開けば面、閉じれば棒——レンブラント・写楽・清長ほか九点の扇

こちらも小柄である。
前の一点と、同じ寸法。
長さ九・七センチ、幅一・四センチ。
第十八回で書いたとおり、この寸法は規格である。
地は暗い灰色。
中央よりやや右に、人物がいる。
小さく、金と銀で作られる。
その左に、細長い形が伸びる。
そして、その先に、丸い面が広がる。
団扇だろう。
人物が、それを持っている。
さらに右にも、細かい形が散る。
草花らしい。
一センチの中の扇
この扇は、一センチに満たない。
しかし、扇と分かる。
丸い面と、細い柄。
その二つがあれば、扇に見える。
第一回で、五ミリの人影が人に見えると書いた。
同じことが、持ち物にも当てはまる。
形の特徴が二つあれば、識別できる。
そして、それ以上は描けない。
材料の制約である。
第十八回で、金属では小さくできる限界があると書いた。
この小柄でも、扇は最小に近い大きさである。
九点を、扇の状態で分ける
九点の扇を、状態で分けたい。
開いているものが五点。
デュヴェネックの肖像、二つの役者絵、花見の版画、そして三枚続の一部。
閉じているものが二点。
レンブラントの肖像と、三枚続のもう一部。
扇そのものが形になっているものが一点。
扇面の絵である。
そして、金工の意匠として描かれたものが二点。
二つの小柄である。
扇の骨
開いた扇には、骨の線が見える。
要から放射状に伸びる細い線である。
そして、その線が画面のなかで模様になる。
第十七回で、扇の骨が竹でできていると書いた。
紙の下に骨があるので、光に透かすと影になる。
絵では、その線を描くかどうかが選択になる。
九点を見ると、描いているものと、描いていないものがある。
デュヴェネックの一点では、骨の線が見える。
淡い面のなかに、細い筋が走る。
一方、役者絵の扇には、骨がほとんど描かれていない。
面と模様だけである。
これは、版画の都合でもある。
細い線を何本も彫るのは手間がかかる。
そして、描かなくても扇に見える。
第一回で書いたとおり、必要な情報は思ったより少ない。
扇は、面と線を行き来する
最後に、扇の性質をまとめたい。
扇は、開くと面になる。
閉じると線になる。
そして、その二つは同じものである。
絵のなかでは、この可変性が使われる。
面が欲しければ、開かせる。
線が欲しければ、閉じさせる。
第十七回で、帽子がかぶるか持つかで働きが変わると書いた。
第十八回では、剣が抜くか収めるかで変わった。
扇は、さらに極端である。
形そのものが変わる。
そして、開いた扇は絵を載せられる。
閉じた扇には、載せられない。
つまり、扇は絵の支持体でもある。
第十七回で、支持体の種類を何度も扱った。
板、布、紙、絹、金属、ガラス、象牙、衣。
そこに、扇が加わる。
そして、扇の絵は折られることを前提にしている。
折り目で、絵が割れる。
その制約のなかで、何を描くかが選ばれる。
次の回では、花を見たい。
花は、持たれることも、活けられることもある。
記録の題に、扇が入るか
九点の題を見たい。
扇の語が入っているものは三点である。
二つの肖像画と、扇面の絵。
残る六点には、扇の語がない。
役者の名、場所の名、あるいは種別名だけである。
つまり、扇は題になるほど重要ではない場合が多い。
添えられた持ち物にすぎない。
そして、題に入る場合は、扇が主題に近い。
扇を持つ婦人、扇を持つ若い女、扇面。
いずれも、扇がその絵の特徴になっている。
第十八回で、題の付け方が主題を示すと何度も書いた。
持ち物が題に入るかどうかは、その持ち物の重みを示す。
そして、記録を語で絞るとき、この差が効いてくる。
題だけで絞れば、三点しか見つからない。
分類や種別まで含めれば、九点になる。
どこまで広げて絞るかで、集まるものが変わる。
扇形という画面
扇面の絵について、もう少し書いておきたい。
扇形の画面は、四角い画面とはまったく違う。
上下が弧で、左右が斜めに閉じる。
そして、中心が下にある。
要の位置である。
つまり、画面の重心が下の一点に集まる。
四角い画面では、重心が中央にある。
この差が、構図の作り方を変える。
扇形では、放射状の構成が向いている。
要から広がる線を使う。
あるいは、弧に沿った帯を重ねる。
この一点では、後者が選ばれている。
畑の畝、木立の列、雲の帯。
いずれも、下の弧に平行である。
三本の帯が積み重なっている。
第六回で、中国の掛軸が山を縦に積むと書いた。
画面の形が、積み方を決めている。
扇形では、弧に沿って積むことになる。
そして、上の弧に近いほど、帯が長くなる。
だから、空を上に置くのが自然である。
二つの小柄
九点のうち二点が、同じ形式の小柄である。
そして、作者の姓が同じである。
第十八回で、刀装具の家について書いた。
同じ姓を名乗る工人が、代を重ねる。
この二点も、その関係だろう。
館の記録は、一方を一八五〇年ごろ没、もう一方を一八六一年没とする。
十年ほどの差である。
同世代か、師弟だろう。
そして、材料の欄が似ている。
四分一、金、銅、赤銅。
一方には、さらに銀が加わる。
同じ工房の作り方である。
寸法も、長さと幅がまったく同じである。
第十八回で書いたとおり、この寸法は鞘の溝が決めている。
変えられるのは、厚さと装飾だけである。
そして、二点とも扇を意匠に選んでいる。
小さな板に、丸い面と細い柄。
限られた面積に収まる形だからだろう。










