美術史・技法

作者の名が、ない九枚——十八世紀アメリカの無名の絵

戦いの場面

七点目は、戦闘の景である。

バンカー・ヒルの攻撃とチャールズタウンの炎上
作者不詳(十八世紀のアメリカ)《バンカー・ヒルの攻撃とチャールズタウンの炎上》1783年以後。油彩、カンヴァス。縦53.3センチ、横70.8センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。アメリカ、18世紀(作者不詳)《バンカー・ヒルの攻撃とチャールズタウンの炎上》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

横長の画面である。

左に、都市が広がる。

中央から右へ、丘が伸びる。

丘の上に、黒い煙が立ち上る。

手前の水面に、帆船が並ぶ。

船から、白い煙が上がる。

手前の船

水面を見たい。

帆船が、数隻並ぶ。

そして、砲煙が上がる。

つまり、攻撃の場面である。

地名が、書き込まれる

画面を見たい。

いくつかの場所に、文字がある。

つまり、地名が書き込まれている。

地図のような絵

地名を書き込むのは、地図の作法である。

つまり、この絵は記録としての性格を持つ。

そして、鑑賞よりも説明が目的だろう。

空の色

空を見たい。

左は青く、雲が浮かぶ。

そして、右は黒い煙で覆われる。

つまり、左右で対照をなす。

燃える町

丘の上を見たい。

建物が燃え、黒い煙が上がる。

そして、その煙が空を覆う。

つまり、町の炎上である。

小さめの画面

寸法を見たい。

縦53.3センチ、横70.8センチ。

つまり、大きくはない。

家に飾る大きさである。

出来事を、描く

題には、出来事の名が入る。

つまり、特定の日の記録である。

そして、それを絵にしている。

一七八三年以後

制作年を見たい。

一七八三年以後とされる。

つまり、下限だけが分かっている。

出来事の後に、描く

描かれた出来事は、これより前である。

つまり、後から描いた絵である。

見て描いたのではなく、聞いて描いた可能性が高い。

描き手は、その場にいたか

館の記録は、示していない。

だから、当サイトも断定しない。

分かるのは、制作が出来事より後だということである。

果物の籠を持つ少年
作者不詳(十八世紀のアメリカ)《果物の籠を持つ少年》1790年ごろ。油彩、カンヴァス。縦57センチ、横43.9センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。アメリカ、18世紀(作者不詳)《果物の籠を持つ少年》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

果物と、子ども

八点目は、子どもである。

卓の前に立つ。

濃紺の衣に、白い大きな襟。

そして、赤い帯。

卓の上に、果物の籠。

その手前に、切った菓子らしきもの。

背景は、暗い。

卓の面

卓を見たい。

灰色の平らな面である。

そして、手前の縁が水平に走る。

つまり、石の卓だろうか。

籠の中身

籠を見たい。

黄色い実と、赤い実が入る。

そして、緑の葉が添えられる。

つまり、果物である。

手前のもの

卓の手前を見たい。

平たいものが置かれる。

表面に、小さな穴がある。

菓子か、あるいはパンだろうか。

館の記録に、説明はない。

赤い帯

腰を見たい。

赤い帯が、締められる。

そして、濃紺の衣に映える。

二点目と同じ配色である。

大きな襟

首元を見たい。

白い襟が、幾重にも重なる。

そして、肩まで広がる。

つまり、二点目の少女と同じ形式である。

同じ時期の、同じ装い

二点目と八点目は、いずれも一七九〇年ごろである。

そして、白い大きな襟が共通する。

つまり、当時の子どもの装いである。

暗い背景

背景を見たい。

ほとんど黒に近い。

そして、顔と襟だけが明るい。

つまり、明暗の差が大きい。

カタリンチェ・ポスト
作者不詳(十八世紀のアメリカ)《カタリンチェ・ポスト》1747年ごろ。油彩、カンヴァス。縦133.6センチ、横90.4センチ。ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵。アメリカ、18世紀(作者不詳)《カタリンチェ・ポスト》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

縞の衣

九点目は、女性の全身像である。

赤と黒と黄の縞の上衣。

そして、白い裾の広がった衣。

裾に、黄色い模様が散る。

頭に、白い被り物。

足元に、白い靴。

背景は、暗い。

大きな画面

寸法を見たい。

縦133.6センチ、横90.4センチ。

つまり、九点の中で二番目に大きい。

全身を収めている。

縞という模様

上衣を見たい。

縦の縞が、はっきりと並ぶ。

そして、色が三つある。

つまり、目立つ装いである。

裾の模様

下の衣を見たい。

白い地に、黄色い小さな形が散る。

そして、規則的に並ぶ。

つまり、織りか刺繍の模様である。

被り物

頭を見たい。

白い布が、髪を包む。

そして、額の上で縁が立つ。

つまり、当時の装いである。

白い靴

足元を見たい。

白い靴が、揃えて置かれる。

そして、踵が高い。

つまり、当時の装いである。

背景の点

背景を見たい。

小さな丸い形が、いくつか浮かぶ。

そして、上部に花のようなものもある。

つまり、装飾として置かれている。

手の位置

両手を見たい。

胸の前で、軽く重ねる。

そして、指が細い。

つまり、静かな姿勢である。

平らな画面

この一枚は、奥行きが少ない。

背景が暗く、床も示されない。

つまり、人物が平面に貼り付いたように見える。

遠近法を、使わない絵

十八世紀の地方の肖像には、この特徴がある。

そして、それは技量の不足だけではない。

正面から、大きく、はっきり描く。

その方針の結果でもある。

九点の内訳

九点をまとめたい。

肖像が六点、群像が一点。

そして、景色が二点である。

年代の分布

年代を並べたい。

一七一〇年ごろ、二〇年ごろ、四〇年ごろ。

四七年ごろ、八三年以後、九〇年ごろが二点。

そして、九二年以後、九五年ごろ。

つまり、八十年以上に分布する。

描かれた人の名

九点のうち、人物の名があるのは三点である。

そして、家名だけが二点。

さらに、名のないものが一点。

記録の段階

つまり、記録には段階がある。

作者も人物も分かるもの。

人物だけ分かるもの。

そして、どちらも分からないもの。

分からないことを、記す

館は、分からないことを分からないと記す。

つまり、空欄にせず、時代と地域を書く。

そして、それが検索の手がかりになる。

「十八世紀のアメリカ」という作者名

この表記は、便宜的なものである。

つまり、人ではない。

しかし、記録としては機能する。

集めることで、見えるもの

一点だけでは、時代の特徴は見えにくい。

しかし、九点を並べると、共通点が見える。

正面性、平らな画面、大きな襟、幕と風景。

名のない絵の価値

作者不詳の絵は、格が低いとされることがある。

しかし、そうではない。

名のある画家の絵と同じく、時代の記録である。

誰が描いたかより

誰が描いたかは、分からない。

しかし、何が描かれているかは分かる。

衣の模様、玩具、家族の並び、屋敷、そして燃える町。

残ったものを、見る

九点は、二百年以上を経て残った。

そして、公開されている。

作者の名は失われたが、絵は残っている。

見ることができるのは、そのおかげである。

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