画家を知る

顔は、一センチ半——ジョン・ラメイジ

縦四センチ半の肖像の中で、顔が占めるのは一センチ半ほどである。建国期のニューヨークで注文を受けた画家の九点を、金の枠に刻まれた線や軍服の描き分けまで含めて見ていく。手のひらに載る肖像が、当時どう使われたのかも考える。金の枠の刻みまで含めて見たい。

ギルバート・ヴァン・コートラント
ジョン・レイミッジ《ギルバート・ヴァン・コートラント》メトロポリタン美術館蔵

縦四センチ半の肖像

一枚の細密画から始めたい。

ギルバート・ヴァン・コートラント
ジョン・ラメイジ《ギルバート・ヴァン・コートラント》1785年ごろ。水彩・象牙。見える範囲で縦4.5センチ、横3.5センチ。メトロポリタン美術館蔵。フレッチャー基金、1934年購入。この作品は色のない画像で公開されている。ジョン・レイミッジ《ギルバート・ヴァン・コートラント》メトロポリタン美術館蔵

楕円形の画面である。

縦4.5センチ、横3.5センチ。

親指と人差し指で挟める大きさである。

その中に、男の胸像がある。

髪は白く、耳の上で丸く膨らむ。

顔はやや右を向き、目はこちらを見る。

首元には、白い布が幾重にも重なる。

その襞が、細かく描き分けられている。

上着は明るい色で、襟が折り返される。

背景は暗く、上のほうが明るい。

顔が、一センチ半

この画面で、顔の縦幅は一センチ半ほどである。

目は、三ミリに満たない。

その中に、瞳と白目が描かれる。

鼻は、影だけで示される。

口は、二本の短い線である。

つまり、極端な小ささである。

前回の記事で扱った細密画より、さらに小さい。

拡大鏡なしでは、描けない大きさだろう。

描いた人について

ジョン・ラメイジは、一七四八年ごろに生まれた。

アイルランドの出身とされる。

一八〇二年に、モントリオールで没した。

途中、北米各地で働いている。

とくに、独立後のニューヨークで細密画家として知られた。

つまり、建国期の人々を描いた画家である。

九点の顔ぶれも、その時期の人々である。

建国期の顔

九点に描かれた人物を整理したい。

州の知事、憲法の起草に関わった人物、商人、地主。

そして、その妻たち。

いずれも、一七八〇年代から九〇年代の人々である。

つまり、独立戦争のあとの世代である。

新しい国が形を整えていく時期にあたる。

その人々が、細密画を注文している。

軍装の人物

二点目は、色のある画像である。

ジョージ・クリントン知事
ジョン・ラメイジ《ジョージ・クリントン知事》1785年ごろ。水彩・象牙。縦4.4センチ、横3.5センチ。メトロポリタン美術館蔵。ヴィクター・ウィルバー記念基金、1959年購入。ジョン・レイミッジ《ジョージ・クリントン知事》メトロポリタン美術館蔵

金色の枠に、画面が収まっている。

枠の縁には、細かい刻みが並ぶ。

上部には、吊るすための輪が付く。

中には、男の胸像がある。

髪は白く、後ろでまとめる。

上着は淡い黄土で、襟と袖が濃い青である。

肩には、金色の房飾りが載る。

胸元には、白い布が重なる。

背景は、緑がかった灰である。

軍服という装い

黄土の上着に、青い襟と金の房飾り。

これは、当時の軍装である。

つまり、この人物は軍の職にあったことになる。

館の題では、知事とされている。

軍と行政の両方に関わった人物だろう。

細密画では、装いが立場を示す。

顔は一センチ半しかない。

そのぶん、衣の色と飾りが情報を担う。

金の枠に、刻みを入れる

枠の作りにも触れておきたい。

金色の縁に、斜めの刻みが規則正しく並ぶ。

光が当たると、その刻みが輝く。

つまり、枠そのものが装飾である。

細密画は、絵と枠が一組で作られる。

枠を作るのは、金細工師である。

画家と金工が、別々に仕事をする。

一つの品に、二つの職種が関わっている。

青い上着の男

三点目も、色がある。

グーリアン・ラドロー
ジョン・ラメイジ《グーリアン・ラドロー》1790年ごろ。水彩・象牙。縦4.9センチ、横3.2センチ。メトロポリタン美術館蔵。ロジャーズ基金、1926年購入。ジョン・レイミッジ《グーリアン・ラドロー》メトロポリタン美術館蔵

