作品を知る

画面のなかに、光源を置く——蝋燭・ランプ・提灯ほか九点

慈愛
チェザーレ・ダンディーニ《慈愛》1630年ごろ。館の記録では、布に油彩。119.7×105.4センチ。番号は69.283。メトロポリタン美術館蔵。チェーザレ・ダンディーニ《慈愛》メトロポリタン美術館蔵

正方形に近い画面である。

中央に、女性が座る。

青い外套と、赤い衣。

胸をはだけ、膝に幼児を抱く。

幼児は裸で、乳を飲んでいる。

その右にも、幼児が一人。

女性にもたれかかる。

左には、もう一人の幼児が立つ。

そして、その上、画面の左上に、また一人。

こちらは、壺のようなものを両手で掲げている。

その壺の口から、明るいものが立ち上っている。

炎である。

館の記録の分類にも、火の語が付いている。

女性の頭に、花の輪。

背景は暗く、右に柱が見える。

属性としての火

この火は、照明でも、出来事でもない。

記号である。

慈愛という徳を人の姿で表すとき、決まった持ち物が添えられる。

燃える壺、あるいは燃える心臓。

そして、複数の幼児。

その組み合わせが、この人物が誰かを示す。

第十七回で、揃物の名が画面に刷られる話を書いた。

ここでは、持ち物が名の代わりをしている。

つまり、火は情報である。

明るさのためではない。

そして、この絵では火が小さい。

画面の三十分の一もない。

しかし、それがなければ、ただの母子像になってしまう。

卓上ランプ
ティファニー・スタジオ《卓上ランプ》1895年から98年ごろ。館の記録では、鉛線で組んだファブリル・ガラスと、古色を付けた青銅。高さ53.7センチ、胴の径46.4センチ。番号は2011.99.2。メトロポリタン美術館蔵。ティファニー・スタジオ《卓上ランプ》メトロポリタン美術館蔵

ここから、絵ではなくなる。

火を入れるための道具である。

背の高い卓上ランプである。

上に、笠が広がる。

細長いガラスの板を、鉛の線で組んである。

縁には、房のような飾りが下がる。

その下に、丸い胴。

淡い黄と白が混ざったガラスである。

つやがあり、光を通す。

さらに下に、青銅の脚。

三本か四本の脚が、外へ広がる。

古色が付けられ、暗い緑褐色である。

光を通す材料

この一点は、火そのものを見せる道具ではない。

火を隠し、その光だけを通す道具である。

笠のガラスは、色が付いている。

だから、通った光にも色が付く。

第九回で、白は塗り残すと明るいと書いた。

ガラスは、その逆である。

自分では光らないが、後ろから光を当てると明るくなる。

そして、絵と違って、明るさが固定されていない。

灯していないときは、ただの物である。

灯すと、まったく別のものになる。

館の画像は、灯していない状態である。

つまり、この作品の半分しか写っていない。

火を入れる器

狸形火入
青木木米《狸形火入》1800年。館の記録では、成形し、釉薬を掛けないもの。京焼と記される。高さ22.9センチ。番号は23.225.257。日本、江戸時代。メトロポリタン美術館蔵。青木木米《狸形火入》メトロポリタン美術館蔵

白黒の画像である。

第十八回で読んだ寄贈の、一点である。

動物の形をした器である。

丸い体で、座っている。

両手を前に出し、腹の上で組む。

顔は正面を向く。

口を大きく開け、歯が見える。

耳は小さく、丸い。

目は細い。

そして、腹の部分に、大きな穴が開いている。

木の葉の形をした開口である。

そこから、中に火を入れる。

背には、蓋らしい丸い部分がある。

表面には、釉薬が掛かっていない。

素地の粗い質感がそのまま出ている。

火の器は、穴を持つ

火を入れる器には、必ず開口が要る。

空気が通らないと、火が消えるからである。

そして、その開口が、器の形の中心になる。

この一点でも、腹の穴が大きい。

木の葉の形に切り抜かれている。

つまり、実用の必要が、意匠として扱われている。

第十八回で、蓋と身で番号が分かれる器を何度も見た。

こちらは、番号に枝が付いていない。

蓋があるように見えるが、記録では一件である。

そして、題に火の語が入っている。

火を入れる器、という種別名である。

画面に火はない。

しかし、火のための道具である。

後装式針打銃
R・ベルガー《後装式針打銃》19世紀の半ば。館の記録では、鋼・木・角。長さ117.5センチ。番号は1998.464。ドイツ、ケーテン。メトロポリタン美術館蔵。R・ベルガー《後装式針打銃》メトロポリタン美術館蔵

ここから、火が語だけになる。

長い銃である。

右へ向かって、細い銃身が伸びる。

その根もとに、機関部。

金属の部品が組み合わされている。

左には、木の銃床。

滑らかに削られ、木目が見える。

肩に当てる部分は、後ろへ広がる。

握りの部分に、角らしい黒い部品。

全体に、装飾がほとんどない。

実用の道具である。

長さ百十七・五センチ。

語に火が含まれているだけ

この銃の種別名に、火の語が入っている。

針で打つ発火の方式を指す名である。

つまり、火薬に点火する仕組みの名前である。

画面に火はない。

そして、この銃を撃たないかぎり、火は現れない。

館の記録を語で絞ると、こういうものが混ざる。

火という語を含む名前が、火の絵と同じ網にかかる。

第十八回で、出所の行を語で絞る作業を何度も行った。

そのとき、同じ問題が起きていた。

語は、意味を保証しない。

二連後装式ピンファイア散弾銃
J・C・A・ブラン《二連後装式ピンファイア散弾銃》1866年の年記。館の記録では、鋼・胡桃材・金。長さ111.3センチ、銃身の長さ71.1センチ、口径17.8ミリ、重さ3390グラム。番号は1993.415。フランス、パリ。メトロポリタン美術館蔵。J・C・A・ブラン《二連後装式ピンファイア散弾銃》メトロポリタン美術館蔵

第十八回で読んだ寄贈の、一点である。

こちらも銃である。

そして、前の一点より装飾が多い。

機関部に、細かい彫りが施されている。

蔓草のような文様が、金で象嵌されている。

銃床の下端にも、金属の飾り板。

木は胡桃で、深い赤褐色である。

木目が緻密に走る。

銃身は二本。

上下ではなく、左右に並ぶ。

長さ七十一・一センチ。

重さ三千三百九十グラム。