画家を知る

注文の肖像と、そうでない絵——ジョン・シンガー・サージェント

九点は二つに分かれる。人の名が題になる大きな肖像が五点、地名や神話の名が題になる小さな絵が四点である。大きさ、筆の速さ、中心の有無。条件の差が画面をどう分けるのかを見たい。同じ家から続けて注文が来る点にも触れる。

舗床、カイロ
ジョン・シンガー・サージェント《舗床、カイロ》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

二つの仕事が、並んでいる

九点を並べると、性格が二つに分かれる。

一つは、人物の名が題に入る肖像である。五点ある。

もう一つは、場所や主題の名が題になる絵である。四点ある。

前者は注文で描かれたもの、後者はそうでないものだと考えられる。

同じ画家の作でありながら、作りも大きさもまったく違う。

この画家は、肖像画家として名を上げた人である。

同時代の富裕な家から注文が続き、数百点の肖像を描いたと伝えられる。

その一方で、注文のない絵も描き続けていた。九点はその両方を含む。

肖像の五点

肖像の五点は、いずれも人物の名が題になる。

女性が五人で、うち二人は同じ姓を持つ。

もう二組も、姓が重なる。同じ家の複数の人が描かれている。

年は1882年から1907年に及ぶ。二十五年の幅がある。

いずれも大きな画面である。四点は縦150センチを超える。

肖像の題には、いずれも敬称や続柄が付く。

未婚の女性には嬢、既婚の女性には夫人と、括弧で夫の名が添えられる。

当時の呼び方が、そのまま記録に残っている。

呼び方は、その人の立場を示す情報でもあった。

そうでない四点

残る四点の題には、人の名がない。

街の名、木の根、峠の名、そして神話の名である。

年は1891年から1919年ごろまで。肖像の時期と重なる。

つまり、肖像をやめてから始めた仕事ではない。並行して続いていた。

ただし、後期になるほど、こちらの比率が増える。

肖像の注文は、体力も時間も要る。長時間、人を座らせる。

年を重ねれば、その仕事は重くなる。

九点のうち、1907年より後の三点は、いずれも肖像ではない。

偶然かもしれないが、傾向としては読み取れる。

大きさの差

九点の寸法を並べると、二つの群がはっきり分かれる。

肖像の四点は、縦150センチから163センチである。

そうでない四点は、縦48センチから83センチである。

面積では、三倍から八倍の差になる。

大きな画面は注文で作られ、小さな画面は自分のために描かれている。

大きな画面には、費用がかかる。布も絵具も額も要る。

注文があるから作れる寸法である。

小さな画面なら、自分の判断で始められる。失敗しても損は小さい。

寸法は、その絵がどういう条件で始まったかを示している。

舗床、カイロ
ジョン・シンガー・サージェント《舗床、カイロ》1891年。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦48.3センチ、横58.4センチとされる。額を含むと、縦68.6センチ、横78.7センチ、奥行き7センチになる。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ジョン・シンガー・サージェント《舗床、カイロ》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

九点で最も小さい一点である。

画面の下半分に、石を組んだ床が広がる。

床には、幾何学の模様が敷き詰められる。円、六角形、帯が並ぶ。

石の色は白、赤、緑、褐色である。

上半分には、建物の壁と入口がある。尖った形の門がいくつも並ぶ。

門の奥は暗い。中は見えない。

上部には、細い棒のようなものが横に渡る。灯りを吊るす仕掛けだと思われる。

人物は一人もいない。

光は上から差し、床の一部を明るくする。

床の模様は、幾何学の繰り返しである。曲線と直線が組み合う。

その模様を、遠近に合わせて歪ませて描いている。

奥へ行くほど、模様は詰まる。床の傾きが伝わる。

模様を正しく歪めるのは、手間のかかる仕事である。

場所の名が、題になる

そうでない四点のうち三点は、地名が題になる。

舗床とカイロ、木の根とヴァルデモサ、そして峠の名である。

いずれも、何を描いたかと、どこで描いたかを並べる形式である。

肖像の題には、場所が入らない。人の名だけである。

題の作りが、二つの仕事をはっきり分けている。

人のいない画面

そうでない四点のうち、三点には人物が出てこない。

床、木の根、山と川である。

肖像画家として知られる人が、人のいない画面を繰り返し描いている。

注文がなければ、人を描く必要がない。

九点の比率は、その事情を示している。

野生のオリーブの根、ヴァルデモサ、マヨルカ
ジョン・シンガー・サージェント《野生のオリーブの根、ヴァルデモサ、マヨルカ》1908年。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦55.8センチ、横71.1センチとされる。額を含むと、縦80.7センチ、横96.5センチ、奥行き5.4センチになる。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ジョン・シンガー・サージェント《野生のオリーブの根、ヴァルデモサ、マヨルカ》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

