美術史・技法

同じ時代の、二つの線——一筆斎文調と北尾重政

十八世紀後半の江戸で、役者絵と美人画を手がけた二人。裾の線の太さ、余白の取り方、摺物という別の仕事。九点を並べて、線の質の違いを確かめる。建築家の寄贈による一枚や、写り込んだ濃度見本といった細部にも触れておきたい。

東方美人
北尾重政《東方美人》メトロポリタン美術館蔵

二人が、寄り添って立つ

一枚の美人画から始めたい。

東方美人
北尾重政《東方美人》1782年ごろ。木版多色摺。縦37.3センチ、横25.4センチ。メトロポリタン美術館蔵。ロジャーズ基金、1914年購入。北尾重政《東方美人》メトロポリタン美術館蔵

女性が二人、並んで立っている。

手前の一人は、こちらへ体を向ける。

奥の一人は、その肩越しに顔を出す。

二人とも、髪を大きく結い、櫛と簪を挿す。

衣は淡い黄と灰で、裾が長く床に広がる。

裾の内側には、赤い布が見える。

黒い帯が、腰の上で太く巻かれる。

手前の女性は、手に丸いものを持つ。

背景は白いままで、何も描かれない。

左上に、題を記した札がある。

背景を、描かない

この時代の美人画には、背景が少ない。

紙の白を、そのまま空間として使う。

人物の輪郭と、衣の色だけが残る。

これは、版画の作りとして合理的である。

背景を描けば、版木が増える。

色数も増える。

その費用を、人物へ回す。

結果として、衣の文様が細かくなる。

見る人の目も、衣に集中する。

美人画は、衣の絵でもある。

描いた人について

作者は北尾重政である。

一七三九年に生まれ、一八二〇年に没した。

江戸の書肆の家に生まれたと伝えられる。

絵は、独学に近い形で学んだとされる。

北尾派の祖にあたる人物である。

弟子には、政演や政美がいる。

今回は、この重政と、もう一人の絵師を並べる。

一筆斎文調である。

美術館の記録は、活動期を一七六五年ごろから九二年ごろとする。

生没年は、はっきりしない。

二人の関係

この二人には、共同の仕事がある。

役者の姿を集めた絵本を、一緒に手がけたと伝えられる。

一七七〇年ごろに刊行された書物である。

二人が分担して絵を描き、一冊にまとめた。

当時としては、珍しい形式ではない。

しかし、この本は評判を取ったとされる。

以後、二人の名は並べて語られることが多い。

同じ時期に、同じ主題を、別の手つきで描いた二人。

今回の九点は、その違いを見るための組み合わせである。

もう一枚の美人画

二枚目も、重政である。

東方美人図
北尾重政《東方美人図》1782年ごろ。木版多色摺。縦37.1センチ、横25.1センチ。メトロポリタン美術館蔵。ロジャーズ基金、1914年購入。北尾重政《東方美人図》メトロポリタン美術館蔵

女性が二人いる。

右の一人は立ち、両手を頭の上へ上げる。

髪を直しているのだろう。

衣は縞で、袖に赤い花の文様が入る。

左の一人は座り、口元に細長いものを当てる。

笛だろうか、あるいは煙管かもしれない。

衣は紫がかった色で、文様が散る。

裾は大きく広がり、床を覆う。

こちらも、背景は白いままである。

先の一枚と、寸法がほぼ同じである。

同じ組の二枚

二枚は、対になっている可能性が高い。

寸法が近く、年代も同じ。

題も、ごく近い言葉である。

いずれも一九一四年に、同じ基金で購入されている。

つまり、もとから一緒にあったものだろう。

美人画には、こうした揃いの企画が多い。

数枚を一組として出す。

買い手は、少しずつ買い足していく。

版元の商売として、理にかなっている。

立ち姿の型

二枚の女性の姿勢を比べてみたい。

いずれも、体をわずかにひねっている。

肩の線と腰の線が、平行になっていない。

そして、裾が体の向きと逆へ流れる。

この二つで、静止した立ち姿に動きが出る。

浮世絵の美人画は、この型を長く使った。

真正面でも、真横でもない。

その中間の角度に置く。

衣の文様がよく見え、姿勢も分かる。

役者絵も描く

三枚目は、主題が変わる。

九代目市村羽左衛門の名古屋山三
北尾重政《九代目市村羽左衛門の名古屋山三》1767年。木版多色摺。縦28.3センチ、横14.0センチ。メトロポリタン美術館蔵。フランシス・ラスロップ・コレクション、1911年購入。北尾重政《九代目市村羽左衛門の名古屋山三》メトロポリタン美術館蔵

