名画の楽しみ方

斜線は、二つの意味を持つ——ティツィアーノとルーベンスの年の欄

聖セシリアと天使
オラツィオ・ジェンティレスキとジョヴァンニ・ランフランコ《聖セシリアと天使》。年は1617年から1618年ごろ、および1621年から1627年ごろとされる。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦87.5センチ、横108センチとされる。番号は1961.9.73。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。オラツィオ・ジェンティレスキとジョヴァンニ・ランフランコ《聖セシリアと天使》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

横長の画面に、二人の人物が並ぶ。

左の女性は、赤い衣と褐色の上着をまとう。

顔は下を向き、鍵盤に手を置く。

右の人物には翼がある。

白い衣をまとい、手に楽譜を持つ。

その背後に、縦に並ぶ管が見える。

小型の楽器である。

二人の視線は、どちらも楽器へ向かう。

背景は暗く、何も描かれない。

女性の赤い衣が、画面の中で最も強い色である。

天使の白い衣が、それと対をなす。

二人の描き方には差がある。

肌の色も、輪郭の硬さも、わずかに違う。

手直しを、年の欄に書く

もう一つ、興味深い形がある。

1629年から1630年、おそらく1640年代半ばに手直し。

制作の年と、手直しの年が並ぶ。

作者の欄にも、二人目の名が推定で添えられる。

つまり、描き上げたあとで別の手が入っている。

その事実を、年の欄が記録している。

手直しの年には「おそらく」が付く。

制作の年には付かない。

確かなことと、推定を書き分けている。

一つの欄の中で、確度の違う情報が並ぶ。

デボラ・キップと子どもたち
ルーベンス、およびおそらくヨルダーンス《デボラ・キップと子どもたち》1629年から1630年。おそらく1640年代半ばに手直しされている。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦165.8センチ、横177.8センチとされる。番号は1971.18.1。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ピーテル・パウル・ルーベンス卿、およびおそらくヤコブ・ヨルダーンス《デボラ・キップと子どもたち》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

石造の柱廊の下に、母と四人の子が集まる。

母は緑の衣に白い頭巾をつけ、椅子に座る。

膝の上に、白い産着の赤ん坊を抱く。

その右に、白い衣の幼児が立つ。

さらに右に、黒い衣の少女が二人並ぶ。

一人は本らしいものを持つ。

左には赤い幕が垂れ、上へ大きく広がる。

右奥には柱と、その上の彫像が見える。

彫像の下に、青い空と水が覗く。

床は石で、手前に犬らしい姿がある。

人物はいずれも正面か、こちらを向く。

家族の記念として作られた画面である。

「ごろ」を二つ、斜線でつなぐ

九点でいちばん複雑な年の欄がある。

1540年代ごろ、から、1560年から1565年ごろ。

「ごろ」が二回出てくる。

しかも後半は、幅を持った期間である。

つまり、幅のある二つの時点が斜線でつながれている。

これは、制作が二段階だったことを示すと考えられる。

作者の欄にも、ティツィアーノと工房、とある。

親方が始め、工房が仕上げたのかもしれない。

あるいは、二十年後に手を加えたのかもしれない。

記録は、そこまでは書かない。

書くのは、二つの時期があるという事実だけである。

ウェヌスとアドニス
ティツィアーノと工房《ウェヌスとアドニス》1540年代ごろから、1560年から1565年ごろ。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦106.8センチ、横136センチとされる。番号は1942.9.84。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。ティツィアーノと工房《ウェヌスとアドニス》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

横長の画面に、二人の人物が絡む。

左に、裸の女性が背を向けて座る。

体は大きくひねられ、腕を伸ばす。

右の男の腰に、両手を回す。

男は立ち上がろうとする姿勢である。

赤い布を腰に巻き、槍を持つ。

その足もとに、犬が三頭いる。

紐でつながれ、右へ向かおうとする。

左手前には、翼のある幼な子が眠る。

背後には木立があり、右上に光が差す。

雲の切れ間から、斜めの光が落ちる。

肌の色は明るく、周囲の暗さと対をなす。

板と厚みの記録

九点の技法の欄を見ると、板が三点ある。

そのうち二点には、厚みが記録されている。

0.5センチと0.6センチ。

いずれも薄い板である。

厚みが書かれるのは、板絵では珍しくない。

反りや割れの状態に関わるからだ。

カンヴァスの作品には、厚みの記載がない。

布に厚みを書いても、意味がないためだろう。

支持体の種類によって、記録すべき項目が変わる。

これは、寸法の欄の設計の問題である。

すべての作品に同じ項目を並べるのではない。

必要な項目だけを、必要な作品に書く。

だから欄の長さが、作品ごとに違ってくる。

偽の署名と、記録の年

九点のうち一点には、変わった銘記がある。

館の記録は、こう書いている。

偽って署名され、年が記されている、と。

画面の下には、別の画家の名と1746年という年が書かれている。

しかし館は、その署名も年も採らない。

作者の欄には、別の画家の名を書く。

年の欄には、1715年から1730年ごろと書く。

そのうえで、おそらく1725年に近い、と添える。

絵の上に書かれた年と、記録の年が食い違っている。

こういうとき、館は絵の側を信じない。

信じない理由は、様式や来歴の検討にある。

そして、食い違いを消さずに銘記の欄へ残す。

読む側は、両方を見て判断できる。

婦人の肖像
マリア・フェレルスト《婦人の肖像》1715年から1730年ごろ。おそらく1725年に近いとされる。カンヴァスに油彩。館の記録では、縦91.4センチ、横71.1センチとされる。画面には別の画家の名と1746年という年が偽って記されている。番号は1947.17.95。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。マリア・フェレルスト《婦人の肖像》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

女性が椅子に座り、こちらを向く。

顔は正面をやや外し、目はこちらを見る。

髪は後ろでまとめられ、額が出る。

耳の上に、細い巻き毛が一筋垂れる。

衣は青灰色で、光沢がある。

袖口から、白い襞飾りが出る。

胸もとは開き、白い布が縁を作る。

左肘を、石の台の上に置く。

背後は暗い褐色で、右に柱らしい形がある。

衣の青が、画面の中で最も強い。

肌はなめらかで、影が薄い。

年の欄には、幅と、その中の推定が並ぶ。

「おそらく1725年に近い」という言い方である。

幅の中でも、どのあたりかを示している。