美術史・技法

何歳のとき、と絵に書き添える——ヴァン・ダイク《ウォートン卿》ほか八点の肖像

十九歳。二十歳。四十三歳。八十四歳。九点の肖像には、描かれた人のそのときの齢が書き込まれている。ラテン語、英語、オランダ語と言葉は違っても、書かれる中身は同じである。齢を絵に残すという習慣を読みたい。

クアラテージ家の一員の肖像
フランス、16世紀《クアラテージ家の一員の肖像》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

絵に、その人の齢が書いてある

肖像画を九点、銘記の欄で並べてみる。

九点とも、画面のどこかに数が書かれている。

年ではない。

描かれた人の、そのときの齢である。

十九歳。二十歳。二十四歳。三十四歳。

三十五歳。四十三歳。五十四歳。八十四歳。

もう一点は、生まれた年と描かれた月が書かれる。

引き算をすれば、齢が出る。

つまり九点とも、齢が分かる形になっている。

齢を書くのは、誰のためか

肖像画は、注文して描かせるものである。

注文主は、たいてい描かれる本人か、その家族だ。

出来上がった絵は、家に掛けられる。

やがて子や孫の代になる。

そのころには、描かれた人は亡くなっている。

絵だけが残る。

そのとき、齢が書いてあると助かる。

いつの姿か分かるからだ。

年だけでは、その人が何歳だったか分からない。

齢が書いてあれば、生まれた年も逆算できる。

つまり、これは家の記録の一部である。

年だけでは、足りない理由

年が書いてあれば、それでよさそうに思える。

しかし、年だけでは分からないことがある。

いつ生まれた人か。

亡くなったのは何歳か。

同じ名の親子がいるとき、どちらか。

家の系図をたどるとき、必要になるのはそこである。

齢が書いてあれば、生まれた年が出る。

生まれた年が出れば、系図と照らせる。

照らせれば、誰の肖像かが確かめられる。

肖像画は、飾りであると同時に記録だった。

記録としての役目が、齢の数字に集まっている。

だから、名よりも先に齢が書かれることさえある。

九点のうち三点が、そういう並びである。

ラテン語で書く型

九点のうち四点は、ラテン語で齢を書く。

齢を表す語のあとに、数を置く。

その前後に、点を打つことが多い。

数は、いま使う数字のこともある。

古い書き方の文字のこともある。

そのあとに、年号を示す語と年が続く。

この型は、十六世紀から十八世紀まで続く。

国も言葉も違うのに、書き方は似ている。

ラテン語が、共通の書式だったからだろう。

その年の齢、という言い方

四点のうち一点は、言い方がやや長い。

その人の齢の年において、という形になる。

さらに、そのあとに年が続く。

つまり、二つの時を重ねて言っている。

その人の三十四年目であり、暦の1561年である。

回りくどいが、意味は明確だ。

館の記録は、この長い言い方をそのまま写す。

短くまとめたりはしない。

言い回しの違いも、時代と地域の癖を示すからだ。

クアラテージ家の一員の肖像
フランス、16世紀《クアラテージ家の一員の肖像》1561年。館の記録では、おそらく樫の板に油彩。縦103.5センチ、横87センチ。銘記の欄には、左上に齢と年が二行で書かれているとある。番号は1991.14.1。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。フランス、16世紀《クアラテージ家の一員の肖像》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

