一つの主題だけを、集める——ガーツ夫妻のアメリカ静物画、2003年から2018年
花、果物、野菜。二十九点すべてが静物である。壁に影を落とす葡萄、切られた檸檬、楕円の木苺、地面ごと描かれた野の花。年記なしが九点。長く格が低いとされた分野を集めた仕事を読みたい。小さな絵ほど額の比率が大きくなることにも触れたい。

一つの主題だけを、集める
この連載の最後から二番目に、いちばん新しい行を置きたい。
ウィリアム・アンド・アビゲイル・ガーツによる寄贈。
夫妻の名である。
そして、これまでと同じく、年が書かれていない。
当サイトで公開している分では、二十九点がこの行を持つ。
番号の年を数えると、こうなる。
二〇一八年が二十五点。
二〇〇四年が二点。
二〇〇三年が一点。
二〇〇五年が一点。
つまり、二〇〇三年から二〇一八年まで、十五年にわたって入っている。
そして、内容がきわめて均質である。
技法の欄は、布に油彩が十七点、板に油彩が十二点。
それだけである。
主題は、すべて静物である。
花、果物、野菜。
制作年は、一八五九年ごろから一八九四年まで。
十九世紀の後半に集中している。
今回は、その九点を読みたい。

暗い茶色の背景である。
中央に、円筒形の花瓶。
白い地に、青い文様が描かれている。
そこから、花が大きく広がる。
中央に、白と淡黄の薔薇。
その上に、青紫の菖蒲。
左右に、濃い紅の薔薇。
左下と右下に、赤い釣鐘形の花が垂れる。
葉は濃い緑で、四方へ伸びる。
花瓶の下は、石らしい台。
表面に、緑の苔のような染みがある。
そして、台の上に、花弁が数枚散っている。
赤い小さな点として置かれる。
右下に、署名と年。
静物という分野
この分野について、少し書いておきたい。
静物画は、長いあいだ絵画の格付けの下のほうに置かれてきた。
歴史画、宗教画がいちばん上。
次が肖像画。
そして風景画。
静物画は、その下である。
理由は、物語がないからとされた。
人物が行動しない。
見る側が読み解く筋がない。
しかし、十九世紀の後半になると、この序列は緩む。
そして、アメリカでは、家に飾る絵として静物画の需要が高まった。
食卓の果物。
花瓶の花。
摘んだ野菜。
いずれも、日常の延長にある。
九点の主題を並べると、そのことがよく分かる。
薔薇と菖蒲。
葡萄。
木苺。
檸檬。
梨。
芍薬。
野の花。
アスパラガスとトマトと南瓜。
そして、扇と装身具。
食べるものと、飾るものである。
大きさが、そろっている
九点の画面の寸法を並べたい。
六十一掛ける五十一・四センチ。
四十五・七掛ける三十一・一センチ。
六十一掛ける四十・六センチ。
三十五・六掛ける四十五・七センチ。
十六・五掛ける二十四・一センチ。
二十一・六掛ける二十六・七センチ。
四十五・七掛ける四十・六センチ。
十九・七掛ける三十・五センチ。
三十四・三掛ける四十一・三センチ。
いちばん大きいのが六十一センチ。
いちばん小さいのが十六・五センチ。
四倍ほどの差だが、いずれも小さい。
第二十七回で読んだ九点には、四メートル半の一点があった。
第二十三回にも、一メートル三十センチの絵があった。
こちらは、最大でも六十一センチである。
静物画は、小さく描かれることが多い。
理由は、置かれる場所にある。
食堂の壁、居間の一角、階段の踊り場。
大きな壁面ではない。
そして、近くで見るための絵である。
檸檬の切り口、木苺の粒、葡萄の粉。
離れて見ては分からない描写が中心にある。
だから、小さくてよい。
むしろ、小さいほうが近寄って見てもらえる。
大きさは、見る距離を決めている。
額が、絵より大きい
九点の額の寸法を見たい。
作品と額の差を計算すると、こうなる。
十六・五センチの絵が、額を含めて三十三・三センチ。
倍である。
十九・七センチの絵が、三十一・一センチ。
二十一・六センチの絵が、三十四・三センチ。
いずれも、額のほうが大きく寄与している。
一方、六十一センチの絵は、七十六・八センチ。
比率でいえば、はるかに小さい。
第二十三回でも同じ傾向を見た。
小さな絵ほど、額の比率が大きくなる。
そして、この九点では、その差が極端である。
十六・五センチの絵に、八センチ幅の額が付く。
絵の面積より、額の面積のほうが広い。
額は、絵を壁から切り離す装置である。
小さな絵ほど、切り離す力が要る。
だから、幅の広い額が選ばれる。
第二十回で読んだ掛軸の表装と、まったく同じ理屈である。
壁に、影が落ちる

縦長の画面である。
背景は、ほぼ一面の淡い色の壁。
わずかに黄みがかっている。
その壁に、葡萄の房が掛かっている。
上から吊るされているらしい。
蔓が細く、上へ伸びる。
房は大きく、実が密に付く。
色は赤紫で、粉を吹いたように白っぽい。
粒の一つずつに、光の点がある。
まわりに、葉が四枚ほど。
縁が枯れて、褐色になっている。
そして、壁に影が落ちている。
房の右下に、柔らかい灰色の影。
葉の影も、それぞれ落ちる。
この影が、絵を絵らしくなくしている。
壁の上に、本物の葡萄が掛かっているように見せる工夫である。
そういう描き方をする絵の系統がある。
見る人を一瞬だますことを目的とする。
第十七回で扱った、だまし絵の系統である。