画面のほとんどを、木の根が占める。

根は太く、地面の上でうねる。

樹皮は灰色と褐色で、割れ目が深い。

その根のあいだから、細い枝が上へ伸びる。

葉は小さく、緑と灰色が混ざる。

地面は乾いた土で、石が転がる。

画面の下部に、白い石が数個ある。

空はほとんど見えない。上部にわずかな明るさがある。

構図の中心がなく、全面に同じ密度で描かれる。

旅先で描く

そうでない四点の題を見ると、地名が三つ入る。

エジプトの街、地中海の島、アルプスの峠である。

いずれも、旅の途中で描かれたと考えられる。

旅先では、注文の相手がいない。誰にも合わせなくてよい。

その自由が、画面の作りに出ている。

中心のない画面

肖像には、必ず中心がある。顔である。

いま見た一点には、その中心がない。

どこを見ても同じ密度で、目が止まる場所が決まらない。

これは、注文の絵では成り立ちにくい作りである。

自分のために描く絵だからこそ、こうした画面が許される。

シンプロン峠
ジョン・シンガー・サージェント《シンプロン峠》1911年。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦71.8センチ、横92.6センチとされる。額を含むと、縦92.1センチ、横112.7センチ、奥行き8.9センチになる。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ジョン・シンガー・サージェント《シンプロン峠》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

そうでない四点のなかで、最も大きい一点である。

画面の上部に、山の稜線が横に走る。

山肌は紫と褐色で、頂の近くに雪が残る。

その手前に、緑の斜面が広がる。

斜面には、大きな岩がいくつも露出する。灰色と褐色である。

画面の左下に、白い水が流れる。細い滝である。

水は岩のあいだを縫って落ちる。

右下には、白い石が積み重なる。

空は青く、白い雲が大きく盛り上がる。

岩と水

この一点では、岩と水が主題になる。

岩は角ばり、光を強く返す。白い部分と暗い部分がはっきり分かれる。

水は白く、細い筋になって落ちる。

どちらも、形が定まらないものである。岩は複雑で、水は動く。

そうしたものを速い筆で捉えることに、関心が向いている。

屋外で描く

この一点は、その場で描かれたと考えられる。

筆が速く、絵具が厚い。塗り重ねが少ない。

画面の大きさも、持ち運べる範囲に収まる。

肖像の大画面は、画室で描く。屋外へは持ち出せない。

大きさの差は、描く場所の差でもある。

アポロンとダフネ
ジョン・シンガー・サージェント《アポロンとダフネ》1916年から1919年ごろ。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦82.55センチ、横73.34センチとされる。額を含むと、縦88.27センチ、横78.11センチ、奥行き7.62センチになる。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ジョン・シンガー・サージェント《アポロンとダフネ》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

九点で唯一、神話の場面を描いた一点である。

左に、裸の男が走る。上体をひねり、両腕を上げる。

肩から、淡い黄の布が長くなびく。

右には、裸の女が立つ。両腕を上へ伸ばす。

その腕の先から、緑の葉が広がる。

女の下半身は、木の幹に変わりかけている。

背景は青く、平らに塗られる。

下部には、褐色の岩と地面がある。

画面の四辺には、地の色が残る。塗り切っていない。

塗り残しの縁

この一点の四辺には、絵具の塗られていない部分がある。

布の地が見える。額に入れれば隠れる範囲である。

試作なら、そこまで塗る必要がない。

仕上げの絵では、縁まで塗ることが多い。

塗り残しは、その絵の段階を示す手がかりになる。

壁画のための習作

この一点は、大きな壁画のための試作だと考えられる。

晩年のこの画家は、図書館や美術館の壁画を手がけた。

壁画は、注文ではあるが肖像ではない。

顔を似せる必要がなく、物語を組み立てる仕事になる。

九点のうち、この一点だけがその系統に属する。

ビアトリス・タウンゼンド嬢
ジョン・シンガー・サージェント《ビアトリス・タウンゼンド嬢》1882年。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦79.4センチ、横58.4センチとされる。額を含むと、縦97.8センチ、横74.1センチ、奥行き3.2センチになる。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ジョン・シンガー・サージェント《ビアトリス・タウンゼンド嬢》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

