美術史・技法

六点の年が、同じ1645年——儀礼用の鏃

九点のうち六点は、年の欄も作者の欄も同じである。同じ人が同じ年に作った六点が、三百八十年後に同じ棚に並ぶ。重さの欄は十六倍の幅を持つ。年が揃うことの意味を読みたい。作者の欄に、疑問符が付く一点もある。

儀礼用の鏃
ウメタダ・モトシゲ《儀礼用の鏃》メトロポリタン美術館蔵

六点の年の欄に、同じ数字がある

鏃(やじり)を九点、記録の欄で並べてみる。

年の欄を見ると、六点が同じ数字で埋まっている。

1645年。

しかも、その六点は作者の欄も同じ名である。

同じ人が、同じ年に作った六点。

それが三百八十年後、同じ棚に並んでいる。

残る三点は、年の欄が幅を持つ。

十七世紀。十八世紀。十六世紀から十九世紀。

ばらつきの大きさが、六点の一致を際立たせる。

なぜ、六点だけ年が分かるのか

鏃には、茎(なかご)と呼ばれる細い部分がある。

矢の柄に差し込むところだ。

そこに、銘を切る習慣があった。

作った人の名と、作った年。

刀と同じである。

銘に年があれば、記録の年の欄はそれを写す。

なければ、形や作りから幅を出すしかない。

六点と三点の差は、銘の有無の差である。

館の記録は、その根拠までは書かない。

書かれるのは、結論としての数字だけだ。

しかし、六点だけが一年に定まっている理由は、それしか考えにくい。

儀礼用の鏃
ウメタダ・モトシゲ《儀礼用の鏃》1645年。館の記録では、鋼。全長27センチ、頭部の長さ10.3センチ、幅4.8センチ、重さ107.7グラム。番号は32.75.409。メトロポリタン美術館蔵。ウメタダ・モトシゲ《儀礼用の鏃》メトロポリタン美術館蔵

細長い茎の先に、幅の広い頭が付く。

頭の輪郭は、弾丸を立てたような形である。

先は尖り、両側が丸くふくらむ。

その内側が、大きく抜かれている。

抜かれた空間に、細い形が浮かぶ。

旗のような、細長い布が垂れる形だ。

その下に、小さな鳥が一羽止まる。

首を縮め、丸くなっている。

頭と茎の境に、蓮の花弁のような受けが付く。

茎の表面に、細い文字が刻まれている。

これが、名と年を伝える銘だろう。

透かし彫りの鏃が、何のためにあるか

九点のうち七点は、頭の内側が抜かれている。

抜けば、当然もろくなる。

刺すための道具としては、明らかに不利だ。

館の記録は、こういう品を儀礼用と呼ぶ。

品名の欄に、その語が入る。

抜かれていない二点には、その語がない。

つまり、館は装飾の有無で品名を分けている。

用途を直接調べたわけではない。

見て分かる特徴から、分類している。

前の回の記事で、品名が用途を指す例を見た。

ここでは、品名が用途の推定を含んでいる。

推定であることは、欄には書かれない。

儀礼用の鏃
ウメタダ・ヨシノブ《儀礼用の鏃》17世紀。館の記録では、鋼。全長47.3センチ、頭部の長さ17.1センチ、幅8.9センチ、重さ195.6グラム。番号は32.75.318。メトロポリタン美術館蔵。ウメタダ・ヨシノブ《儀礼用の鏃》メトロポリタン美術館蔵

