題が、器に刷られた文字である——イーノック・ウッド・アンド・サンズ
九点の題は、器に印刷された文字をそのまま写したものである。行が変わる位置には斜線が入り、製造元の名まで落とさない。文字のない二点は、角括弧で補われる。書き写すという方針を読みたい。縁の模様は、三種類に分かれる。

題が、器に刷られた文字である
九点の題を読むと、変わった書き方をしていることに気づく。
大文字が並び、途中に斜線が入る。
たとえば、眺めという語の後に斜線があり、次に滝の名が来る。
これは、器に刷られている文字をそのまま写したものである。
斜線は、行が変わる位置を示している。
つまり、この題は館が付けたものではない。
器そのものに印刷されている題を、そのまま記録に移している。
九点を並べて、その書き写し方を読みたい。

九点の内訳
先に、九点の中身を確かめておく。
九点とも、陶器の皿である。
九点とも、転写という方法で絵が付けられている。
直径は8.6センチから26.7センチ。
年は、いずれも1846年ごろまでとされる。
八点は同じ製造元の名に結びつけられ、一点だけ作者の欄が空である。
斜線が示すもの
題の中の斜線は、器の上で行が変わる位置を示している。
つまり、この題を読むと、文字がどう配置されているかまで分かる。
一行に収まらない長さなら、二行、三行に分ける。
その折り返しの位置には、意味がある。
語の切れ目で折り返せば読みやすく、そうでなければ読みにくい。
館は、その配置ごと記録している。
器のどこに、文字があるか
ただし、記録は文字の位置までは書いていない。
皿の裏なのか、表の縁なのか。
図の中に組み込まれているのか。
九点の画像を見ても、文字ははっきり読み取れない。
白黒の写真では、細かい文字はつぶれる。
記録が題として写していなければ、文字の存在に気づかない。
転写という方法
転写は、銅版に彫った図を紙に刷り、それを器に貼り付ける方法である。
紙から絵具が器に移り、その上に釉薬をかけて焼く。
手描きではないので、同じ図を何枚でも作れる。
十九世紀の前半、この方法で作られた食器が大量に輸出された。
作ったのはイギリスで、売り先はアメリカである。
大量に作るということ
手描きの絵付けでは、一枚ごとに人の手が要る。
転写なら、紙を貼るだけで済む。
熟練の絵付師でなくても作業できる。
そのぶん、値段が下がる。
十九世紀の前半、こうした皿は普通の家庭に広まった。
九点は、美術品として作られたものではない。
日々使う食器である。
買い手の土地を、描く
九点の図柄を見ると、いずれもアメリカかカナダの場所である。
滝、山、川、街、大学、船。
イギリスで作られた皿に、アメリカの景色が刷られている。
売り先に合わせて図柄を選んだのだろう。
自分の国の名所が描かれた皿は、買いやすい。
版を彫る手間
銅版に図を彫るには、時間がかかる。
細い線を何万本も刻む。
一度彫ってしまえば、何千枚でも刷れる。
だから、版を作る費用は、枚数で割れば小さくなる。
売れる図柄なら、版は長く使われる。
九点の年の欄が二十年を超える幅を持つのは、そのためだろう。
同じ版が、長く使われる
同じ版で刷った皿は、年代を決めにくい。
図柄からは、版が作られた時期しか分からない。
その皿がいつ焼かれたかは、別の話である。
館が年を範囲で書くのは、この事情による。
銅版の元になった図
こうした図柄は、版画の本から取られることが多かった。
旅の案内書や、景色を集めた画集。
そこに載っている図を、銅版に彫り直す。
だから、実際にその場所へ行った職人はいなかったかもしれない。
図の正確さは、元になった版画の正確さに依存する。
滝という主題
九点のうち二点は、滝を描いている。
一点は細く長く落ちる滝、もう一点は幅の広い滝である。
十九世紀のアメリカでは、滝が名所として人気を集めた。
鉄道と蒸気船が通じ、遠くまで見に行けるようになった時期である。
行った人は土産に、行けない人は憧れとして、その皿を買う。
図柄の選び方には、そうした背景がある。
器に、題を刷る
図の裏か、図のそばに、場所の名が刷られる。
買う人に、どこの景色かを伝えるためである。
名所の皿は、その名所が分かってこそ売れる。
だから、題は器の一部として作られている。
館の記録が題をそのまま写すのは、その事情による。

