COLUMNSコラム: 名画の楽しみ方
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名画の楽しみ方
場所のない画面で、五十回を閉じる——ファンタン=ラトゥール・ガルツォーニほか九点
五十回にわたって場所を数えてきた連載の最終回は、場所の描かれていない画面である。九点とも背景に場所がなく、七点は背景が暗い。物が載る卓の面だけが、静物における唯一の場所だった。背景を消すことが、物を見せる方法だった。
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名画の楽しみ方
地図は、誰も見ていない眺めである——ノッリ・バルバリ・ホイッスラーほか九点
地図は上から見た図だが、上から見た人はいない。測って、計算して、紙の上で組み立てる。九点で数えると、大きな地図は十二枚と六枚の紙でできていた。縮尺が読めるのは一点だけである。方位が示されるのは四点で、北が上とはかぎらなかった。
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名画の楽しみ方
上から見下ろした画面は、一点だけ——ブレス・ラッド・ディーン・ダヤールほか九点
鳥瞰や全景という語は、視点の高さを意味しない。九点で数えると、実際に見下ろしているのは一点だけだった。残る八点は水平に近い位置から広い範囲を写す。三メートルの水彩と、二枚組の写真が並ぶ。高さを得るには、塔か山か気球が要る。
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名画の楽しみ方
見ていない眺めが、一点ある——ブラウン・カナレット・北斎ほか九点
眺めとは、ある位置から見た図である。九点で数えると、実景が五点、想像上の眺めが一点だった。いずれも対象が遠く、手前に木や水面が置かれる。日本語の「眺める」で二点が混じった。題に地名が入るのは六点だった。
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名画の楽しみ方
人を描かないという選択——バニスター・ルノワール・ミグノンほか九点
三十回にわたって画面のなかの人を見てきた。最後は、その逆である。九点とも人がいない。だが六点には、人の置いた器や布や貼り紙がある。三十回で数えたことも、あわせて振り返りたい。見えているのは作品の一部だけ、という例も四点あった。その限界も書いておきたい。
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名画の楽しみ方
習作という語が指す五つのもの——マウルベルチュ・ジロデ・ベローズほか九点
本番のための下絵、部分を試す紙、そして「習作」と題された完成作。九点で、その幅を並べたい。習作はどれも小さい。捨ててよいものが残ったのは、集めた人がいたからである。下絵で最初に決めるのは、明暗の大きな配分である。顔は数筆で済ませ、背景は省かれる。
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名画の楽しみ方
隅の一匹から、題だけの一匹まで——ファン・ケッセル・歌麿・ウェストほか九点
虫は、絵のなかで最も小さい生き物である。隅にいることが多い。だが、虫だけを主題にした絵もある。九点で、その扱いの幅を読みたい。題に虫があるのに、画面に見えない一点もある。九点のうち六点に、蝶が現れる。
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名画の楽しみ方
丸い胴に、絵をどう置くか——永樂保全・ティファニーほか九点の器
曲面に絵を置くと、正面から全部は見えない。だから、一周させるか、区画を作るか、散らすか。九点で、五つの解き方を並べたい。絵を置かないという答えも、そのなかにある。把手の数が、正面の位置を決めている。九点のうち六点には、正面がない。
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名画の楽しみ方
行に年がなく、番号に年がある——出所の行を読む三十回の結び
ロジャーズ基金七百二十二点のうち、一点だけ年が書かれていない。しかし番号が一九一七年を示し、その番号は器の高台にも書かれている。前所蔵という語、財団という寄贈者。三十回を番号で振り返りたい。出所の行が書かないことについても、まとめておきたい。
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名画の楽しみ方
多数の寄贈者、という書き方——「交換によって」が畳み込んでいるもの
人数も名前も書かれない句がある。そして、その隣にしばしば「交換によって」が付く。館が手放した作品の代金で、別の一点が買われた。買われた側の行に、売られた側の寄贈者が残る。その構造を読みたい。短い句の裏に、除籍という長い経緯がある。