金色の枠に収まる。

枠の縁には、小さな粒が並ぶ。

中には、若い男の胸像がある。

髪は白く、耳の上で膨らむ。

顔は正面をやや外し、目はこちらを見る。

首元には、白い布が高く巻かれる。

その襞が、幾重にも重なる。

上着は濃い青で、襟が立つ。

背景は暗い緑である。

白い布の襞

九点に共通して、首元の白い布が目立つ。

男性の場合、これが最も面積の大きい明るい部分である。

顔と、白い布。

その二つが、暗い上着の中で光る。

つまり、明るい部分が二つに絞られている。

小さな画面では、この単純さが効く。

明るい部分が多いと、どこを見てよいか分からなくなる。

顔と襟だけを明るくする。

九点とも、この配分である。

対になる女性

四点目は、三点目の対である。

グーリアン・ラドロー夫人(マリア・ラドロー)
ジョン・ラメイジ《グーリアン・ラドロー夫人(マリア・ラドロー)》1790年ごろ。水彩・象牙。見える範囲で縦3.8センチ、横3センチ。メトロポリタン美術館蔵。ロジャーズ基金、1926年購入。この作品は色のない画像で公開されている。ジョン・レイミッジ《グーリアン・ラドロー夫人(マリア・ラドロー)》メトロポリタン美術館蔵

女性の胸像である。

髪は非常に大きい。

頭の上で高く盛り上がり、左右に広がる。

そして、巻き毛が肩まで垂れる。

顔は小さく、その髪に囲まれる。

胸元には、白い布が重なる。

背景は暗く、上部が明るい。

三点目と同じ年、同じ受け入れである。

髪を、大きく盛る

十八世紀後半の女性の髪型は、大きい。

頭の上で高く結い、両側へ広げる。

そして、後ろに巻き毛を垂らす。

この髪型は、細密画では扱いが難しい。

顔より髪の面積が大きくなるからである。

そのぶん、顔が小さくなる。

一方で、髪の描写が見せ場にもなる。

巻き毛の一つずつに、光と影を入れる。

三組の夫婦

九点のうち、六点は三組の夫婦の対である。

三点目と四点目。

六点目と七点目。

八点目と九点目。

いずれも、同じ年代の作である。

そして、多くは同じ受け入れで館に入っている。

つまり、対のまま伝わってきた。

細密画は、家の中で受け継がれる品である。

夫婦の対なら、なおさら一緒に残る。

同じ人物を、二つの大きさで

五点目は、別の記事とつながる。

イライジャ・ボードマン
ジョン・ラメイジ《イライジャ・ボードマン》1790年ごろ。水彩・象牙。縦5.2センチ、横3.5センチ。メトロポリタン美術館蔵。1989年寄贈。ジョン・レイミッジ《イライジャ・ボードマン》メトロポリタン美術館蔵

