画家を知る

真横だけを、灰色の紙に——ジェームズ・シャープルズ

描かれた人物は、いずれも真横を向く。同じ寸法の灰色の紙が九枚。輪郭だけで人を見分けさせる方法と、中間色の紙を使う理由を、家族の肖像まで含めて確かめる。家族が同じ仕事を続けたため、誰の手による一枚かが記録で揺れる点にも触れる。

ジョン・アダムズ
ジョン・アダムズ》メトロポリタン美術館蔵

横顔だけを描く

一枚のパステル画から始めたい。

ジョン・アダムズ
ジェームズ・シャープルズ《ジョン・アダムズ》1796年ごろ。パステル、灰色の簀の目紙。現在は紙が酸化している。縦24.1センチ、横18.9センチ。メトロポリタン美術館蔵。1995年遺贈。ジョン・アダムズ》メトロポリタン美術館蔵

男の横顔が描かれている。

真横である。

顔は左を向き、輪郭がはっきり出る。

額から鼻、鼻から唇、唇から顎。

その線が、一続きに読める。

髪は白く、耳の後ろで束ねられる。

首元には、白い布が巻かれる。

上着は淡い緑で、大きな折り返しの襟がある。

胴着には、ボタンが縦に並ぶ。

背景は暗く、平らである。

真横という角度

肖像画では、四分の三の角度が主流である。

顔の造作がよく見え、両目が入るからである。

しかし、この画家は真横を選ぶ。

真横だと、両目のうち一つしか見えない。

その代わり、輪郭が一本の線になる。

額の傾き、鼻の高さ、顎の出方。

この三つが、一目で分かる。

つまり、輪郭で人を示す方法である。

輪郭で、人を見分ける

十八世紀の終わりごろ、横顔の肖像が流行した。

背景には、当時の考え方がある。

顔の輪郭に、その人の性質が表れるという説である。

いまの目で見れば、根拠のない考え方である。

しかし当時は、真面目に論じられていた。

そして、横顔の肖像が量産された。

切り絵の影絵も、同じ流れにある。

九点の横顔も、その文脈の中にある。

描いた人について

ジェームズ・シャープルズは、一七五一年ごろに生まれた。

一八一一年に没している。

英国の出身で、北米へ渡った。

そして、家族とともに肖像を制作した。

妻も、子も画家だったと伝えられる。

つまり、家族で工房を作っていた。

同じ図の複製が複数存在するのは、その事情による。

家族が、同じ図を写して作った。

同じ寸法が、九枚

九点の寸法を並べたい。

縦22.9センチから24.8センチ。

横18.3センチから20センチ。

つまり、ほぼ同じである。

九センチ半掛ける七インチ半といったところだろう。

規格が決まっていたことになる。

そして、額も同じ寸法のものが使える。

量産のための条件が、整えられている。

灰色の紙に描く

技法欄を見ると、いずれも紙が灰色である。

そして、注記がある。

現在は酸化している、とある。

つまり、もとの色から変わっている。

紙は、時間とともに変色する。

空気に触れ、光に当たり、酸化する。

いま灰褐色に見える紙も、もとは別の色だった。

館は、その事実を技法欄に明記している。

中間色の紙を使う理由

灰色の紙を選ぶのには、理由がある。

パステルは、粉状の顔料を固めた画材である。

白い紙に描くと、明るい部分が紙と区別しにくい。

灰色の紙なら、白いパステルが際立つ。

そして、暗い部分は紙の色をそのまま使える。

つまり、明暗の幅が広がる。

当サイトでは、青い紙の素描も扱った。

考え方は同じである。

妻の肖像

二点目は、対である。

アビゲイル・スミス・アダムズ
ジェームズ・シャープルズ《アビゲイル・スミス・アダムズ》1796年ごろ。パステル、灰色の簀の目紙。縦24.3センチ、横18.9センチ。メトロポリタン美術館蔵。1995年遺贈。アビゲイル・スミス・アダムズ》メトロポリタン美術館蔵

女性の胸像である。

こちらは、真横ではない。

顔は正面をやや外し、目はこちらを見る。

頭には、大きな白い帽子をかぶる。

帽子には、リボンとレースが付く。

首元には、白い布が幾重にも重なる。

衣は白に近い色である。

背景は暗い。

九点の中で、正面に近い角度はこれだけである。

男は横顔、女は正面

九点を見ると、傾向がある。

男性像は、真横が多い。

女性像は、正面に近いものがある。

理由は分からない。

一つの推測として、装いの見せ方が関わるかもしれない。

女性の帽子や襟飾りは、正面のほうがよく見える。

一方、男性の輪郭は真横のほうが特徴が出る。

もっとも、九点だけでは断定できない。

青い背景の男

三点目は、背景が明るい。

アルバート・ギャラティン
ジェームズ・シャープルズ《アルバート・ギャラティン》1796年ごろ。パステル、淡い灰色の紙。縦23.8センチ、横18.7センチ。メトロポリタン美術館蔵。1908年寄贈。アルバート・ギャラティン》メトロポリタン美術館蔵

男の横顔である。

顔は左を向く。

髪は黒く、後ろで束ねられる。

その束が、首の後ろに垂れる。

首元には、白い布が巻かれる。

上着は暗い灰で、大きな襟がある。

背景は、深い青である。

九点の中で、最も明るい背景である。

背景に、青を使う

九点の背景を分類したい。

暗い褐色や黒が五点。

青が二点。

そして、明るい灰と褐色が各一点。

つまり、暗い背景が主流である。

青の背景は、目立つ。

顔の輪郭が、はっきり切り出される。

そして、髪の暗さと対比される。

パステルは、色を重ねやすい画材である。

背景に色を使うのも、容易である。

指で、色を伸ばす

パステルの特徴は、指で扱えることである。

紙に置いた粉を、指でこすって伸ばす。

すると、色の境目が溶ける。

九点の肌の描写を拡大すると、この痕跡が見える。

頬から顎への移り、額の光。

いずれも、境目がない。

一方、髪の毛や襟の縁は、線として残る。

つまり、伸ばす場所と残す場所を分けている。

その使い分けが、パステル画の要である。

弱い色を、どう定着させるか

パステルには、弱点がある。

粉が紙の表面に載っているだけである。

擦れば落ちる。

だから、定着液を吹くか、硝子で覆う。

そして、動かさない。

九点がいずれも良好に残っているのは、丁寧に扱われたからだろう。

一方で、粉が落ちた部分もある。

拡大すると、紙の目が見える箇所がある。