九点で最も早い年の肖像である。

少女が立つ。膝から上が入る。

衣は黒で、腰に赤い帯を締める。

胸元には、白いレースの襟が大きく広がる。

首には赤い珠の飾りが二重に巻かれる。

髪は褐色で、前髪をまっすぐ切りそろえる。

右腕に、小さな犬を抱える。毛が長く、灰色である。

犬はこちらを見る。目が黒い。

背景は褐色で、平らである。上部に署名らしい文字がある。

犬という道具

この一点では、少女が犬を抱いている。

犬は、子どもの肖像によく出てくる持ち物である。

同時に、腕の位置と画面の下部を埋める役をする。

何も持たなければ、手の置き場に困る。

小さな動物は、構図の上でも便利な道具である。

二十五年の幅

肖像の五点を年順に並べると、変化が見える。

最初の一点は、膝から上の画面である。背景は無地に近い。

二番目以降は、全身を描く大画面になる。

背景にも、赤い幕、椅子、空が入る。

注文の規模が大きくなっていることが、画面から読める。

グレース・ウッドハウス嬢
ジョン・シンガー・サージェント《グレース・ウッドハウス嬢》1890年。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦162.9センチ、横94センチとされる。額を含むと、縦177.5センチ、横108.3センチになる。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ジョン・シンガー・サージェント《グレース・ウッドハウス嬢》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

女性が全身で立つ。縦は1.6メートルを超える。

衣は淡い桃色で、床まで届く。

袖は短く、肩から腕が出る。

腰には大きな結びがあり、布が後ろへ流れる。

両手を胸の前で合わせる。指が細い。

手には白い花を持つ。

髪は上でまとめられ、額の上でふくらむ。

背景は暗い褐色で、何も描かれない。

布の光沢が、画面の主な見どころになっている。

立ち姿の四点

肖像の五点のうち、四点は立った姿である。

座っているのは、年配の一点だけである。

立ち姿は、全身の線が長く見える。衣の垂れ方も生きる。

座らせると、衣が畳まれる。かわりに落ち着きが出る。

姿勢の選び方も、描かれる人の年齢や立場と関わっている。

布を描く

肖像の五点では、衣の描写に手数が集まる。

絹の光沢、レースの透け、帯の張り。いずれも細かい。

顔と手も描かれるが、面積では衣のほうが大きい。

依頼した側にとって、衣は財の表れでもある。

肖像が家の資産として扱われた事情については、肖像は、家の資産だった——ジョン・シンガー・サージェントに書いた。

エレン・ピーボディ・エンディコット
ジョン・シンガー・サージェント《エレン・ピーボディ・エンディコット》。館の題には夫の名が括弧で添えられる。1901年。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦162.9センチ、横114.3センチとされる。額を含むと、縦189.2センチ、横141.6センチ、奥行き7.6センチになる。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ジョン・シンガー・サージェント《エレン・ピーボディ・エンディコット》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

年配の女性が椅子に座る。全身が入る。

衣は黒で、裾が床に広がる。

胸元には、白いレースが幾重にも重なる。

袖口にも白い襞が出る。

髪は白く、頭の上でまとめられる。

椅子は淡い色の布張りで、木の枠が金色である。

左には、赤い幕が垂れる。右にも赤い布が見える。

手前の左に、小さな円い卓がある。上に本が積まれる。

床は薄い色で、椅子の影が落ちる。

黒という色

この一点の衣は黒である。

黒は、年配の女性の装いとして選ばれることが多い。

同時に、白いレースを引き立てる。対比が強く出る。

画面の中で、黒は面として働く。形が単純になる。

その単純な面の上に、レースの細かい模様が置かれる。

家具が、身分を示す

いま見た一点では、椅子と卓が丁寧に描かれる。

金色の枠、布張りの模様、卓の上の本。

いずれも、その家の暮らしを示す道具である。

人物だけを描けば、身分は分からない。

家具を入れることで、絵は肖像であると同時に家の記録になる。

メアリー・エンディコット・チェンバレン
ジョン・シンガー・サージェント《メアリー・エンディコット・チェンバレン》。館の題には夫の名が括弧で添えられる。1902年。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦150.5センチ、横83.8センチとされる。額を含むと、縦163.51センチ、横96.52センチ、奥行き8.89センチになる。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ジョン・シンガー・サージェント《メアリー・エンディコット・チェンバレン》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