金色の枠に、画面が収まる。

中には、若い男の胸像がある。

髪は白く、大きく膨らむ。

上着は黄土色で、襟が立つ。

首元には、白い布が重なる。

背景は、鮮やかな青である。

九点の中で、最も明るい背景である。

さて、この人物には見覚えがあるかもしれない。

二メートルの肖像と、五センチの肖像

同じ人物を描いた大きな油彩がある。

当サイトの
背景に、商品と土地を描くで扱った一枚である。

縦210センチの全身像で、扉の奥に反物が積まれていた。

一七八九年の作である。

この細密画は、一七九〇年ごろ。

つまり、ほぼ同じ時期に、同じ人物が二つの肖像を注文している。

一方は壁に掛ける大作。

他方は、持ち歩く小品である。

用途の違い

同じ人物の二つの肖像は、用途が違う。

大きな油彩は、家の広間に掛ける。

訪れた人に見せ、家の格を示す。

細密画は、身に着ける。

あるいは、家族が手元に置く。

つまり、公と私の使い分けである。

一人の人物が、両方を注文する。

それだけの財力があったことも分かる。

背景の青

この細密画の背景は、明るい青である。

雲を思わせる白い部分もある。

つまり、空を示している。

暗い背景が主流だった時代に、これは目立つ。

理由は、いくつか考えられる。

明るい背景は、顔の輪郭を柔らかく見せる。

そして、若さや快活さの印象を与える。

九点のうち、明るい背景は三点である。

いずれも、比較的後年の作である。

赤い枠の一枚

六点目は、枠が変わっている。

ウィリアム・フュー
ジョン・ラメイジ《ウィリアム・フュー》1787年ごろ。水彩・象牙。縦5.6センチ、横4.6センチ。メトロポリタン美術館蔵。デイル・T・ジョンソン基金、2006年購入。ジョン・レイミッジ《ウィリアム・フュー》メトロポリタン美術館蔵

金色の枠の内側に、赤い帯が入る。

その赤は、透明な石か、色硝子だろう。

つまり、二重の枠になっている。

中には、男の胸像がある。

髪は白く、高く膨らむ。

上着は濃い青で、金色の刺繍が入る。

首元には、白い布と襞飾りが重なる。

背景は、緑がかった灰である。

九点の中で、最も大きい。

枠に、色を入れる

赤い帯の枠は、装飾として効く。

金と赤の対比が、画面を引き締める。

そして、絵の中の青と補い合う。

つまり、枠の色まで含めて設計されている。

細密画は、絵だけを見るものではない。

枠、硝子、留め具、そして箱。

すべてが一組で、持ち主の手に渡る。

美術館の画像に枠が写っているのは、そのためでもある。

真珠で囲む

七点目は、六点目の対である。

ウィリアム・フュー夫人(キャサリン・ニコルソン)
ジョン・ラメイジ《ウィリアム・フュー夫人(キャサリン・ニコルソン)》1787年。水彩・象牙。縦3.8センチ、横3.1センチ。メトロポリタン美術館蔵。グロリア・マニー寄贈、2006年。ジョン・レイミッジ《ウィリアム・フュー夫人(キャサリン・ニコルソン)》メトロポリタン美術館蔵

金色の枠の周りに、真珠が並ぶ。

小さな真珠が、二十個ほど。

つまり、宝飾品としての仕立てである。

中には、女性の胸像がある。

髪は大きく盛り上がり、右へ巻き毛が垂れる。

衣は白く、胸元が開く。

肩には、薄い布が掛かる。

背景は、明るい灰である。

肩に掛かる薄い布

九点の女性像には、肩に薄い布が掛かるものが多い。

胸元を覆う、あるいは肩から流す布である。

当時の装いの一部である。

この布は、描くのが難しい。

下の衣や肌が透けて見えるからである。

薄く塗り、下の色を残す。

そして、縁だけを白い線で示す。

象牙の上では、この重ねが効く。

材料が薄く透けるので、布の透明感と相性がよい。

対でも、大きさが違う

六点目と七点目を比べたい。

夫の画面は、縦5.6センチ。

妻の画面は、縦3.8センチ。

つまり、大きさが違う。

前回扱った別の画家の対では、寸法が揃っていた。

ここでは、揃っていない。

理由は分からない。

別々に注文された可能性もある。

館の記録も、年代をわずかに分けている。

真珠という素材

真珠で囲む仕立ては、細密画によく見られる。

理由は、色の相性だろう。

真珠の白は、肌の色と近い。

そして、金の枠とも合う。

さらに、真珠は小さくて軽い。

身に着ける品に向いている。

もっとも、費用は上がる。

つまり、この仕立てを選べる層は限られる。

枠の作りが、注文主の階層を示している。

最も小さい一枚

八点目は、九点の中で最も小さい。

ジェームズ・ブリーカー
ジョン・ラメイジ《ジェームズ・ブリーカー》1788年ごろ。水彩・象牙。高さ2.9センチ。メトロポリタン美術館蔵。ジェームズ・アンド・ジュヌヴィエーヴ・ブリーカー寄贈、2003年。この作品は色のない画像で公開されている。ジョン・レイミッジ《ジェームズ・ブリーカー》メトロポリタン美術館蔵

