名画の楽しみ方

見ていない眺めが、一点ある——ブラウン・カナレット・北斎ほか九点

眺めとは、ある位置から見た図である。九点で数えると、実景が五点、想像上の眺めが一点だった。いずれも対象が遠く、手前に木や水面が置かれる。日本語の「眺める」で二点が混じった。題に地名が入るのは六点だった。

アクロポリスの眺め
アドルフ・ブラウン商会《アクロポリスの眺め》クリーヴランド美術館蔵

丘の上に、神殿が横たわっている

一枚の写真に、丘の眺めがある。

画面は37.6×48.2センチ。

紙は38.4×49.5センチある。

横長の画面である。

画面の上のほうに、岩の丘がある。

丘の上に、長い建物が横たわる。

柱が等間隔に並び、屋根は落ちている。

その左に、小さな建物と門が見える。

丘の斜面は、白っぽい岩が露出する。

その下に、低い建物が密集する。

さらに手前は、開けた土地である。

木が数本、まばらに立つ。

道が右下から左へ抜けていく。

道の上に、小さな人影が二つある。

空は白く、階調がほとんどない。

全体が茶色を帯びている。

館の記録によれば、これは炭素を用いた印画である。

色素を含む膠で像を作るため、退色に強い。

館は、その点をわざわざ書いている。

そして、この場所の写真がよく売れたとも書く。

同じ会社が、いくつもの眺めを用意していたという。

アクロポリスの眺め
アドルフ・ブラウン商会《アクロポリスの眺め》1880年代頃。館の記録では、大判のカーボン・プリント、茶の調色。画面37.6×48.2センチ。紙は38.4×49.5センチ。番号は2021.58。クリーヴランド美術館蔵。アドルフ・ブラウン商会《アクロポリスの眺め》クリーヴランド美術館蔵

「眺め」という語は、絵の題によく使われる。

ある場所を、ある位置から見た図。

それだけの意味である。

だが、この語には条件が含まれている。

見る位置が決まっていること。

そして、その位置から見えるものが描かれていること。

九点を並べて、その条件を数えたい。

「眺め」は、実景とは限らない

集めかたは、館の記録の題によっている。

眺め、名所、勝景にあたる語が入るものを拾った。

英語の題では、見るという語を含むものである。

九点のうち、ある場所の眺めを描いたのは六点だった。

残る三点は、後で扱う。

まず、六点のうち一点に注目したい。

その題には、想像上の、という語が付いている。

つまり、実在しない眺めである。

銅版画で、館の記録に寸法の欄はない。

画面の左に、大きな木が立つ。

その右に、崩れかけた建物がある。

さらに右へ、町が広がる。

塔と、円柱と、屋根が並ぶ。

手前には、粗末な小屋と、人が数人いる。

空は白く、細い雲の線が引かれる。

一見すると、実在の町の眺めである。

だが題は、想像上の眺めだと明記している。

館の記録の題に、その語がある。

つまり、画家が組み立てた眺めである。

前に廃墟や建築の空想画を扱った回でも、同じ種類の作品を見た。

そこでは、実在の建物を組み合わせていた。

ここでは、町そのものが作られている。

パドヴァの想像上の眺め(景観集より)
アントニオ・カナレット《パドヴァの想像上の眺め(景観集より)》1735〜46年。館の記録では、エッチング。番号は1925.1239.11。クリーヴランド美術館蔵。アントニオ・カナレット《パドヴァの想像上の眺め(景観集より)》クリーヴランド美術館蔵

眺めは、横に長い

実景の眺めを描いた五点を見たい。

一点目は、油彩である。

全体で51.1×94.6センチ。

幅が高さの一.八倍ある。

画面の下半分は、水面である。

水は静かで、灰色がかっている。

その上に、帆船が一艘いる。

帆柱が三本立ち、帆は畳まれている。

船体は暗く、水に映る。

右のほうにも、小さな舟が数艘いる。

奥に、低い陸地が横一列に伸びる。

建物と塔が、小さく並ぶ。

空は画面の上半分を占める。

雲は薄く、上のほうがわずかに青い。

館の記録の題は、ある町の眺めという。

町は遠く、細部が読めない。

つまり、これは町の全体像である。

近づけば、この形は見えない。

眺めとは、そういう距離を指す語でもある。

ホールンの眺め
アブラハム・デ・フェルウェル《ホールンの眺め》1650年頃。館の記録では、油彩・板。全体51.1×94.6センチ。番号は2008.32.1。ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵。アブラハム・デ・フェルウェル《ホールンの眺め》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

二点目は、白黒のチョークで描かれた素描である。

紙は31.5×48.9センチ。

台紙まで含めると42.5×59.7センチになる。

横長の画面である。

画面の中央に、長い建物が横たわる。

窓が規則的に並ぶ。

その左右に、木立が続く。

建物の手前は、水面である。

水は明るく、建物を映す。

手前の岸には、草と低木がある。

草は白いチョークで起こされている。

空は灰色で、雲がわずかに見える。

館の記録によれば、右下に署名と地名が書かれている。

つまり、描いた場所が紙に記されている。

館の記録の題も、その地名を使っている。

ヴェルサイユの眺め
アントワーヌ・ヴォロン《ヴェルサイユの眺め》十九世紀。館の記録では、黒と白のチョーク。紙は31.5×48.9センチ。台紙は42.5×59.7センチ。番号は2010.287。クリーヴランド美術館蔵。アントワーヌ・ヴォロン《ヴェルサイユの眺め》クリーヴランド美術館蔵

三点目は、油彩である。

41×50.9センチ。

画面の手前に、丘の斜面がある。

草は緑と紫で、短い筆が並ぶ。

左右に、細い木が二本立つ。

葉は紫がかった緑である。

斜面には、人が十数人いる。

いずれも小さく、座るか立つかしている。

その向こう、低い土地に白い天幕が並ぶ。

数えると、五つか六つある。

さらに奥は、町である。

建物が霞み、細部が消える。

町の中ほどに、細い塔が一本立つ。

館の記録の題によれば、それは記念の塔である。

そして、天幕は集会のためのものだという。

つまり、この眺めには一時的なものが写っている。

天幕は、催しが終われば消える。

塔は残る。

アーリントン高地からの眺め、シャトークアのテントとワシントン記念塔
エー・エイチ・オー・ロール《アーリントン高地からの眺め、天幕と記念塔》1922年頃。館の記録では、油彩・カンヴァス。41×50.9センチ。スミソニアン・アメリカ美術館蔵。エー・エイチ・オー・ロール《アーリントン高地からの眺め、シャトークアのテントとワシントン記念塔》スミソニアン協会蔵

眺めが、組物になる

四点目は、日本の版画である。

紙は37.8×25.4センチ。

縦長の画面である。

画面の手前に、木を組んだ堰がある。

太い柱が何本も立ち、横木が渡る。

その上に、人が三人いる。

一人は釣り糸を垂れている。

一人は馬を引いている。

馬は白と茶で、荷を負う。

その足もとに、笠をかぶった人が座る。

奥には、水と緑の土手がある。

さらに奥、画面の中ほどに、山の稜線が見える。

低く、青い。

その山が、この組物の主題である。

館の記録の題によれば、三十六の眺めを集めた組物の一枚だという。

つまり、同じ山を三十六の位置から見ている。

一枚ごとに、見る場所が違う。

そして、山は小さく描かれることが多い。

この一枚でも、山は画面の十分の一もない。

主役は、手前の堰と人である。