背もたれの百年——ダンカン・ファイフ、ベルター、ハーター・ブラザーズほか九点
高さを並べる
八点の高さを、年の順に並べたい。
一七九〇年代が九六・二センチ。
一八一〇年代が八六・四センチ。
一八三〇年ごろが八三・二センチ。
一八五〇年代が九六・五センチ。
一八六〇年代が九四・五センチ。
一八六〇年代末が九七・八センチ。
一八七〇年代末が九四センチと九四・八センチ。
つまり、いったん下がって、また上がる。
最も低いのが一八三〇年ごろ。
最も高いのが一八六〇年代末。
その差は、十四・六センチある。
高さの違いは、背もたれの長さの違いである。
座面の高さは、人の脚が決める。
だから、大きくは変えられない。
変わるのは、座面から上である。
低い椅子は、背もたれが肩まで届かない。
高い椅子は、頭の近くまで届く。
そして、背もたれが高いほど、装飾の場所が増える。
第十六回で、家具の寸法について書いた。
体が決める寸法と、意匠が決める寸法がある。
椅子では、その両方が一つの物に同居する。
象嵌の花

最後の一点である。
館の記録の分類が、これだけ違う。
脇椅子ではなく、椅子とだけある。
高さ九四・八センチ。
幅四三・三センチ。
八点のなかで、二番目に狭い。
木は黒い。
前の一点と同じ仕上げである。
そして、背もたれの上部に象嵌がある。
明るい色の木を嵌めて、花の形を作る。
橙と黄と緑が見える。
三つか四つの花が、横に並ぶ。
その下に、細い柱が縦に並ぶ。
中央の柱だけ、透かし彫りになっている。
背もたれの両端に、細い柱が立つ。
上端に、小さな玉がついている。
座面は、色の多い織物である。
赤、青、緑、白。
細かい模様が敷きつめられている。
脚は細く、まっすぐである。
そして、装飾がほとんどない。
館の記録によれば、作った工房はドイツ系である。
ニューヨークで、一八六四年から一九〇六年まで活動した。
第十六回で、この時期の工房について書いた。
移民の職人が、米国の家具を作った。
八点のうち、作者の出自が分かるものを数えたい。
スコットランド生まれが一点。
ドイツ生まれが二点。
フランス系の名が一点。
つまり、半数が米国の外から来ている。
車がついているか
八点の脚の先を確かめたい。
車がついているものが四点ある。
一八五〇年代、一八六〇年代、一八六〇年代末、一八七〇年代末。
つまり、後半の四点すべてである。
古い四点には、車がない。
足の先が、そのまま床につく。
この違いには、理由があるだろう。
第一に、重さである。
彫刻と詰め物が増えると、椅子が重くなる。
持ち上げて動かすのが難しくなる。
第二に、床である。
絨毯が広く使われるようになった。
絨毯の上では、脚を引きずると傷む。
第三に、部屋の使い方である。
第十六回で、十九世紀の客間について書いた。
椅子を壁際に寄せ、必要なときに引き出す。
その動かし方に、車が合う。
つまり、小さな部品が、暮らし方を示している。
館の記録は、車について何も書いていない。
写真を見なければ、分からないことである。
座面の布
八点の座面を見たい。
布が張られているものが七点。
前の一点だけ、クッションが載っている。
固定されていないように見える。
布の色は、青が二点。
赤が一点。
淡い茶が一点。
色の多い織物が一点。
白が一点。
そして、白黒写真で分からないものが二点。
つまり、青と赤が多い。
第十六回で、張り地の色について書いた。
濃い色は、汚れが目立ちにくい。
そして、木の色と対比が出る。
明るい木には濃い布。
黒い木には、明るい布か色の多い布。
八点を見ると、この組み合わせが守られている。
黒い木の二点は、どちらも明るい布である。
そして、布は取り替えられる。
館の記録が当初の張り地と書くのは、そのためである。
替えていないことが、価値になる。
一脚だけでは分からない
最後に、書いておきたいことがある。
八点は、いずれも一脚ずつ館に入っている。
だが、椅子は普通、揃いで作られる。
六脚、八脚、十二脚。
食卓を囲むために、同じものを並べる。
館の記録の番号を見たい。
末尾に枝番のあるものが多い。
つまり、もとは組だったのだろう。
そのうちの一脚だけが、館に来ている。
第十七回で、組物の分かれについて書いた。
一組が売られ、分けられ、散る。
そして、館に来るのは一部である。
これは見え方を変える。
一脚だけを写真で見ると、彫刻の細部に目が行く。
八脚並んでいれば、繰り返しの効果が見える。
同じ背もたれが横に並ぶ光景である。
そのとき、透かしの模様は連続した帯になる。
つまり、本来の見え方は、記録からは分からない。
そして、肖像画の一点は、その本来の使われ方を見せている。
人が座っている。
背もたれは、体の後ろに隠れて一部しか見えない。
椅子は、使われているとき、いちばん見えなくなる。
部門と分類
九点の部門を確かめたい。
八点が米国部門である。
一点だけ、ナショナル・ギャラリー・オブ・アートの絵画である。
そして、館の記録の分類も見たい。
八点のうち七点が、脇椅子という分類である。
一点だけが、椅子とだけある。
この差は何だろうか。
脇椅子は、肘掛けのない椅子を指す。
食卓の脇に並べる椅子である。
対になるのが、肘掛けのある椅子である。
そちらは、主人の席に置かれる。
つまり、分類そのものが使われ方を示している。
では、一点だけ椅子とあるものは何か。
写真を見ると、これも肘掛けがない。
形の上では、脇椅子である。
館の記録が、そう分類しなかった理由は書かれていない。
食卓用ではなく、寝室や客間の椅子だったのかもしれない。
第十七回で、分類の揺れについて書いた。
同じ形でも、来歴によって呼び名が変わることがある。