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名画の楽しみ方
一行に、金の出どころが七つある——パッカード・コレクション、1975年
コレクションの名、本人からの寄贈、四つの基金、一つの遺贈、会社の寄贈。一件の受け入れを支えるために、七つの財布が並んでいる。百七十七点をまとめて動かすには、それだけの手当てが要った。長い一行の読み方を示したい。
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名画の楽しみ方
同じ二語が、百年ぶん並ぶ——ロジャーズ基金で買われた722点
一九〇三年から二〇〇〇年まで、同じ財布の名が出所の行に並び続ける。名を持つ人は一九〇一年に亡くなっている。元本を使わず利息で買う仕組みが、唐の俑から江戸の鹿までを館へ運んだ。その一世紀を読みたい。作者の欄に九百年ずれた人名が入る例もある。
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名画の楽しみ方
板に描かれ、布に移された——マンテーニャ、ルーベンスほか九点
絵具の層を板から剥がし、新しい支持体に貼り直す。九点の技法の欄が、その処置を申告している。板から布へ、さらに布から硬質繊維板へ、二度移された一点もある。いま見ている表面の下にあるものを読みたい。大きい絵は布へ、小さい絵は硬い板へ。数字を並べると傾向が見える。
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名画の楽しみ方
一つの番号に、枝が三つ付く——ペルジーノ《磔刑》ほか
三枚の板が一件にまとまり、額の寸法が三度繰り返される。上の左、上の右、下、と位置まで書かれた件もある。そして、同じ翼の板が開いた面と閉じた面で別々に数えられる。数え方が見え方に従う例を読みたい。物の枚数と番号の数が、一致しない理由も読みたい。
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名画の楽しみ方
三枚続の、左の一枚——写楽、歌麿、清長ほか九点
技法の欄が、残り二枚の不在を書いている。書かなければ、一枚の役者絵として通ってしまう。画面の端で衣が切れ、桜の枝が断たれている。欠けていることを記録に残すという作法を読みたい。確からしさに応じて、おそらく、あるいは、という語が使い分けられている。その作法も読みたい。
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名画の楽しみ方
本の丁が、一枚の版画になる——喜多川歌麿《絵本四季花》
中央に折り目のある見開きが、木版画として登録されている。文字だけの丁にも番号が付く。一方、ばらされていない絵本は表紙のまま一件である。同じ画家、同じ紙で、記号も分類も分かれる理由を読みたい。折り目の跡だけが、本だったことを示し続けている。
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名画の楽しみ方
同じ写真が、二つの番号に付いている——ダニエル・ハンティントンの写生帖
番号も題も違う二件に、まったく同じ絵が写っている。誤りではない。見開きにまたがって描かれた景色が、面ごとに数える方針とぶつかった結果である。紙をめくる動作が記録に残した、小さな重複を読みたい。同じ帳面のなかで、人は縦に、風景は横に描かれている。
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名画の楽しみ方
署名の名と、作者の欄が食い違うとき——ターナー、ホーマー、カイユボット
書かれた名が別人のものである一点と、年が七年ずれている一点。館はどちらの文字も消さず、記録と並べて置いている。表か裏か、何の上か、どの色の絵具か。五十本のまとめを、この欄の書かれ方で閉じたい。文字と欄のずれを最後に見たい。
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名画の楽しみ方
署名か、銘記か、署名なしか——シカゴ美術館の書き分け九点
銘記の欄の書き出しが、三通りに分かれている。署名され年が入れられている。銘記がある。そして、署名されていない。無いことをわざわざ書くのはなぜなのか。九点の欄を並べて、その書き分けを読みたい。無いことを書く記録を読みたい。
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名画の楽しみ方
題が、行いと場所でできている——ジョージ・カトリンの場面画九点
踊りの名と民族の名。球技の名と町の名。肖像の題が人の名から始まったのに対し、場面の題は行いから始まる。球が上がる、球が落ちる。二重の横線で分けられた、対になった絵の題も合わせて読みたい。行いを名にするという書き方である。
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