年の欄が、二つに割れる——刀身と拵
刀身は1440年、拵は十八世紀後半。九件の年の欄は、いずれも二つに分かれている。差が四百年を超える件もある。作者の欄が三人になる件もある。一本の刀を誰の作と呼ぶかを読みたい。拵の材料が、十種類に及ぶ件もある。

年の欄が、二つに割れている
刀を九件、記録の欄で並べてみる。
年の欄が、いずれも二つに分かれている。
刀身は何年、拵(こしらえ)は何年。
拵とは、柄と鞘と金具のことである。
刀身を納める外側の一式を指す。
一本の刀に、二つの年がある。
そして、その差が大きい。
いちばん小さい差でも、数十年。
いちばん大きい差は、四百年を超える。
十四世紀の終わりに打たれた刀身が、十九世紀の拵に納まっている。
刀身と拵は、別々に作られる
刀身は、鋼を鍛えて打つ。
拵は、木を削り、漆を塗り、金具を付ける。
まったく別の仕事である。
そして、作られる時期も別でよい。
刀身は、手入れをすれば数百年もつ。
一方、拵は使えば傷む。
傷めば、新しく作り替える。
だから、古い刀身に新しい拵という組み合わせが生まれる。
館の記録は、その二つを別々の年で書く。
一つの年に丸めれば、この事情は消える。
分けて書くことで、四百年の隔たりが残る。

公開画像には、拵だけが写る。
刀身は、鞘に納まって見えない。
黒い鞘が二本、上下に並ぶ。
上が長く、下が短い。
どちらも漆で塗られ、光を鈍く返す。
柄は、白と黒の糸で菱形に巻かれる。
その隙間から、金色の小さな金具がのぞく。
柄と鞘の境に、鐔が挟まる。
鐔は円く、灰色に見える。
鞘の口に、細い金具が回る。
鞘の先は、ゆるく反り返って終わる。
写真が、刀身か拵のどちらかしか写さない
九件の公開画像を並べると、二つに分かれる。
刀身だけを写したものが四件。
拵だけを写したものが五件。
両方を並べて写したものは、一件もない。
刀身を見せるには、鞘から抜く必要がある。
抜けば、拵の姿は写らない。
納めれば、刀身が写らない。
どちらか一方しか、一枚には収まらない。
館の記録は、両方の作者と両方の年を書く。
しかし画像は、半分しか見せられない。
欄を読まなければ、もう半分があることに気づけない。
前の回の記事で、揃いの金具の写真について同じことを書いた。
記録と画像は、たがいの欠けを補い合っている。

公開画像には、刀身だけが写る。
白い地の上に、横向きに置かれる。
刃はゆるく反り、右上へ向かって細くなる。
刃の面は白く、光を返す。
刃と地の境に、細い波の線が見える。
焼きの跡だろう。
左端に、茎(なかご)が見える。
茎は黒褐色で、錆が浮く。
その表面に、漢字が縦に並んで刻まれる。
これが、刀工の名と年を伝える銘である。
茎には、小さな穴が一つ開く。
柄に留めるための穴である。
作者の欄が、三人になる
九件のうち五件は、作者の欄に三人の名がある。
役割は、刀工、装具師、そして装飾を担う人。
刀身を打つ人、金具を作る人、飾りを彫る人。
三つの職能が、一本の刀に関わっている。
残る四件は、二人である。
刀工と装具師の二人。
いずれにせよ、一人だけということはない。
刀は、一人では完成しない。
前の回の記事で、銃の記録を見た。
あちらでは、四人並ぶ例があった。
刀では、三人までである。
しかし、実際に手を動かした人はもっと多い。

