作品を知る

雲の上に、人が座る——クロス・バロッチ・龔賢ほか九点

雲は形が定まらないが、絵の雲には型がある。九点で数えると、丸く盛る形が三点、渦を巻く形が二点、横に伸びる帯が二点。二点では雲が人を載せる台になり、二点では山を隠す帯になっていた。白い雲は四点、灰の雲は三点である。形のないものに、絵は必ず輪郭を与えていた。

バラ色の雲
アンリ=エドモン・クロス《バラ色の雲》クリーヴランド美術館蔵

桃色の雲が、糸杉の上にある

一枚の油彩に、大きな雲がある。

額なしで54.6×61センチ。

ほぼ正方形に近い画面である。

画面の上半分に、雲が広がる。

雲は桃色と橙色で、丸く盛り上がる。

縁は明るく、内側はやや暗い。

その周りの空は、水色と薄い緑である。

下のほうへ行くと、空は黄色になる。

雲の下、画面の中央に、細い糸杉が二本立つ。

糸杉は濃い緑と青で、上へまっすぐ伸びる。

その左右に、低い木と草地が広がる。

草は緑と桃色と黄の点でできている。

奥には、水面らしい帯がある。

さらに奥に、低い丘の輪郭が見える。

この画面は、すべて小さな点でできている。

点は互いに混ざらず、隣り合って置かれる。

離れて見ると、色が目のなかで混ざる。

館の記述によれば、この画家は療養のため南へ移った。

そして、その土地でこの描き方を採ったという。

館は、画家が母に書いた言葉も引いている。

遠くに山の青い影が見える、幸福を見つけた、という趣旨である。

バラ色の雲
アンリ=エドモン・クロス《バラ色の雲》1896年頃。館の記録では、油彩・カンヴァス。額なしで54.6×61センチ。番号は2020.106。クリーヴランド美術館蔵。アンリ=エドモン・クロス《バラ色の雲》クリーヴランド美術館蔵

雲は、形の定まらないものである。

一分ごとに姿を変え、同じ形は二度とない。

それでも、絵の雲には型がある。

丸く盛る、横に流す、渦を巻かせる。

九点を並べて、その型を数えたい。

雲の上に、人が座る

集めかたは、館の記録の題によっている。

雲にあたる語が入るものを拾った。

九点のうち、雲が描かれているのは七点だった。

残る二点は、後で扱う。

まず、意外な共通点があった。

九点のうち二点で、雲の上に人が座っている。

いずれも、十六世紀から十七世紀の版画である。

一点目は、紙が15.5×10.7センチと小さい。

画面の中央に、女性が座っている。

膝の上に、幼子を抱いている。

幼子は眠っているように見える。

女性の背後には、放射状の線が広がる。

光を示す線である。

上の左右に、小さな顔が二つ浮かぶ。

翼のある子どもらしい。

そして、女性が座っているのは雲である。

雲は、渦を巻いた塊として彫られている。

その下は、何も描かれていない。

つまり、雲は座るための台になっている。

雲上の聖母
フェデリコ・バロッチ《雲上の聖母》1581年頃。館の記録では、エッチングとエングレーヴィング。紙は15.5×10.7センチ。番号は1925.1222。クリーヴランド美術館蔵。フェデリコ・バロッチ《雲上の聖母》クリーヴランド美術館蔵

二点目も、版画である。

館の記録に、寸法の欄はない。

画面には、女性が一人立っている。

衣は幾重にも重なり、風にひるがえる。

右手に、細い棒のようなものを持つ。

左手には、葉のついた枝がある。

足もとには、輪のようなものが見える。

車輪の一部だろう。

顔は上を向き、目は上のほうを見ている。

その足の下に、雲がある。

雲は白く、渦を巻く。

背景は暗く、細かい線で埋められている。

つまり、この人物も雲の上に立っている。

雲は、地面の代わりである。

前に窓や戸口を扱った回では、囲いが場所を作っていた。

ここでは、雲が場所を作っている。

地面のない場所に立つことが、この人物の性質を示す。

雲上の聖カタリナ
ペーテル・パウル・ルーベンス《雲上の聖カタリナ》1620〜30年。館の記録では、エッチング。番号は1923.1110。クリーヴランド美術館蔵。ペーテル・パウル・ルーベンス《雲上の聖カタリナ》クリーヴランド美術館蔵

東アジアの雲は、山を隠す

中国の掛幅を二点見たい。

一点目は、画面が325.1×112.4センチある。

表装を含めると414×140.3センチになる。

四メートルを超える。

この連載で扱ったなかで、いちばん大きい作品である。

縦に細長い画面である。

画面の下から上へ、山が積み上がる。

山は墨の点を無数に重ねて作られている。

その点が濃いところは黒く、薄いところは灰色になる。

山と山のあいだに、白い帯が横たわる。

雲である。

雲は描かれておらず、紙の地が残されている。

つまり、墨を置かないことで雲が作られる。

その白い帯があるので、山が遠く見える。

画面の中ほどに、小さな家がある。

屋根と柱だけが見える。

木立に囲まれていて、人はいない。

館の記録の題によれば、山と雲のあいだの住まいである。

山と雲のあいだの住まい
龔賢《山と雲のあいだの住まい》十七世紀。館の記録では、掛幅。紙に墨。画面325.1×112.4センチ。表装を含めて414×140.3センチ。番号は1983.609。メトロポリタン美術館蔵。龔賢《山と雲のあいだの住まい》メトロポリタン美術館蔵

二点目は、全体で126.2×52.7センチ。

こちらも縦長である。

画面には、白い雲が渦を巻いて重なる。

雲は輪郭線で描かれ、内側は白い。

その雲のあいだに、赤い木が生えている。

葉は朱と橙で、点を重ねて描かれる。

さらに奥には、青緑の山が見える。

雲は山と木のあいだを縫うように走る。

上のほうに、書き込みと印がある。

館の記録は、その詩の訳を載せている。

白い雲が紅い木々を囲み、霧はすでに谷へ戻った。

なぜ休んで、心を世と和ませないのか。

そういう内容が続く。

つまり、雲は詩の主題でもある。

白雲紅樹
黎簡《白雲紅樹》1788年。館の記録では、掛幅。絹に墨と色。全体で126.2×52.7センチ。番号は1972.42。クリーヴランド美術館蔵。黎簡《白雲紅樹》クリーヴランド美術館蔵

雲だけを描く

二十世紀の水彩を見たい。

50.8×35.6センチ。

縦長の画面である。

画面の上の四分の三が、雲である。

雲は青紫と灰色で、うねるように重なる。

輪郭は太い線で描かれる。

雲と雲のあいだに、白い部分がある。

さらにその奥に、濃い青が見える。

空だろう。

画面の下、四分の一に、地面がある。

地面は緑と黄と赤の短い線でできている。

草か、低い木らしい。

その上に、細い植物が数本立つ。

館の記録の題は、水彩の番号と、内容の説明である。

第三十一番、雲のある風景、と書かれている。

つまり、番号で管理されていた作品である。

館の記録に、記述の欄はない。