九点でいちばん大きい一点である。

頭の長さだけで、十七センチある。

輪郭は、上が丸く、下が二本の鉤に分かれる。

鉤は外へ大きく反り、先が尖る。

その内側が、深く抜かれている。

抜かれた中に、人物が一人立つ。

長い衣をまとい、両手を前で合わせる。

頭の上に、光背のような輪がある。

背後には、雲か岩らしい形が重なる。

彫りは深く、面の重なりが三層ほどある。

鋼を、これだけ抜いて彫っている。

重さの欄が、十六倍の幅を持つ

九点の重さを並べてみる。

いちばん重いのが195.6グラム。

いちばん軽いのが12グラム。

十六倍の差がある。

同じ品名で、これだけ違う。

重い一点は、頭が大きく、彫りが深い。

軽い一点は、針のように細い。

用途が違うのだろう。

軽い一点は、実際に射るためのものに見える。

重い一点は、飾って見せるためのものに見える。

ただし、館はそこまで書かない。

書かれるのは、数字だけである。

数字の幅が、用途の幅を示している。

鏃
カネノブ《鏃》16世紀から19世紀。館の記録では、鋼。全長16.2センチ、頭部の長さ4.4センチ、幅0.95センチ、重さ12グラム。番号は32.75.659。メトロポリタン美術館蔵。カネノブ《鏃》メトロポリタン美術館蔵

九点でいちばん小さい一点である。

細い茎の先に、小さな刃が付く。

刃は木の葉の形で、両端が尖る。

幅は一センチに満たない。

中央に、細い稜が縦に走る。

稜の左右は、平らに研がれる。

表面に、薄い錆が広がる。

抜かれた部分はない。

装飾も、ほとんど見当たらない。

茎は長く、まっすぐである。

矢の柄に、深く差し込む形だ。

幅の欄が、長さを超える一点

九点の寸法の欄には、幅の数字が入る。

多くは、頭の長さより幅が小さい。

ところが一点だけ、逆になっている。

頭の長さ12.1センチに対して、幅18.1センチ。

幅のほうが、六センチも広い。

形を見れば、理由が分かる。

二股に大きく開いた鏃である。

二本の刃が、外へ大きく広がる。

その先端から先端までを測れば、幅が長さを超える。

こういう形の鏃は、飛ぶ矢を切るためのものだと言われる。

館の記録は、その説明を書かない。

書くのは、三つの数字だけである。

数字の関係が異常であることに、読む側が気づくしかない。

鏃
カネヨシ(か)《鏃》16世紀から19世紀。館の記録では、鋼。全長35.6センチ、頭部の長さ12.1センチ、幅18.1センチ、重さ87グラム。番号は32.75.506。メトロポリタン美術館蔵。カネヨシ《鏃》メトロポリタン美術館蔵