女性が全身で立つ。体はわずかに右を向く。

衣は白で、上に淡い青の布が重なる。

袖はふくらみ、肩の位置が高い。

胸元は開き、細い紐が結ばれる。

腰から下は白い布が広がる。床まで届く。

右手に、たたんだ扇のようなものを持つ。

髪は褐色で、頭の上でまとめられる。

背景は淡い灰褐色で、平らに塗られる。

前の一点と、姓が重なる。同じ家の人物である。

白い衣

肖像の五点のうち、三点で女性は白に近い衣を着る。

白は、光をよく返す。画面の中で最も明るい面になる。

暗い背景と組み合わせれば、人物が強く浮かぶ。

同時に、布の襞や光沢を描く腕の見せどころにもなる。

九点の肖像で、最も手数が集まるのは白い布の部分である。

同じ家の二人

九点の肖像には、姓の重なる組が二つある。

一組は、母と娘だと考えられる。年は一年しか離れていない。

もう一組も、同じ姓の二人である。こちらは二十五年離れている。

同じ家が、同じ画家に繰り返し注文している。

肖像画家の仕事は、家単位で来ることが多い。

マティルド・タウンゼンド嬢
ジョン・シンガー・サージェント《マティルド・タウンゼンド嬢》1907年。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦152.7センチ、横101.6センチとされる。額を含むと、縦182.9センチ、横132.1センチ、奥行き15.2センチになる。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ジョン・シンガー・サージェント《マティルド・タウンゼンド嬢》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

九点の肖像で、最も遅い年の一点である。

女性が全身で立つ。体を右へひねる。

衣は白で、上半身に淡い青の布が重なる。

腰から下には、桃色の大きな布が巻かれる。

その布は右へ大きく流れ、床に届く。

両手は体の前で組まれる。

髪は褐色で、頭の上でふくらむ。

背景は空である。青と白の雲が大きく描かれる。

屋外に立っているようにも、背景だけが空のようにも見える。

背景が、空になる

肖像の五点のうち、背景に空が描かれるのはこの一点だけである。

ほかの四点は、暗い室内か、無地の面である。

空を背景にすると、人物が明るく浮かぶ。

同時に、場所が特定できなくなる。どこでもない場所になる。

装飾としての効果を優先した背景だと考えられる。

額の奥行き

九点のうち八点には、額の寸法が記録されている。

奥行きは3.2センチから15.2センチまで幅がある。

最も厚い額は、最も遅い肖像に付く。15.2センチある。

壁からかなり張り出す。大きな部屋を想定した額である。

額の数字は、飾られる場所の条件を映している。

署名の位置

九点の画像を見ると、署名らしい文字が右上か左上にある。

肖像では、背景の暗い部分に薄く書かれる。

そうでない四点では、署名が見当たらないものもある。

売るための絵には署名が要る。自分のための絵には要らない。

署名の有無も、その絵の目的を示す手がかりになる。

注文と、そうでないもの

九点を通して見ると、二つの仕事の差がはっきりする。

注文の肖像は、大きく、丁寧で、中心がある。

そうでない絵は、小さく、速く、中心がない。

どちらも同じ手が描いている。技術の差ではない。

条件の差が、画面の作りを分けている。

顔と、顔でないもの

肖像では、顔を似せなければならない。

そこに失敗があれば、絵は受け取ってもらえない。

木の根や岩には、そうした要求がない。

似ているかどうかを問う人がいない。

自由に描けるのは、確かめる人がいないからでもある。

速さの差

九点の筆づかいを比べると、速さに差がある。

肖像の顔や手は、丁寧に塗り重ねられる。

木の根や岩は、一度で置かれた筆が多い。

早く描くのは、対象が動くからでも、光が変わるからでもある。

屋外では、時間が限られる。その条件が筆の速さを決めている。

同じ画家の、二つの時間

九点の年を並べると、二つの流れが並行している。

1882年から1907年にかけて、肖像が続く。

1891年、1908年、1911年、1916年ごろに、そうでない絵が挟まる。

肖像の合間に旅をし、その先で小さな画面を描く。

そういう働き方が、九点の年の並びから読める。

記録の統一

九点はすべて、同じ館に所蔵されている。

そのため、記録の書き方がそろっている。額の寸法も同じ形式である。

比べるには都合がよい。書式の違いを気にしなくてよい。

一方で、これはこの館が集めた範囲にすぎない。

同じ画家の水彩や壁画は、この九点には入っていない。

肖像の値段

肖像は、注文で描かれる以上、値段がある。

大きさと人数で決まるのが、当時の慣例だった。

九点の肖像はいずれも一人で、大きさは縦79センチから163センチである。

小さい一点と大きい一点では、値も大きく違ったはずである。

もっとも、館の記録には値段の情報がない。ここでは推測にとどめる。

二つを、並べて見る

美術館の展示では、肖像と風景は別の部屋に置かれることが多い。

主題が違えば、並べにくいからである。

しかし同じ画家の作なら、並べたときに見えるものがある。

大きさの差、筆の速さの差、中心の有無。

九点を並べたのは、その差を見るためである。

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