同じ名字が、五通りに書かれる——ポール・メロン
同じ家から来た絵でありながら、出所の行が五つに分かれる。同じ受入番号の中でさえ、行が二種類に割れている。夫妻の共有と単独所有、記念の句の有無。統一しないという判断が、三十年ぶんの時間を記録に残した。名字で束ね、その後の語で分ける作りである。

同じ名字が、五通りに書かれる
九点の出所の行を並べると、名字は一つしかない。
メロン。
ところが、その前後の書き方が九点で五通りに分かれる。
ポール・メロン・コレクション。
ポール・メロン夫妻のコレクション。
ポール・メロン夫人のコレクション。
ポール・メロン夫人のコレクション、当館五十周年を記念して。
ポール・メロン夫妻のコレクション、当館五十周年を記念して。
同じ家から来た絵でありながら、行が五つに分かれている。
なぜ一つに統一しないのか。
答えは、記録の原則の中にある。
一つの受入番号に、二つの行
いちばん驚くのは、番号1983.1の中身である。
この受入の枝番25番は、こう書かれる。
ポール・メロン夫妻のコレクション。
同じ受入の枝番42番は、こう書かれる。
ポール・メロン・コレクション。
一度の受入の中で、行が二種類に分かれている。
番号の上では同じ塊なのに、出所の行は違う。
これは書き間違いではないと考えられる。
作品ごとに、所有の形が違ったのだろう。
夫婦の共有だったものと、夫の単独所有だったもの。
その区別が、行に反映されている。

縦長の画面に、木立と石造の記念柱が立つ。
柱は白く、細長い。上に彫像が載る。
その根もとに、階段と台座がある。
台座のまわりに、小さな人物が数人いる。
左には崩れた石の建物がある。
右には大きな樹が二本、枝を広げる。
葉は明るい緑で、細かい点で描かれる。
中景から奥へ、平らな土地が続く。
遠くに教会の塔と、低い家並みが見える。
空は上部が濃い青で、下へ行くほど白い。
雲は横に薄く伸びる。
実在の景色ではなく、要素を組み合わせた画面である。
そういう絵を、当時はカプリッチョと呼んだ。

九点の中で、いちばん背の高い画面である。
縦198.5センチ。人の背丈を超える。
大きな肘掛椅子に、男が深く腰かける。
椅子は白と灰の花模様の布で覆われる。
男は黒い上着と灰色のズボンを身につける。
頭には黒い帽をかぶる。
両手で新聞を広げ、顔を下へ向ける。
新聞の題字が読めるように描かれる。
足もとには茶色の靴が見える。
背後の壁は暗い褐色である。
その壁に、小さな絵が一点掛かる。
果物を描いた静物のように見える。
絵具は厚く置かれ、面が硬い。
椅子の布の模様も、筆の跡がはっきり残る。
四百八点という数
館の公開データで、この名字を含む行を数えてみる。
いちばん多いのは「ポール・メロン・コレクション」である。
未使用の作品だけでも三百四十八点が、この行を持つ。
次に多いのが「ポール・メロン夫妻のコレクション」で、六十一点。
「ポール・メロン夫人のコレクション」は四点。
記念の句が付いたものが二点。
そのほかに「ポール・メロン基金」という行もある。
こちらは寄贈ではなく、購入に使われる基金だ。
同じ名字が、寄贈の行にも購入の行にも出てくる。
行の形が違えば、金の流れも違う。
名字だけを見て同じ扱いにすると、読み違える。
番号の帯を、並べてみる
九点の受入番号を年順に並べる。
1964.2、1970.5、1983.1、1985.64、1992.51。
五つの帯に散らばっている。
1983.1の帯には、二十点以上が並ぶ。
1985.64にも十四点ほどが入る。
1992.51は八点ほどの小さな帯である。
まとまって贈られた年と、少数の年がある。
そして帯ごとに、行の形が変わっていく。
1964年と1970年は、一点ずつの受入だった。
1983年以降は、まとまった数になる。
寄贈の仕方が、途中で変わったことが分かる。
理由は記録に書かれていない。
分かるのは、番号と行の形が同時に変わったという事実だけだ。
五十周年という語
九点のうち二点の行には、末尾に一句が付く。
当館五十周年を記念して、という句である。
館が開いたのは1941年。
その五十年後は1991年になる。
二点の受入番号は1992.51である。
年をまたいで、記念の贈り物が届いたことになる。
この語が付いた行は、館の公開データに数多くある。
一つの記念の年に、多くの人が贈った跡だ。
行の末尾を読むだけで、その年の様子が見えてくる。
記念のための寄贈は、まとまって起きる。
そして行に、その理由が書き込まれる。
ふだんの寄贈の行には、理由は書かれない。
理由が書かれるのは、特別な場合だけである。

画面の中央に、覆いのついた揺りかごがある。
覆いの布は白地に小さな花模様が散る。
布は上から吊られ、左右へ広がる。
かごの中に、白い産着の赤ん坊が寝る。
顔は正面を向き、目が開く。
かごの縁には、飾りのついた小さな道具が差してある。
右には、白い頭巾をかぶった女が座る。
顔をかごのほうへ向け、手を膝に置く。
背後は灰色の壁で、何も描かれない。
床には褐色の面が広がる。
筆は速く、布の襞は数本の線で示される。
白い布の陰に、青と灰が置かれる。
赤ん坊の顔だけが、丁寧に描かれる。