二本の刃が、大きく開いた形である。

付け根で合わさり、そこから左右へ分かれる。

刃はゆるく反り、先が丸くふくらむ。

内側の縁が刃になっている。

外側は厚く、背になる。

面には、灰色の斑が点々と広がる。

錆を落とした跡だろう。

付け根の上に、短い茎が伸びる。

茎は細く、まっすぐである。

抜かれた部分も、彫りもない。

形そのものが、この鏃の内容である。

作者の欄に、疑問符が付く

いま見た一点の作者の欄には、括弧に疑問符がある。

名を読んだが、確実ではない、という意味だ。

銘が薄いか、字が崩れているのだろう。

読めたところまでを書き、疑問符で留保する。

読めないと書けば、何も伝わらない。

断定して書けば、誤りが残る。

疑問符は、その中間を示す記号である。

前の回の記事で、題や技法の欄に疑問符が入る例を見た。

作者の欄でも、同じ記号が使われている。

一つの記号が、館の記録の全体で共通に働いている。

名の表記について

九点の作者名について、断っておきたいことがある。

館の記録は、名をローマ字だけで書いている。

漢字が併記されていない。

同じ読みの名には、いくつもの書き方がありうる。

推測で漢字を当てれば、別人にしてしまう恐れがある。

この記事では、読みをかなで示すにとどめた。

六点の作者は、いずれも同じ姓を名乗る。

刀の金具でも知られた一派の名である。

その一派に属する人が、鏃も手がけていた。

そう読めるが、記録はそこまで書かない。

書かれるのは、名と役割と年だけである。

役割の欄に、二つの語がある

九点の役割の欄を並べてみる。

鋼を彫る人、と書かれるものが六点。

作った人、と書かれるものが三点。

この二つは、同じ意味ではない。

前者は、彫る仕事に限った呼び方である。

後者は、品を作った人という広い呼び方だ。

六点はいずれも、透かし彫りの鏃である。

三点のうち二点には、彫りがない。

つまり、彫りのある品には彫る人の呼び方が使われている。

役割の語が、その品の作られ方を示している。

しかし、鋼を鍛えて形にした人は誰なのか。

彫る人と鍛える人が同じとは限らない。

記録は、そこまでは書き分けない。

儀礼用の鏃
ウメタダ・モトシゲ《儀礼用の鏃》1645年。館の記録では、鋼。全長30.8センチ、頭部の長さ13.8センチ、幅6.4センチ、重さ184.3グラム。番号は32.75.330。メトロポリタン美術館蔵。ウメタダ・モトシゲ《儀礼用の鏃》メトロポリタン美術館蔵

木の葉に似た輪郭である。

上下が尖り、中ほどがふくらむ。

その内側が、大きく抜かれている。

中に、岩が積み重なる形が彫られる。

岩のあいだから、細い草が数本のびる。

上部には、雲のような渦が広がる。

渦は左右に分かれ、縁につながる。

下部に、丸い形がいくつか重なる。

彫りの奥行きは深く、影が濃く落ちる。

外周の縁は、幅の広い帯として残される。

その帯が、内側の彫りを額のように囲む。

同じ年の六点が、それぞれ違う

六点は、同じ人が同じ年に作ったとされる。

しかし、形も図もまるで違う。

木の葉の形、盾の形、弾丸の形。

中の図も、岩、竹、鳥、蓮、旗。

一つとして同じものがない。

同じ年に、六通りを作ったことになる。

型で抜いて量産したのではない。

一点ずつ、別の図で彫っている。

前の回の記事で、同じ寸法が並ぶ小柄を見た。

あちらは、外形が揃い、図だけが違った。

こちらは、外形も図も違う。

揃えるべきものが、道具によって違う。

鏃は、矢の柄に差せば用は足りる。

だから、頭の形まで揃える必要がない。

儀礼用の鏃
ウメタダ・モトシゲ《儀礼用の鏃》1645年。館の記録では、鋼。全長28.9センチ、頭部の長さ11.4センチ、幅5.9センチ、重さ147.4グラム。番号は32.75.334。メトロポリタン美術館蔵。ウメタダ・モトシゲ《儀礼用の鏃》メトロポリタン美術館蔵

