囲いが見える庭は、四点だけ——アルトドルファー・華嵒・モネほか九点
庭とは囲われた土地である。だが九点で数えると、塀や柵が描かれているのは四点しかない。庭であることを示しているのは題のほうだった。楽園、祈りの園、農家の庭、そして地名としての庭まで混じる。手入れの跡が見えるのは三点だけだった。

剣を持った天使が、二人を追い出している
一枚の木版に、園の入り口が彫られている。
画面の左に、翼のある人物が立つ。
右手を高く上げ、剣を握っている。
剣は画面の上端に届きそうである。
左手は前へ伸び、二人の背を押している。
押されているのは、裸の男と女である。
女は肩を落とし、体をよじる。
男は右腕を上げ、顔をかばうように見える。
二人とも、腰のあたりに葉を当てている。
足もとには、細かい草が生えている。
右奥には、細い木が数本立つ。
上のほうには、渦を巻いた雲がある。
雲の線は太く、彫りが深い。
画面の上の隅に、作者の記号がある。
館の記録に、寸法の欄はない。
技法は木版とだけ書かれている。
これは連作の一枚で、題は「人類の堕罪と救済」という。
その連作のなかで、この一枚は追放の場面にあたる。

園とは、囲われた土地のことである。
囲いがなければ、それはただの野である。
囲うことで、内と外ができる。
内には手が入り、外には入らない。
この版画で描かれているのは、その境目である。
内から外へ出される瞬間が、園の性質をいちばんよく示している。
九点を並べて、園と庭の描かれ方を数えたい。
「庭」の語は、どこまで広がるか
集めかたは、館の記録の題によっている。
庭、園、苑にあたる語が入るものを拾った。
拾った九点は、指すものが大きく違っていた。
楽園、祈りの園、農家の庭、家の裏庭、庭師の家。
さらに、地名としての庭が一点混じった。
日本語の「庭」は、家に付属した土地を指す。
「園」は、囲って草木を育てる土地を指す。
どちらも、もとの記録では同じ一語に当たることが多い。
だから訳した時点で、範囲がずれる。
九点のうち、草木が実際に描かれているのは七点だった。
草木のない二点は、地名の一点と、農家の庭の一点である。
農家の庭には、山羊と道具と壁しか描かれていない。
つまり、庭の語があっても緑があるとは限らない。
祈りの園が、二点
九点のうち二点は、同じ場面を扱っていた。
キリストが園で祈る場面である。
一点目は、十四世紀の板絵である。
描かれた面は47×23.8センチ。
板ごと測ると56.7×29.3センチ、厚みは3.3センチある。
縦長の画面が、上下に分かれている。
上には、赤い衣の人物が岩の上で膝をつく。
上の隅から、赤い天使のようなものが飛んでくる。
下には、三人が横になって眠っている。
青、黄、赤の衣を着ている。
その左に、金色の輪をつけた人物が立つ。
二人のあいだに、低い柵と木が描かれる。
柵は、細い棒を横に渡したものだ。
これが園の囲いである。
木は数本しかない。
背景は一面の金地である。
空も地面も、金で埋められている。
金地の上に、緑の草が短い線で置かれる。
館の記録は、これが左のパネルだと明記している。
つまり、もとは複数の板が連なっていた。

二点目は、石の浮き彫りである。
全体で14.8×11.3センチしかない。
手のひらに載る大きさだ。
材は、きめの細かい石灰岩である。
画面の右上に、天使が浮かぶ。
その左下に、膝をついて手を組む人物がいる。
さらに手前に、三人が折り重なって眠る。
衣の襞が深く彫られ、影が濃い。
上のほうには、木の枝と葉が広がる。
葉は一枚ずつ彫り分けられている。
館の記述によれば、この浮き彫りから型が取られた。
金属で複製を鋳造するためだったという。
つまりこの石は、作品であると同時に原型でもある。
同じ場面が、別の材で何点も作られたことになる。

同じ場面を、二つの材で作る
祈りの園の二点は、比べるのに適している。
一点は板にテンペラ、もう一点は石の浮き彫り。
作られた時期は、およそ百五十年離れている。
構成は、驚くほど似ている。
祈る人が奥または上にいて、眠る人が手前にいる。
天使が上から現れる。
木が数本描かれる。
違うのは、材と大きさである。
板絵は47×23.8センチ、浮き彫りは14.8×11.3センチ。
面積で言えば、板絵のほうが六倍以上ある。
板絵は色で示し、浮き彫りは影で示す。
板絵の背景は金一色で、奥行きがない。
浮き彫りの背景は、彫りの深さで奥行きが出る。
眠る三人の重なりが、彫りでは立体として読める。
板絵では、三人が上下にずらして置かれる。
奥行きの示し方が、材によって変わっている。
そして浮き彫りのほうは、型を取るために作られた。
館の記述が、そう明記している。
つまり、同じ形が金属でも作られたはずである。
一つの構図が、材を変えて広がっていく。
その最初の一つが、この石だった可能性がある。
窓の向こうの庭
中国の画帖の一葉がある。
画帖を閉じた状態で15.4×18.5×3.1センチ。
各図は11.2×13.1センチしかない。
名刺二枚ぶんほどの面積である。
画面の中央に、大きな丸い窓がある。
窓は壁を丸く抜いたもので、枠は白い。
その内側に、女性が二人いる。
一人は椅子に座り、手もとを見ている。
もう一人はその奥にいる。
館の記録では、二人は針仕事をしている。
窓の外、つまり手前側に庭がある。
庭には、穴の多い大きな石が立っている。
その脇に、細い竹が数本伸びる。
上からは、木の枝が垂れ下がる。
葉は淡い墨で点々と置かれる。
館の記述によれば、この石は湖でとれた石灰岩である。
自然の形が珍重され、庭に立てて眺めたという。
館の記述はさらに、同じ画帖の他の十一図に触れている。
そちらには、いずれも自然のなかにいる男が描かれる。
女性が出てくるのは、この一図だけだという。
そして館は、女性が庭を窓越しにしか見られないと書いている。
囲いの内と外が、性別で分かれている。