男性が、身体を斜めにして立つ。

黒い上着に、黒い高い襟。

首元に、白い襞襟が細く出る。

短い顎髭をたくわえる。

顔は正面より少し右を向く。

右手を腰に当てる。

左手に、白い手袋を持つ。

左手前に、低い台がある。

台の上に、小さな丸い箱が置かれる。

右上に、色のついた紋章が浮かぶ。

左上の暗い部分に、二行の文字がある。

齢の位置は、どこか

九点の齢の位置を、並べてみる。

左上が三点。

右下が三点。

左下が二点。

裏が一点。

隅に集まっている。

これは署名と同じ傾向である。

つまり、齢も署名と同じ扱いを受けている。

絵の一部ではあるが、場面の一部ではない。

だから、場面の邪魔にならない場所に置く。

ただし一点だけ、書物の上に題が書かれた例がある。

そちらは場面の中の文字だ。

同じ絵の裏に、齢がある。

一枚の絵に、二種類の文字が同居している。

英語で書く型

九点のうち一点は、英語で書かれている。

しかも、書き方がくだけている。

およそ十九歳のころ、という言い方だ。

正確な齢ではない、と言っている。

こういう例は珍しい。

多くの肖像は、齢を言い切る。

言い切れないなら、書かなければよい。

それでも書いたのは、だいたいでも記したかったからだろう。

館の記録は、およそ、という語まで写す。

一語落とせば、意味が変わる。

フィリップ、ウォートン卿
アンソニー・ヴァン・ダイク《フィリップ、ウォートン卿》1632年。館の記録では、カンヴァスに油彩。縦133センチ、横106センチ。銘記の欄には、左下に画家の名、右下に人物の名と年、およそ十九歳のころという語があるとある。番号は1937.1.50。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。アンソニー・ヴァン・ダイク《フィリップ、ウォートン卿》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

若い男性が、身体を左に向けて立つ。

金色の絹の衣を、腰に巻きつける。

上は褐色で、袖が膨らむ。

袖口から、白い布がのぞく。

右手を腰に当てる。

左手で、長い杖を握る。

杖の先は、地面に触れる。

髪は肩まで巻き、額に垂れる。

背後の左に、大きな木の幹がある。

右に、緑の布が高く垂れる。

左下と右下に、それぞれ文字がある。

三つの言葉が、同じことを書く

九点の言葉を数えておく。

ラテン語が四点。

英語が一点。

オランダ語が一点。

英語で名だけを書き、齢を数字で足すものが三点。

言葉は違うが、書いていることは同じである。

誰で、何歳で、いつか。

三つの要素は変わらない。

変わるのは、語順と語尾だけだ。

これは、書式が広く共有されていたということである。

肖像画は、国をまたいで同じ形式を持っていた。

注文する側も、読む側も、その形式を知っていた。

だから、短く書いても通じた。

オランダ語で書く型

九点のうち一点は、オランダ語で書かれる。

しかも、齢ではなく生まれた日を書く。

日、月、年まで入る。

そのあとに、描かれた月と年が続く。

つまり、引き算をすれば齢が出る形だ。

書かれた場所は、十八世紀のアメリカである。

そこには、オランダから移った人々が住んでいた。

家では、まだオランダ語を使っていた。

だから、絵の文字もオランダ語になる。

言葉は、移った先でしばらく残る。

その残り方が、絵の隅に出ている。

スザンナ・トゥルークス
ガンズヴォート・リムナー、おそらくピーテル・ファンダーリン《スザンナ・トゥルークス》1730年。館の記録では、寝具用の縞布に油彩。縦95.9センチ、横83.8センチ。銘記の欄には、左上にオランダ語で名と生まれた日、描かれた月と年が三行で書かれているとある。番号は1980.62.31。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ガンズヴォート・リムナー、おそらくピーテル・ファンダーリン《スザンナ・トゥルークス》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

