作品を知る

夜の画面は、五点しかない——サヴラソフ・カザン・ポワンほか九点

夜を描くには、どこかに光を置くしかない。九点で数えると、夜の場面は五点で、光源は四種類あった。木版では夜が明るく摺られる。騎士の綴りや、翻訳による一致で四点が混じった。星が描かれるのは一点だけである。

ヴォルガ川の夜景
アレクセイ・サヴラソフ《ヴォルガ川の夜景》メトロポリタン美術館蔵

川の上に、細い光の帯が残っている

一枚の板絵に、夜の川がある。

32.7×54.6センチ。

横長の画面である。

画面の上半分は、空である。

空の上のほうは、ほとんど黒い。

中ほどに、灰色の雲が横に伸びる。

その下、地平線のすぐ上だけが明るい。

橙と黄の帯が、水平に広がる。

日が沈んだ直後らしい。

下半分は、川である。

水面は暗く、空の明るい帯を映す。

映った光は、縦に細長く伸びる。

画面の中央に、舟が二艘いる。

帆柱が立ち、帆は畳まれている。

船体は黒く、輪郭だけが見える。

手前の岸には、小さな影がいくつかある。

人か、荷か、判別できない。

左奥に、町の輪郭が薄く見える。

塔らしい形が二つある。

全体が茶色と黒でできている。

明るい部分は、空の帯と、水の反射だけである。

ヴォルガ川の夜景
アレクセイ・サヴラソフ《ヴォルガ川の夜景》1871年。館の記録では、油彩・板。32.7×54.6センチ。番号は1972.145.4。メトロポリタン美術館蔵。アレクセイ・サヴラソフ《ヴォルガ川の夜景》メトロポリタン美術館蔵

夜は、光の少ない時間である。

絵は光がなければ何も示せない。

だから夜の絵は、必ずどこかに光を置く。

月、火、灯、あるいは沈んだ後の空。

九点を並べて、その光源を数えたい。

夜の絵は、光源で決まる

集めかたは、館の記録の題によっている。

夜、宵にあたる語が入るものを拾った。

九点のうち、夜の場面が描かれているのは五点だった。

残る四点は、後で扱う。

五点の光源を数えたい。

日没の残光が、二点。

星と月が、一点。

家のなかの火と灯が、一点。

そして、光源のはっきりしないものが一点である。

いずれも、画面のなかに小さな明るい部分がある。

その明るさが、画面の他をすべて暗く見せている。

前に洞窟や嵐を扱った回でも、同じ構造を見た。

暗い面のなかの、一点の明るさ。

夜の絵は、その構造をいちばん徹底している。

星と、月のない夜

星を描いた一点を見たい。

油彩で、全体101.9×66.2センチ。

縦長の画面である。

画面の中央に、人物が一人立っている。

衣を着ておらず、体の輪郭がはっきり描かれる。

肌は白く、青みを帯びている。

顔はうつむき、目は伏せられている。

両腕は下ろされ、体はやや傾く。

背景は、濃い青と緑である。

左右に、葉の茂った枝が垂れる。

葉は暗い緑と青で、細かく描かれる。

下のほうには、草と小さな花がある。

上のほうの空は、深い青である。

星は描かれていないが、題には星の語がある。

館の記録の題は、星と露と夜の夢という。

三つの語が並ぶ題である。

いずれも、形のないものか、見えにくいものである。

館の記録に、記述の欄はない。

つまり、題以外の手がかりがない。

星と露と夜の夢
アーサー・ボーウェン・デービス《星と露と夜の夢》1927年頃。館の記録では、油彩・カンヴァス。全体101.9×66.2センチ。番号は2014.136.53。ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵。アーサー・ボーウェン・デービス《星と露と夜の夢》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

灯のない町

夜の町を描いた二点を見たい。

一点目は、油彩である。

額なしで88×89センチ。

ほぼ正方形の画面である。

画面の中央に、古い建物が並ぶ。

壁は黄土色と灰色で、窓は暗い。

屋根は傾き、煙突が立つ。

建物の手前に、水路がある。

水面は暗く、建物を映す。

映った像は、静かで揺れていない。

左には、低い橋が架かる。

橋の上には、誰もいない。

空は暗い緑がかった青で、星も月もない。

建物のどの窓にも、灯は点いていない。

つまり、光源が画面にない。

それでも、建物の壁はうっすら明るい。

どこかから、弱い光が来ている。

館の記録の題は《真夜中》という。

館の記述によれば、この画家は記憶で描く訓練を受けた。

そして、その方法を後に自分の生徒にも伝えたという。

つまり、この夜景は現場で描かれていない可能性が高い。

真夜中
ジャン=シャルル・カザン《真夜中》1891年。館の記録では、布に油彩。額なしで88×89センチ。番号は1923.602。クリーヴランド美術館蔵。ジャン=シャルル・カザン《真夜中》クリーヴランド美術館蔵

二点目は、パステルである。

紙は38×55センチ。

横長の画面である。

画面の右寄りに、女性が一人立っている。

黒い外套に、黒い帽子。

背を向けていて、顔は見えない。

その左に、川が広がる。

水面は淡い緑で、細かい横線が引かれる。

対岸には、建物の影が青く並ぶ。

その上に、小さな明かりが点々と光る。

窓の灯である。

左のほうに、橋が架かる。

橋の上にも、明かりが並ぶ。

空は上のほうが青く、下は淡い。

画面の手前は、灰色の石畳である。

館の記録の題は、夜のセーヌ河岸という。

つまり、これは市街の夜である。

灯があるので、夜でも輪郭が読める。

夜のセーヌ河岸
アルマン・ポワン《夜のセーヌ河岸》1890年頃。館の記録では、灰色の網目紙にパステル。紙は38×55センチ。番号は2022.95。クリーヴランド美術館蔵。アルマン・ポワン《夜のセーヌ河岸》クリーヴランド美術館蔵

火のある夜

火を光源にした一点がある。

油彩で、56.2×69センチ。

画面の中央に、円錐形の住居がある。

細い柱を組み、覆いを掛けた形である。

その前に、火が焚かれている。

火は見えないが、覆いの内側が赤く光る。

住居の輪郭が、その光で浮かび上がる。

右のほうに、水面がある。

水は金色に光り、空を映す。

空は上が暗く、下が黄土色である。

日が沈んだ直後だろう。

左には、黒い崖と木立がある。

住居の脇に、細い人影が一つある。

館の記録の題には、北アメリカの先住民の住居を指す語が入る。

その語の前に、当時使われていた呼称が置かれている。

いまは使われない呼び方である。

館は、記録された題をそのまま残している。

当社も、館の記録の表記を書き写すにとどめた。

インディアンのティピーの夜景
ベンジャミン・レイボーグ《ティピーの夜景》1895年。館の記録では、油彩・カンヴァス。56.2×69センチ。スミソニアン・アメリカ美術館蔵。ベンジャミン・レイボーグ《インディアンのティピーの夜景》スミソニアン協会蔵