背もたれの百年——ダンカン・ファイフ、ベルター、ハーター・ブラザーズほか九点

二十年あとの一点である。
そして、様子が一変する。
高さ九六・五センチ。
前の一点より、十三センチ高い。
背もたれの上部が、彫刻で埋まっている。
葉と花と渦が、絡み合う。
輪郭が波打っている。
まっすぐな線が、どこにもない。
背もたれの中央は、布で張られている。
青と白の模様である。
そして、その周りを彫った木が囲む。
座面も同じ布である。
前の縁にも、彫刻がある。
脚は短く、外へ曲がる。
前脚の下に、小さな車がついている。
つまり、この椅子は動かして使う。
館の記録は、ローズウッドとトネリコを挙げる。
材料は前の一点と同じである。
だが、作り方が違う。
薄い板を何枚も重ねて、曲げて固める。
そうすると、彫っても割れにくい。
第十六回で、この技法について書いた。
木を層にして、曲面を作る。
そして、細かい透かし彫りが可能になる。
装飾の量が、二十年で大きく増えた。
これは技術の変化でもある。
作れるようになったから、作った。
竪琴、もう一つ

高さ九四・五センチ。
写真は白黒である。
背もたれが、四角い枠になっている。
前の一点の波打つ輪郭とは、正反対である。
上の縁だけ、緩く曲がる。
そして、その中央に彫りがある。
枠の内側に、楽器の形が入る。
竪琴である。
弦を示す縦の線が、五本ほど見える。
つまり、透かし彫りである。
背もたれの内側が、抜けている。
座面には、白い布のクッションが載る。
ふくらんでいる。
固定されていないように見える。
脚は、まっすぐで細い。
途中に、輪の彫りが入る。
そして、下が細くなる。
前脚の先に、車がついている。
つまり、四角い枠と直線の脚である。
前の一点が曲線だったのに対して、こちらは直線である。
第十六回で、様式の交替について書いた。
曲線が流行すると、その次に直線が来る。
そして、また曲線に戻る。
同じ十年のあいだに、両方が作られていることもある。
この二点は、まさにそれである。
一方が一八五〇年代から六〇年代。
もう一方が一八六〇年代である。
貝と赤

八点のなかで、いちばん高い。
九七・八センチ。
そして、いちばん深い。
奥行きが六七・九センチある。
背もたれが、上へ細く伸びる。
そして、赤い布で張られている。
布には、規則正しい窪みが並ぶ。
釦で留めて、深い皺を作る技法である。
菱形の格子ができている。
座面も同じ赤である。
こちらも釦で留められている。
背もたれの上端に、木の彫刻がある。
渦と葉が組み合わさる。
そして、その中央に白い円形のものが埋まっている。
館の記録が挙げる真珠母だろう。
貝を薄く切って、木に嵌める。
前の回で見た化粧台と、同じ技法である。
脚は短く、太い。
途中に、輪の彫りが並ぶ。
そして、前脚の先に車がついている。
つまり、この一点は布が主役である。
木の部分は、縁と脚だけである。
第十六回で、張り地について書いた。
十九世紀の後半、布の面積が増える。
理由は座り心地である。
ばねと詰め物の技術が進んだ。
そして、厚く柔らかい座面が作れるようになった。
黒い木と、金の線

高さ九四センチ。
木が黒い。
館の記録は、黒く塗ったチェリー材と言っている。
つまり、木目を消して、黒く仕上げてある。
そして、金色の細い線が入る。
脚の輪の部分、背もたれの縁。
真鍮の飾りもある。
背もたれの上部に、細い柱が並ぶ。
八本ほどが、縦に立つ。
そのあいだに、小さな玉が挟まる。
つまり、透かしになっている。
その下に、布の張り部分がある。
淡い茶色で、釦の窪みが並ぶ。
座面も同じ布である。
脚は、まっすぐで細い。
輪の彫りが数か所に入る。
そして、先に車がついている。
前の一点と比べたい。
高さはほぼ同じである。
布の使い方も似ている。
だが、木の扱いが違う。
一方は彫って形を作る。
もう一方は、細い部材を組んで形を作る。
第十六回で、組み立ての違いについて書いた。
彫るか、組むか。
この二つが、家具作りの基本の分かれ道である。
そして、組むほうが軽くなる。
白黒の二点
八点のうち二点は、白黒写真である。
一八一〇年代の一点と、一八六〇年代の一点。
残る六点は、色のある写真である。
第十五回で、館の写真について書いた。
古い記録写真が、そのまま残っている場合がある。
撮り直されていない品である。
そして、白黒だと分からないことが多い。
木の色。
布の色。
塗りの有無。
館の記録には、材料だけが書いてある。
楓、とだけある。
楓は明るい色の木である。
だが、塗ってあれば色は変わる。
白黒写真からは、それが読めない。
つまり、記録の情報量が品によって違う。
前の回でも、額の寸法について同じことを書いた。
館は、あるものを書く。
ないものは、書かれない。
そして、見る側は、その差を意識するしかない。
背もたれの中身
八点の背もたれを、形で分けたい。
第一に、透かしのあるもの。
盾の形の一点、竪琴の一点、柱の並ぶ二点。
内側が抜けていて、向こうが見える。
第二に、板でふさがれたもの。
横板の一点である。
背に、平らな面がある。
第三に、布で張られたもの。
彫刻で囲んだ一点と、赤い一点。
背中が布に触れる。
そして、輪だけの一点がある。
中央に細い板が一枚立つ。
つまり、抜けたものが多い。
八点のうち四点が透かしである。
理由の一つは軽さだろう。
板でふさぐと、重くなる。
もう一つは、意匠である。
抜けた部分が、模様になる。
第五回で、余白の働きについて書いた。
抜いた形と、残した形。
その両方が図として読まれる。
竪琴の一点が、最も分かりやすい。
弦の線は、木を残した部分である。
そして、そのあいだの空きが、楽器の胴に見える。