細長い画面に、二人の人物が並ぶ。

いずれも、頭に丸い笠のようなものをかぶる。

顔は笠の陰に隠れ、口元だけが見える。

衣は白地で、大きな紋が入る。

腰には刀を差す。

足元は高い下駄である。

背後には、木の柵と松の枝が描かれる。

上部の余白に、細い文字が縦に並ぶ。

役者名と役名が記されている。

細判という判型

この一枚は、細判である。

縦28.3センチ、横14センチ。

先の美人画の半分ほどの幅しかない。

役者絵には、この判型がよく使われた。

安く作れ、安く売れるからである。

美人画は大判、役者絵は細判。

判型が、主題によっておおむね分かれていた。

もっとも、例外も多い。

九点の寸法を見比べると、その使い分けが見えてくる。

一七六七年という年

この一枚の年代は、一七六七年である。

九点の中で、最も早い。

多色摺の版画が普及しはじめた時期にあたる。

いわゆる錦絵が始まって、数年後である。

その事情については、当サイトの
錦絵が生まれるまでで書いた。

色の数がまだ少なく、画面は淡い。

赤、緑、黄、そして墨。

四、五色で組まれている。

九点の中で、この一枚が最も色数が少ない。

絵本という仕事

浮世絵師の収入は、一枚絵だけではない。

絵本や読本の挿絵が、大きな柱だった。

重政は、この分野で多くの仕事を残したと伝えられる。

書物は、版木を彫って刷る点で一枚絵と同じである。

ただし、色は使わないか、少ない。

墨一色の線だけで、場面を作る。

線の力が、そのまま試される仕事である。

一枚絵の華やかさとは、要求が違う。

両方をこなす絵師は、線と色の両面で鍛えられる。

九点の線の確かさは、そうした仕事の積み重ねの結果でもある。

摺物という別の仕事

四枚目は、性格が違う。

雛菊と二巻の巻物
北尾重政《雛菊と二巻の巻物》1800年ごろ。木版多色摺の摺物。縦38.1センチ、横50.8センチ。メトロポリタン美術館蔵。フランシス・ラスロップ・コレクション、1911年購入。北尾重政《雛菊と二巻の巻物》メトロポリタン美術館蔵

横長の画面である。

下半分に、巻いた巻物が二本置かれる。

一本は、亀甲の文様の布に包まれる。

もう一本は、緑と赤の模様が見える。

その上に、雛菊の枝が横たわる。

白と黄の小さな花が咲く。

上半分は、ほとんど文字である。

細い字が、何行にもわたって並ぶ。

人物は一人も描かれていない。

摺物とは何か

摺物は、市販の版画ではない。

私的に作られ、配られる印刷物である。

年賀、句会の記念、贈答。

そうした場面で使われた。

数が少なく、費用は依頼主が持つ。

だから、仕様に金をかけられる。

上質の紙、細かい摺り、空摺や金銀。

今回の一枚も、紙が厚く、色が繊細である。

上半分の文字は、狂歌などの詩文だろう。

絵と文字が、対等の面積を占めている。

文字を、絵の一部にする

摺物では、文字が大きな役割を果たす。

書の美しさも、鑑賞の対象になる。

だから、行の配置が工夫される。

この一枚では、文字が右上から左下へ流れる。

その流れの先に、雛菊の枝がある。

つまり、文字の列と枝の線がつながっている。

書と絵が、一つの構図をつくっている。

市販の版画では、ここまでの配慮は難しい。

私的な印刷物だからこそできる作りである。

物だけを描く

この一枚には、人物がいない。

巻物と花だけである。

浮世絵で、静物だけの画面は珍しい。

しかし、摺物にはこの型が多い。

季節の品、道具、食べ物。

そうしたものを並べ、詩文を添える。

見立ての楽しみが、その中心にある。

描かれた物が、何かを暗示する。

読み解く相手が限られているから、成り立つ遊びである。

文調の役者絵

五枚目から、一筆斎文調に移る。

女三の宮
一筆斎文調《女三の宮》1771年ごろ。木版多色摺。縦29.8センチ、横14.0センチ。メトロポリタン美術館蔵。フランシス・ラスロップ・コレクション、1911年購入。一筆斎文調《女三の宮》メトロポリタン美術館蔵

