名画の楽しみ方

三枚続の、左の一枚——写楽、歌麿、清長ほか九点

技法の欄が、残り二枚の不在を書いている。書かなければ、一枚の役者絵として通ってしまう。画面の端で衣が切れ、桜の枝が断たれている。欠けていることを記録に残すという作法を読みたい。確からしさに応じて、おそらく、あるいは、という語が使い分けられている。その作法も読みたい。

二代目中山富三郎
東洲斎写楽《二代目中山富三郎》メトロポリタン美術館蔵

「三枚続の左の一枚」という記録

前の回は、三枚そろった版画を見た。

今回は、そろわなかったほうを見たい。

メトロポリタン美術館の技法の欄には、こういう書き方がある。

「三枚続の木版画のうち、左の一枚」。

「三枚続の木版画のうち、中央の一枚」。

「三枚続の木版画のうち、右の一枚」。

三枚あったうちの、一枚だけがここにある。

そして館は、残り二枚が無いことを、技法の欄に書いている。

書かなければ、ただの一枚の版画に見える。

書いてあるから、欠けていることが分かる。

二代目中山富三郎
東洲斎写楽《二代目中山富三郎》1794年。館の記録では、三枚続の木版画のうち左の一枚、紙に墨と彩色。縦32.4センチ、横15.2センチ。番号はJP2648。メトロポリタン美術館蔵。東洲斎写楽《二代目中山富三郎》メトロポリタン美術館蔵

黄色い地に、一人の役者が立っている。

女形の姿である。

黒地に桜の模様の打掛をまとい、その下に赤い衣。

顔はやや右を向き、口を結んでいる。

右手を胸のあたりに上げている。

上部に、細い縦書きの文字が二行。

そして、画面の右側で衣が切れている。

つまり、この右に別の一枚があったはずである。

その一枚は、ここにはない。

判型が、細い

この一点の寸法は、縦三二・四センチ、横一五・二センチ。

前の回に見た三枚続は、一枚あたり横二五センチ前後だった。

こちらは、その半分ほどである。

細判と呼ばれる判型である。

役者絵に多く使われた。

細判の三枚続は、三人の役者を一人ずつ描く形が普通である。

だから、一枚だけでも一人の役者の絵として成り立つ。

そのぶん、ばらけやすい。

二代目瀬川富三郎、大伴家の侍女若草実は惟仁親王
東洲斎写楽《二代目瀬川富三郎、大伴家の侍女若草実は惟仁親王》1794年から1795年。館の記録では、三枚続の木版画のうち中央の一枚、紙に墨と彩色。画面は縦31.8センチ、横15.2センチ。番号はJP732。メトロポリタン美術館蔵。東洲斎写楽《二代目瀬川富三郎、大伴家の侍女若草実は惟仁親王》メトロポリタン美術館蔵

同じ画家の、中央の一枚である。

白い衣の役者が、正面を向いて立っている。

裾が長く、床に広がっている。

背後に、暖簾のような横長の布が垂れている。

そこに、模様が並んでいる。

左に、細い文字が縦に二行。

この一枚も、右と左に続きがあったはずである。

年の欄には、小さな不備がある。

「一七九四年から七五年」と書かれている。

一七九五年の誤りだろう。

数字が一つ落ちている。

館の記録には、こうした揺れが残っている。

二代目山下金作、貞任の妻岩手
東洲斎写楽《二代目山下金作、貞任の妻岩手》1794年から1795年。館の記録では、おそらく三枚続の一枚、紙に墨と彩色。縦31.8センチ、横14.9センチ。番号はJP1519。メトロポリタン美術館蔵。東洲斎写楽《二代目山下金作、貞任の妻岩手》メトロポリタン美術館蔵

