ポール・ゴーギャンの代表作と特徴——なぜ輪郭は太く、色は平らなのか
ポール・ゴーギャンの代表作と特徴を、公開中の油彩5点から読む。太い輪郭線と平らな色面はいつ現れ、タヒチで何が変わったのか。1889年から1901年までの作を年の順に並べ、館の記録とCC0の画像で確かめる。

ポール・ゴーギャンとはどんな画家か
ポール・ゴーギャンは、輪郭を太い線で囲み、その内側を平らな色で塗った画家である。シカゴ美術館の記録では1848年に生まれ、1903年に没している。
南太平洋のタヒチへ渡り、そこで描いた絵で広く知られる。ただし当サイトが公開している油彩を年の順に並べると、その手つきはタヒチへ行く前に出来上がっていたことが分かる。

背景は上が赤、下が黄で、二色に塗り分けられている。境目はほぼ水平の一本の線で、奥行きの手がかりは置かれていない。
頭の上に細い輪が浮かぶ。右上からリンゴのついた枝が下がり、右手は蛇をつまんでいる。
顔は濃い輪郭で縁取られ、頬と額の面は大きなひとかたまりで塗られている。影のぼかしはほとんど使われていない。
ゴーギャンの代表作
当サイトで見られる油彩から、年の離れた5点を選んで並べる。上の《自画像》と同じ1889年の作が、次の1点である。

画面のほとんどが緑で埋まっている。波の白い泡だけが、緑の上に鋭い形で置かれる。
赤い髪の裸の人物が背を向け、波へ身を投げ出している。水平線も空も描かれず、上下の区別がつきにくい。
緑は場所によって濃さを変えるだけで、色そのものは変わらない。海を「緑一色の面」として扱った画面である。
3年あとの1892年になると、主題がタヒチの風景に変わる。

手前に倒れた木が横たわり、その上を黒い犬が歩く。奥に茅葺きの小屋、さらに奥に砂浜と水面が見える。
ここでは筆の跡が細かく残り、平塗りにはなっていない。輪郭線も弱い。風景を前にしたときは、描き方を変えていたことが分かる。
「代表作」という言い方でひとつの型を思い浮かべると、この絵は外れて見える。だが年で並べれば、平らな面と細かい筆が同じ時期に同居していたと分かる。
館の記録が残す年と寸法は、こうした比べ方を支える手がかりになる。作品ページには、館の記録をそのまま載せてある。
なぜ輪郭は太く、色は平らなのか
面を面のまま見せるためである。輪郭で囲ってしまえば、その内側は一色で塗っても形が崩れない。
影をぼかして立体を作る描き方だと、色は隣の色と混ざっていく。囲ってから塗る描き方では、色が混ざらずに強いまま残る。
七宝の仕切りにちなんで、この描き方はクロワゾニスムと呼ばれる。《自画像》の赤と黄は、その典型といえる。
もうひとつの利点は、絵の中の距離を消せることである。手前も奥も同じ強さで塗れば、画面は浅くなる。
《波の中で》の緑が分かりやすい。近くの波も遠くの波も同じ緑で、どこまでが手前か決められない。
見る側は奥行きをたどれず、色そのものと向き合うことになる。ゴーギャンの画面が装飾のように見えるのは、この浅さのためである。
浮世絵の版画も、線で囲んだ内側を平らな色で埋める。この考え方が西洋の絵に何をもたらしたかは、浮世絵はなぜ西洋の絵を変えたのかで扱っている。
タヒチで絵はどう変わったのか
色の選び方が変わった。地面が赤く、影が青く、人の肌が黄や褐色で置かれるようになる。

小屋の前の地面が、赤に近い色で広く塗られている。実際の土の色というより、画面を決めるための色である。
右手前に青い腰布の女が立ち、左手前に二人が座る。足もとでは鶏とひよこがえさをついばむ。
人物は動きを止め、輪郭のはっきりした形で置かれる。奥の三人も同じ扱いで、遠いという感じがしない。
支持体も変わっている。館の記録では、この絵はカンヴァスではなくジュート布に描かれている。目の粗い布で、絵具の乗り方が変わる。
布の目が粗いと、絵具は薄く擦り付けられ、下の織り目が透ける。塗り重ねて厚くするより、置いた一度の色が生きる。
平らな色面を求める描き方と、この布は相性がよい。館の記録に支持体が書き分けられているのは、そこが作品の見え方に効くからである。
晩年の1901年には、家族を正面から据えた絵を描いている。

青い服の女が椅子に座り、膝に幼い子を乗せる。右に立つ子は、白い犬を抱いている。
背景は青緑一色で、部屋とも戸外ともつかない。人物の輪郭だけが、その面からくっきり切り出されている。
タヒチはこの時期、フランスの統治下にあった。描かれた人々は、外から来た画家に見られる側に立っている。そのことを外して絵だけを見ると、画面の静けさを読み違える。
ゴーギャンの絵はどこで見られるか
ここに挙げた5点は、シカゴ美術館、クリーブランド美術館、ナショナル・ギャラリー(ワシントン)がそれぞれ所蔵している。いずれも画像をCC0で公開しており、当サイトはそれを使っている。
拡大して見るなら《自画像》の作品ページから確かめられる。板の木目や、絵具を薄く擦り付けた箇所が見える。
ほかの作品も含めてポール・ゴーギャンの作品ページにまとめてある。
なお、ゴーギャンが一時期ともに暮らした画家については、ファン・ゴッホとアルルのオリーブで触れている。二人の色の選び方は、並べてみるとかなり違う。


