない。
なぜか。
数字は、傾けると読みにくいからだ。
文字なら、多少傾いても読める。
数字は、上下が分かりにくくなる。
だから、水平に置く。
読みやすさが、配置を決めている。
生年と没年を、下に置く
いま見た一点の下には、二つの年が並ぶ。
生まれた年と、亡くなった年である。
つまり、その人の一生が数字で示される。
前の回で、肖像に年齢を書く例を見た。
こちらは、生没年である。
亡くなったあとに作られたメダルだから、両方書ける。
そして、下の縁は水平である。
だから、数字が読みやすい。
二枚を、どう見分けるか
同じ型から打たれた二枚は、区別が難しい。
図も、文字も、大きさも同じである。
違うのは、傷や汚れだけだ。
そして、館の番号である。
番号が続いているから、まとめて入ったと分かる。
前の回で、番号だけが二枚を分ける話をした。
こちらでも、同じことが起きている。
物としては、ほとんど同一である。
それでも、二件として数えられる。
同じメダルが、二枚ある
九点のうち二枚は、まったく同じものである。
作者も、年も、直径も同じ。
つまり、同じ型から打たれた二枚だ。
館は、それぞれに番号を付けている。
続き番号である。
前の回で、同じ版画が二枚ある例を見た。
メダルでも、同じことが起きる。
そして、こちらは版画より差が少ない。
金属を型で打つので、ほとんど同じに仕上がる。

小さな青銅の円板である。
前の一枚と、同じ図である。
中央に、男性の横顔が浮き出る。
顔は右を向く。
髪は後ろで束ねられる。
その周りを、大きな文字が回る。
下の縁に、二つの年が並ぶ。
縁の内側に、細かい点が並ぶ。
金属の色は、やや明るい。
表面の光の当たり方が、わずかに違う。
輪郭の鋭さは、同じである。
型は、いつか摩耗する
鋼の型も、打ち続ければ傷む。
輪郭が甘くなり、細部が消える。
そこで、型を彫り直すことがある。
彫り直せば、微妙に形が変わる。
つまり、同じ図でも版が複数存在しうる。
前の回で、版木の摩耗の話をした。
金属の型でも、同じことが起きる。
複製の道具は、必ず消耗する。
打つという、複製
メダルは、鋼の型で打って作る。
型を彫るのに、時間がかかる。
一度彫れば、何百枚でも打てる。
つまり、複製のための道具である。
前の回で、印が複製の道具だと書いた。
メダルの型も、同じ仕組みである。
そして、文字も一緒に打たれる。
一枚ずつ彫るのではない。
金めっきという、仕上げ
九点のうち一点は、金めっきである。
青銅の上に、金の薄い層を掛ける。
こうすると、見た目が豪華になる。
そして、錆びにくくなる。
ただし、擦れれば下地が出る。
館の技法の欄は、金めっきの青銅と書く。
材料と仕上げを、分けて書いている。
前の回で、材料の欄の細かさを見た。
ここでも、同じ細かさが保たれている。
顔の周りに、称号を回す
九点のうち一点は、文字がとくに多い。
名前だけでなく、生まれた土地の名が入る。
そして、年も加わる。
つまり、誰が、どこの生まれで、いつの人か。
三つの情報が、円周に収まる。
小さな円板に、履歴書のような密度である。
館の題は、そこまで写さない。
公職を記したメダル、と短く書くだけだ。

