夜の画面は、五点しかない——サヴラソフ・カザン・ポワンほか九点
夜を描くには、どこかに光を置くしかない。九点で数えると、夜の場面は五点で、光源は四種類あった。木版では夜が明るく摺られる。騎士の綴りや、翻訳による一致で四点が混じった。星が描かれるのは一点だけである。

川の上に、細い光の帯が残っている
一枚の板絵に、夜の川がある。
32.7×54.6センチ。
横長の画面である。
画面の上半分は、空である。
空の上のほうは、ほとんど黒い。
中ほどに、灰色の雲が横に伸びる。
その下、地平線のすぐ上だけが明るい。
橙と黄の帯が、水平に広がる。
日が沈んだ直後らしい。
下半分は、川である。
水面は暗く、空の明るい帯を映す。
映った光は、縦に細長く伸びる。
画面の中央に、舟が二艘いる。
帆柱が立ち、帆は畳まれている。
船体は黒く、輪郭だけが見える。
手前の岸には、小さな影がいくつかある。
人か、荷か、判別できない。
左奥に、町の輪郭が薄く見える。
塔らしい形が二つある。
全体が茶色と黒でできている。
明るい部分は、空の帯と、水の反射だけである。

夜は、光の少ない時間である。
絵は光がなければ何も示せない。
だから夜の絵は、必ずどこかに光を置く。
月、火、灯、あるいは沈んだ後の空。
九点を並べて、その光源を数えたい。
夜の絵は、光源で決まる
集めかたは、館の記録の題によっている。
夜、宵にあたる語が入るものを拾った。
九点のうち、夜の場面が描かれているのは五点だった。
残る四点は、後で扱う。
五点の光源を数えたい。
日没の残光が、二点。
星と月が、一点。
家のなかの火と灯が、一点。
そして、光源のはっきりしないものが一点である。
いずれも、画面のなかに小さな明るい部分がある。
その明るさが、画面の他をすべて暗く見せている。
前に洞窟や嵐を扱った回でも、同じ構造を見た。
暗い面のなかの、一点の明るさ。
夜の絵は、その構造をいちばん徹底している。
星と、月のない夜
星を描いた一点を見たい。
油彩で、全体101.9×66.2センチ。
縦長の画面である。
画面の中央に、人物が一人立っている。
衣を着ておらず、体の輪郭がはっきり描かれる。
肌は白く、青みを帯びている。
顔はうつむき、目は伏せられている。
両腕は下ろされ、体はやや傾く。
背景は、濃い青と緑である。
左右に、葉の茂った枝が垂れる。
葉は暗い緑と青で、細かく描かれる。
下のほうには、草と小さな花がある。
上のほうの空は、深い青である。
星は描かれていないが、題には星の語がある。
館の記録の題は、星と露と夜の夢という。
三つの語が並ぶ題である。
いずれも、形のないものか、見えにくいものである。
館の記録に、記述の欄はない。
つまり、題以外の手がかりがない。

灯のない町
夜の町を描いた二点を見たい。
一点目は、油彩である。
額なしで88×89センチ。
ほぼ正方形の画面である。
画面の中央に、古い建物が並ぶ。
壁は黄土色と灰色で、窓は暗い。
屋根は傾き、煙突が立つ。
建物の手前に、水路がある。
水面は暗く、建物を映す。
映った像は、静かで揺れていない。
左には、低い橋が架かる。
橋の上には、誰もいない。
空は暗い緑がかった青で、星も月もない。
建物のどの窓にも、灯は点いていない。
つまり、光源が画面にない。
それでも、建物の壁はうっすら明るい。
どこかから、弱い光が来ている。
館の記録の題は《真夜中》という。
館の記述によれば、この画家は記憶で描く訓練を受けた。
そして、その方法を後に自分の生徒にも伝えたという。
つまり、この夜景は現場で描かれていない可能性が高い。

二点目は、パステルである。
紙は38×55センチ。
横長の画面である。
画面の右寄りに、女性が一人立っている。
黒い外套に、黒い帽子。
背を向けていて、顔は見えない。
その左に、川が広がる。
水面は淡い緑で、細かい横線が引かれる。
対岸には、建物の影が青く並ぶ。
その上に、小さな明かりが点々と光る。
窓の灯である。
左のほうに、橋が架かる。
橋の上にも、明かりが並ぶ。
空は上のほうが青く、下は淡い。
画面の手前は、灰色の石畳である。
館の記録の題は、夜のセーヌ河岸という。
つまり、これは市街の夜である。
灯があるので、夜でも輪郭が読める。

火のある夜
火を光源にした一点がある。
油彩で、56.2×69センチ。
画面の中央に、円錐形の住居がある。
細い柱を組み、覆いを掛けた形である。
その前に、火が焚かれている。
火は見えないが、覆いの内側が赤く光る。
住居の輪郭が、その光で浮かび上がる。
右のほうに、水面がある。
水は金色に光り、空を映す。
空は上が暗く、下が黄土色である。
日が沈んだ直後だろう。
左には、黒い崖と木立がある。
住居の脇に、細い人影が一つある。
館の記録の題には、北アメリカの先住民の住居を指す語が入る。
その語の前に、当時使われていた呼称が置かれている。
いまは使われない呼び方である。
館は、記録された題をそのまま残している。
当社も、館の記録の表記を書き写すにとどめた。
