名画の楽しみ方

一件の中に、九十七枚が入る——葛飾北斎と門人の画帖ほか

二人の葉で、寸法が違う

いま見た一件は、二人の画家の葉からなる。

十葉が一方、二葉が他方である。

そして、寸法の欄が二つに分かれている。

十葉は縦22センチ、二葉は縦25.4センチ。

三センチ以上違う。

つまり、同じ画帖の中で葉の大きさが揃っていない。

別々に描かれたものを、後から一冊にしたのだろう。

年の欄も、1674年と1677年の二つである。

三年の差がある。

館は、その差をそのまま書いている。

一つの数字に丸めれば、この事情は消える。

前の回の記事で、刀身と拵の年について同じことを書いた。

分けて書くことで、成り立ちが残る。

各葉の寸法と、全体の寸法

九件の寸法の欄には、二つの書き方がある。

各葉の大きさだけを書くもの。

そして、開いた状態の全体も書くもの。

後者では、表紙まで含めた大きさが並ぶ。

縦41.3センチ、横68.6センチ、厚さ6.2センチ。

厚さが書かれるのは、冊子だからだ。

一枚の絵に、厚さの欄はない。

束ねられて、はじめて厚さが生まれる。

館は、その厚さまで測っている。

前の回の記事で、寸法の欄が何を測るかを何度も見てきた。

画帖では、閉じた姿と開いた姿の両方が問題になる。

十鷹書画冊
狩野常信《十鷹書画冊》17世紀から18世紀。館の記録では、十葉の画帖、絹に墨と彩色。各葉は縦27.3センチ、横23.9センチ。装丁を開いた状態は縦41.3センチ、横68.6センチ、厚さ6.2センチ。番号は29.100.1398。メトロポリタン美術館蔵。狩野常信《十鷹書画冊》メトロポリタン美術館蔵

黒い縁の台紙に、金砂子の枠がある。

その内側に、絹の画面が貼られる。

画面には、鷹が二羽いる。

上の一羽は大きく、翼を広げる。

羽の一枚ずつが、細い線で描き分けられる。

体は褐色で、腹が白い。

嘴は鋭く曲がり、目が丸い。

下にもう一羽、小さな鷹がいる。

こちらは何かを掴み、下を向く。

その周囲に、白い羽根が数枚散る。

画面の右上に、朱の印が一つ押される。

版画の画帖と、絵の画帖

九件のうち二件は、中身が版画である。

一枚ずつ摺られた版画を、後から綴じて冊子にした。

品名の欄には、版画とある。

技法の欄には、八十八枚の版画からなる画帖とある。

一方、絵の画帖は、はじめから冊子として描かれる。

成り立ちがまるで違う。

しかし、館の記録では同じ扱いになる。

同じ品名、同じ形式の欄。

分類の枠が、その差を吸収してしまう。

前の回の記事で、分類の名と中身のずれについて何度か書いた。

ここでも、同じことが起きている。

小倉擬百人一首の版画八十八枚の画帖
歌川国芳、歌川広重、歌川国貞《小倉擬百人一首の版画八十八枚の画帖》1845年から1848年ごろ。館の記録では、八十八枚の版画からなる画帖、紙に墨と彩色。縦35.6センチ、横23.5センチ、厚さ2.5センチ。番号は、日本の版画を示す記号に206を付けたものである。メトロポリタン美術館蔵。歌川広重《小倉擬百人一首の版画八十八枚の画帖》メトロポリタン美術館蔵

版画の一枚が、画帖を開いた状態で写る。

上部に、橙色の枠がある。

枠の中に、和歌が縦書きで並ぶ。

右上に、別の枠で題が入る。

その下が、絵になる。

青緑の衣をまとった人物が、縁に座る。

衣には、丸い花の文様が散る。

腰に赤い布を巻く。

背後に、松と屋根が見える。

地面には、雪が積もる。

右に、細かい文字が縦に並ぶ。

左下に、朱の印が二つある。

二件の画像が、同じ図を写す

いま見た一件と、もう一件の画像を並べてみる。

ほとんど同じ図である。

同じ版から摺られた版画だ。

別々の画帖に、同じ一枚が含まれている。

そして館は、それぞれの記録の代表画像にその一枚を選んだ。

偶然だろうか。

おそらく、冊子の最初の一枚だからである。

開けば、まずその一枚が出てくる。

撮る側は、自然にそれを選ぶ。

前の回の記事で、同じ版から摺られた二枚を見た。

あちらは、二点が別々の番号を持っていた。

こちらは、それぞれが画帖の一部である。

同じ紙でも、数え方が違う。

版画九十八枚の画帖
歌川国芳、歌川国貞、歌川広重《版画九十八枚の画帖》19世紀。館の記録では、九十八枚の版画からなる画帖、紙に墨と彩色。縦36.8センチ、横24.1センチ、厚さ4.4センチ。番号は、日本の版画を示す記号に211を付けたものである。メトロポリタン美術館蔵。歌川国芳《版画九十八枚の画帖》メトロポリタン美術館蔵

前の一件と、ほぼ同じ図である。

上部の橙色の枠に、和歌が並ぶ。

右上に、題の枠がある。

下の絵には、青緑の衣の人物が座る。

背後に松、地面に雪。

違うのは、紙の色である。

こちらは全体に褐色が強い。

紙が焼けているのだろう。

左端に、表紙の縁が写り込む。

厚さの欄も、こちらのほうが厚い。

九十八枚を綴じて、4.4センチになる。

番号が、数字で始まらない一件

九件の番号を並べると、二件だけ形が違う。

ほかの七件は、受入の年で始まる四桁の数字である。

ところが版画の二件は、記号で始まる。

日本の版画であることを示す、二文字の記号だ。

そのあとに、通し番号が続く。

年の情報が、番号に入っていない。

つまり、いつ入ったかが番号から読めない。

出所の行を見れば、1894年と1914年と分かる。

しかし番号だけでは分からない。

館は、版画に別系統の番号を与えていた。

数が多く、扱いも違うからだろう。

同じ館の中に、複数の番号の体系がある。

前の回の記事で、番号の形が七通りある例を見た。

体系が一つでないことは、珍しくない。

厚さの欄が、枚数を裏づける

二件の版画の画帖には、厚さの数字がある。

八十八枚で2.5センチ。

九十八枚で4.4センチ。

枚数が一割増えて、厚さが七割増える。

比例していない。

表紙の厚みや、綴じ方の差だろう。

紙の厚さも、一枚ずつ違う。

館は、そこまでは書かない。

しかし、二つの数字を並べれば疑問は生まれる。

疑問が生まれるのは、比べられるからだ。

比べられるのは、同じ欄に同じ単位で書かれているからである。