名画の楽しみ方

一件の中に、九十七枚が入る——葛飾北斎と門人の画帖ほか

九十七葉の画帖。八十八枚の版画からなる画帖。技法の欄に、枚数がそのまま書かれる。番号の枝と枚数が合わない件もあり、公開画像は一葉しか写さない。何枚を一件とするかを読みたい。厚さの欄が、枚数を裏づける件もある。

画帖
葛飾北斎《画帖》メトロポリタン美術館蔵

一件の中に、九十七枚が入っている

画帖(がじょう)を九件、記録の欄で並べてみる。

画帖とは、絵や版画を綴じて冊子にしたものだ。

技法の欄を読むと、こう書かれている。

九十七葉の画帖。

八十八枚の版画からなる画帖。

九十八枚の版画からなる画帖。

二十四葉の画帖。

十二葉、十葉、八葉。

一件の中に、何十枚も入っている。

そして、館はそれを一つの番号で数える。

枚数が、技法の欄に書かれる

面白いのは、枚数が書かれる場所である。

品名の欄ではない。

技法の欄に、材料と並べて書かれている。

紙に墨と彩色、そして九十七葉。

材料と枚数が、同じ欄に同居する。

なぜここに書くのか。

その品が何でできているかを説明する欄だからだろう。

一枚の絵ではなく、束ねられた紙である。

その構造も、材料の一部として扱われている。

前の回の記事で、技法の欄が工程を示す例を見た。

ここでは、構造を示している。

画帖
葛飾北斎と門人《画帖》19世紀。館の記録では、九十七葉の画帖、紙に墨と彩色。各葉は縦39.4センチ、横26.7センチ。番号は14.76.59.1から.102。メトロポリタン美術館蔵。葛飾北斎《画帖》メトロポリタン美術館蔵

灰色の台紙に、白い紙が貼られる。

その紙に、墨で人物が描かれる。

立っているのは、年老いた男である。

高い冠をかぶり、長い衣をまとう。

顔には深い皺が刻まれる。

右手に、梅の枝を持ち上げる。

枝には、小さな花が点々と付く。

その足もとに、もう一人が横たわる。

顔だけが上を向き、口を開けて笑う。

衣の線は太く、一気に引かれている。

彩色はほとんどなく、墨の濃淡だけである。

番号の枝と、枚数が合わない

いま見た一件の番号は、点のあとに数字が続く。

1から102まで。

ところが、記録は九十七葉と書いている。

五つ、合わない。

抜けている番号があるのだろう。

あるいは、二枚で一つの番号になっているのかもしれない。

館は、その理由を書かない。

書かないから、判断できない。

判断できないという事実だけが残る。

前の回の記事で、番号の枝が一字飛んでいる例を見た。

こういうずれは、記録では珍しくない。

数えた時期と、番号を付けた時期が違えば起こる。

二つの番号に、一つの画帖が分かれる

九件のうち一件は、さらに複雑である。

技法の欄に、こう書かれている。

十八葉の画帖のうち、十五葉。

そして、残る三葉は別の番号を持つ、と続く。

つまり、一つの画帖が二つの番号に分かれている。

なぜか。

受け入れた年が違うのだろう。

十五葉が一年に入り、三葉が別の年に入った。

館は、番号を統合していない。

かわりに、技法の欄に注記を置いている。

こちらの番号とあちらの番号で一組、と書く。

番号は動かせないが、注記は書ける。

その順序で、記録は保たれている。

山水と詩の画帖
龔賢《山水と詩の画帖》1688年。館の記録では、十八葉の画帖のうち十五葉、紙に墨。縦27.3センチ、横41センチ。番号は1981.4.1。メトロポリタン美術館蔵。龔賢《山水と詩の画帖》メトロポリタン美術館蔵

雪の積もった山が、画面を埋める。

岩は丸くふくらみ、幾重にも重なる。

表面は細かい点で覆われる。

その点の粗密で、明暗が作られる。

輪郭の線は、ほとんど見えない。

中央やや右に、小さな建物がある。

屋根だけが、白い雪の中に見える。

その手前に、細い木が数本立つ。

画面の右に、賛の文字が二行入る。

左下と右下に、朱の印が押される。

台紙は淡い黄褐色で、染みが広がる。

公開画像は、一葉しか写さない

九件の公開画像は、いずれも一葉だけである。

九十七葉のうち一葉。

八十八枚のうち一枚。

残りは、写真では見られない。

画帖は、めくって見るものだ。

開いた状態を一枚に収めるのは難しい。

だから、代表の一葉が選ばれる。

前の回の記事で、揃いの金具について同じことを書いた。

記録の欄は全部を数え、画像は一部しか見せない。

欄を読まなければ、これが一枚の絵に見える。

九十七葉あることは、技法の欄にしか書かれていない。

源氏物語画帖
青蓮院尊純法親王、土佐光貞《源氏物語画帖》17世紀。館の記録では、二十四葉の画帖、紙に墨と彩色と金。縦26.3センチ、横23.5センチ。番号は94.18.1。メトロポリタン美術館蔵。土佐光貞《源氏物語画帖》メトロポリタン美術館蔵

金の地が、画面の大部分を占める。

上下に、金の霞が横に流れる。

右上に、建物の一角がある。

御簾が下がり、その奥に人が横たわる。

床は緑で、几帳が立つ。

手前の縁に、女性が三人ほどいる。

いずれも黒い髪を長く垂らす。

衣は緑、赤、白に塗り分けられる。

庭には、青い川が曲がって流れる。

川の中に、白い岩が三つ置かれる。

左下に、大きな白い塊がある。

その周りに、緑の草が生える。

二十四の葉に、四十六の枝

いま見た一件の番号には、小文字が付く。

aから始まり、二文字の組み合わせまで続く。

二十四葉を、小文字で数えている。

アルファベットは二十六字しかない。

だから、足りなくなると二文字になる。

別の一件では、さらに長い枝が付く。

十二葉の画帖に、四十を超える枝がある。

葉の数より、枝の数が多い。

葉のほかに、書や表紙も数えているのだろう。

館は、その内訳を書かない。

書かないが、枝の数が中身の多さを示している。

古人に倣う山水の画帖
王翬、王時敏《古人に倣う山水の画帖》1674年と1677年。館の記録では、十二葉の画帖、紙に墨と彩色。王翬の十葉は縦22センチ、横33.8センチ。王時敏の二葉は縦25.4センチ、横33センチ。番号は1989.141.4。メトロポリタン美術館蔵。王翬《古人に倣う山水の画帖》メトロポリタン美術館蔵

水墨の山水である。

中央から左へ、丘が低く連なる。

丘の上は、細かい点で埋め尽くされる。

木立を表したものだろう。

右下に、川が横に流れる。

川辺に、細い木が数本立つ。

その奥に、小さな家並みが見える。

左上に、賛の文字が四行ほど入る。

左下と右下に、朱の印が押される。

紙は淡い黄褐色で、余白が広い。

墨は薄く、全体が霞んで見える。