雲の上に、人が座る——クロス・バロッチ・龔賢ほか九点
雲は形が定まらないが、絵の雲には型がある。九点で数えると、丸く盛る形が三点、渦を巻く形が二点、横に伸びる帯が二点。二点では雲が人を載せる台になり、二点では山を隠す帯になっていた。白い雲は四点、灰の雲は三点である。形のないものに、絵は必ず輪郭を与えていた。

桃色の雲が、糸杉の上にある
一枚の油彩に、大きな雲がある。
額なしで54.6×61センチ。
ほぼ正方形に近い画面である。
画面の上半分に、雲が広がる。
雲は桃色と橙色で、丸く盛り上がる。
縁は明るく、内側はやや暗い。
その周りの空は、水色と薄い緑である。
下のほうへ行くと、空は黄色になる。
雲の下、画面の中央に、細い糸杉が二本立つ。
糸杉は濃い緑と青で、上へまっすぐ伸びる。
その左右に、低い木と草地が広がる。
草は緑と桃色と黄の点でできている。
奥には、水面らしい帯がある。
さらに奥に、低い丘の輪郭が見える。
この画面は、すべて小さな点でできている。
点は互いに混ざらず、隣り合って置かれる。
離れて見ると、色が目のなかで混ざる。
館の記述によれば、この画家は療養のため南へ移った。
そして、その土地でこの描き方を採ったという。
館は、画家が母に書いた言葉も引いている。
遠くに山の青い影が見える、幸福を見つけた、という趣旨である。

雲は、形の定まらないものである。
一分ごとに姿を変え、同じ形は二度とない。
それでも、絵の雲には型がある。
丸く盛る、横に流す、渦を巻かせる。
九点を並べて、その型を数えたい。
雲の上に、人が座る
集めかたは、館の記録の題によっている。
雲にあたる語が入るものを拾った。
九点のうち、雲が描かれているのは七点だった。
残る二点は、後で扱う。
まず、意外な共通点があった。
九点のうち二点で、雲の上に人が座っている。
いずれも、十六世紀から十七世紀の版画である。
一点目は、紙が15.5×10.7センチと小さい。
画面の中央に、女性が座っている。
膝の上に、幼子を抱いている。
幼子は眠っているように見える。
女性の背後には、放射状の線が広がる。
光を示す線である。
上の左右に、小さな顔が二つ浮かぶ。
翼のある子どもらしい。
そして、女性が座っているのは雲である。
雲は、渦を巻いた塊として彫られている。
その下は、何も描かれていない。
つまり、雲は座るための台になっている。

二点目も、版画である。
館の記録に、寸法の欄はない。
画面には、女性が一人立っている。
衣は幾重にも重なり、風にひるがえる。
右手に、細い棒のようなものを持つ。
左手には、葉のついた枝がある。
足もとには、輪のようなものが見える。
車輪の一部だろう。
顔は上を向き、目は上のほうを見ている。
その足の下に、雲がある。
雲は白く、渦を巻く。
背景は暗く、細かい線で埋められている。
つまり、この人物も雲の上に立っている。
雲は、地面の代わりである。
前に窓や戸口を扱った回では、囲いが場所を作っていた。
ここでは、雲が場所を作っている。
地面のない場所に立つことが、この人物の性質を示す。

東アジアの雲は、山を隠す
中国の掛幅を二点見たい。
一点目は、画面が325.1×112.4センチある。
表装を含めると414×140.3センチになる。
四メートルを超える。
この連載で扱ったなかで、いちばん大きい作品である。
縦に細長い画面である。
画面の下から上へ、山が積み上がる。
山は墨の点を無数に重ねて作られている。
その点が濃いところは黒く、薄いところは灰色になる。
山と山のあいだに、白い帯が横たわる。
雲である。
雲は描かれておらず、紙の地が残されている。
つまり、墨を置かないことで雲が作られる。
その白い帯があるので、山が遠く見える。
画面の中ほどに、小さな家がある。
屋根と柱だけが見える。
木立に囲まれていて、人はいない。
館の記録の題によれば、山と雲のあいだの住まいである。

二点目は、全体で126.2×52.7センチ。
こちらも縦長である。
画面には、白い雲が渦を巻いて重なる。
雲は輪郭線で描かれ、内側は白い。
その雲のあいだに、赤い木が生えている。
葉は朱と橙で、点を重ねて描かれる。
さらに奥には、青緑の山が見える。
雲は山と木のあいだを縫うように走る。
上のほうに、書き込みと印がある。
館の記録は、その詩の訳を載せている。
白い雲が紅い木々を囲み、霧はすでに谷へ戻った。
なぜ休んで、心を世と和ませないのか。
そういう内容が続く。
つまり、雲は詩の主題でもある。

雲だけを描く
二十世紀の水彩を見たい。
50.8×35.6センチ。
縦長の画面である。
画面の上の四分の三が、雲である。
雲は青紫と灰色で、うねるように重なる。
輪郭は太い線で描かれる。
雲と雲のあいだに、白い部分がある。
さらにその奥に、濃い青が見える。
空だろう。
画面の下、四分の一に、地面がある。
地面は緑と黄と赤の短い線でできている。
草か、低い木らしい。
その上に、細い植物が数本立つ。
館の記録の題は、水彩の番号と、内容の説明である。
第三十一番、雲のある風景、と書かれている。
つまり、番号で管理されていた作品である。
館の記録に、記述の欄はない。