美術史・技法

番号が二つ、記録は一つ——鈴木其一、俵屋宗達ほか六曲一双の屏風

十二面を、一枚の画像で見ることはできない

一双の屏風を全部見ようとすると、問題が起きる。

横が七メートルを超える。

一枚の画像に収めれば、細部が消える。

分けて撮れば、つながりが消える。

館は、一隻ずつ撮ることを選んでいる。

そして、そのうち一隻を公開している。

つまり、私たちが見られるのは半分である。

もう半分は、記録の文字のなかにしかない。

「六曲一双」という技法の欄と、読点でつながれた二つの番号。

それが、見えていない一隻の存在を示している。

これは、ここまで何度も出てきた状況である。

十八葉の画帖で、一葉しか見えない。

二十メートルの巻子で、六十センチしか見えない。

一双の屏風で、一隻しか見えない。

一件という単位が大きいほど、見える割合は小さくなる。

そして、見えない部分の量は、記録の数字から計算できる。

計算してはじめて、何を見ていないかが分かる。

一双は、左右で違うことを描く

商山四皓図と蘇軾赤壁図
狩野光信《商山四皓図と蘇軾赤壁図》16世紀後半。館の記録では、六曲一双の屏風、金箔を置いた紙に墨と彩色と金。各隻の画面は縦174.6センチ、横378.1センチ。番号は1975.268の46と47。館の題は、左隻と右隻の主題を書き分けている。メトロポリタン美術館蔵。狩野光信《商山四皓図と蘇軾赤壁図》メトロポリタン美術館蔵

この一件の題は、二つの主題を並べている。

一方は、山にこもった四人の老人が宮廷に戻る話。

他方は、詩人が舟で出かける話。

館の記録は、どちらが左でどちらが右かを書いている。

つまり、一双の左右で別の物語を描いている。

これは、屏風では珍しくない。

左右で対になる主題を選ぶ。

春と秋。花と鳥。山と水。

あるいは、二つの故事。

そして、二つで一つの意味を作る。

画像に写っているのは、そのうちの一隻である。

金の地に、青い水と緑の岩。

左に、白い衣の人物が数人。

右に、建物と、緑の松。

もう一隻は写っていない。

だから、この一件の意味の半分は、画像からは見えない。

一隻しか写らない、ということ

九点すべてで、公開されている画像は一隻ぶんである。

これは、当サイトの都合ではない。

館が公開している画像が、そうなっている。

理由は想像できる。

二隻を並べて撮ると、横が七メートルを超える。

一枚の画像に収めると、細部が小さくなりすぎる。

だから、一隻ずつ撮る。

そして、代表として一隻を公開する。

前の回に見た画帖と、同じ状況である。

一件にまとめると、中身の一部しか見えない。

月に秋草図
俵屋宗達《月に秋草図》17世紀半ばから後半。館の記録では、六曲一双の屏風、金銀の砂子を置いた紙に墨と彩色と銀。各隻の全体は縦151センチ、横361.6センチ。番号は1975.268の60と61。メトロポリタン美術館蔵。俵屋宗達《月に秋草図》メトロポリタン美術館蔵

淡い金の地に、秋の草が描かれている。

左のほうに、大きな半円がある。

月である。

半分だけが見えている。

暗い色で塗られ、まわりの金と対比している。

そして、草は右へ向かって続く。

薄と、萩と、小さな花。

面と面の境目を越えて、草が広がっていく。

技法の欄に「銀」とある。

月は銀で摺られていた可能性がある。

銀は時間がたつと黒く変わる。

いま暗く見えるのは、そのためかもしれない。

館の記録は、そこまで書いていない。

詩の紙が、貼られている

十二か月の花鳥と漢詩
狩野派《十二か月の花鳥と漢詩》16世紀。館の記録は、詩の紙のうち一枚に1553年の年記があると記す。六曲一双の屏風、金箔を置いた紙に墨と彩色。各隻の画面は縦154.1センチ、横353.4センチ。番号は62.98の2と3。メトロポリタン美術館蔵。狩野派《十二か月の花鳥と漢詩》メトロポリタン美術館蔵

この一隻は、作りが変わっている。

上下二段に分かれている。

上の段に、六枚の紙が横に並んでいる。

そこに、漢詩が書かれている。

下の段には、六つの楕円形の枠がある。

その中に、花と鳥が描かれている。

一つの枠に、一つの月の花鳥。

六つ並べて、六か月ぶんになる。

一双なら、十二か月がそろう。

題の《十二か月の花鳥》は、そういう意味である。

そして年の欄には、変わった書き方がある。

「十六世紀、詩の紙のうち一枚に一五五三年の年記」。

屏風全体の年は十六世紀とだけ書き、貼られた紙の一枚に年があると添えている。

紙は、後から貼られたものかもしれない。

だから、紙の年と屏風の年を分けて書いている。

一件のなかに、年の違うものが混じっている。

墨だけの一双

猿猴図
雪村周継《猿猴図》1570年ごろ。館の記録では、六曲一双の屏風、紙に墨。各隻の画面は縦157.5センチ、横348センチ。番号は1992.8の1と2。日本、室町時代。メトロポリタン美術館蔵。雪村周継《猿猴図》メトロポリタン美術館蔵

金地ではなく、紙の地に墨だけである。

左に、崖と木。

その枝に、猿が数匹しがみついている。

腕を伸ばし、尾を垂らしている。

右へ向かって、岩と水と霞が続く。

面の境目が、はっきり見える。

そして、絵はやはり境目をまたいでいる。

墨だけの屏風は、金地の屏風とは印象がまるで違う。

明るさが低く、余白が広い。

部屋を明るくする役には立たない。

かわりに、静かな場を作る。

四季山水図、瀟湘八景
相阿弥《四季山水図、瀟湘八景》16世紀はじめ。館の記録では、六曲一双の屏風、紙に墨。各隻は縦173.4センチ、横370.8センチ。番号は41.59の1と2。メトロポリタン美術館蔵。相阿弥《四季山水図、瀟湘八景》メトロポリタン美術館蔵

こちらも墨だけである。

低い山が、横に連なっている。

手前に水面、奥に霞。

木立が点々と並び、小さな建物が見える。

前の回にも出てきた瀟湘八景が、題に入っている。

八つの景色を、六面の屏風に配している。

一双なら十二面だから、八景を余裕をもって収められる。

松に鷹と椿、柳に小鳥と椿
三谷等宿《松に鷹と椿、柳に小鳥と椿》17世紀はじめ。館の記録では、六曲一双の屏風、紙に墨と彩色。各隻の画面は縦148.5センチ、横327.2センチ。番号は29.100の491と492。メトロポリタン美術館蔵。三谷等宿《松に鷹と椿、柳に小鳥と椿》メトロポリタン美術館蔵

題が、二つの主題を並べている。

松と鷹と椿。柳と小鳥と椿。

左右で対になっている。

一方に鷹、他方に小鳥。

一方に松、他方に柳。

そして、どちらにも椿がある。

共通するものを一つ置き、対比するものを二つ置く。

一双の主題の作り方として、よくできている。

画像に写っている一隻には、松と鷹が描かれている。

太い幹が右から左へ伸び、その上に鷹が止まっている。

下に、白い花の咲く低木。