公開画像には、刀身だけが写る。
透明の台に載せられ、横向きに置かれる。
刃は白く、ゆるく反る。
前の一件と、姿がよく似ている。
作者の欄の三人も、同じである。
そして刀身の年も、同じ1839年。
つまり、同じ年に同じ人が打った二振りだ。
長さだけが違う。
一方は刃が72.7センチ、他方は45.3センチ。
長い刀と短い刀の組み合わせだろう。
館の記録は、二件を別々の番号で扱う。
大小の組であることは、欄には書かれない。
同じ年、同じ作者の二件
いま見た二件は、同じ年、同じ三人の作である。
番号も、91.2.56と91.2.84。
同じ受入の中にある。
出所の行も、一字も違わない。
二人の寄贈者の名が並ぶ、1891年の寄贈である。
これだけ揃っていれば、組だと考えたくなる。
しかし、記録はそう書いていない。
書いていない以上、断定はできない。
刃の長さの比は、大小の組として自然ではある。
館が組として扱わなかったのは、根拠がないからだろう。
前の回の記事で、大小と明記された鐔を見た。
あちらは、題に大小とあった。
こちらには、それがない。
書かれているかどうかが、扱いを分けている。

公開画像には、拵だけが写る。
黒い鞘が二本、上下に並ぶ。
前に見た一件の画像と、よく似ている。
上が長く、下が短い。
柄は白と黒の糸で菱形に巻かれる。
鐔は円く、灰色である。
鞘の表面は、つやのある黒漆で覆われる。
鞘の口と先に、細い金具が回る。
上の一本には、細い紐が結ばれる。
二本の姿は、装飾まで揃っている。
この二件は、金具の作者が同じである。
二つの記録が、似た画像を持つ
いま見た二件の画像は、ほとんど同じに見える。
どちらも、黒い鞘が二本並ぶ写真である。
作者の欄の金具の人も、同じ名だ。
拵の年も、どちらも十八世紀後半。
つまり、揃いで作られた大小の拵だろう。
館は、刀身ごとに一件として登録している。
そして、それぞれの記録に大小の写真を付けている。
分けて数え、まとめて見せる。
前の回の記事で、多翼祭壇画の番号について同じ形を見た。
三枚で一つの絵を、板ごとに数えていた。
刀でも、同じことが起きている。
数える単位と、見せる単位が違う。
刀工が、三番目に書かれる一件
九件のうち一件だけ、作者の欄の順序が違う。
一人目と二人目が装具師で、三人目が刀工である。
ほかの八件は、いずれも刀工が先に来る。
なぜ、この一件だけ逆なのか。
館は、理由を書かない。
拵の作りが際立っているからかもしれない。
記録を作った人が、別だったのかもしれない。
前の回の記事で、銃の作者の欄でも同じ揺れを見た。
同じ館の中で、順序の基準が揃っていない。
揃っていないことに気づくには、並べるしかない。

公開画像には、刀身だけが写る。
黒い地の上に、縦に立てて撮られている。
九件のうち、縦に撮られたのはこの一件だけだ。
刃は細く、まっすぐに近い。
短刀だから、反りがほとんどない。
刃の面は白く、上から下へ光が流れる。
下端に、茎が見える。
茎は褐色で、錆が浮く。
小さな穴が二つ、縦に並ぶ。
穴が二つあるのは、柄を替えた跡だろう。
茎の先は、丸く切られている。
寸法の欄が、三つの長さを書く
九件の寸法の欄には、三つの長さが並ぶ。
全長、刀身の長さ、そして刃の長さ。
全長は、拵に納めた状態の長さである。
刀身の長さは、茎を含めた鋼の長さ。
刃の長さは、切れる部分だけの長さだ。
三つは、いずれも違う数字になる。
さらに、反りの深さを書く欄もある。
刀は、まっすぐではない。
どれだけ曲がっているかが、性格を決める。
館は、その曲がりまで数字にしている。
絵画の寸法の欄には、縦と横しかない。
刀では、五つ以上の数字が並ぶ。
品の性質に応じて、欄が増えていく。

