雨の線を引いた画面は、二点——呂文英・ピサロ・ターナーほか九点
雨は細くて速い。九点で数えると、雨の線を引いているのは二点だけで、残りは調子と姿勢で示していた。雨の二点は縦長、嵐の四点は横長。偽の印と、消された署名と、贋作を作った画家の記録も出てくる。風の向きが分かるのは五点である。

雨が、斜めの線になって降っている
一枚の掛幅に、風雨の村がある。
画面は170.5×103.4センチ。
軸端まで含めると279.6×134.3センチになる。
二メートル八十近い。
縦に長い画面である。
画面の全体を、斜めの線が覆っている。
線は右上から左下へ、平行に走る。
絹の地に、薄い墨で引かれている。
これが雨である。
その線の向こうに、木と家がある。
木は激しく左へたわむ。
枝と葉が、同じ方向へ流れる。
画面の下のほうに、川と舟がある。
舟には屋根が掛かり、人が身をかがめる。
岸には、二人が歩いている。
一人は笠を押さえ、一人は前かがみになる。
家の窓から、子どもが顔を出している。
館の記述が、その子どもについて触れている。
雨のなかを行く二人を見ているのかもしれない、と書かれている。
館の記述によれば、この画家は宮廷の画家だった。
そして、印にはその地位を示す言葉が刻まれている。
その印は、位の高い画家だけが使えたという。

雨は、動いているものである。
しかも、細くて速い。
止まった画面に、それをどう描くか。
方法はいくつかある。
斜めの線を引く、空を暗くする、人にかがませる。
九点を並べて、その方法を数えたい。
雨の線を引いた画面は、二点
集めかたは、館の記録の題によっている。
雨、嵐、時雨にあたる語が入るものを拾った。
九点のうち、雨か嵐が描かれているのは七点だった。
残る二点は、後で扱う。
まず、雨そのものを線で描いた画面を数えたい。
二点だけだった。
一点は、いま見た掛幅である。
もう一点は、日本の掛幅である。
表装を含めて131.8×44.2センチ。
こちらも縦に細長い。
画面の下のほうに、岩と木がある。
木は数本で、枝が左へ流れる。
その下に、人が一人歩いている。
笠をかぶり、体を前に倒している。
上のほうは、薄い墨で刷かれている。
雨の空である。
線ははっきり引かれていないが、面が斜めに擦られている。
館の記録によれば、この一点には偽の印が押されている。
有名な画僧の印だが、本物ではないという。
つまり、後から権威付けのために押されたのだろう。
館は、それを偽と明記している。
作者についても、帰属としか書かれていない。
生涯についても、ほとんど分かっていないという。

雨は、線ではなく調子で描かれる
雨を線で描かない例を見たい。
銅版画の一点である。
版の面は15.6×21.2センチ。
紙は26.1×34.1センチある。
画面の中央に、大きな干草の山がある。
その左右に、細い木が並ぶ。
木は葉を落としている。
手前は、刈られた畑である。
畑の面には、細かい点が無数に置かれる。
そこに、女性が二人立っている。
背を向け、頭に布をかぶる。
画面の全体が、灰色に沈んでいる。
明るい部分がほとんどない。
雨の線は、引かれていない。
代わりに、空と地面の調子が近づけられている。
その結果、空気が湿って見える。
館の記録によれば、この技法は腐食に加え、粒状の調子を作る方法を併用している。
その方法は、面で濃淡を作るのに向く。
紙の余白には、刷りの番号が鉛筆で書かれている。
十四枚のうちの五枚目という意味である。

嵐は、雲と波で描かれる
嵐を描いた四点を見たい。
一点目は、油彩である。
見える範囲で66×94センチ。
画面の左に、帆船が一艘いる。
帆柱は折れかけ、帆が破れている。
船体は大きく傾く。
波は白く砕け、船を包む。
右には、岩の岬がある。
岬の上に、崩れた塔が立つ。
手前の岩の上に、人が六、七人いる。
赤や青の衣で、集まっている。
空は、上のほうが暗い紫である。
その下に、黄色い光の帯がある。
雲は渦を巻き、右へ流れる。
館の記録に、制作年はない。
記述の欄もない。
題は《嵐》とだけ書かれている。

二点目も、油彩である。
額なしで50.8×67.6センチ。
画面は暗い。
中央に、大きな岩の塊がある。
その左の空に、雲の切れ目がある。
そこだけ、黄と白の光が漏れる。
左奥の海に、船が傾いている。
沈みかけているらしい。
手前の岩の上に、人が五、六人いる。
一人は横たわり、他の人が囲んでいる。
一人は手を上げている。
館の記述によれば、家族が水死した身内を見つけた場面である。
そして、この画家がその島を訪れた年も書かれている。
さらに館は、この画家の経歴に触れている。
他人の様式で模写や贋作も作った、と記録にある。
館は、それを隠さずに書いている。
制作年の欄も、途中で切れている。
十八世紀の何年か、が確定していない。

三点目は、水彩とグワッシュである。
紙は30.3×37.8センチ。
画面の中央に、大きな岩がある。
岩は灰色と黒で、面が広い。
その右に、白い波が高く上がる。
波の頂は、絵具を厚く置いて作られている。
奥には、青い海と、低い岩礁が見える。
空は灰色で、雲が厚い。
人は描かれていない。
館の記録によれば、署名に島の名と年が書かれている。
さらに、紙の裏にも題が書かれている。
そちらはフランス語で、嵐の語が使われている。
つまり、表と裏で別の言語の題がある。