盾に似た輪郭である。

上部が段になり、肩が張る。

下は先細りになり、二段の突起で終わる。

内側の抜きは、上下に長い。

中に、細い竹が数本立つ。

葉が左右に開き、先が垂れる。

下部に、小さな鳥が一羽いる。

嘴を上に向け、体を丸める。

外周の帯は、内側の縁が鋭く立つ。

頭と茎の境に、二つの丸い節が付く。

彫りは全体に浅く、線が細い。

儀礼用という語が、何を分けるか

九点の品名を、もう一度並べてみる。

儀礼用の鏃、と書かれるものが七点。

ただの鏃、と書かれるものが二点。

この二つを分けているのは、彫りの有無である。

しかし、彫りがあるから儀礼用だとは限らない。

飾りのある道具を、実際に使うこともある。

館は、外から見て分かることで分類している。

分類は、調べた結果ではなく、整理の便宜だ。

便宜であることは、欄には書かれない。

読む側は、そこを割り引いて読むしかない。

前の回の記事で、品名が用途を指す例をいくつか見た。

用途が分かって書かれた品名と、推定で書かれた品名がある。

その二つは、欄の上では区別がつかない。

茎の長さが、頭より長い

九点の寸法の欄には、二つの長さが並ぶ。

全長と、頭部の長さである。

差を取れば、茎の長さが出る。

九点とも、茎のほうが頭より長い。

いちばん差が大きいのは、全長47.3センチの一点。

頭が17.1センチだから、茎は三十センチある。

矢の柄に差し込む部分が、これほど長い。

深く差さなければ、抜けてしまうからだろう。

館の記録は、茎の長さを直接は書かない。

二つの数字から、引き算で求めるほかない。

欄にない数字が、欄にある数字から出てくる。

そういう読み方も、記録を読む技術のうちである。

出所の行が、九点とも同じである

九点の出所の行は、一字も違わない。

ある収集家の名を挙げ、その娘が寄贈した、とある。

年は1932年である。

つまり、九点は同じ日に同じ経路で入った。

番号も、いずれも同じ二つの数字で始まる。

そのあとの枝番だけが違う。

318、330、334、337、339。

403、409、506、659。

枝番は六百を超える。

つまり、この寄贈は六百点以上を含んでいた。

鏃だけで、これだけの数を集めた人がいた。

館の記録は、その収集の性格までは書かない。

書かれるのは、名と年だけである。

番号の枝が、群の大きさを示す

いま見た枝番を、もう一度並べてみる。

いちばん小さいのが318、いちばん大きいのが659。

そのあいだに、三百四十の番号がある。

九点は、その中から選ばれたものだ。

館の記録を見るかぎり、群のごく一部にすぎない。

一点ずつ見ていては、この規模は分からない。

番号の頭が同じであることに気づいて、はじめて見える。

前の回の記事で、番号の連なりから群を読んだ。

ここでも、同じ読み方が効いている。

番号は、その品の中身を語らない。

しかし、その品がどういう群の一部かは語る。

儀礼用の鏃
ウメタダ・モトシゲ《儀礼用の鏃》1645年。館の記録では、鋼。全長27.9センチ、頭部の長さ10.5センチ、幅5.4センチ、重さ110.6グラム。番号は32.75.337。メトロポリタン美術館蔵。ウメタダ・モトシゲ《儀礼用の鏃》メトロポリタン美術館蔵

先の尖った卵形の輪郭である。

内側の抜きも、同じ形をなぞる。

中に、細い葦が何本も立つ。

葉は細長く、先がしなる。

その根もとに、鳥が一羽いる。

首を伸ばし、嘴を水に向ける。

足は細く、水面に立つ。

水は、横に走る短い線で表される。

外周の帯は幅が狭く、内側の彫りが大きい。

彫りの奥に、黒い影がたまる。

写真では、地の黒と彫りの影が続いて見える。

同じ主題が、繰り返される

六点の図を見直すと、共通するものがある。

水辺の鳥が、三点に出てくる。

草や葦が、四点に出てくる。

主題そのものは、そう遠くない。

同じ人が、同じ年に、似た主題で作っている。

注文がまとまっていたのかもしれない。

一組として使うものだった可能性もある。

しかし、記録にはそう書かれていない。

九点は、いずれも別々の番号を持つ。

館は、一点ずつ数えている。

組として扱う根拠が、記録にないからだ。

儀礼用の鏃
ウメタダ・モトシゲ《儀礼用の鏃》1645年。館の記録では、鋼。全長29.9センチ、頭部の長さ9.8センチ、幅5.4センチ、重さ121.9グラム。番号は32.75.339。メトロポリタン美術館蔵。ウメタダ・モトシゲ《儀礼用の鏃》メトロポリタン美術館蔵

上部が、二股に割れた形である。

二本の先が、外へ跳ね上がる。

そのあいだが、深く切り込まれる。

内側には、蓮の葉と花が彫られる。

葉は丸く、縁が波打つ。

花は上部にあり、花弁が開く。

中ほどに、丸い穴が二つ並ぶ。

穴の縁は厚く、輪のように立つ。

下部は、左右対称の渦で締まる。

頭と茎の境に、短い受けが付く。

九点でいちばん、形が複雑な一点である。

儀礼用の鏃
ウメタダ・モトシゲ《儀礼用の鏃》1645年。館の記録では、鋼。全長27センチ、頭部の長さ10.5センチ、幅4.5センチ、重さ99.2グラム。番号は32.75.403。メトロポリタン美術館蔵。ウメタダ・モトシゲ《儀礼用の鏃》メトロポリタン美術館蔵