丸い金属の円板である。
表面は、金色を帯びる。
中央に、男性の横顔が浮き出る。
顔は左を向く。
髪は結い、後ろに垂れる。
軍服らしい上着を着る。
肩に、飾りが付く。
その周りを、文字が大きく回る。
上から左右へ分かれ、下へ降りる。
下の縁に、小さな文字と年が並ぶ。
金属の表面に、細かい傷がある。
片面だけの写真
館の公開画像は、たいてい片面である。
裏を撮るには、もう一度撮影が要る。
そして、公開する画像も倍になる。
だから、代表的な一面だけを出す。
つまり、情報の半分が見えていない。
前の回で、記録に届かない範囲の話をした。
写真の枚数も、その一つである。
裏を知りたければ、館に問い合わせることになる。
裏にも、文字がある
メダルには、たいてい両面に図と文字がある。
表に顔、裏に功績を記す。
あるいは、表に場面、裏に説明を記す。
つまり、二つの面で一つの内容になる。
しかし、館の写真は片面だけである。
だから、裏の文字は分からない。
館の題も、片面の主題を取る。
前の回で、見えない面の文字の話をした。
こちらでは、裏がそもそも写されていない。
顔だけで、誰か分かるか
メダルの顔は、横顔である。
正面ではない。
横顔のほうが、輪郭がはっきりするからだ。
鼻筋、額、顎の線。
その三つで、人が見分けられる。
古代の貨幣から続く伝統である。
そして、縁の文字が名前を保証する。
図と文字が、二重に人物を示している。
前の回で、顔と名前の関係を書いた。
題は、主題の名だけ
九点の題を並べると、いずれも短い。
人物の名。
会議の名。
博覧会の名。
つまり、そのメダルが何のためのものかを示す。
縁の文字を、そのまま題にはしていない。
前の回で見た皿とは、扱いが違う。
皿は、刷られた文字をそのまま題にした。
メダルは、内容を要約して題にしている。
題を短くする、利点
題が短ければ、一覧に並べやすい。
そして、探しやすい。
人物の名で探す人が、見つけられる。
もし縁の文字を全部題にすれば、長すぎる。
一覧が読めなくなる。
つまり、要約には実用の理由がある。
前の回で、読みにくい題をそのまま残す例を見た。
ここでは、逆の判断がされている。
物によって、扱いが変わる。
要約する、という判断
なぜ、扱いが違うのか。
たぶん、文字の量である。
皿の裏の枠は、短い。
メダルの縁は、一周にわたる。
そして、両面にある。
全部を写せば、題として長すぎる。
だから、要約する。
要約は判断である。
前の回で、判断が入る場所の話をした。
ここが、その場所である。

大きな青銅の円板である。
色は、赤みの強い褐色である。
中央に、男性の横顔が浮き出る。
顔は左を向く。
髪は短く、後ろへ流れる。
顎に、豊かな髭をたくわえる。
首から下は、肩の線だけである。
その周りを、大きな文字が回る。
上から左右へ、分かれて降りる。
文字は、太く簡素である。
縁は、平らに切られる。
大きなメダルは、飾るためのもの
直径七センチを超えるメダルは、身につけない。
重く、かさばる。
つまり、飾るか、しまうためのものだ。
箱に入れて贈られることが多い。
一方、三センチ台のものは、身につけられる。
穴を開ければ、紐を通せる。
大きさが、使い方を分けている。
館の寸法の欄が、そこを教えてくれる。
大きさが、七センチを超える
いま見た一点は、直径7.6センチある。
九点の中で、いちばん大きい。
手のひらに収まる大きさだ。
大きければ、文字も大きくできる。
そして、彫りも深くできる。
つまり、大きさが表現の幅を決める。
いちばん小さいのは、直径3.2センチである。
二倍以上の差がある。

大きな青銅の円板である。
色は、明るい褐色である。
中央に、男性の横顔が浮き出る。
顔は右を向く。
髪は後ろで束ね、袋に入れる。
上着の襟が、高く立つ。
その周りを、上に大きな文字が回る。
下にも、別の文字が弧を描く。
上の文字は、国の名である。
下の文字は、その人の呼び名である。
縁の内側に、細い線が回る。
上と下で、別のことを書く
いま見た一点は、上と下で内容が分かれる。
上の弧に、国の名。
下の弧に、その人物を指す呼び名。
つまり、二つの弧が二つの情報を担う。
円周を、上下に割って使っている。
前の回で、行を分けて書く話をした。
円板では、弧を分けて使う。
形が違えば、割り方も変わる。

丸い金属の円板である。
色は、暗い灰色である。
中央に、男性が椅子に座る。
上着の裾が、脚を覆う。
右手を膝に置く。
左手に、何かを持つ。
顔は右を向く。
その上に、大きな文字が弧を描く。
文字は、上の縁に沿って回る。
下のほうは、台座と影である。
金属の表面は、鈍く光る。
白い金属という、材料
いま見た一点の材料は、白い金属である。
館の技法の欄が、そう書く。
錫を主とした合金だろう。
青銅より安く、加工しやすい。
その代わり、柔らかく、傷つきやすい。
つまり、安価なメダルに使われる。
九点のうち三点が、この材料である。
前の回で、材料が用途を示す話をした。
メダルでも、同じことが言える。

小さな金属の円板である。
色は、明るい灰色である。
中央に、男性の横顔が浮き出る。
顔は左を向く。
髪は長く、肩まで垂れる。
額が広く、鼻筋が通る。
上着の襟が、首を包む。
その周りを、文字が回る。
上に名前、下に生まれた日と年が入る。
縁に、細かい縄目の模様がある。
表面に、細かい傷が散る。
生まれた日を、刻む
いま見た一点には、生まれた日が入る。
月と日と年である。
つまり、その人の誕生日を記念している。
前の回で、生年月日を書き込む肖像を見た。
メダルでも、同じことが行われる。
そして、こちらは金属だから消えない。
紙や布より、はるかに長く残る。
記念のための材料として、金属が選ばれる理由である。

