美術史・技法

開けば面、閉じれば棒——レンブラント・写楽・清長ほか九点の扇

扇は、二つの形を持つ。開けば広い面になり、閉じれば細い棒になる。だから、場面によって働きが変わる。九点で、扇の使われ方を分けたい。扇形の画面に描かれた絵も、そのなかにある。扇を持つのが誰かも、九点で数えておきたい。

扇を持つ若い女の肖像
レンブラント・ファン・レイン《扇を持つ若い女の肖像》メトロポリタン美術館蔵

開けば面、閉じれば棒

前の回で、本を見た。

開いた本と、閉じた本で働きが変わった。

今回は扇である。

扇も、開くか閉じるかで形が変わる。

開けば、扇形の面になる。

閉じれば、細い棒になる。

そして、団扇のように、はじめから開いたままのものもある。

九点を並べて、その形の違いを読みたい。

そして、扇の面に絵を描いた例も見たい。

扇を持つ若い女の肖像
レンブラント・ファン・レイン《扇を持つ若い女の肖像》1633年。館の記録では、布に油彩。125.7×101センチ。番号は43.125。メトロポリタン美術館蔵。レンブラント・ファン・レイン《扇を持つ若い女の肖像》メトロポリタン美術館蔵

九点のなかで、いちばん大きい。

高さ一メートル二十五・七センチ。

暗い背景の前に、女性が立つ。

体は左を向き、顔は正面をやや外す。

黒い衣を着ている。

袖が大きく膨らむ。

肩から胸にかけて、白い襞襟が広く広がる。

輪が幾重にも重なる。

手首にも、白い袖口の飾り。

そして、右手に細長いものを持っている。

体の前で、斜めに下げている。

扇である。

閉じている。

左手は、後ろの手すりに置かれる。

二種類の扇

扇には、大きく二つの形式がある。

一つは、折りたためるものである。

細い骨を要で留め、紙や絹を貼る。

畳めば細い棒になる。

もう一つは、畳めないものである。

丸い面に柄を付ける。

いつも開いた状態である。

九点を見ると、両方が混じっている。

閉じている二点は、当然ながら折りたたむ形式である。

開いている五点のうち、いくつかは畳める形式らしい。

骨の線が放射状に見えるからである。

そして、小柄の意匠の二点は、丸い面に柄が付く形式である。

畳めない。

第十七回で、扇を画帖の一葉に仕立て直す例を読んだ。

あれは、畳める形式のものだった。

畳めるからこそ、折り目が残る。

畳めない扇には、折り目がない。

だから、絵を貼っても割れない。

形式の違いが、絵の残り方まで変えている。

閉じた扇は、線になる

この扇は、閉じている。

だから、細い棒に見える。

そして、その棒が斜めに置かれている。

黒い衣の上を、斜めに横切る。

つまり、画面に斜めの線が一本引かれている。

第七回で、木が縦の柱になると書いた。

閉じた扇は、斜めの線を作る。

そして、斜めの線には方向がある。

見る人の目は、その線に沿って動く。

この一点では、右下から左上へ向かう。

そして、その先に顔がある。

つまり、扇が視線を顔へ導いている。

小さな持ち物が、構図の役に立っている。

扇は、身分の印でもある

閉じた扇には、もう一つの働きがある。

持っている人の立場を示すことである。

十七世紀のヨーロッパで、扇は高価な品だった。

そして、女性の正装の付属品だった。

つまり、扇を持つことが、その人の階層を示す。

第十六回で、布が身分を示すと書いた。

第十七回では、帽子が同じことをした。

扇も、その一つである。

そして、扇は手に持つので、必ず目に入る。

黒い衣のなかで、細い明るい線として見える。

扇を持つ婦人
フランク・デュヴェネック《扇を持つ婦人》1873年。館の記録では、布に油彩。108.6×81.9センチ。番号は66.19。メトロポリタン美術館蔵。フランク・ドゥフェネク《扇を持つ婦人》メトロポリタン美術館蔵

こちらも大きい。

高さ百八・六センチ。

暗い背景の前に、女性が立つ。

濃い茶色の衣で、毛皮らしい縁が付く。

頭に、灰色の大きな帽子。

つばが広く、羽根飾りが付く。

顔は正面をやや外し、目はこちらを見る。

そして、右手に扇を持つ。

こちらは開いている。

淡い黄土色の面が、半円に広がる。

胸の高さで、体の前に構えている。

左手は、下へ垂れる。

背景は、ほとんど黒である。

開いた扇は、明るい面になる

この扇は、開いている。

だから、面として働く。

そして、その面が画面のなかで明るい。

暗い衣と、暗い背景。

そのなかで、扇と顔と手だけが明るい。

つまり、明るい部分が三か所ある。

顔、手、扇。

その三つが三角形を作る。

第十七回で、帽子が顔のまわりに対比を作ると書いた。

開いた扇は、もっと広い面積で対比を作る。

そして、この一点では帽子も明るい。

明るい部分が四つになる。

顔、帽子、手、扇。

いずれも上半身に集まっている。

扇を掲げる

歌舞伎役者 中村松江
勝川春章《歌舞伎役者 中村松江》1772年ごろ。館の記録では、錦絵、紙本着色。32.4×14.8センチ。番号はJP403。日本、江戸時代。メトロポリタン美術館蔵。勝川春章《歌舞伎役者 中村松江》メトロポリタン美術館蔵

第一回でも、同じ画家の役者絵を読んだ。

縦長の版画である。

一人の人物が立つ。

女の装いである。

淡い衣に、裾が長く広がる。

そして、頭の上に扇を掲げている。

開いた扇である。

顔にかぶさるように、斜めに構える。

その扇に、模様が描かれている。

さらに、右手にも扇を持つ。

こちらも開いている。

胸の高さで、体の前にある。

つまり、扇を二つ持っている。

背景は白い。

扇を、二つ持つ

この人物は、扇を二つ持っている。

一つを頭上に、一つを胸の前に。

これは、舞踊の型だろう。

扇を使う舞では、両手に持つことがある。

そして、扇が体の延長として働く。

腕を伸ばした先に、面が広がる。

つまり、動きが大きく見える。

第十六回で、布が体の動きを示すと書いた。

扇も、同じ働きをする。

体は動かなくても、扇の角度で動きが出る。

そして、扇は軽い。

だから、素早く動かせる。

その速さが、舞の要になる。

名護屋山三郎を演じる山科四郎十郎
東洲斎写楽《名護屋山三郎を演じる山科四郎十郎》1794年から95年。館の記録では、木版画、紙本着色。画面32.4×15.2センチ。番号はJP1520。日本、江戸時代。メトロポリタン美術館蔵。東洲斎写楽《名護屋山三郎を演じる山科四郎十郎》メトロポリタン美術館蔵

第十七回でも、この画家の版画を読んだ。

縦長の版画である。

一人の人物が立つ。

上に黒い羽織。

肩に、丸い紋が二つ。

その下に、白い衣。

細かい草花の文様が入る。

裾が長く、床に広がる。

そして、腰のあたりに、白い扇が開いている。

赤い模様が入る。

体の前で、斜めに構えている。

顔は左を向き、口を結ぶ。

眉が寄る。

背に、細長いものが斜めに立つ。

刀だろう。

背景は淡い黄土色。

右上に、落款と印。