見ていない眺めが、一点ある——ブラウン・カナレット・北斎ほか九点
眺めとは、ある位置から見た図である。九点で数えると、実景が五点、想像上の眺めが一点だった。いずれも対象が遠く、手前に木や水面が置かれる。日本語の「眺める」で二点が混じった。題に地名が入るのは六点だった。

丘の上に、神殿が横たわっている
一枚の写真に、丘の眺めがある。
画面は37.6×48.2センチ。
紙は38.4×49.5センチある。
横長の画面である。
画面の上のほうに、岩の丘がある。
丘の上に、長い建物が横たわる。
柱が等間隔に並び、屋根は落ちている。
その左に、小さな建物と門が見える。
丘の斜面は、白っぽい岩が露出する。
その下に、低い建物が密集する。
さらに手前は、開けた土地である。
木が数本、まばらに立つ。
道が右下から左へ抜けていく。
道の上に、小さな人影が二つある。
空は白く、階調がほとんどない。
全体が茶色を帯びている。
館の記録によれば、これは炭素を用いた印画である。
色素を含む膠で像を作るため、退色に強い。
館は、その点をわざわざ書いている。
そして、この場所の写真がよく売れたとも書く。
同じ会社が、いくつもの眺めを用意していたという。

「眺め」という語は、絵の題によく使われる。
ある場所を、ある位置から見た図。
それだけの意味である。
だが、この語には条件が含まれている。
見る位置が決まっていること。
そして、その位置から見えるものが描かれていること。
九点を並べて、その条件を数えたい。
「眺め」は、実景とは限らない
集めかたは、館の記録の題によっている。
眺め、名所、勝景にあたる語が入るものを拾った。
英語の題では、見るという語を含むものである。
九点のうち、ある場所の眺めを描いたのは六点だった。
残る三点は、後で扱う。
まず、六点のうち一点に注目したい。
その題には、想像上の、という語が付いている。
つまり、実在しない眺めである。
銅版画で、館の記録に寸法の欄はない。
画面の左に、大きな木が立つ。
その右に、崩れかけた建物がある。
さらに右へ、町が広がる。
塔と、円柱と、屋根が並ぶ。
手前には、粗末な小屋と、人が数人いる。
空は白く、細い雲の線が引かれる。
一見すると、実在の町の眺めである。
だが題は、想像上の眺めだと明記している。
館の記録の題に、その語がある。
つまり、画家が組み立てた眺めである。
前に廃墟や建築の空想画を扱った回でも、同じ種類の作品を見た。
そこでは、実在の建物を組み合わせていた。
ここでは、町そのものが作られている。

眺めは、横に長い
実景の眺めを描いた五点を見たい。
一点目は、油彩である。
全体で51.1×94.6センチ。
幅が高さの一.八倍ある。
画面の下半分は、水面である。
水は静かで、灰色がかっている。
その上に、帆船が一艘いる。
帆柱が三本立ち、帆は畳まれている。
船体は暗く、水に映る。
右のほうにも、小さな舟が数艘いる。
奥に、低い陸地が横一列に伸びる。
建物と塔が、小さく並ぶ。
空は画面の上半分を占める。
雲は薄く、上のほうがわずかに青い。
館の記録の題は、ある町の眺めという。
町は遠く、細部が読めない。
つまり、これは町の全体像である。
近づけば、この形は見えない。
眺めとは、そういう距離を指す語でもある。

二点目は、白黒のチョークで描かれた素描である。
紙は31.5×48.9センチ。
台紙まで含めると42.5×59.7センチになる。
横長の画面である。
画面の中央に、長い建物が横たわる。
窓が規則的に並ぶ。
その左右に、木立が続く。
建物の手前は、水面である。
水は明るく、建物を映す。
手前の岸には、草と低木がある。
草は白いチョークで起こされている。
空は灰色で、雲がわずかに見える。
館の記録によれば、右下に署名と地名が書かれている。
つまり、描いた場所が紙に記されている。
館の記録の題も、その地名を使っている。

三点目は、油彩である。
41×50.9センチ。
画面の手前に、丘の斜面がある。
草は緑と紫で、短い筆が並ぶ。
左右に、細い木が二本立つ。
葉は紫がかった緑である。
斜面には、人が十数人いる。
いずれも小さく、座るか立つかしている。
その向こう、低い土地に白い天幕が並ぶ。
数えると、五つか六つある。
さらに奥は、町である。
建物が霞み、細部が消える。
町の中ほどに、細い塔が一本立つ。
館の記録の題によれば、それは記念の塔である。
そして、天幕は集会のためのものだという。
つまり、この眺めには一時的なものが写っている。
天幕は、催しが終われば消える。
塔は残る。

眺めが、組物になる
四点目は、日本の版画である。
紙は37.8×25.4センチ。
縦長の画面である。
画面の手前に、木を組んだ堰がある。
太い柱が何本も立ち、横木が渡る。
その上に、人が三人いる。
一人は釣り糸を垂れている。
一人は馬を引いている。
馬は白と茶で、荷を負う。
その足もとに、笠をかぶった人が座る。
奥には、水と緑の土手がある。
さらに奥、画面の中ほどに、山の稜線が見える。
低く、青い。
その山が、この組物の主題である。
館の記録の題によれば、三十六の眺めを集めた組物の一枚だという。
つまり、同じ山を三十六の位置から見ている。
一枚ごとに、見る場所が違う。
そして、山は小さく描かれることが多い。
この一枚でも、山は画面の十分の一もない。
主役は、手前の堰と人である。