高さ2.9センチ。

三センチに満たない。

一円玉より、わずかに大きい程度である。

その中に、男の胸像がある。

髪は白く、耳の上で膨らむ。

首元には、白い布が重なる。

上着は暗く、襟が立つ。

枠の縁には、細かい刻みが放射状に並ぶ。

背景は暗い。

三センチに、顔を描く

この大きさでは、顔は一センチに満たない。

目は、一ミリか二ミリである。

その中に、瞳を入れる。

筆の先は、髪の毛ほどの太さだろう。

そして、絵具は水彩である。

にじめば、顔が崩れる。

つまり、水の量まで管理する必要がある。

技術としては、極端な部類に入る。

なぜ、これほど小さくするか

小さくする理由は、用途である。

指輪に嵌める、時計の蓋に付ける、髪飾りにする。

いずれも、極端に小さい枠に収める必要がある。

そして、小さいほど費用は安くなる。

象牙も絵具も、少なくて済む。

もっとも、描く手間は減らない。

むしろ増える。

小さい肖像が安いとは限らない。

対の妻

九点目は、八点目の対である。

ジェームズ・ブリーカー夫人(エリザベス・ガーランド・バッシュ)
ジョン・ラメイジ《ジェームズ・ブリーカー夫人(エリザベス・ガーランド・バッシュ)》1788年ごろ。水彩・象牙。縦4.8センチ、横4.1センチ。メトロポリタン美術館蔵。2002年寄贈。ジョン・レイミッジ《ジェームズ・ブリーカー夫人(エリザベス・ガーランド・バッシュ)》メトロポリタン美術館蔵