少女が、正面を向いて立つ。

縞の入った服を着る。

縞は赤と緑と白で、縦に走る。

裾が大きく広がり、床に届く。

袖はふくらみ、肘から下が細い。

右手を上げ、小さな花をつまむ。

左手に、赤い花を持つ。

首に、細い鎖と飾りが下がる。

左に、小さな机がある。

机の上に、白い急須と器が並ぶ。

左上の壁に、三行の文字がある。

材料が、絵の年を決めることもある

布の種類は、絵の年代を測る手がかりになる。

織り方、糸の太さ、目の数。

それらは、時代と地域で違う。

寝具用の布なら、なおさら特徴が出る。

館の技法の欄は、そこまで書き分ける。

カンヴァスとだけ書く場合もある。

しかし分かるなら、細かく書く。

板であれば、木の種類まで書く。

樫、ポプラ、菩提樹。

木の種類は、産地を示す。

産地が分かれば、描かれた土地の見当がつく。

材料の名は、それだけで一つの証拠である。

寝具の布に、絵を描く

この一点は、技法の欄も変わっている。

寝具に使う縞の布に描かれている。

絵画用の布ではない。

厚手で、丈夫で、安い布である。

十八世紀のアメリカでは、材料が手に入りにくかった。

絵画用の布は、海を渡ってくる。

高く、いつも手に入るとは限らない。

だから、身近な布を使う。

館の記録は、その布の名を書く。

寝具用の縞布、と。

材料の名が、その土地の事情を語っている。

回って歩く画家の、仕事のしかた

町から町へ回る画家は、道具を持ち歩いた。

絵具、筆、そして下地を塗った布。

布は巻いて運べる。

板は重く、割れやすい。

だから、布が選ばれることが多い。

現地に着いたら、注文を取る。

一人ひとり、座ってもらって描く。

数日で仕上げ、次の家へ移る。

そうやって数をこなす。

このやり方だと、署名を書く暇はない。

書くとしても、短い。

九点のうち何点かは、そういう事情の中で生まれた。

仮の名で呼ばれる、肖像画家

九点のうち四点は、作者の名が分からない。

そのうち二人には、仮の名が付いている。

いずれも、代表作の名や地名から取られている。

こうした画家は、町から町へ回って注文を取った。

一軒で家族全員を描くこともあった。

短い日数で、次の町へ移る。

だから、署名を残さないことが多い。

残るのは、描かれた人の名と齢である。

つまり、記録の中心が画家ではない。

描かれた人のほうにある。

ファン・フェクテン氏
スカイラー・リムナー、おそらくネヘミア・パートリッジ《ファン・フェクテン氏》1719年。館の記録では、カンヴァスに油彩。縦115.9センチ、横96.5センチ。銘記の欄には、右下に齢と年が二行で書かれているとある。番号は1947.17.74。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。スカイラー・リムナー、おそらくネヘミア・パートリッジ《ファン・フェクテン氏》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

男性が、正面を向いて立つ。

褐色の長い上着を着る。

前が開き、同じ色の胴着が見える。

首元に、白い布を巻く。

髪は肩まで垂れ、内へ巻く。

右手を下げ、人差し指で下を指す。

左手を腰に当てる。

袖口から、白い襞が出る。

背景の左は、木の並ぶ風景である。

右は、赤い布が垂れる。

右下の暗い部分に、二行の文字がある。

ウィルソン氏
スカイラー・リムナー、おそらくネヘミア・パートリッジ《ウィルソン氏》1720年。館の記録では、カンヴァスに油彩。縦106.7センチ、横91.4センチ。銘記の欄には、左下に齢と年が三行で書かれているとある。番号は1957.11.9。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。スカイラー・リムナー、おそらくネヘミア・パートリッジ《ウィルソン氏》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