細判の画面である。

女性が、簾のような仕切りの前に立つ。

体は右へ傾き、裾が大きく広がる。

衣は白地に細かい文様が入り、袖口に赤が見える。

髪は結い上げ、飾りを挿す。

足元に、小さな白い動物がいる。

猫だろう。

背後には、緑の板戸と朱色の欄干が見える。

物語に由来する場面だと考えられる。

猫という細部

足元の猫に注目したい。

小さく、目立たない位置に描かれている。

しかし、この猫が場面を決めている。

物語の中で、猫が重要な役を果たす場面があるからである。

見る人は、猫を見て場面を特定する。

つまり、小道具が題名の代わりをしている。

浮世絵には、こうした約束が多い。

知っている人には分かり、知らない人には分からない。

いまの私たちは、注記に頼るしかない。

女方の立ち姿

六枚目も、文調である。

二代目坂東彦三郎、山城屋の花魁初糸
一筆斎文調《二代目坂東彦三郎、山城屋の花魁初糸》1770年ごろ。木版多色摺。縦31.1センチ、横14.6センチ。メトロポリタン美術館蔵。フランシス・ラスロップ・コレクション、1911年購入。一筆斎文調《二代目坂東彦三郎、山城屋の花魁初糸》メトロポリタン美術館蔵