公開画像には、刀身の一部だけが写る。
黒い地の上に、刃の中ほどが大きく写る。
九件のうち、部分だけを写した唯一の一件だ。
刃の面は白く、なめらかである。
その面に、龍が一匹彫られる。
体は細長く、上へ向かってうねる。
鱗の一枚ずつが、細い線で刻まれる。
前脚が二本、外へ突き出る。
頭は上を向き、口を開く。
彫りは浅く、白く光る。
刃の縁に沿って、細い波の線が走る。
刃に彫刻を入れることは、珍しくない。
しかし、館の記録にはその欄がない。
刃の長さと、全長の関係
九件の寸法を、比で見てみる。
刃の長さを全長で割ると、いずれも〇・六から〇・七に収まる。
つまり、全長の三分の一ほどが刃でない部分だ。
柄と、茎の重なる部分である。
刀は、握りが長い。
両手で持つためだろう。
短刀の一件でも、この比はあまり変わらない。
大きさが違っても、作りの比率は保たれている。
館の記録は、比率を計算しない。
三つの数字を並べるだけである。
比を出すのは、読む側の仕事だ。
三つの数字が揃っているから、それができる。
一つしか書かれていなければ、比較のしようがない。
反りを、数字で書く
刀の記録には、反りの深さを書く欄がある。
刃のいちばん深く曲がったところを測る。
九件では、一センチから二センチほどの値が並ぶ。
短刀の一件では、ほとんどゼロに近い。
反りは、刀の使い方を決める。
深く反れば、引いて斬るのに向く。
浅ければ、突くのに向く。
館の記録は、その意味を書かない。
数字だけを置く。
数字を並べれば、時代による傾向も見えるだろう。
九件では、点数が少なくてそこまでは言えない。
言えないことは、言わないでおく。
彫刻の欄が、ない
いま見た一件の刃には、龍が彫られている。
これは、刀身の一部である。
拵の装飾ではない。
ところが、館の記録にその記述はない。
技法の欄には、鋼と書かれるだけだ。
銘記の欄にも、龍のことは出てこない。
彫刻を書く欄が、用意されていないのである。
欄がなければ、書きようがない。
書かれなければ、画像を見るまで分からない。
前の回の記事で、記録の欄の不足について何度か書いてきた。
欄の顔ぶれは、その館が何を重視してきたかを示す。
刀身の彫刻は、そこに入っていない。

公開画像には、拵だけが写る。
しかも、縦に立てて撮られている。
黒い台の上に、鞘が立つ。
鞘は黒く、白い斑が散る。
貝を細かく砕いて蒔いたものだろう。
鞘の中ほどに、金具が二つ回る。
金具からは、太い紐が下がる。
紐の先は、床の上でとぐろを巻く。
柄は上にあり、白い巻きが施される。
柄頭に、小さな金具が付く。
腰から吊るす形の拵である。
九件のうち、この一件だけ吊るす形だ。
作者の欄に、流派の名が入る
いま見た一件の作者の欄には、三人目に流派の名がある。
個人の名ではない。
役割は、刀工と書かれる。
つまり、刀身に関わったが、個人が特定できない。
そこで、流派の名を置いている。
前の回の記事で、文化の名を作者の欄に置く例を見た。
考え方は同じである。
分かる粒度で書き、それ以上は書かない。
個人の名と流派の名が、同じ欄に並ぶ。
粒度が揃わないまま、並記される。
揃えようとすれば、分かることを捨てることになる。
拵の材料が、十種類に及ぶ
九件の技法の欄は、いずれも長い。
短いもので七種類、長いもので十種類が並ぶ。
鋼、木、漆、鮫皮、糸、絹。
赤銅、四分一、金、銀、銅、鉄。
そして、七宝や真珠層が加わる件もある。
これだけの材料を、一人で扱えるはずがない。
刀身を打つ人。木で鞘を削る人。
漆を塗る人。鮫皮を貼る人。
糸を巻く人。金具を鋳る人。彫る人。
少なくとも七つの仕事がある。
作者の欄に入るのは、二人か三人だけである。
技法の欄の長さと、名の数が釣り合わない。
前の回の記事で、家具についても同じことを書いた。
材料の数は、関わった職能の数に近い。

公開画像には、拵だけが写る。
一本の刀が、横向きに置かれる。
鞘は明るい褐色で、木の肌が見える。
漆を薄く塗り、木目を残しているのだろう。
鞘の先へ向かって、ゆるく細くなる。
柄は黒く、白い菱形が並ぶ。
菱形は、糸の隙間から見える鮫皮である。
鐔は小さく、黒い。
柄と鞘の境に、褐色の紐が結ばれる。
紐は下へ垂れ、輪を作る。
鞘の口に、細い金具が回る。