男性が、身体をやや右に向けて立つ。

赤褐色の長い上着を着る。

前立てに、金色の釦が並ぶ。

右手を下げ、人差し指で下を指す。

左手で、黒い帽子を脇に抱える。

袖口から、白い襞が大きく出る。

髪は肩まで垂れる。

腰に、細い剣が見える。

背景の上に、赤い雲が横に走る。

その中に、船の形が薄く浮かぶ。

左下の暗い部分に、三行の文字がある。

同じ手の、二点を比べる

いま見た二点は、同じ画家の手とされる。

一年しか離れていない。

姿勢も、指の向きも、よく似ている。

右手を下げ、指で下を指す。

これは、当時の肖像でよく使われた型だ。

型を持っていれば、早く描ける。

早く描ければ、数をこなせる。

回って歩く画家には、都合がよい。

銘記の書き方も似ている。

齢を上に、年を下に置く。

行数だけが、二行と三行で違う。

数の書き方が、少し違う

二点をよく見ると、齢の書き方が違う。

一点は、齢を表す語を短く縮める。

もう一点は、点を打って区切る。

さらに、年という語を添える。

同じ画家でも、揃っていない。

つまり、決まった型があったわけではない。

そのときどきで、書き方が揺れる。

館の記録は、揺れをそのまま写す。

揃えてしまえば、二点の差が消える。

差が消えれば、同じ手かどうかを確かめる材料が減る。

縮められた語を、どう読むか

齢を表す語は、しばしば縮められる。

先頭の二文字か三文字だけを残し、点を打つ。

読む人が知っていれば、それで通じる。

いまの私たちには、通じにくい。

だから館は、括弧で補う。

補いは、記録した人の判断である。

判断だから、間違うこともある。

同じ二文字が、別の語の略かもしれない。

そういうときは、疑問符が付く。

九点には、疑問符はない。

つまり、読みに迷いがなかったということだ。

迷いのなさも、記録の一部である。

二十歳の若者を、正面から

九点のうち一点は、十六世紀のオランダの肖像だ。

左上に、齢と年が書かれる。

齢を表す語は、点で区切った三文字に縮められる。

短く縮めるのは、場所を取らないためだろう。

読み手には、それで十分通じた。

いまの私たちには、通じにくい。

だから館は、括弧で意味を補う。

補いがなければ、ただの記号に見える。

若い男性の肖像
アントニス・モルの追随者《若い男性の肖像》1558年。館の記録では、板に油彩。縦97.5センチ、横69.9センチ。銘記の欄には、左上に齢と年が二行で書かれているとある。番号は1961.9.79。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。アントニス・モルの追随者《若い男性の肖像》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

若い男性が、正面を向いて立つ。

淡い黄の胴着を着る。

胴着には、細い縦の畝が密に走る。

腰の下で、裾が短く広がる。

袖は灰色で、細かい縦筋が入る。

首に、小さな襞襟をつける。

腰に、黒い帯を締める。

右手を腰の後ろに回す。

左手を下げ、指を軽く開く。

背景は暗い灰緑で、平らである。

左上の隅に、二行の文字がある。

追随者という、作者の欄

この一点の作者の欄は、追随者、となっている。

本人ではない。

弟子とも限らない。

その画家の絵を見て、似せて描いた人である。

館は、根拠がなければ本人の名を入れない。

似ているだけでは足りない。

だから、追随者と書く。

書かれた齢と年は、そのまま信じてよいのか。

たいていは、よい。

齢と年は、注文主の情報だからである。

画家が誰であっても、そこは変わらない。

大きさと、掛ける場所

九点の寸法を比べておく。

いちばん大きいのは、縦225センチの一点。

いちばん小さいのは、縦91.5センチの板絵である。

高さで二倍以上、面積では四倍を超える。

大きい絵は、広間や公の建物に掛かる。

小さい絵は、居間や寝室に掛かる。

掛ける場所が違えば、見る人も違う。

見る人が違えば、書く文字も変わる。

公の場では、名と役職が要る。

家の中なら、名と齢で足りる。

九点の文字の長さが違うのは、そのためかもしれない。

五十四歳の、大きな肖像

九点のうち一点は、とりわけ大きい。

縦225センチ、横161.6センチ。

見上げる大きさである。

そこに、名と、作ったという語と、年と、齢が並ぶ。

齢は五十四。

高い地位にあった人物の肖像である。

大きな絵は、公の場に掛けられる。

見る人は、その人が誰かを知りたい。

だから、名と齢が書かれる。

家の記録であると同時に、公の掲示でもある。

オメール・タロン
フィリップ・ド・シャンパーニュ《オメール・タロン》1649年。館の記録では、カンヴァスに油彩。縦225センチ、横161.6センチ。銘記の欄には、左下に名と作ったという語、年、そして齢があるとある。番号は1952.5.35。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。フィリップ・ド・シャンパーニュ《オメール・タロン》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

