名画の楽しみ方

同じ写真が、二つの番号に付いている——ダニエル・ハンティントンの写生帖

番号も題も違う二件に、まったく同じ絵が写っている。誤りではない。見開きにまたがって描かれた景色が、面ごとに数える方針とぶつかった結果である。紙をめくる動作が記録に残した、小さな重複を読みたい。同じ帳面のなかで、人は縦に、風景は横に描かれている。

嵐の王の下、コーンウォール、1871年
ダニエル・ハンティントン《嵐の王の下、コーンウォール、1871年》メトロポリタン美術館蔵

同じ写真が、二つの番号に付いている

当サイトで、二つの作品を並べてみる。

一方の番号は三六・一二四のgの裏。

もう一方は三六・一二四のhの表。

題は、どちらも同じである。

《嵐の王の下、コーンウォール、一八七一年》。

そして、公開されている画像も同じ場面である。

別の作品として登録されているのに、同じ絵が写っている。

記録の誤りではない。

この二つは、本当に同じ一枚の写真を共有している。

理由は、描かれ方にある。

嵐の王の下、コーンウォール、1871年
ダニエル・ハンティントン《嵐の王の下、コーンウォール、1871年》1870年ごろ。館の記録では、白みがかった織り目の紙に鉛筆。縦14センチ、横22.2センチ。番号は36.124のgの裏。写生帖の見開きで、山の稜線が左右の頁にまたがる。メトロポリタン美術館蔵。ダニエル・ハンティントン《嵐の王の下、コーンウォール、1871年》メトロポリタン美術館蔵

写真をよく見ると、中央に縦の筋がある。

紙を綴じた、折り目である。

つまりこれは、一枚の紙ではない。

見開きになった、二枚の紙である。

左の頁の右端と、右の頁の左端が、そこで接している。

そして、描かれた山の稜線は、その折り目をまたいでいる。

左の頁で切り立った崖が水面に落ち、右の頁でなだらかな山が続く。

線は、途中で切れていない。

画家は、二枚の頁を一つの画面として使った。

一枚の紙が、二つの件になる

ここで、番号の作りを確かめておきたい。

この写生帖の番号は、三六・一二四である。

一九三六年に受け入れた、その年の一二四番目の件になる。

出所の行には「エス・ビー・ライスター氏の寄贈、一九三六年」とある。

購入ではなく、寄贈で入っている。

そして頁には、数字ではなく文字の枝番が付いている。

a、b、c、と進み、zのあとは、aa、bb、と続く。

当サイトが公開しているものだけでも、ggまである。

文字が二つ重なるところまで来ているから、頁は二十六を超えている。

さらに、それぞれの文字に「表」と「裏」が付く。

三六・一二四のgの裏、三六・一二四のhの表。

一枚の紙が、表と裏で二つの件に分かれる。

これは前回見たトマス・サリーの写生帖と同じ考え方である。

面ごとに数える。

ところが、この帳面ではその考え方が、思わぬ結果を生む。

見開きに描かれた絵は、二つの件にまたがってしまう。

gの裏は左の頁、hの表は右の頁である。

絵は一つ、件は二つ。

だから館は、両方に同じ題を付け、同じ写真を添えた。

嵐の王の下、コーンウォール、1871年
ダニエル・ハンティントン《嵐の王の下、コーンウォール、1871年》1870年ごろ。前の図版と同じ見開きを写した写真である。番号は36.124のhの表。館の記録では、紙に鉛筆。縦14センチ、横22.2センチ。メトロポリタン美術館蔵。ダニエル・ハンティントン《嵐の王の下、コーンウォール、1871年》メトロポリタン美術館蔵

前の図版と見比べてほしい。

同じ崖、同じ山、同じ書き込みである。

違うのは番号だけである。

寸法の欄も同じ数字が入っている。

縦十四センチ、横二二・二センチ。

これは一頁ぶんの寸法である。

見開きにすれば、横は倍近くになる。

しかし欄には、一頁ぶんしか書かれない。

数える単位は頁だからである。

写真は見開き、寸法は片頁。

同じ記録の中で、単位が二つ動いている。

頁の下に、文字がある

この見開きには、絵以外のものも写っている。

左の頁の下に、鉛筆の文字が二行ある。

右の頁の下にも、細かい文字が横に続いている。

読み取れる範囲で言えば、場所と日付である。

コーンウォールという地名と、七月の日付らしい数字が見える。

館の記録は、この文字を翻刻していない。

銘記の欄そのものがない。

素描の目録では、書き込みまで写さないことが多い。

だから題に入っている「一八七一年」という年は、この書き込みから来たと考えられる。

ただし、そう明記されてはいない。

推測にとどめておく。

いずれにせよ、画家は描いた場所と日を、その場で書いている。

写生帖は、日付を持つ記録でもある。

嵐の王、1871年
ダニエル・ハンティントン《嵐の王、1871年》1870年ごろ。館の記録では、紙に鉛筆。縦14センチ、横22.2センチ。番号は36.124のhの裏。前の見開きの、紙を一枚めくった先にあたる。メトロポリタン美術館蔵。ダニエル・ハンティントン《嵐の王、1871年》メトロポリタン美術館蔵

紙を一枚めくると、次の見開きになる。

こちらの題は《嵐の王、一八七一年》。

「下」という語が落ちている。

前の見開きでは山の足元から見上げていた。

こちらでは、山そのものを遠くから見ている。

線は前より薄い。

輪郭を一本引いただけの、素早い記録である。

左の頁の下に、また文字がある。

嵐の王、1871年
ダニエル・ハンティントン《嵐の王、1871年》1870年ごろ。館の記録では、紙に鉛筆。縦14センチ、横22.2センチ。番号は36.124のiの表。前の図版と同一の写真が、この番号にも用いられている。メトロポリタン美術館蔵。ダニエル・ハンティントン《嵐の王、1871年》メトロポリタン美術館蔵

そして、この見開きでも同じことが起きている。

hの裏と、iの表。

二つの番号に、同じ写真が付いている。

当サイトが受け取っている画像の実体も、二つの番号でまったく同じものである。

館の写真の付け方が、そのまま流れてきている。

見開きに描くという習慣が、目録の上で二重になって現れる。

表は人、裏は山

この帳面には、もう一つの規則がある。

同じ一枚の紙の、表と裏で、描かれるものが違う。

レントン氏の肖像
ダニエル・ハンティントン《レントン氏の肖像》1870年ごろ。館の記録では、白みがかった織り目の紙に鉛筆。縦14センチ、横22.2センチ。番号は36.124のaの表。画面の下に、鉛筆の書き込みが二行ある。メトロポリタン美術館蔵。ダニエル・ハンティントン《レントン氏の肖像》メトロポリタン美術館蔵

これが、帳面の最初の紙の表である。

立った男性が、外套のようなものを羽織っている。

顔は正面を向き、右手は下におろしている。

線は速いが、外套の重さは出ている。

画面の下に、鉛筆の書き込みが二行ある。

そして、この一頁は縦長である。

寸法の欄は横長の数字なのに、絵は縦に立っている。

画家が帳面を九十度回して使ったからである。

人を描くときは、縦に持ち替える。