名画の楽しみ方

丸い胴に、絵をどう置くか——永樂保全・ティファニーほか九点の器

壺
保山《壺》18世紀。館の記録では、釉を掛けた陶器。京焼。高さ25.7センチ、幅14.3センチ、奥行き14センチ。番号は91.1.258。メトロポリタン美術館蔵。保山《》メトロポリタン美術館蔵

高さ二五・七センチ。

九点のなかで、二番目に高い。

胴が四角に近い。

角が丸められている。

そして、両側に大きな把手がつく。

把手は縦に長い。

上のほうから、胴の下まで届く。

板のように平たい。

釉は緑がかっている。

厚く掛かって、流れた跡が見える。

そして、胴に文様が彫られている。

浅い彫りである。

蔓のような曲線が、面を這う。

だが、釉が厚いので、輪郭がぼやける。

つまり、絵が沈んでいる。

前の三点は、絵が表面に載っていた。

こちらは、面のなかに沈んでいる。

これも一つの解き方である。

第十六回で、彫った装飾について書いた。

彫れば、色を使わずに模様が作れる。

そして、光の当たり方で見え方が変わる。

明るい場所では、影が濃く出る。

暗い場所では、ほとんど消える。

胴が四角に近いのも、関係するだろう。

平らな面があれば、彫りが読みやすい。

丸い面では、光が回り込んでしまう。

花の形にする

鉢
豊助四代《鉢》1840年。館の記録では、釉を掛けた陶器に上絵付け。高さ8.6センチ、直径19.1センチ。番号は91.1.349。メトロポリタン美術館蔵。豊助四代《》メトロポリタン美術館蔵

浅い鉢である。

高さ八・六センチ。

直径一九・一センチ。

写真は白黒である。

口の形が、花のようになっている。

六つか七つの弧が、外へふくらむ。

弧のあいだが、内へ切れ込む。

つまり、輪郭が花弁の形である。

胴の側面も、その形に合わせて折れている。

平らな面が、いくつも並ぶ。

そして、その面には模様がない。

無地である。

館の記録は、上絵付けがあると書いている。

だが、写真では読めない。

内側にあるのかもしれない。

外側の底のほうに、白い点がいくつか見える。

つまり、この一点は形そのものが装飾である。

絵を置いていない。

置く代わりに、輪郭を変えている。

第十六回で、形による装飾について書いた。

輪郭を植物の形にする。

そうすると、絵がなくても主題が伝わる。

これは前の回の椅子でも見た方法である。

背もたれを盾の形にした一点があった。

形が意味を持つ。

そして、この鉢は上から見るのが正しい。

花の形は、真上から見たときに完成する。

館の写真は、斜め上から撮っている。

だから、形が半分だけ見える。

硝子を型で押す

蓋物
ボストン・アンド・サンドウィッチ硝子会社《蓋物》1830年から1845年。館の記録では、レース状の型押し硝子。14×16.5×10.2センチ。番号は1987.170.2。メトロポリタン美術館蔵。ボストン・アンド・サンドウィッチ・ガラス社《蓋物》メトロポリタン美術館蔵

透明な硝子の器である。

蓋がついている。

一四掛ける一六・五掛ける一〇・二センチ。

館の記録は、二つの部分に分けて番号をつけている。

本体と蓋である。

形が変わっている。

四隅に、渦を巻いた足がある。

丸く巻いた形で、器を支える。

胴は下がすぼまり、上が広がる。

蓋の中央に、小さな摘みがある。

そして、全面に細かい模様がある。

扇の形が並ぶ帯。

小さな粒が敷きつめられた部分。

放射状の線。

いずれも、型で押した模様である。

第十六回で、この技法について書いた。

溶けた硝子を型に入れ、押して形を作る。

そうすると、同じものが速く作れる。

そして、模様は型のほうに彫っておく。

つまり、一つ一つ描くのではない。

だから、模様は器の形と一体になっている。

面ごとに、模様が変わる。

そして、細かい粒を敷きつめる理由もある。

型押しの硝子は、表面に細かい傷や曇りが出やすい。

一面に模様を入れると、それが目立たなくなる。

つまり、装飾が仕上げの粗さを隠している。

金属の曲面

急須
トマス・ダンフォース・ボードマン《急須》1854年から1865年。館の記録では、ブリタニアメタル。高さ21.7センチ、直径22.2センチ。番号は1990.87.2。メトロポリタン美術館蔵。トマス・ダンフォース・ボードマン《急須》メトロポリタン美術館蔵

金属の器である。

高さ二一・七センチ。

直径二二・二センチ。

館の記録の材料は、錫を主とする合金である。

銀に似た色になる。

そして、銀より安い。

形は、胴が下でふくらみ、上へすぼまる。

そこからまた少し広がる。

蓋がついていて、上に小さな摘みがある。

葉のような形をしている。

把手は大きく曲がる。

上が高く、下で胴につく。

注ぎ口は、細く前へ伸びる。

先が少し上を向く。

足が四つある。

小さな渦のような形である。

そして、胴には模様がない。

磨いた面が、そのまま光っている。

つまり、これも絵を置かない一点である。

だが、理由が違う。

前の二点は、形や輪郭で見せていた。

こちらは、光で見せている。

第十六回で、金属器の仕上げについて書いた。

磨いた曲面は、周囲を映す。

そして、映り込みが器の形を示す。

胴のふくらみが、明るい帯になる。

すぼまるところが、暗くなる。

つまり、光そのものが模様になっている。

模様を彫れば、この映り込みが乱れる。

だから、あえて何も入れない。

正面があるか、ないか

九点を、正面の有無で分けたい。

正面があるものが三点。

水差し、双耳花瓶、そして急須である。

水差しと双耳花瓶は、絵の位置で正面が決まる。

急須は、注ぎ口と把手の関係で決まる。

注ぎ口を右に、把手を左に置くのが普通である。

正面がないものが六点。

龍の壺は、絵が一周する。

枝の花瓶は、模様が散る。

硝子の花瓶は、模様が流れる。

京焼の壺は、彫りが全面に回る。

花形の鉢は、輪郭が対称である。

型押しの蓋物も、四方が同じである。

つまり、六割以上に正面がない。

これは器の使われ方と関係するだろう。

卓の中央に置く器なら、どこから見られるか分からない。

だから、どこから見ても成立する必要がある。

棚や壁際に置く器なら、正面だけを飾ればよい。

第十六回で、置き場所と装飾の関係について書いた。

そして、把手の数も手がかりになる。

把手が一つなら、向きが決まる。

二つなら、その中間が正面になる。

把手がなければ、向きは自由である。

絵を額に入れる