男性が、椅子に座って正面を向く。

赤い長い衣を、全身にまとう。

肩から、黒い縁飾りが垂れる。

首元に、白い小さな襟が見える。

短い顎髭と口髭をたくわえる。

右手を椅子の肘掛けに置く。

左手を膝の上に置く。

右手前に、金の刺繍の布を掛けた机がある。

机の上に、金の器が載る。

背後に、桃色の布が高く垂れる。

左下の床のあたりに、文字がある。

裏に書かれた、齢

九点のうち一点は、齢が裏に書かれている。

表には、書物の題だけが見える。

裏には、名と齢と年が並ぶ。

つまり、見る人には見えない。

見えない場所に書くのは、なぜか。

表を汚したくなかったのだろう。

あるいは、額に入れる前に書いたのかもしれない。

裏の文字は、家の中の覚書に近い。

誰の絵か、いつの絵か。

それを家族が分かればよい。

ハンナ・フィッシャー・ステッドマン
アサヘル・パワーズ《ハンナ・フィッシャー・ステッドマン》1833年。館の記録では、板に油彩。縦91.5センチ、横63センチ。銘記の欄には、書物に題があり、裏に名と齢と年が書かれているとある。番号は1953.5.54。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。アサヘル・パワーズ《ハンナ・フィッシャー・ステッドマン》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

女性が、椅子に座って正面を向く。

灰褐色の服を着る。

肩に、大きな白い襟飾りを広げる。

襟飾りには、細かい透かしが入る。

首に、黒い鎖を二重に掛ける。

鎖の先に、四角い飾りが下がる。

髪は上でまとめ、両側で巻く。

頭の上に、飾りの櫛が見える。

両手を膝の上で組む。

手に、小さな赤い本を持つ。

椅子の背が、右に見える。

扇を持つ、十九歳

もう一点は、齢と年だけが右下にある。

十九歳、1737年。

両方の数のあとに、短い横線が引かれる。

線は、区切りの印だろう。

館の記録は、その線まで写す。

写さなければ、数だけが並ぶことになる。

書かれた姿とは違ってしまう。

細かいようだが、写すことに意味がある。

扇を持つ若い女性
ガンズヴォート・リムナー、おそらくピーテル・ファンダーリン《扇を持つ若い女性》1737年。館の記録では、カンヴァスに油彩。縦96.6センチ、横80.7センチ。銘記の欄には、右下に齢と年が二行で書かれているとある。番号は1980.61.5。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ガンズヴォート・リムナー、おそらくピーテル・ファンダーリン《扇を持つ若い女性》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

若い女性が、正面を向いて座る。

緑の服を着る。

胸元が四角く開き、白い布がのぞく。

腰に、細い帯を締める。

袖口に、白い襞が重なる。

両手で、閉じた扇を横に持つ。

左に、石の手すりと木立が見える。

手すりの上に、赤い花の鉢が置かれる。

右に、暗い布が垂れる。

右手前の台に、黒い本が積まれる。

右下の暗い部分に、二行の文字がある。

書物の題という、もう一つの文字

裏に齢が書かれた一点には、表にも文字がある。

女性が手に持つ本の上である。

短い語が一つ、書かれている。

聖書を示す語だ。

これは署名でも齢でもない。

場面の中の物に書かれた、物の名である。

こういう文字は、人物の性格を示すために置かれる。

信心深い人であると、絵が言っている。

言葉で言わずに、物で言う。

館の記録は、この文字も位置とともに写す。

書物の上、と書く。

裏の文字と、同じ欄に並ぶ。

性質は違うが、どちらも書かれた文字である。

齢は、いつ書かれたのか

一つ気になることがある。

齢は、描いたときに書かれたのか。

それとも、あとから書き足されたのか。

多くの場合、同時である。

絵具の層が同じだからだ。

しかし、あとから書かれた例もある。

そういうときは、館が注記する。

後の手による、と書く。

九点には、その注記がない。

つまり、描いたときのものと判断されている。

判断の根拠までは、欄に書かれない。

数字が、人を連れ戻す

九点の齢を、もう一度並べておく。

十九、二十、二十四、三十四。

三十五、四十三、五十四、八十四。

そして、生まれた年から数えて四歳ほどの一点。

いちばん若いのは、小さな少女である。

いちばん年上は、白い髭の男性だ。

四百年前の人が、その年に何歳だったか。

それが、絵の隅の数字で分かる。

名も分からない画家が描いた絵でも、分かる。

顔と数字が、一緒に残っている。

肖像画に齢を書く習慣は、そのために続いたのだろう。

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