作品を知る

橋の下に、五点の場面がある——バナー・栄之・ファン・デル・ネールほか九点

橋は渡るためのものだが、絵では下が主役になる。九点で数えると、橋を渡っている人は二点だけで、橋の下に人や舟がいるのは五点だった。橋の名だけが残る通りの写真も混じる。橋そのものが主役の画面は一点もなく、いずれも水と一緒に描かれる。

バレッテリ橋
アンドリュー・フィッシャー・バナー《バレッテリ橋》メトロポリタン美術館蔵

橋が、運河をまたいでいる

一枚の素描に、石の橋がある。

紙は31.4×23.8センチ。

縦長の画面で、黒いインクだけで描かれている。

画面の中央に、半円のアーチが架かる。

アーチの下は水である。

水面は細かい横線で埋められる。

その水に、細長い舟が二艘浮かぶ。

一艘は橋の下をくぐろうとしている。

橋の上には、石の欄干がある。

欄干は太い柱で区切られ、そこに彫りがある。

橋の左右には、建物が高く立ち上がる。

窓は縦に並び、上のほうは画面の外へ出る。

建物の壁には、細かい線が無数に引かれている。

石の目地と、影である。

奥には、狭い水路が続く。

その先にも、別の橋が小さく見える。

館の記録に、記述の欄はない。

題は、その橋の固有の名である。

バレッテリ橋
アンドリュー・フィッシャー・バナー《バレッテリ橋》1885年。館の記録では、オフホワイトの網目紙に黒インクと黒鉛の痕跡。31.4×23.8センチ。番号は99.38.10。メトロポリタン美術館蔵。アンドリュー・フィッシャー・バナー《バレッテリ橋》メトロポリタン美術館蔵

橋は、道の一部である。

だが、ふつうの道とは違う。

下に何もない場所を、渡すために作られる。

川、谷、堀、道。

その下の空白があるから、橋は橋になる。

絵にとって、これは扱いやすい形である。

水平の線と、その下の空間。

そこに人や舟を置けば、関係が生まれる。

九点を並べて、橋の使われ方を数えたい。

橋は、画面を横に切る

集めかたは、館の記録の題によっている。

橋にあたる語が入るものを拾った。

九点のうち、橋が描かれているのは七点だった。

残る二点は、橋の名を持つ通りと、橋の見えない画面である。

橋が描かれた七点で、まず向きを見たい。

画面を横に切る形が、五点。

奥へ向かう形が、二点である。

横に切る形が多いのは、当然かもしれない。

橋は、こちら側と向こう側を結ぶ。

その関係を見せるには、横から見るのがいちばん分かりやすい。

奥へ向かう形にすると、橋は道になる。

渡る動作が主になり、両岸の関係は薄くなる。

丸木の橋と、石の橋

材で分けたい。

木の橋が三点、石の橋が四点だった。

木の橋の一点は、大きな銅版画である。

館の記録に、寸法の欄はない。

画面の中央に、丸太を組んだ橋が架かる。

橋は左上から右へ、斜めに渡る。

支えの柱は細く、いかにも簡単な造りである。

その下は、岩の多い急な流れである。

水は白く泡立ち、細かい線で描かれる。

橋の上を、人と驢馬が渡っている。

小さく、輪郭だけである。

画面の左には、巨大な木が立つ。

幹は太く、根が岩を抱えている。

葉は装飾的な塊として描かれる。

手前の岸には、人が数人いる。

館の記述によれば、一人が川の向こうへ銃を撃っている。

館の記述は、この画面が想像の風景だとも書く。

当時の低地地方で流行した形式だという。

さらに、下絵を描いた画家と、彫った版画家の名が別に記録されている。

一枚の版画に、二人の名がある。

滝に架かる丸木橋のある風景(ボヘミア風景八図より)
エギディウス・サデラー《滝に架かる丸木橋のある風景(ボヘミア風景八図より)》1610〜15年頃。館の記録では、エングレーヴィング。番号は1970.352。クリーヴランド美術館蔵。エギディウス・サデラー《滝に架かる丸木橋のある風景(ボヘミア風景八図より)》クリーヴランド美術館蔵

石の橋の一点は、月夜の油彩である。

全体で78.4×110.2センチ。

九点のなかでは大きいほうだ。

画面は暗い。

上半分は空で、雲が厚く垂れる。

雲の切れ目に、丸い月がある。

月の光が、雲の縁を白く照らす。

下半分は水である。

水面に、月の光が縦に伸びる。

左には、建物と木立の黒い影がある。

中央に、低い橋が架かる。

橋の下の空間が、明るい水を切り取っている。

右には、木が立ち、その根もとに小さな人影がある。

館の記録では、制作年に「おそらく」が付いている。

1648年から1650年か、と書かれている。

橋のある月夜の風景
アールト・ファン・デル・ネール《橋のある月夜の風景》おそらく1648〜50年。館の記録では、油彩・板。全体78.4×110.2センチ。額を含めて101.6×132.7×6.4センチ。番号は1990.6.1。ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵。アールト・ファン・デル・ネール《橋のある月夜の風景》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

橋の下で、人は何をしているか

橋の下に注目したい。

七点のうち、橋の下に人や舟がいるのは五点だった。

一点目は、最初に見た運河の素描である。

二点目は、日本の版画である。

紙は39.1×26.2センチ。

画面の下半分に、屋根を掛けた舟がある。

舟のなかに、四人ほどが座っている。

一人は三味線らしいものを抱える。

舟の上には、簾を巻き上げた屋根がある。

水は青と白の線で描かれ、波が立つ。

画面の上のほうに、橋の板と欄干が横切る。

その上に、人が四、五人いる。

腰をかがめ、下をのぞき込んでいる者もいる。

つまり、橋の上と下で二つの場面がある。

館の記録によれば、この一枚は五枚続きの二枚目である。

そして館は、そのうち二枚しか持っていないと書く。

前に絵馬堂の版画を見たときも、同じ事情だった。

あちらは三枚続きの中央が欠けていた。

同じ画家の別の作品で、また組が欠けている。

新大橋下の隅田川の屋形船
鳥文斎栄之《新大橋下の隅田川の屋形船》1792年頃。館の記録では、五枚続の一枚。木版、紙に墨と色。紙は39.1×26.2センチ。番号は1916.1152。クリーヴランド美術館蔵。鳥文斎栄之《新大橋下の隅田川の屋形船》クリーヴランド美術館蔵

三点目は、十九世紀の油彩である。

額なしで33.7×56.3センチ。

横長で、川面を近くから描いている。

画面の中央に、小舟が一艘いる。

舟には二人が乗っている。

男は麦藁帽をかぶり、袖をまくっている。

女は立って、竿を水の上へ伸ばしている。

釣りをしているらしい。

舟の上には、木の枝が覆いかぶさる。

葉は細かく、光が点々と抜ける。

右奥に、石の橋が見える。

アーチが二つ、水に映っている。

館の記述によれば、二人は都市の新しい階層の人々らしい。

余暇に川へ出ている、と館は書く。

さらに館は、当時の批評家がこの画家の細部を虫眼鏡で見た話を伝えている。

橋は画面の隅にあるが、題は橋の名である。