板に描かれ、布に移された——マンテーニャ、ルーベンスほか九点
絵具の層を板から剥がし、新しい支持体に貼り直す。九点の技法の欄が、その処置を申告している。板から布へ、さらに布から硬質繊維板へ、二度移された一点もある。いま見ている表面の下にあるものを読みたい。大きい絵は布へ、小さい絵は硬い板へ。数字を並べると傾向が見える。

「板に描かれ、布に移された」
ナショナル・ギャラリー、ワシントンの技法の欄に、こういう書き方がある。
「板に油彩、布に移された」。
短い一行だが、内容は重い。
もとは板に描かれていた。
その絵具の層を、板から剥がして布に貼り直している。
支持体を、まるごと取り替えている。
前の回まで、切ったり、外したり、仕立て直したりする例を見てきた。
今回は、絵の下にあるものが入れ替わる例である。
そして、この処置を受けた絵は、記録の技法の欄でそのことを申告している。

縦長の画面である。
赤い衣の若い男性が、正面を向いて立っている。
腰に、青い布を巻いている。
右手に、細長い杖のようなものを持っている。
左手を腰に当てている。
足元は、緑の草地。
背後に、遠い風景がある。
丘と、小さな建物と、城壁。
そして、寸法の欄に変わった数字がある。
全体の横が五二・五センチ。
描かれた範囲の幅が四九センチ。
三・五センチの差がある。
つまり、支持体の縁に、絵の描かれていない部分がある。
剥がして、貼り直す
なぜ、こんな処置をするのか。
板は、動くからである。
木は、湿度によって伸び縮みする。
長い年月のうちに、反り、割れ、継ぎ目が開く。
その上に乗っている絵具の層も、一緒に割れる。
割れを止める方法は、いくつかある。
裏に桟を渡す。板を薄く削る。
そして最後の手段が、板を全部取り去ることである。
絵具の層だけを残し、新しい支持体に貼る。
十八世紀から二十世紀の半ばにかけて、この処置は広く行われた。
いまは、あまり行われない。
危険が大きいからである。

大きな一点である。
横一メートル七十センチ。
九点のなかで、二番目に大きい。
画面には、室内の場面がある。
中央に、横たわる裸の女性。
その髪に、別の女性が手を伸ばしている。
まわりに、女性が数人と、小さな子どもたち。
左に、白い柱と、階段。
右に、暗い戸口と、そこに立つ人物。
奥に、明るい光が差している。
これだけの大きさの板を、布に移す。
作業の規模を考えると、相当な仕事である。
移し先が、二通りある
九点の技法の欄を並べると、移し先が二種類あることが分かる。
布と、硬質繊維板である。
布に移されたものが四点。
硬質繊維板に移されたものが五点。
硬質繊維板は、木の繊維を圧縮して作った板である。
十九世紀の終わりから使われるようになった。
木のように反らず、割れにくい。
だから、移し先として選ばれた。

小さな画面である。
縦三七・三センチ、横四五・六センチ。
石造りの建物のなかである。
右に、青と赤の衣の女性が座っている。
膝の上に、白い布に包まれた赤ん坊。
左に、緑の衣の老人が立ち、身をかがめている。
背後に、開いた戸口。
その向こうに、岩山と、遠い城。
床は、灰色の石。
左に、木の柵らしいものがある。
板から硬質繊維板へ。
木から木へ、と言うこともできる。
しかし、性質はまったく違う。
一方は自然の木目を持ち、他方は均質である。
二度、移されている

九点でいちばん複雑な技法の欄である。
「硬質繊維板にテンペラ、布から移され、その布は板から移された」。
つまり、二度移されている。
板から布へ。
そのあと、布から硬質繊維板へ。
一度目の処置がいつ行われたかは、書かれていない。
二度目も同じである。
分かるのは、いま硬質繊維板の上にあるということだけである。
もとの板は、もう無い。
一度目の布も、もう無い。
絵具の層だけが、二度の引っ越しを経て残っている。
画面は小さい。
縦二四・二センチ、横一九・一センチ。
黒い帽子をかぶった男性が、真横を向いている。
赤茶の衣。
肌の色は明るく、輪郭がくっきりしている。
背景は、深い青である。
真横からの肖像は、前の回にも見た。
十五世紀のイタリアで、多く作られた形である。