美術史・技法

作者の名が、ない九枚——十八世紀アメリカの無名の絵

犬を連れた少年

四点目は、子どもの全身像である。

ビークマン家の少年
作者不詳(十八世紀のアメリカ)《ビークマン家の少年》1720年ごろ。油彩、カンヴァス。縦130.8センチ、横103.6センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。アメリカ、18世紀(作者不詳)《ビークマン家の少年》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

少年が、立っている。

茶色の上着に、青い外套。

そして、その外套を左手で持つ。

右手に、小さな器を持つ。

足元に、大きな犬。

背景の左に、建物と空。

大きな画面

寸法を見たい。

縦130.8センチ、横103.6センチ。

つまり、三点目に次いで大きい。

全身を収めるための寸法である。

家名が、分かる

題を見たい。

家の名が入る。

つまり、どの家の子かは分かっている。

個人の名は、分からない

もっとも、個人の名はない。

つまり、家は分かるが、誰かは分からない。

記録の残り方には、段階がある。

手に持つ器

右手を見たい。

小さな器を持つ。

そして、犬がそれを見上げる。

つまり、犬に与えるものだろう。

犬という同席者

足元の犬を見たい。

大きく、明るい茶色である。

そして、少年を見上げる。

つまり、飼い犬である。

大人の服を、着る

少年の服を見たい。

上着、外套、そして留め金の付いた靴。

つまり、大人と同じ装いである。

子どもを、大人のように描く

十八世紀の子どもの肖像には、この特徴がある。

そして、姿勢も大人と同じである。

つまり、家の一員として描かれている。

背景の建物

左を見たい。

石の柱らしき形がある。

そして、その向こうに空。

つまり、屋外の設定である。

外套の青

外套を見たい。

明るい青である。

そして、光沢がある。

つまり、絹だろう。

暗い画面の中で、そこだけが明るい。

チェイニー一家
作者不詳(十八世紀のアメリカ)《チェイニー一家》1795年ごろ。油彩、カンヴァス。縦49センチ、横65センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。アメリカ、18世紀(作者不詳)《チェイニー一家》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

十二人の家族

五点目は、群像である。

横長の画面に、十人以上が並ぶ。

左に、少年が三人。

中央に、黒い衣の男性と、赤子を抱く女性。

そして、その右に女性たちが並ぶ。

床に、模様のある敷物。

中央の二人

中央を見たい。

黒い衣の男性と、白い被り物の女性。

そして、女性が赤子を抱く。

つまり、両親だろう。

小さな画面に、多人数

寸法を見たい。

縦49センチ、横65センチ。

つまり、小さい。

そこに、十二人ほどを収める。

一人ずつは、小さい

顔の大きさを計算したい。

画面の高さが49センチである。

そして、人物の高さはその半分ほど。

つまり、顔は数センチしかない。

衣の色

衣の色を見たい。

左の少年たちは青。

そして、右の女性たちは白と赤。

つまり、色で群を分けている。

描き分ける方法

顔が小さければ、細部は描けない。

そこで、衣の色と髪型で描き分ける。

そして、身長で年齢を示す。

並べるという構図

十二人を、横一列に近く並べる。

つまり、奥行きをあまり作らない。

そして、全員の顔が見える。

手をつなぐ

右の人物を見たい。

隣どうしが、手をつないでいる。

つまり、関係が示されている。

家族の記録

家族全員を一枚に描く。

つまり、その時点の家の記録である。

そして、生まれたばかりの子も含まれる。

床の敷物

足元を見たい。

模様のある敷物が広がる。

そして、奥へ向かって狭くなる。

つまり、遠近が示されている。

マウント・ヴァーノンの眺め
作者不詳(十八世紀のアメリカ)《マウント・ヴァーノンの眺め》1792年以後。油彩、カンヴァス。画面は縦58.4センチ、横89.2センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。アメリカ、18世紀(作者不詳)《マウント・ヴァーノンの眺め》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

屋敷の景

六点目は、建物の景である。

中央に、白い大きな屋敷。

赤い屋根と、円い塔が載る。

左右に、木立が並ぶ。

手前に、芝と小さな人物。

空に、雲が浮かぶ。

下部に、文字の帯がある。

屋敷の形

建物を見たい。

横に長く、二階建てである。

そして、中央に円い塔が載る。

つまり、対称の作りである。

下部の文字

画面の下を見たい。

横一列に、文字が並ぶ。

つまり、題が画面に書き込まれている。

木立の並び

左右を見たい。

木が、規則的に並ぶ。

そして、奥へ小さくなる。

つまり、植えられた並木である。

版画に、似た作り

題を画面の下に置くのは、版画の作法である。

つまり、この絵は版画にもとづくのかもしれない。

もっとも、館の記録は示していない。

だから、当サイトは断定しない。

寸法の記録が、違う

館の記録を見たい。

他の八点は「全体」の寸法である。

そして、この一点は「画面」の寸法とされる。

なぜ、違うか

文字の帯があるためだろう。

つまり、絵の部分と文字の部分を分けている。

記録の言葉が、作品の作りを示している。

芝の上の人物

手前を見たい。

小さな人物が、数人いる。

そして、いずれも明るい衣である。

つまり、散策する人々だろう。

描かれた場所

題には、地名が入る。

そして、ある人物の邸宅とされる。

つまり、名の知られた場所である。

屋敷を支えたもの

ここで、事実を書き添えておきたい。

この時代のこの地域の大きな農園は、奴隷とされた人々の労働に支えられていた。

そして、この屋敷もその一つである。

絵に、描かれないもの

画面には、芝と木立と屋敷がある。

そして、小さな人影が数人いる。

しかし、農園の労働は描かれていない。

何を描き、何を描かないか

風景画は、選んで描く。

つまり、描かれないものがある。

当サイトでは、その選択にも触れておきたい。