山の宿
いま見た一点の中央には、丘の上に建つ建物が描かれる。
長い正面に柱が並び、その前に段が下りる。
山地の中にある宿だと、題から分かる。
眺めのよい場所に建てられた宿である。
こうした宿も、当時の名所のひとつだった。
斜線の前後の空き
九点の題で、斜線の使い方がそろっていない。
斜線の前後に空きを置くものが二点。
斜線の後だけに空きを置くものが四点。
斜線の後に空きを二つ置くものが一点。
同じ館の、同じ製造元の、同じ種類の九点である。
それでも、書式は一定でない。
空きの数まで、写す
斜線の後に空きを二つ置く一点がある。
一つで足りるところに、二つ入っている。
これは、器に刷られた文字の間隔を写したのかもしれない。
あるいは、記録に入力するときの誤りかもしれない。
どちらであるかは、器を見なければ分からない。
館は、その空きを直していない。
大文字と小文字
もう一つ、揺れがある。
九点のうち、題がすべて大文字で書かれるものが五点。
一点だけ、途中から小さな文字になる。
これは、器に刷られた文字がそうだからかもしれない。
あるいは、記録に移すときの揺れかもしれない。
日本語の題に直すと、この違いは消える。

製粉所という題材
いま見た一点の題には、製粉所の名が入る。
滝や山とは違い、産業の施設である。
川の流れを使って粉を挽く工場である。
名所というより、地元の誇りとして図柄になったのだろう。
九点の中で、この種の題材はこの一点だけである。
小文字を含む一点
いま見た一点の題は、途中から小さな文字になる。
工場の名までは大きく、その後の説明は小さい。
器に刷られた文字が、そうなっているのだろう。
大きな文字で名を示し、小さな文字で場所を添える。
看板の作り方と同じである。
図が薄い一点
この一点の図は、九点で最も薄い。
木立と建物が描かれているが、輪郭が弱い。
転写のときに、絵具が十分に移らなかったのかもしれない。
あるいは、使い込まれて擦れたのかもしれない。
記録には、状態について書かれていない。
直径の書き方
寸法の欄にも、揺れがある。
直径という語を、略さずに書くものが四点。
略して書くものが五点。
同じ館の記録で、二通りの書き方が並ぶ。
読むうえで支障はない。
しかし、そろってはいない。

落差のある滝
いま見た一点の中央には、細く長い滝が落ちている。
崖のあいだを、白い水が一直線に下る。
手前には、小さく人が二人立っている。
人を入れると、滝の高さが分かる。
図柄としては古い手だが、効果は確かである。
貝と海藻の縁
いま見た一点の縁には、貝と海藻が並んでいる。
大きな二枚貝、巻き貝、扇の形をした貝。
そのあいだに、海藻らしい形が入る。
九点のうち、この縁を持つものが五点ある。
つまり、同じ縁の型を使い回している。
中央の図だけを差し替えれば、別の皿になる。
縁と中央を、分けて作る
転写では、縁の模様と中央の図を別々に貼ることができる。
縁の版を一つ作れば、何十種類の図に使える。
版を彫る手間は、そこで大きく減る。
九点の縁を見比べると、その仕組みが見えてくる。
縁が広い理由
九点の皿は、いずれも縁が広い。
中央の図の面積より、縁の面積のほうが大きいものもある。
これは、皿の形によるところが大きい。
縁が広いと、持ちやすく、料理がこぼれにくい。
そして、模様を入れる場所ができる。
形の都合と、装飾の都合が一致している。
三種類の縁
九点の縁を分けると、三種類になる。
貝と海藻の縁が五点。
果物と花の縁が一点。
大きな花の縁が一点。
残る二点は、細かい飾りの帯である。
中央の図は九点とも違うが、縁は重なる。

