島は、画面に描かれない——カナレット・ピサロ・カルポーほか九点
島は囲まれていることが条件だが、それは上から見なければ分からない。九点で数えると、島が見えるのは二点だけで、残る七点では島は名前のなかにある。流された人を扱った二点も並ぶ。地名としての島が五点、姓としての島が二点。囲まれていることは、絵では見えない。

島の町が、水の向こうにある
一枚の銅版画に、島の町がある。
館の記録に、寸法の欄はない。
画面は横長である。
中央に、大きな木が一本立つ。
幹は途中で折れ、枝が上へ伸びる。
葉は細かい線の塊である。
その木の向こうに、水面が広がる。
水は細い横線で示される。
さらに向こうに、建物が横一列に並ぶ。
建物は四角く、屋根が低い。
窓が規則的に開いている。
奥のほうに、細い塔が二本立つ。
手前の岸には、草と柵と小舟がある。
人が三、四人いる。
一人は水際にしゃがんでいる。
空は白く、細い雲の線が引かれる。
館の記録の題によれば、ここは潟のなかの島の町である。
だが画面を見ても、島には見えない。
対岸が見えるだけである。

島は、水に囲まれた土地である。
囲まれていることが、島の条件である。
だが、その条件は絵にしにくい。
囲まれている様子を見るには、上から見るしかない。
地上からでは、水と陸の境が一本見えるだけである。
九点を並べて、その難しさを数えたい。
島は、島として描かれない
集めかたは、館の記録の題によっている。
島、嶋にあたる語が入るものを拾った。
九点のうち、島が画面に見えるのは二点だけだった。
一点は、いま見た町の眺めである。
もう一点は、素描帖の一葉である。
残る七点では、島は題のなかにしかない。
その内訳は、こうなる。
島の沖を描いた一点。
島の岸辺を描いた三点。
島に流された人を表した二点。
そして、姓に島の語が入る一点である。
つまり、島の絵とは島にいる人の絵である。
島そのものは、めったに描かれない。
島にいると、島は見えない
島の上から描いた三点を見たい。
一点目は、油彩である。
全体で27.7×41センチ。
画面の右に、砂の道が延びる。
道は右奥へ下り、海へ向かう。
その道の上に、女性が二人立っている。
一人は白い衣、一人は青い衣である。
二人とも、頭に布を巻いている。
一人は白い布を高く掲げている。
向かい合って、話しているらしい。
左には、緑の茂みと木がある。
右奥には、海と、低い岬が見える。
海の上に、小さな帆が二つある。
空は上のほうが青く、下は淡い黄である。
館の記録の題には、島の名が入っている。
だが、この画面からその島の形は分からない。
見えているのは、海辺の道と、二人と、岬だけである。
島の上に立てば、島は見えない。

二点目は、大きな油彩である。
額なしで72.3×128センチ。
横に長い画面である。
画面は暗い。
上半分は、厚い雲である。
雲の切れ目に、丸い月がある。
月の光が雲の縁を白く縁取る。
下半分は、海と岸である。
海面には、月の光が縦に伸びる。
その帯だけが明るい。
手前の岸には、岩が二つ三つある。
岩は黒く、輪郭だけが見える。
左のほうに、帆船が二艘いる。
いずれも小さく、影である。
館の記述によれば、この画家が夜を描いた作品は少ない。
そして、場所を特定して描いていながら、夜の闇が細部を隠している。
そのため、場所というより気分の絵になっている、と館は書く。
題には、州の名が入っている。
その州の名に、島の語が含まれる。
つまり、ここでも島は名前のなかにある。

三点目は、写真である。
画面は16×11センチ。
台紙まで含めると31.7×22.3センチになる。
画面には、男が一人座っている。
黒い上着に、白い襟。
髭が濃く、髪は後ろへ流れている。
両手を膝の上で組んでいる。
椅子の背に、腕を掛けている。
背景は暗く、何も描かれていない。
館の記述によれば、この人物は当時亡命していた。
そして、亡命先の島でこの写真が撮られた。
撮ったのは、家族ぐるみの知人である。
館は、その年に代表作が出版されたことにも触れている。
つまり、この写真は島で撮られた。
だが、画面に島は写っていない。
写っているのは、椅子と人だけである。

島に流された人
九点のうち二点は、島に流された人を扱う。
一点目は、ブロンズの彫刻である。
全体で21.6×18.6×12.2センチ。
台の上に、男が座っている。
厚い外套をまとい、前がはだけている。
腕を組み、うつむいている。
顔は小さく、表情は読みにくい。
外套の襞は深く、粗い。
表面は青緑で、光が斑に反射する。
台は岩を模した形をしている。
館の記録の題によれば、これは南の島に流された人物である。
館の記録には、署名の位置も書かれている。
そして、裏側にあった鋳造所らしい銘が、道具で削り取られているという。
誰が、なぜ削ったかは書かれていない。
削られた跡だけが記録に残っている。