弾丸を立てたような輪郭である。

内側の抜きは、細長い。

中に、鎌に似た形が一つ立つ。

刃が上を向き、柄が下へ伸びる。

柄には、細い蔓が巻き付く。

蔓は下で二つに分かれる。

外周の帯は幅が広く、厚い。

帯の表面には、彫りがない。

頭と茎の境に、花弁の形の受けが付く。

内側の彫りと、外側の無地の対比が強い。

九点のうちで、いちばん図の少ない透かしである。

部門の名と、鏃の置き場所

九点は、武具の部門に収められている。

矢の一部だから、その分類になる。

しかし、九点はいずれも鏃だけである。

矢の柄も、羽も、伴っていない。

柄は木、羽は鳥の羽。

いずれも、三百年を残りにくい材料である。

鋼だけが残り、鋼だけが集められた。

残ったものが、そのまま収集の単位になる。

もとは矢という一本の道具だった。

いまは、その先端だけが一点として数えられる。

前の回の記事で、甲冑の部品が単独で一件になる例を見た。

同じことが、ここでも起きている。

残り方が、数え方を決めている。

黒い地に、置いて撮る

九点の写真には、共通の作りがある。

いずれも黒い地の上に、鏃を縦に置いて撮られている。

茎を下、頭を上にした向きである。

背景が黒いから、抜かれた部分も黒く見える。

彫りの奥の影と、背景の黒が続く。

そのため、輪郭がくっきりと立つ。

一方で、抜きの奥行きは分かりにくい。

彫りが二層なのか三層なのかは、判断できない。

館の記録には、写真の撮り方を書く欄はない。

しかし、撮り方は見え方を大きく変える。

白い地に置けば、抜きの形が明るく見えただろう。

どちらが正しいということはない。

ただ、いま見ているのは一通りの撮り方である。

そのことは、意識しておいたほうがよい。

一点に、何人が関わったか

九点の作者の欄には、四つの名がある。

そのうち一つには、疑問符が付く。

役割は、鋼を彫る人か、作った人。

しかし、鏃を一本作るには、いくつかの仕事が要る。

鋼を鍛え、形を打ち出す仕事。

抜き、彫る仕事。

研ぎ、磨く仕事。

茎に銘を切る仕事。

同じ人がすべてを担ったのかもしれない。

別々の人が分担したのかもしれない。

記録は、そのどちらとも書かない。

書かれるのは、銘に残った名だけである。

年が揃うということ

最後に、六点が同じ年である意味を考えてみたい。

同じ年に、同じ人が、六点以上を作った。

そして、それが散らばらずに残った。

散らばらなかったのは、まとめて持っていた人がいたからだ。

その人から、収集家へ。

収集家から、その娘へ。

娘から、美術館へ。

三百年近く、六点はいっしょに動いてきた。

出所の行の一文は、最後の一歩しか書かない。

しかし、六点の年が揃っていることが、その前を示している。

記録は、書かれた部分より広いことを教えることがある。

並べて、揃っているものを探せばよい。

九点の重さを合計すると、およそ千グラムになる。

一キロの鋼が、九つの形に分かれている。

形はすべて違い、重さもすべて違う。

同じものは一つもない。

それでも、九点は同じ品名で呼ばれる。

鏃という一語が、この幅を束ねている。

束ねなければ、比べることもできなかった。

九点を並べ終えて、いちばん印象に残るのは年の欄である。

1645年という数字が、六度繰り返される。

美術館の記録で、これほど数字が揃うことは少ない。

揃うのは、銘があったからだ。

銘があるのは、名を残す習慣があったからだ。

名を残す習慣は、その仕事が評価されていたことを示す。

矢の先端という小さな部品に、名と年が刻まれた。

それを刻むだけの意味が、この道具にはあった。

記録の欄は、その意味までは書かない。

書かないが、数字の一致が残っている。

三百八十年たっても、その一致は消えない。

並べることでしか見えないものが、たしかにある。

一点ずつでは、ただの鋼の破片に見える。

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