大学という図柄
いま見た一点の中央には、大きな建物が描かれる。
丸屋根と柱があり、その前に芝と木立が広がる。
大学の建物である。
名所でも産業でもなく、学校が図柄になっている。
その土地の人にとっては、誇るべき建物だったのだろう。
題に、製造元が入る
いま見た一点の題は、九点で最も長い。
大学の名、都市の名まではよいとして、その後が違う。
製造元を表す三つの頭文字が入っている。
さらに、商品の名らしい語が続く。
つまり、器に刷られた文字には、作った側の名も含まれていた。
館は、それもそのまま題に写している。
題か、銘か
ここで、一つ問題が起きる。
製造元の名は、作品の題だろうか。
普通に考えれば、それは銘であって題ではない。
しかし、この記録では区別されていない。
器に刷られている文字を、まとめて題としている。
書き写すという方針が、徹底されているとも言える。
果物の縁
この一点の縁は、他の八点と違う。
果物と花が、びっしりと並んでいる。
葡萄、林檎、洋梨らしい形が見える。
そのあいだに、小さな顔のようなものも入る。
貝の縁より、密度が高い。
最も大きい一点
この一点は、直径26.7センチ。
九点で最も大きい。
最も小さい一点は8.6センチだから、三倍以上ある。
面積では、九倍を超える。
用途が違うのだろう。
大皿と、小さな受け皿では、置き場所が違う。

写真に写り込んだもの
いま見た一点の画像には、皿以外のものが写っている。
画面の下に、細い文字の帯がある。
館の名を刷った紙のようである。
右のほうには、手で書かれた数字も見える。
これは、古い記録写真をそのまま画像にしたものだろう。
台紙に貼られた写真ごと、取り込まれている。
古い写真の名残
九点のうち、こうした写り込みがあるものは二点ある。
どちらも、皿の周りに白い余白が広く残る。
作品だけを切り出していない。
写真そのものが、一つの資料として扱われている。
手書きの数字
写り込んだ数字は、写真を整理するための番号だろう。
台紙に鉛筆で書き込まれている。
いまの記録では、こうした番号は別に管理される。
古い写真では、台紙そのものが台帳の役を果たしていた。
街を、遠くから
この一点の中央には、街が描かれている。
手前に川があり、その向こうに家並みが続く。
中央に高い塔が立つ。
手前の岸には、牛が数頭いる。
街の絵でありながら、手前は田園である。
十九世紀の版画によくある構図である。