女性の姿の役者が立つ。

体を右へ大きくひねり、顔は左を向く。

衣は淡い色で、裾が渦を巻くように広がる。

胸の前で、両手を合わせている。

背後には、赤い格子の建物がある。

格子の奥に、複数の顔が並んでいる。

いずれも、こちらを覗いている。

下には、火鉢と箱のような道具が置かれる。

上部には、題を記した札がある。

格子の奥の顔

この一枚で目を引くのは、格子の奥の顔である。

四つか五つ、重なって見える。

いずれも小さく、輪郭だけで示される。

遊里の格子を描いた場面だと考えられる。

見られる側と、見る側。

その関係が、画面の中に折り込まれている。

主役の女性は、外に立っている。

奥の顔は、内側から外を見ている。

視線の向きが、二重になっている。

こうした構図は、当時の版画にしばしば現れる。

火鉢と、季節

足元の道具にも触れておきたい。

火鉢と、蓋のついた箱が置かれている。

火鉢があるということは、寒い季節である。

浮世絵は、季節を小道具で示すことが多い。

団扇なら夏、火鉢なら冬。

桜なら春、紅葉なら秋。

背景を描かないぶん、小さな道具が働く。

見る人は、それで場面の時期を判断する。

九点の中にも、季節の徴が散らばっている。

探しながら見ると、絵の情報量が増える。

遊里を描くということ

遊里の女性を描いた版画は、数が多い。

美人画の主題として、中心に近い位置を占める。

華やかな衣と、洗練された仕草。

それが、絵の売りになった。

一方で、描かれる人々の立場は複雑である。

自らの意思でそこにいたとは限らない。

絵は、その事情をほとんど描かない。

当サイトとしては、絵の巧みさを認めつつ、この点も書いておく。

見えているものと、見えていないもの。

その両方を、同じだけ意識したい。

髪の描き方

浮世絵の髪は、独特の描き方をする。

一本ずつではなく、束として描く。

輪郭を墨で囲み、中を塗り潰す。

その上に、生え際だけ細い線を並べる。

額の生え際が、いちばん手のかかる部分である。

細い線を等間隔に彫らなければならない。

彫師の腕が、ここに出る。

九点の生え際を拡大して見てほしい。

線の細さと揃い方に、はっきり差がある。

同じ絵師の作でも、彫師が違えば結果が変わる。

文調の線

文調の線には、特徴がある。

細く、途切れず、長い。

裾の輪郭が、一本の線で長く続く。

その線が、緩やかに曲がる。

重政の線は、これよりやや太い。

抑揚があり、止めがはっきりする。

同じ時期に、同じ主題を描いても、線が違う。

版下絵を彫師が写すので、彫師の手も入る。

それでも、絵師の癖は残る。

九点を並べると、その差が見えてくる。

三人の絵師の間

この時期の役者絵には、もう一人の名が要る。

勝川春章である。

文調とほぼ同じ時期に、役者の似顔を確立したとされる。

当サイトの
勝川派という工房でも扱った。

文調と春章は、しばしば並べて語られる。

似顔の役者絵を、同時期に手がけた二人だからである。

どちらが先かは、決着していない。

同じ流れの中に、複数の絵師がいた。

そう捉えるのが、無理がない。

立ち姿の女方、もう一枚

七枚目も、文調である。

二代目瀬川菊之丞、「今を盛末広源氏」の冷泉
一筆斎文調《二代目瀬川菊之丞、「今を盛末広源氏」の冷泉》1768年(明和五年)十二月。木版多色摺。縦32.1センチ、横14.9センチ。メトロポリタン美術館蔵。ジョゼフ・ピュリツァー遺贈による購入、1918年。一筆斎文調《二代目瀬川菊之丞、「今を盛末広源氏」の冷泉》メトロポリタン美術館蔵

女性の姿の役者が、右を向いて立つ。

衣は淡い黄で、大きな丸い文様が入る。

肩の上に、枝のようなものを担いでいる。

枝には、白い花が咲く。

足元には、黒い桶のようなものが二つ置かれる。

背景は、上部が白く、下部が薄い黄。

その境目に、細い波形の線が一本走る。

上部に、題と役者名の文字がある。

なお、この画像の左端には撮影時の濃度見本が写り込んでいる。

年月まで分かる

この一枚には、年月が特定されている。

明和五年の十二月である。

芝居の興行と結びついているためである。

演目名が題に含まれている。

その興行の記録と照らし合わせれば、月が決まる。

役者絵の年代が細かく分かるのは、この仕組みによる。

絵そのものではなく、芝居の記録が年代を決めている。

浮世絵の研究が、演劇史と切り離せないのは、そのためである。

手紙を読む女性

八枚目は、来歴が面白い。

立ったまま恋文を読む花魁花菊
一筆斎文調《立ったまま恋文を読む花魁花菊》1769年ごろ。木版多色摺。縦29.5センチ、横14センチ。メトロポリタン美術館蔵。フランク・ロイド・ライト寄贈、1918年。一筆斎文調《立ったまま恋文を読む花魁花菊》メトロポリタン美術館蔵

女性が立ち、長い紙を両手で広げている。

紙は膝の高さまで垂れる。

顔はうつむき、視線が紙に落ちる。

衣は淡く、裾が後ろへ長く引く。

背後には、屏風のような仕切りがある。

足元には、小さな道具が置かれる。

上部に、細い文字がある。

寄贈者の欄に、建築家の名がある。

建築家が集めた浮世絵

寄贈者は、二十世紀の米国の建築家として知られる人物である。

日本の版画を大量に集め、売買にも関わった。

日本へ何度も渡り、まとまった数を持ち帰っている。

その一部が、美術館へ寄贈された。

つまり、この一枚は建築家の手を経て館に入っている。

浮世絵が海外へ出た経路は、さまざまである。

商人、外交官、収集家、そして建築家。

受け入れ記録の名前を追うと、その経路が見えてくる。

一枚の版画に、二十世紀の人の名が付いている。

手紙という主題

手紙を読む姿は、美人画の定番である。

理由は、いくつかある。

まず、姿勢が絵になる。

うつむき、両手を前へ出す。

体に自然な傾きが生まれる。

次に、長い紙が画面に線を作る。

縦長の細判では、この線が効く。

そして、内容が想像を誘う。

何が書かれているかは、見る人が決める。

構図と物語の両方に、都合のよい主題である。

茶屋の女性

九枚目は、働く姿である。

境屋の茶屋女、立ちて眺むる
一筆斎文調《境屋の茶屋女、立ちて眺むる》1770年ごろ。木版多色摺。縦30.6センチ、横14.3センチ。メトロポリタン美術館蔵。ロジャーズ基金、1918年購入。一筆斎文調《境屋の茶屋女、立ちて眺むる》メトロポリタン美術館蔵

