作品を知る

表に金、裏に金なし——狩野派、英一蝶ほか両面のある屏風

技法の欄が、表と裏で二つに分かれている。材料の差が、そのまま格の差である。二曲の低い屏風、屏風から外された一面、卓上から壁掛けに改められた石。用途が変われば分類まで変わる例を読みたい。公開画像に写っているのが表か裏かも、題の書き方から分かる。

松(表)、山水(裏)
狩野派《松(表)、山水(裏)》メトロポリタン美術館蔵

技法の欄が、表と裏で二つに分かれている

メトロポリタン美術館の記録に、こういう技法の欄がある。

「二曲の屏風。表は紙に墨と彩色と金、裏は紙に墨と彩色」。

一つの欄に、二つの技法が書かれている。

表と裏で、材料が違うからである。

そして題も、二つに分かれている。

《松(表)、山水(裏)》。

一つの作品に、二つの絵がある。

屏風は、両面に絵を持つことがある。

部屋の仕切りに使うのだから、当然といえば当然である。

どちらの側からも見える。

だから、両面に描く。

松(表)、山水(裏)
狩野派《松(表)、山水(裏)》17世紀。館の記録は、表を紙に墨と彩色と金、裏を紙に墨と彩色と書き分ける。二曲の屏風。縦55.9センチ、横186.7センチ。番号は25.215.53。日本、江戸時代。メトロポリタン美術館蔵。狩野派《松(表)、山水(裏)》メトロポリタン美術館蔵

公開されている画像は、白黒である。

古い写真をそのまま使っているのだろう。

写っているのは、二面の屏風である。

左に、屋根を重ねた建物と、その前の欄干。

右に、岩と、そこから伸びる木。

水面らしい部分もある。

これは、題によれば裏の山水にあたる。

表の松は、この画像には写っていない。

つまり、二つの絵のうち一方だけが見えている。

寸法は、縦五五・九センチ、横一八六・七センチ。

低く、横に長い。

枕屏風と呼ばれる形に近い。

表と裏で、格が違う

技法の欄の書き分けを、もう一度読んでほしい。

表には、墨と彩色と金がある。

裏には、墨と彩色しかない。

金が使われているのは、表だけである。

これは、表と裏で扱いが違うということである。

正面に立てる側に、金を使う。

裏になる側は、金を省く。

材料の差が、そのまま格の差になっている。

そして館は、その差を欄に書き残した。

「両面に絵がある」とだけ書けば、この差は消える。

書き分けたことで、どちらが表かが分かる。

六曲一双の、両面

舞楽図(表)、唐獅子図(裏)
英一蝶《舞楽図(表)、唐獅子図(裏)》18世紀はじめ。館の記録では、六曲一双の屏風、金箔を置いた紙に墨と彩色。画面は縦165.4センチ、横433.4センチ。縁を含めると縦183.3センチ、横445.4センチ。番号は1975.268の57と58。メトロポリタン美術館蔵。英一蝶《舞楽図(表)、唐獅子図(裏)》メトロポリタン美術館蔵

こちらは、六曲一双である。

そして、やはり両面に絵がある。

表に舞楽の場面、裏に唐獅子。

画像に写っているのは、獅子のほうである。

金の地に、四頭の獅子が並んでいる。

たてがみが渦を巻き、尾が跳ね上がっている。

雲がまわりに流れている。

前の回に見た一双の屏風は、片面だけだった。

こちらは、両面である。

つまり、この一件には四面ぶんの絵がある。

表の一双と、裏の一双。

寸法の欄も、二段になっている。

画面が縦一六五・四センチ、横四三三・四センチ。

縁を含めると、縦一八三・三センチ、横四四五・四センチ。

差は、屏風の枠の幅である。

上下に約九センチずつ、左右に六センチずつ。

木の枠が、絵のまわりを囲んでいる。

両面に絵があるということは、この枠が両側から見えるということでもある。

二曲という形

九点のうち、六点が二曲の屏風である。

面が二つしかない。

朝顔
俵屋宗理《朝顔》18世紀。館の記録では、二曲の屏風、紙に墨と彩色。縦50.6センチ、横165.6センチ。番号は36.100.27。日本、江戸時代。メトロポリタン美術館蔵。俵屋宗理《朝顔》メトロポリタン美術館蔵

淡い桃色の地に、朝顔が描かれている。

左上と右上から、蔓が垂れている。

葉が数枚、花が数輪。

画面の大部分は、何も描かれていない。

そして、寸法が低い。

縦五〇・六センチ、横一六五・六センチ。

前の回に見た六曲の屏風は、縦が一五〇センチ以上あった。

こちらは、その三分の一である。

床に置いて、座った目の高さより低い。

こういう低い屏風は、寝所の枕元や、部屋の隅に使われた。

巌に波
円山応挙《巌に波》1773年。館の記録では、二曲の屏風、紙に墨と彩色。画面は縦55.9センチ、横135.6センチ。縁を含めると縦74.3センチ、横188センチ。番号は57.156.1。メトロポリタン美術館蔵。円山応挙《巌に波》メトロポリタン美術館蔵

こちらも低い二曲である。

画面は縦五五・九センチ、横一三五・六センチ。

縁を含めると、縦七四・三センチ、横一八八センチ。

差が大きい。

縦で一八・四センチ、横で五二・四センチも増えている。

つまり、絵のまわりに広い枠がある。

画像を見ると、灰色の太い縁が四方を囲んでいる。

その内側に、白い紙。

そこに、黒い岩と、白い波が描かれている。

波は、線だけで表されている。

渦を巻き、砕け、飛沫を上げる。

年の欄は一七七三年と言い切っている。

作品に年が書かれているのだろう。

柿の木
酒井抱一《柿の木》1816年。館の記録では、二曲の屏風、紙に墨と彩色。画面は縦143.7センチ、横143.8センチ。縁を含めると縦162.9センチ、横162.6センチ。番号は57.156.3。メトロポリタン美術館蔵。酒井抱一《柿の木》メトロポリタン美術館蔵

この一点は、縦横がほぼ同じである。

画面が一四三・七センチと一四三・八センチ。

正方形に近い。

二曲の屏風で、面が縦長なら、こういう比率になる。

一面あたり、縦一四三センチ、横七二センチ弱。

淡い黄色の地に、柿の木が一本立っている。

左下から幹が伸び、右上へ枝を広げている。

枝には、橙色の実が七つ八つ。

葉は、緑と褐色が混じっている。

下に、緑の土坡と、細い草。

面の境目は、木の幹のすぐ右を通っている。

岩と木の上の猿
雪村周継《岩と木の上の猿》17世紀。館の記録では、二曲の屏風、紙に墨。縦150.5センチ、横168.8センチ。番号は29.100.496。メトロポリタン美術館蔵。雪村周継《岩と木の上の猿》メトロポリタン美術館蔵

墨だけの二曲である。

縦一五〇・五センチ、横一六八・八センチ。

左に、崖から垂れる枝。

そこに、猿が一匹ぶら下がっている。

右に、岩と木立。

もう一匹の猿が、岩の上にいる。

前の回に見た同じ画家の六曲一双と、主題が同じである。

同じ画家が、同じ主題を六曲でも二曲でも描いている。