こちらも、拵だけが写る。
前の一件と、姿がよく似ている。
鞘は明るい褐色で、木目が見える。
柄は黒く、白い菱形が並ぶ。
鐔は小さく、黒い。
褐色の紐が、柄と鞘の境で結ばれる。
違うのは、長さである。
こちらは、全長が二十八センチ短い。
作者の欄の二人は、同じ名だ。
刀身の年も、どちらも十七世紀。
大小の組として作られた拵だろう。
館は、それぞれを別の番号で数えている。
古い刀身が、残る理由
九件の刀身の年を、古い順に並べてみる。
十四世紀後半。十五世紀。1440年。
1525年。十七世紀。十七世紀後半。
1839年が二件。1870年。
六百年近い幅がある。
一方、拵の年はどれも十八世紀後半から十九世紀だ。
刀身は残り、拵は残らない。
刀身は鋼だから、研げば元に戻る。
拵は木と漆と糸だから、傷めば替える。
材料の寿命の差が、そのまま年の欄の差になる。
前の回の記事で、矢の柄が残らない話を書いた。
同じことが、刀でも起きている。
残ったものだけが、記録の対象になる。
一件だけ、刀身が新しい
九件のうち一件は、刀身の年が1870年である。
九件でいちばん新しい。
拵の年は、十九世紀とだけ書かれる。
つまり、刀身と拵が同じ時期に作られた可能性が高い。
新しく打った刀身に、新しい拵を誂えた。
九件のうち、この形はこの一件だけだ。
ほかの八件は、古い刀身に後の拵という組み合わせである。
一件だけ違うことに気づけるのは、九件並べたからだ。
刀を差す習慣が終わりかける時期の作である。
館の記録は、その時代背景を書かない。
書かないが、年の数字がそこにある。
番号の枝が、部品を数える
九件の番号を見ると、末尾に小文字が付く件がある。
aとbの二つ。
aからcの三つ。
aからdの四つ。
刀身、鞘、柄、そして小さな道具。
分けられる部品ごとに、番号が付く。
一方、小文字の付かない件もある。
そちらは、一体のものとして数えられている。
同じ「刀と拵」でも、数え方が違う。
分解して収蔵したかどうかの差だろう。
館に入ってきた形が、そのまま番号になる。
前の回の記事で、甲冑の番号について同じことを書いた。
出所の行が、五つに分かれる
九件の出所の行を並べると、四つになる。
二人の寄贈者が連名で贈ったものが三件。
一人の収集家の遺贈が一件。
別の収集家の遺贈が一件。
そして、同じ寄贈者からの寄贈が四件。
受入の年は、1891年から1936年まで。
四十五年のあいだに、九件が集まった。
刀は、まとまった数で人の手に渡ることが多い。
四件が同じ寄贈者から来ているのは、そのためだろう。
出所の行は、その事情を書かない。
書かれるのは、名と年だけである。
一本に、何人が関わったか
九件の作者の欄に出てくる名は、延べ二十三である。
うち一つは、流派の名だ。
役割は、刀工、装具師、装飾の三種類である。
しかし、技法の欄には十種類の材料が並ぶ。
材料の数だけ、職能があったはずだ。
漆を塗る人の名は、どこにもない。
鮫皮を貼る人の名も、糸を巻く人の名もない。
記録に残るのは、銘を切る人だけである。
そして、刀身と拵で年が四百年以上離れることがある。
つまり、同じ一本に、何世代もの手が入っている。
一本の刀を作った人数は、数えようがない。
数えようがないことを、記録は正直に書かない。
書かないことで、かえって示している。
最後に、九件の技法の欄をもう一度読み返す。
鋼と木は、九件すべてに出てくる。
漆と鮫皮も、ほとんどの件に並ぶ。
赤銅と四分一は、それぞれ六件以上にある。
これらが、刀の拵をつくる基本の材料である。
どの件も、同じ顔ぶれの材料でできている。
違うのは、金銀の使い方と、七宝や真珠層の有無だ。