技法の欄に「おそらく」という語が入っている。

三枚続の一枚かどうか、確定していない。

一枚だけの版画として作られた可能性も残る。

こういう場合、館は断定しない。

「おそらく」と書いて、判断の余地を残す。

画面には、身をかがめた役者がいる。

赤い着物に、緑と白の模様。

右手に、縞の布のようなものを持っている。

上に、梅の枝が伸びている。

右上に、文字が二行。

大判の一枚

細判だけでなく、大判の一枚も残っている。

宴に寛ぐ絵師北尾政演
喜多川歌麿《宴に寛ぐ絵師北尾政演》1790年代。館の記録では、三枚続の木版画のうち左の一枚、紙に墨と彩色。画面は縦38.1センチ、横26センチ。番号はJP737。メトロポリタン美術館蔵。喜多川歌麿《宴に寛ぐ絵師北尾政演》メトロポリタン美術館蔵

室内の場面である。

左に、屏風が立っている。

その手前に、大勢の人物が座っている。

上に、着物の女性が二人。

その下に、腰を落とした人と、子ども。

右端に、身を乗り出した人物が半分だけ見える。

半分だけというのが、重要である。

その人物の続きは、隣の一枚にあった。

画面の右端で、絵が切れている。

前の回に見た清長の屋形船と同じで、一つの場面が三枚にまたがっている。

だから、一枚だけでは場面が閉じない。

一力女郎屋の女たちと目隠し鬼をする由良之助
鳥居清長《一力女郎屋の女たちと目隠し鬼をする由良之助》1790年ごろ。館の記録では、三枚続の木版画のうち中央の一枚、紙に墨と彩色。縦36.4センチ、横25.4センチ。番号はJP730。メトロポリタン美術館蔵。鳥居清長《一力女郎屋の女たちと目隠し鬼をする由良之助》メトロポリタン美術館蔵

二階建ての建物が、画面の奥に描かれている。

上の階に、人物が数人見える。

下に、庭と、そこに立つ人々。

赤い着物の女性が二人、身をかがめている。

右に、白い衣の人物。

左端で、庭と建物が切れている。

つまり、左にもう一枚あった。

そして、右にも一枚あったはずである。

寸法の欄に、変わった数字がある。

縦の値が、三六・四センチ。

もとの単位では、十四と三分の一という書き方になっている。

普通、この単位は二分の一や四分の一で表す。

三分の一は珍しい。

記入の癖だろう。

野遊びの若者と三人の女
勝川春潮《野遊びの若者と三人の女》1789年ごろ。館の記録では、三枚続の木版画のうち中央の一枚、紙に墨と彩色。縦37センチ、横25.4センチ。番号はJP176。メトロポリタン美術館蔵。勝川春潮《野遊びの若者と三人の女》メトロポリタン美術館蔵

桜の下の場面である。

上に、桜の枝が広がり、花が咲いている。

その下に、四人の人物がいる。

左に、縞の着物の女性。

中央に、腰かけた白い衣の人物と、小さな子ども。

右に、赤と黒の着物の女性。

奥に、水と、小さな橋が見える。

左端と右端で、桜の枝が切れている。

三枚続の中央だから、両側に続きがある。

右の一枚と、二枚

品川の遊興
桜川文京《品川の遊興》1788年ごろ。館の記録では、三枚続の木版画のうち右の一枚、紙に墨と彩色。縦25.7センチ、横18.9センチ。番号はJP234。作者の欄には生没年がない。メトロポリタン美術館蔵。桜川文京《品川の遊興》メトロポリタン美術館蔵

室内の場面である。

上に、赤い提灯が三つ吊るされている。

その下に、四人の人物。

左に、立って何かを持つ女性。

中央に、座って盆を持つ女性。

手前に、しゃがんだ人物。

右下に、盆や器が置かれている。

そして、左端で人物が切れている。

寸法は、縦二五・七センチ、横一八・九センチ。

大判より小さく、細判より広い。

中判と呼ばれる判型に近い。

作者の欄には、名前と「日本」とだけある。

生没年も、活動時期も書かれていない。

分からないのだろう。