犬は、画面のいちばん下にいる——ティントレット・春信・是真ほか九点
絵のなかの犬は、人の足もと、階段の下、地面の上にいる。上を歩く犬はいない。九点で、その高さを測りたい。館の記録は、犬について一言も書いていない場合が多い。犬の色は、九点のうち三点が黒である。名前に犬の語が入る一点も混じる。

画面のいちばん下にいる
前の回で、曲面に置かれた絵を見た。
置き場所が、絵の形を決めていた。
今回は、画面のなかの位置である。
犬である。
絵のなかで、犬はほとんど下にいる。
人の足もと、階段の下、地面の上。
上を歩く犬はいない。
そして、たいてい小さい。
九点を並べて、その位置を確かめたい。
九点のうち二点には、犬がいない。
その理由も、あとで書く。

版画である。
二五・四掛ける一八・六センチ。
館の写真には、左端に灰色の目盛が写り込んでいる。
第十五回で書いたとおり、色と大きさを確かめるための帯である。
画面には、縁側がある。
板の床が、右下から左上へ伸びる。
手すりがある。
その上に、女性が立つ。
薄い紅色の衣。
裾が長く、床に広がる。
顔は下を向いている。
そして、その足もとに、もう一人いる。
しゃがんだ人物である。
小さく描かれている。
子どもだろう。
さらにその手前、右下の隅に犬がいる。
黒い小さな犬である。
体を丸めている。
しゃがんだ人物のほうを向いている。
つまり、画面の右下の隅である。
いちばん低い位置にいる。
そして、いちばん小さい。
背景には、格子の建具がある。
左のほうに、庭のような場所が見える。
上部に、文字が並ぶ。
館の記録では、これは詩である。
第九回で、版画に添えられた詩について書いた。
そして、画面の上に字、下に犬。
この上下の配置は、偶然ではないだろう。
影のなかの犬

これも版画である。
二三・二掛ける一六・二センチ。
前の一点より、少し小さい。
こちらの写真にも、目盛の帯が写る。
画面には、女性が一人立つ。
濃い青の衣である。
模様が入っている。
髪を結い、簪を挿す。
そして、両手を上げている。
頭の上に、提灯がある。
四角い形で、赤と青の菱形が描かれている。
上に、飾りのようなものがついている。
つまり、提灯を吊り下げている最中である。
館の記録の題が、それを言っている。
盆の行事のための提灯である。
第九回で、季節の行事を描いた版画について書いた。
そして、その足もとに犬がいる。
黒い犬である。
小さく、前を向いている。
女性の裾のすぐ横にいる。
画面の下から三分の一ほどの高さである。
背景は無地である。
何も描かれていない。
つまり、人物と提灯と犬だけの画面である。
前の一点と同じで、犬は右下ではなく左下にいる。
だが、位置の高さは同じである。
人の膝より下である。
象牙の上の犬

細密画である。
一〇・七掛ける八センチ。
九点のなかで、いちばん小さい。
第十八回で、この形式について書いた。
象牙の薄い板に、水彩で描く。
館の写真には、額も写っている。
黒い板で、四隅が切り込まれている。
上に、金色の飾りがついている。
そのなかに、金の細い枠がある。
画面には、少女が立つ。
水色の衣である。
袖が短く、裾が膝の下まである。
白い靴下と、暗い色の靴。
髪は真ん中で分けられている。
背景は、緑と灰色である。
左に、手すりのようなものがある。
そして、少女の右手が下に伸びる。
細い棒を持っている。
鞭か、紐だろう。
その先、右下に犬がいる。
黒と白の小さな犬である。
少女のほうを向いている。
つまり、ここでも右下の隅である。
そして、少女の持つ棒が、犬とつながっている。
飼い犬であることを示す小道具である。
第十八回で、持ち物が人物を示すと書いた。
この一点では、犬そのものが持ち物に近い。
館の記録の題は、人物の名だけである。
犬の語は入っていない。
嵐と羊飼い

小さな油彩である。
二八・五掛ける二二・八センチ。
支持体が変わっている。
紙に描き、それをカンヴァスに貼っている。
第十五回で、この方法について書いた。
紙は傷みやすい。
だから、布に貼って補強する。
画面は暗い。
木立のなかである。
上のほうに、大きな木の幹と葉が広がる。
右には、岩か土手がある。
そして、中央に少年が立つ。
長い杖を持つ。
顔を上げて、上を見ている。
その左に、もう一人が座っている。
さらに左に、犬がいる。
こちらを向いて座っている。
淡い色の犬である。
つまり、三者が横に並んでいる。
立つ者、座る者、犬。
高さが順に下がる。
そして、犬がいちばん低い。
館の記録の題に、犬の語が入っている。
九点のうち、題に犬が入るのはこの一点だけである。
つまり、この犬は主題の一部である。
添え物ではない。
羊飼いと犬は、一組で働くからである。