手に、何かを持たせる——19世紀アメリカの作者不詳の肖像
足元の箱
いま見た一点には、玩具の箱が描かれている。
手に持つ物のほかに、床にも物が置かれている。
これは、持ち物を増やす工夫である。一つでは足りないときに、周りに置く。
見る側は、その箱から持ち主の暮らしを読む。玩具が複数あることが分かる。
肖像は、人だけを描くものではない。人の周りにあるものを一緒に描く。

九点で最も背の高い画面の一つである。子どもが全身で立つ。
衣は鮮やかな橙で、裾に緑の葉と花の模様が並ぶ。
袖は短く、肩から白い袖口が出る。腰にひだが寄る。
裾の下から、白い下履きが見える。膝下まであり、縁に飾りが付く。
靴は黒で、甲に留め具がある。
右手を、大きな木馬の首に掛ける。木馬は青灰色で、鬣が白い。
木馬の胴には、青と黒の模様が並ぶ。揺り台が弧を描く。
背景の左に赤い幕が垂れ、その隙間から窓が見える。窓の外に木と空がある。
九点のなかで、最も色の多い一点である。
幕と、窓
背景に幕を垂らし、その隙間から外を見せる。これは古くからある型である。
室内にいながら、外の広がりを示せる。画面が閉じない。
十九世紀のアメリカの肖像でも、この型はよく使われた。
九点のうち、窓や外の景色が入るのはこの一点だけである。ほかは平らな背景である。
型を使えるかどうかは、画家の技量にもよる。窓の外を描くのは手間がかかる。

九点で最も小さい一点である。縦は36センチほどしかない。
顔の周りを、大きな白い縁飾りが囲む。帽子の縁である。
飾りは細かい網目で、光を受けて明るい。
肩から胸にかけて、白いレースが広がる。衣は濃い青である。
胸の前に、黄色い籠を抱える。編み目が斜めに描かれる。
籠の中には、橙と赤の花が盛られる。葉は濃い緑である。
顔は丸く、目が大きい。頬に赤みが差す。
背景は暗い緑で、上部がわずかに明るい。
小さくても、細かい
この一点は小さいが、描き込みは少なくない。
帽子の縁飾りは、一つずつの弧が描かれる。籠の編み目も同様である。
大きな画面のほうが細かいとは限らない。むしろ小さい画面のほうが、密度が高いこともある。
小さい画面は、近くで見るものである。手に取って眺める距離で作られる。
九点の寸法の幅は、飾る場所の違いを示している。

九点で最も大きい部類の画面である。縦は1メートルを超える。
少年が全身で立つ。両足をそろえる。
衣は濃い青の上下で、首に白い襟が広がる。襟は丸く、縁に飾りが付く。
上着には金色の釦が二列に並ぶ。腰から房飾りが下がる。
右手に、赤い本を持つ。表紙の縁が金色に光る。
床には、緑地に花模様の敷物が広がる。模様は左右に規則正しく並ぶ。
敷物の模様は、少年の身長ほどの範囲に描かれる。
背景は暗い褐色で、何も描かれない。
本という持ち物
本は、玩具とは違う持ち物である。
学びと結びつく。読めること、あるいは読む予定があることを示す。
九点のうち二点で、子どもが本を持つ。どちらも表紙が見えるように持たれる。
中身は描かれない。開かれた本が出てくる一点でも、文字は書かれていない。
本であることが分かればよい。中身は必要とされていない。

九点で唯一、子どもではない人物である。
年配の女性が、椅子に座る。上半身が画面に入る。
頭に白い帽子を載せる。縁に細かい襞が並ぶ。
肩から胸にかけて、白い布が大きく掛かる。三角に折られている。
衣は黒で、光をほとんど返さない。
左手に、黄色い林檎を持つ。指が実を軽く支える。
右手は膝の上に置かれる。指が細く、皺が描かれる。
顔には皺が刻まれ、口元が引き締まる。目はこちらを見る。
題には、たぶん、を示す語が入る。人物の特定が確定していない。
子どもだけではない
九点を選ぶとき、子どもの肖像を中心にした。
しかし、いま見た一点は年配の女性である。持ち物の型は、子どもに限らない。
大人の肖像でも、手に何かを持たせる。本、手紙、扇、道具。
持ち物は年齢に応じて変わる。子どもには玩具、大人には仕事や教養の品が選ばれる。
林檎は、そのどちらにも入りにくい。だからこの一点は目を引く。
名前に、留保が付く
九点の題を見ると、人物の名が入るのは二点だけである。
一点は家の名、一点は個人の名である。
そして個人の名のほうには、たぶん、という語が付く。
館は、誰であるかを断定していない。伝えられてきた名を、留保付きで残している。
作者の名も分からず、描かれた人の名も確かでない。それでも絵は残っている。