開けば面、閉じれば棒——レンブラント・写楽・清長ほか九点の扇
扇の位置が、姿勢を作る
この扇は、腰の高さにある。
前の一点では、頭上と胸だった。
位置が変われば、姿勢が変わる。
腰の高さなら、腕が下がる。
体が落ち着く。
頭上なら、腕が上がる。
体が伸びる。
つまり、扇の高さが体の緊張を決める。
第十八回で、剣を上げるか下げるかで姿勢が変わると書いた。
扇も同じである。
持ち物の位置が、体の形を決めている。

前の回でも、この画家の掛軸を読んだ。
縦長の版画である。
画面の中央に、桜の木が一本。
太い幹が、下から上へ伸びる。
枝に、淡い桃色の花が付く。
その木のまわりに、人が五人ほど。
いずれも女性の装いである。
衣は赤、黒、淡い色。
左端の一人は、こちらに背を向ける。
そして、そのうち二人が扇を持っている。
一つは開いており、顔の前にある。
もう一つは、手に下げられている。
地面は緑で、遠くまで平らである。
上部に、題箋。
扇で、顔を隠す
一人が、扇で顔の一部を隠している。
これは、よくある仕草である。
そして、絵のなかでは効果がある。
顔が半分見えないと、見る人はそこを想像する。
第十四回で、窓辺の絵では視線が交わると書いた。
こちらは、視線を遮っている。
そして、隠すことで、かえって注目が集まる。
九点のうち、顔を隠している扇は二点である。
この一点と、頭上に掲げた役者絵。
いずれも、顔の一部が扇の後ろにある。
扇を持つのは、誰か
九点の絵で、扇を持つ人を数えたい。
女性が三点。
二つの肖像画と、花見の版画。
女の装いの役者が一点。
男の装いの役者が一点。
そして、大勢の絵では、女性たちが持っている。
小柄の意匠では、人物が小さくて判別しにくい。
つまり、扇はどちらの性別も持つ。
第十八回で、剣がほとんど男の持ち物として描かれると書いた。
扇は違う。
そして、その使い方が分かれる。
暑さをしのぐ道具として。
装いの一部として。
舞や芝居の小道具として。
さらに、身分を示す持ち物として。
九点を見ると、その全部が現れている。
写楽の一点では、役者の小道具である。
レンブラントの一点では、正装の付属品である。
花見の版画では、顔を隠す道具である。
同じ形のものが、場面によってまるで違う使われ方をする。
三枚続のなかの扇

三枚続の版画である。
第十七回で、この形式を何度も扱った。
横に長い画面である。
幅七十六・二センチ。
画面の右に、建物の内部。
女性が数人、座っている。
中央にも、女性たち。
そして、左には屋外である。
大きな傘が広げられ、その下に人がいる。
木々と、垣が見える。
数えると、人物は十五人ほどいる。
そのうち何人かが、扇を持っている。
いずれも小さく、手のなかにある。
開いているものと、閉じているものが混じる。
大勢の絵では、扇が小さい
この一点では、人が十五人以上いる。
そして、扇は小さい。
一人ずつの持ち物として、添えられているだけである。
第一回で、人数が増えるほど一人が小さくなると書いた。
持ち物も、同じである。
人が小さければ、持ち物はさらに小さい。
そして、細部が描けなくなる。
扇の模様は、判別できない。
一方、一人だけを描いた版画では、扇の模様まで見える。
同じ扇でも、人数によって描き込みが変わる。
扇の面に、絵を描く

第一回でも、この画家の別の一点を読んだ。
画面の形が、扇形である。
上が弧を描き、下も弧を描く。
その二つの弧に挟まれた帯である。
幅五十二・一センチ、高さ十六・五センチ。
黒い背景に置かれて撮影されている。
画面の下半分に、緑の畑。
キャベツらしい丸い形が、規則正しく並ぶ。
その畝のあいだに、人が三人。
腰をかがめ、作業している。
上半分は、空である。
白い雲が広がる。
遠くに、低い木立と建物。
扇形の画面
この一点は、扇に貼るために描かれた。
だから、画面が扇形である。
そして、その形が構図を規定する。
上下が弧なので、水平線を引くと弧と交差する。
左右の端は狭い。
だから、重要なものは中央に置く。
第十七回で、判型が構図を決めると何度も書いた。
扇形は、そのなかでも制約が強い。
そして、この一点では畑の畝が弧に沿っている。
下の弧に平行に、緑の帯が走る。
つまり、画面の形に合わせて主題を選んでいる。
平らな畑は、弧に馴染む。
実際には貼られていない
この一点は、扇に貼られていない。
平らなまま、絵として保存されている。
第十七回で、扇を画帖の一葉に仕立てる例を読んだ。
同じ扱いである。
扇として使えば、折り目が入る。
そして、傷む。
だから、絵として残す。
つまり、この作品は扇の形をした絵である。
扇ではない。
第十二回で、火の入っていない火入について書いた。
用途を持ちながら、使われないもの。
同じ状態である。
小柄の上の扇

第十八回で読んだ小柄と、同じ形式である。
細長い金属の板である。
長さ九・七センチ、幅一・四センチ。
地は暗い灰色である。
その中央に、橙色の形がある。
丸みを帯びた大きな塊。
表面に、黒い模様が散る。
金色の縁が付く。
そして、その右に、小さな黒い形。
つまり、この板に描かれているのは、団扇か、それに似たものである。
模様のある面と、柄の部分。
九・七センチの板の上に、扇が一つ置かれている。