女性が、店先に立っている。

体は右を向き、顔だけがこちらへ寄る。

衣は薄い黄と赤で、帯を前で結ぶ。

背後には、店の看板が縦に下がる。

看板には、店名らしい文字が読める。

上には、松の枝が張り出す。

右手前には、棚のような台がある。

台の上に、器と道具が並ぶ。

茶屋の店先だと分かる。

看板が、場所を示す

この一枚では、看板が重要な役を果たす。

店名が書かれているので、場所が特定できる。

当時の江戸には、名の知られた茶屋があった。

そこで働く女性が、評判になることもあった。

つまり、この絵は実在の店と人を指している。

美人画は、必ずしも架空の人物を描くわけではない。

実在の女性を、名指しで描いた例が多い。

いまでいえば、評判の店の紹介に近い。

絵と広告の距離が、いまより近かった。

三枚に写り込んだ濃度見本

九点のうち、三枚の画像には共通の写り込みがある。

画面の脇に、灰色の階調が並んだ細い帯がある。

撮影時に置かれる濃度の見本である。

作品の一部ではない。

これがあると、色の再現を確かめられる。

古い作品の撮影では、こうした見本を一緒に写すことがある。

公開画像に、そのまま残っている。

見る側としては、少し邪魔に感じるかもしれない。

しかし、これは記録としての誠実さの表れでもある。

九点の受け入れ年

九点の来歴を並べてみたい。

一九一一年が三点、一四年が二点、一八年が四点。

いずれも二十世紀の初めである。

この時期、米国の美術館は日本の版画を集中的に集めた。

欧米での日本美術の流行が、その背景にある。

浮世絵は、まとまった数で市場に出た。

館は基金を使い、あるいは寄贈を受けて収蔵した。

いま公開されている画像は、その収集の結果である。

日本の版画が海外の館に多いのは、この時期の動きによる。

二人を、並べる意味

重政と文調を並べると、何が見えるか。

重政は、大判の美人画と摺物、そして役者絵を描いた。

文調は、細判の役者絵を中心に描いた。

仕事の幅でいえば、重政のほうが広い。

活動期間でも、重政のほうが長い。

文調は、一七九二年ごろまでしか記録がない。

その後の消息は分かっていない。

浮世絵師には、こうした例が少なくない。

作品は残るが、生涯は分からない。

九点を、順に見る

最後に、見方を提案したい。

九点の裾を、順に見比べてほしい。

裾がどこへ流れているか。

右か、左か、後ろか。

そして、その線が何本で描かれているか。

美人画と役者絵では、この裾が最大の見せ場になる。

顔は小さく、線も少ない。

体の大部分は、衣に覆われている。

だから、裾の広がりが姿勢のすべてを語る。

裾から目を入れて、そこから顔へ上がっていく。

そういう順で見ると、九点の違いがよく分かる。

線の勢いは、いつも足元から始まっている。

RELATEDあわせて読みたい

美術史・技法の記事一覧
  • 美術史・技法

    印象派とは何か——特徴・代表画家・作品の見方をやさしく解説

    印象派とは何かを、特徴・代表画家・見方の順にやさしく解説します。モネ、ルノワール、ドガ、モリゾ、カイユボットの実作六点を、当サイトが公開しているCC0の図版と所蔵館の記録から読みます。影の色をどう見るか、という一点からの入り方も示します。

  • 美術史・技法

    形の名前は、用途の名前——古代ギリシャの壺

    ヒュドリア、クラテル、キュリクス。呪文のようなカタカナの名前は、実はそのまま使い方の名前である。水汲み、宴会、化粧道具。シカゴ美術館の九つの壺の形と把手を読むだけで、二千五百年前の暮らしの一日が家の中まで見えてくる。

  • 美術史・技法

    色を、塗らずに入れる——ルイス・C・ティファニーのガラス

    ティファニーのガラスは、模様を塗っていない。色は素材の内側にあり、熔けたガラスを動かした痕跡が葉や羽根の形になる。値札が残る底、工数を書き込んだ図案、白黒写真しか残らない八点。自然を写すという言葉の中身を十点から考える。