小さな金属の円板である。
色は、明るい灰色である。
中央に、男性の横顔が浮き出る。
顔は右を向く。
髪は後ろで束ねられる。
上着の襟が、肩に広がる。
その周りを、文字が回る。
下の縁に、年が水平に置かれる。
上の縁の近くに、小さな穴が開く。
紐を通すための穴である。
表面に、細かい擦れがある。
穴が、使われ方を示す
いま見た一点には、穴が開いている。
紐を通し、身につけたのだろう。
つまり、飾って眺めるものではない。
記念の集まりで、胸に下げる。
そういう使い方をされた。
穴があるということは、使われたということだ。
前の回で、使用の痕跡の話をした。
金属でも、同じ読み方ができる。

丸い金属の円板である。
表面は、金色に輝く。
中央に、女性の立像が浮き出る。
両腕を左右に広げる。
長い衣をまとう。
その左右に、人物が座る。
一人は、道具を持つ。
一人は、書物を開く。
上の縁に、細かい文字が弧を描く。
下の縁にも、文字と年が入る。
文字は小さく、密である。
場面を、中央に置く
いま見た一点は、顔ではない。
複数の人物が並ぶ場面である。
つまり、寓意の図である。
こういう図には、説明が要る。
だから、縁の文字が長くなる。
上の弧に、何を記念するかを書く。
下の弧に、日付と根拠を書く。
前の回で、絵に説明が添えられる話をした。
メダルでも、同じ必要がある。
顔なら、短くて済む
一方、顔だけのメダルは、文字が短い。
名前と、年があればよい。
見れば、誰か分かる人が買うからだ。
つまり、共有された知識に頼っている。
知らない人には、名前だけが手がかりになる。
九点のうち六点が、顔のメダルである。
そして、いずれも文字が短い。
図と文字の量は、反比例している。
記念のための、円板
九点の題を並べると、記念が多い。
就任百年。
万国博覧会。
医学の会議。
輸出の博覧会。
つまり、出来事を記念する。
前の回で、皿が出来事を記念する話をした。
メダルは、もっと直接にそのための物である。
配る、贈る、身につける。
そういう使い方を前提にしている。
賞として、渡される
九点のうち一点は、賞牌である。
博覧会で、出品者に贈られた。
つまり、受け取る人が決まっている。
そして、受け取った人の名を刻むこともある。
刻めば、その一枚だけのものになる。
複製のための道具で作られた物が、一点物になる。
前の回で、複製と一回きりの話をした。
メダルは、その両方を持ちうる。
円という、形の制約
最後に、円という形を考えたい。
円には、始まりも終わりもない。
だから、文字をどこから始めてもよい。
しかし、実際には上から始まる。
読む人が、上を先に見るからだ。
そして、左右に分かれて降りる。
つまり、時計の文字盤と同じ動きである。
形が、読む順序を決めている。
九点とも、その決まりに従っている。
九点の年を、並べておく
九点の年を、順に並べる。
1790年。1859年。1876年。1878年が二点。
1881年。1887年。1889年。1899年。
つまり、十九世紀に集まっている。
いちばん古い一点だけが、十八世紀である。
この時期、メダルは盛んに作られた。
博覧会、記念、賞。
機会があれば、作られた。
そして、いまも大量に残っている。
同じ人の顔が、四点にある
九点のうち四点は、同じ人物の顔である。
一つの国の最初の指導者だ。
生きているうちに作られたものが一点。
亡くなってから作られたものが三点。
つまり、繰り返し作られている。
前の回で、同じ顔が複製される話をした。
メダルは、その最も分かりやすい例である。
金属に打てば、何百枚でも同じ顔が出る。
そして、百年たっても作られ続ける。
縁の文字を、読む練習
縁の文字を読むには、少し慣れが要る。
まず、上の中央を探す。
そこから右へ、目を動かす。
下まで来たら、いったん戻る。
そして、上の中央から左へ動かす。
つまり、二回に分けて読む。
前の回で、絵が見る順序を作る話をした。
メダルの円周も、順序を作っている。
形が、体の動きを決めている。
小さな円板に、詰め込む
直径三センチの円板に、名前と二つの年が入る。
さらに、縁飾りまである。
つまり、切手ほどの面積に、それだけの情報が収まる。
文字の高さは、一ミリほどだろう。
それを、金属に彫る。
前の回で、細かい仕事の話を何度かした。
メダルの彫りは、その中でもとりわけ細かい。
そして、その細かさが二百年たっても読める。
材料が丈夫だからである。