白黒の画像が多い
九点のうち七点は、白黒の画像で公開されている。
古い記録写真をもとにしているのだろう。
転写の皿は、色が重要である。
青、褐色、緑、桃色。同じ図でも色違いが作られた。
その色が分からないのは、惜しい。
技法の欄にも、色は書かれていない。
濃い青の一点
いま見た一点は、濃い青である。
九点のうち、色の分かる画像は二点しかない。
残る七点は白黒なので、色が分からない。
転写に使われた絵具には、青が多かった。
焼いても色が変わりにくいためである。
船の名が、題になる
この一点の題は、場所ではなく船の名である。
正確には、人の肩書きと名を付けた船である。
その後に、川沿いの都市の名が続く。
つまり、この船がそこを通る、という図柄である。
蒸気船は、当時の新しい乗り物だった。
新しいものは、皿の図柄になる。
新しい乗り物
蒸気船が川を上下するようになったのは、十九世紀の初めである。
それまでは、風と流れに頼るしかなかった。
中央の図
画面の中央には、外輪の付いた蒸気船が描かれる。
煙突から煙が出て、後ろへ流れる。
岸には木立があり、手前に人が立つ。
縁は、貝と海藻である。
先に見た四点と、同じ型だろう。
![[ボストン州議事堂]](/img/met-6220/web-7d8c6986.jpg)
角括弧の題
いま見た一点の題は、角括弧に入っている。
これは、器に文字が刷られていないという印である。
刷られていれば、そのまま写せばよい。
刷られていなければ、館が説明を書くしかない。
その場合、括弧に入れて区別する。
書き写した題と、館が付けた題を分けている。
括弧の意味
角括弧は、記録の中でよく使われる記号である。
もとの資料にない情報を補うときに用いる。
読む側は、括弧の中を見て、館の判断だと分かる。
九点のうち、括弧の題は二点である。
つまり、七点には文字が刷られていた。
議事堂という図柄
この一点に描かれているのは、州の議事堂である。
丸屋根と柱を持つ建物で、当時の新しい建築だった。
政治の建物が皿の図柄になるのは、いまの感覚では珍しい。
しかし、その土地の代表的な建物であれば、名所と変わらない。
建物の図
この一点の中央には、丸屋根の建物が描かれる。
正面に柱が並び、階段が下りる。
手前の道には、馬車と人がいる。
縁は、大きな花である。
貝の縁とは、まったく違う印象になる。
![[キャッスル・ガーデン、バッテリー、ニューヨーク]](/img/met-2962/web-9df3c4e7.jpg)
濃い青の小皿
この一点も、濃い青である。
中央には、水際に建つ丸い建物が描かれる。
手前には桟橋があり、人の姿も見える。
小さな画面に、これだけの情報が入っている。
縁には、白い点の並ぶ帯が回る。
最も小さい一点
いま見た一点は、直径8.6センチ。
九点で最も小さい。
これは、茶碗を置くための小さな皿だろう。
題は、角括弧に入っている。
そして、この一点だけ、作者の欄が空である。
作者の欄が空になる
九点のうち八点には、製造元の名が入っている。
一点だけ、それがない。
同じ種類、同じ技法、同じ年代の皿である。
しかし、誰が作ったかは記録されていない。
裏に印がなければ、断定はできない。
館が推測を書いていないということである。
年の下限が、遅い
この一点の年は、1841年ごろから1846年ごろ。
九点の中で、始まりが最も遅い。
幅も五年しかない。
他の八点は、二十年以上の幅を持つ。
図柄に描かれた建物が、その年より前には存在しなかったのだろう。
図が、年の下限を決めている。
同じ終わりの年
九点の年の欄には、共通点がある。
終わりが、いずれも1846年ごろである。
これは、この製造元が仕事をやめた時期だろう。
作った会社が消えれば、それ以降には作れない。
つまり、九点の年の上限は、会社の歴史から決まっている。
始まりの年は、ばらばら
一方、始まりの年は六通りに分かれる。
1818年、1820年、1826年、1828年、1830年、1841年。
これは、それぞれの図柄が作られた時期だろう。
描かれた建物が建った年。版画の本が出た年。
そうした事情から、下限が決まる。
九点の直径
九点の直径を並べておく。
8.6センチ、19.4センチ、21.6センチが二点、23.2センチ、23.5センチ。
25.4センチが二点、26.7センチ。
小皿が一点あり、残る八点は19センチから27センチに収まる。
食卓で使う皿の、普通の大きさである。
器の題を、そのまま残す
最後に、題の書き方に戻る。
器に刷られた文字を、そのまま記録に写す。
行が変わる位置には、斜線を入れる。
大文字と小文字も、そのまま残す。
製造元の名も、商品の名も落とさない。
文字がなければ、括弧で補う。
書き写すという方針
この方針は、手間がかかる。
短くまとめたほうが、読みやすい題になる。
しかし、書き写しておけば、後から確かめられる。
器を見なくても、何が刷られているかが分かる。
九点の題は、そのために作られている。
日本語に直すときに落ちてしまう情報が、もとの記録には残っている。
同じように器の文字を題にする例は、他の製造元にもある。皿の裏の文字が、題になる——ジャクソン兄弟の転写陶器では、裏の印を題にした記録を扱った。



