作品を知る

空は、塗るか、残すか——ブーダン・池大雅・ルドンほか九点

空の描き方は三つに分かれる。塗る、紙の地を残す、線を引かない。九点で数えると、空が半分以上を占めるのは四点だった。姓の綴りに空の語が入っていた二点も混じる。空はどの画面でも地面より明るい。雲がないのは二点だけだった。

広い空のある海景
ウジェーヌ・ブーダン《広い空のある海景》クリーヴランド美術館蔵

雲が、画面の四分の三を占めている

一枚のパステルに、空がある。

紙は21.5×28.7センチ。

横長の画面である。

画面の下、四分の一のあたりに、水平の線が引かれる。

その線より下は、海である。

海は淡い灰色と青で、細い横の筆が並ぶ。

右のほうに、小さな白い帆が一つ見える。

線より上は、すべて空である。

空の下のほうは、灰色の帯が幾重にも重なる。

その上に、白い雲が二つ大きく盛り上がる。

雲は明るく、縁が丸い。

雲と雲のあいだに、青い部分が広がる。

青は上へ行くほど濃くなる。

紙は灰色である。

その灰色を残したところが、雲の影になっている。

館の記述によれば、この画家はこうした空の絵を生涯にわたって描いた。

その場で描くために、パステルを選んだという。

持ち運べて、直接描けるからである。

館はさらに、当時の批評家の言葉も引いている。

その人は、これらの空の絵を「気象の美」と呼んだ。

広い空のある海景
ウジェーヌ・ブーダン《広い空のある海景》1860年。館の記録では、灰色の網目紙にパステル、薄い板紙に貼る。紙は21.5×28.7センチ。番号は2020.116。クリーヴランド美術館蔵。ウジェーヌ・ブーダン《広い空のある海景》クリーヴランド美術館蔵

空は、画面の上半分にある。

そして、たいてい何も置かれていない。

だから空は、余白として扱われることが多い。

だが、余白の広さが画面の印象を決める。

九点を並べて、その配分を数えたい。

名前に「空」が入っていた二点

集めかたは、館の記録の題によっている。

空、天空にあたる語が入るものを拾った。

英語の題も見た。

すると、思わぬ二点が混じった。

どちらも、人名の綴りに空の語が入っている。

一点は、舞踊家の姓である。

もう一点は、食器の組物の名になった一族の姓である。

いずれも、同じ三文字で終わる姓だった。

その部分が、空を意味する語と同じ綴りである。

機械で語を探すと、こういう一致が起きる。

前の回では、広いという語に道が入っていた。

炭素の語に港が入っていた例もあった。

今回は、人名である。

外れの二点は、後半で扱う。

九点のうち、空が主題として扱われているのは五点だった。

空が広い画面、狭い画面

空の占める面積を数えたい。

画面の半分以上が空なのは、四点。

三分の一ほどが空なのは、二点。

空がほとんど見えないのが、三点である。

いちばん空の広いのは、いま見たパステルだった。

四分の三が空である。

次が、油彩の一点である。

38.2×48.5センチ。

画面の下の五分の一に、暗い土地がある。

丘と木立らしいが、細部は見えない。

その上は、すべて雲である。

雲は灰色と茶色で、厚く重なる。

中央のやや上に、明るい部分がある。

そこだけ、雲が薄い。

黄色と白の光が漏れている。

上のほうには、青緑の空がわずかに見える。

館の記録の題は、無題である。

括弧のなかに、風景、曇り空、と書かれている。

制作年も記録にない。

この画家の作品は、これで五点目になる。

からまで、四つの回で取り上げた。

いずれも無題で、括弧に説明が付いている。

無題(風景、曇り空)
エドワード・ミッチェル・バニスター《無題(風景、曇り空)》制作年不詳。館の記録では、油彩・カンヴァス。38.2×48.5センチ。スミソニアン・アメリカ美術館蔵。エドワード・ミッチェル・バニスター《無題(風景、曇り空)》スミソニアン協会蔵

三点目は、嵐の空を描いた油彩である。

27.6×35.7センチと小さい。

画面の右に、大きな木が立つ。

葉は暗い緑と茶で、塊になっている。

その左に、小さな小屋がある。

屋根は低く、壁は暗い。

小屋の前に、赤い衣の人影が一つある。

道は右へ延びていく。

空は、画面の上半分を占める。

雲は灰色と青で、渦を巻いている。

右上のほうは暗く、左は明るい。

嵐が近づいているのか、去ったのかは分からない。

館の記録によれば、署名の綴りが記録に写されている。

その綴りは、画家の名と一字違っている。

館は、そのまま書いている。

道端の小屋、嵐の空
ジュール・デュプレ《道端の小屋、嵐の空》1860年頃。館の記録では、油彩・カンヴァス。27.6×35.7センチ。番号は1894.1058。シカゴ美術館蔵。ジュール・デュプレ《道端の小屋、嵐の空》シカゴ美術館蔵

空に、顔が浮かぶ

九点のうち一点は、空そのものが主題である。

石版画で、画面は29.1×23.9センチ。

画面の中央に、大きな顔がある。

男の顔で、髭と口髭がある。

頭には、布らしいものを巻いている。

目は見開かれ、こちらを見ている。

顔の周りは、暗い斜線で埋められている。

その斜線は、上のほうで丸く渦を巻く。

つまり、この顔は空に浮かんでいる。

背景に、地面も建物もない。

画面の下に、文字が刷られている。

館の記録は、その文面を写している。

わが夢のなかで、私は空に神秘の顔を見た、という一文である。

上には、図版の番号も刷られている。

館の記述によれば、これは六枚組の一枚である。

十八世紀のスペインの画家への献辞として作られたという。

そして、六つの図は互いに関係がないように見える。

だが、まとめると内省と孤立を示す、と館は書いている。

わが夢のなかで、私は空に神秘の顔を見た
オディロン・ルドン《わが夢のなかで、私は空に神秘の顔を見た》1885年。館の記録では、中国紙に刷り網目紙に貼ったリトグラフ。画面29.1×23.9センチ。番号は1927.344.1。クリーヴランド美術館蔵。オディロン・ルドン《わが夢のなかで、私は空に神秘の顔を見た》クリーヴランド美術館蔵