金色の枠に、真珠のような粒が並ぶ。

上部には、吊るすための輪が付く。

中には、女性の胸像がある。

髪は茶で、大きく膨らむ。

顔は正面をやや外し、目はこちらを見る。

衣は白く、胸元が開く。

肩から、薄い布が垂れる。

背景は、青灰と白である。

夫の画面より、はるかに大きい。

同じ家から、二年に分けて

八点目と九点目は、同じ姓の寄贈者による。

二〇〇二年と、二〇〇三年である。

つまり、一年ずれて館に入っている。

寄贈者の姓は、描かれた人物の姓と同じである。

子孫だろう。

つまり、二百年以上、家に伝わっていた。

そして、二回に分けて館へ寄せられた。

細密画の来歴としては、理想的な形である。

家に伝わるということ

細密画は、家財として受け継がれる。

肖像画のように、壁に掛けるものではない。

引き出しにしまい、必要なときに出す。

そして、相続で次の世代へ渡る。

その過程で、誰の顔かが忘れられることもある。

一方、名前が伝われば、確実に残る。

九点の多くに人名が付いているのは、家に伝わったからである。

館の題が具体的なのは、その結果である。

九点の寸法

寸法を整理したい。

最も小さいのが、高さ2.9センチ。

最も大きいのが、縦5.6センチ。

つまり、いずれも五センチ前後である。

前回扱った画家の細密画は、縦六センチから九センチだった。

つまり、こちらのほうが小さい。

時代の差だろう。

十八世紀の細密画は、より小さい。

十九世紀に入ると、大きくなる傾向がある。

大きさが、変わっていく

なぜ、大きくなるのか。

一つは、用途の変化である。

身に着けるものから、机に置くものへ。

もう一つは、技法の変化である。

象牙を薄く挽く技術が上がり、大きな板が取れるようになった。

そして、描き方も変わる。

点と面で描くようになると、面積が要る。

小さすぎると、階調が作れない。

技法と用途が、大きさを決めている。

九点の年代

年代を並べたい。

一七八五年ごろが二点。

一七八七年が二点。

一七八八年ごろが二点。

一七九〇年ごろが三点。

つまり、五年ほどに集中している。

画家がニューヨークで最も忙しかった時期だろう。

独立戦争が終わり、新しい国が動き出す。

その時期に、肖像の需要が高まった。

戦争の後の需要

独立戦争は、一七八三年に終わっている。

九点の年代は、その直後である。

戦争が終われば、人は落ち着く。

家庭を作り、財を築き、記録を残そうとする。

肖像画の需要は、そういう時期に伸びる。

そして、細密画は手ごろな選択肢だった。

大きな油彩より安く、速い。

九点の集中は、その事情を反映しているだろう。

背景の作り方

九点の背景を見比べたい。

暗い緑や灰が四点。

明るい青や灰が三点。

そして、色のない画像で判断できないものが二点。

つまり、暗い背景と明るい背景が混ざっている。

年代でいえば、暗いほうがやや早い。

これも、時代の傾向に沿う。

十八世紀は暗く、十九世紀は明るくなる。

九点は、その移行の途中にある。

象牙という材料

九点の技法は、すべて水彩・象牙である。

前回の記事でも書いたとおり、象牙は象の牙から作られる。

十八世紀から十九世紀にかけて、大量に取引された。

その供給は、植民地での資源の収奪と結びついている。

現在、国際取引は厳しく制限されている。

つまり、いま同じ材料では作れない。

美術館にある細密画は、その時代の産物である。

材料の来歴も、作品の一部として知っておきたい。

画家の移動

ラメイジの経歴を、もう一度見たい。

アイルランドに生まれ、北米へ渡る。

そして、ニューヨークで働き、最後はモントリオールで没する。

つまり、大西洋を越え、さらに北へ移動している。

十八世紀の画家には、こうした移動が多い。

需要のある土地を探して、動く。

そして、その土地の人々を描く。

九点は、その移動の一時期の記録である。

独立戦争と、画家の立場

もう一つ、書いておきたいことがある。

独立戦争の時期、画家も立場を選ばされた。

英国側に付くか、独立側に付くか。

その選択が、戦後の仕事に影響する。

ラメイジについては、記録が乏しい。

分かるのは、戦後のニューヨークで注文を得ていたことである。

そして、最終的にカナダへ移っている。

その移動の理由も、記録には残っていない。

九点の受け入れ年

来歴を整理したい。

一九二六年が二点、一九三四年、一九五九年。

一九八九年、二〇〇二年、二〇〇三年、二〇〇六年が二点。

つまり、八十年にわたって集まっている。

前半は基金による購入、後半は寄贈が多い。

細密画への関心が高まったのは、二十世紀後半である。

その時期に、寄贈と購入が増えている。

九点の受け入れ年は、その変化を映している。

色のない画像で見る

九点のうち、三点は色のない画像で公開されている。

いずれも古い記録写真とみられる。

細密画では、色が重要な要素である。

一方で、白黒だと形がよく見える。

髪の巻き、襟の襞、顔の輪郭。

色に邪魔されずに、線と明暗だけを追える。

九点のうち、色のあるものと、ないもの。

その両方を並べると、それぞれの見え方の違いが分かる。

硝子の下の絵

細密画は、硝子で覆われている。

そのため、画像には反射が写ることがある。

九点のいくつかにも、うっすらと光の帯が見える。

硝子は、作品を守るために欠かせない。

象牙は湿気で反り、水彩は擦れて落ちる。

だから、密閉に近い形で収める。

一方で、硝子越しでは細部が見にくい。

展示でも、撮影でも、この制約がついて回る。

九点を、順に見る

見方を提案して、終わりたい。

九点の枠を、順に見比べてほしい。

刻みの入った金の縁。

粒を並べた縁。

赤い帯を挟んだ二重の枠。

そして、真珠で囲んだもの。

つまり、四種類の仕立てがある。

絵は同じ画家が描いた。

枠は、それぞれ別の金細工師が作っただろう。

その仕立ての差が、注文主の好みと財力を示す。

絵を見た後で、枠を見てほしい。

そこにも、依頼した人の姿がある。

絵と枠は、一組で注文された品である。

手に取る前提で、すべてが作られている。

重さも、指の当たりも、計算のうちである。

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