湯浴みの絵は、上がった後を描く——ドガ・クルーエ・春信ほか九点

きわめて細長い画面である。
66.4×11.4センチある。
高さは、幅の六倍近い。
これは柱に掛けるための版画である。
上のほうに、格子の窓がある。
格子は赤い。
窓の下に、女が立つ。
女は、こちらへ背を向けかける。
顔は横を向く。
髪は結い上げられる。
首筋が出る。
着物は、肩まで下ろされる。
背中の一部が見える。
右手に、扇がある。
扇を、体のほうへ動かす。
風を送っている。
裾は長く、床に広がる。
布の線は、細かく折れる。
足元に、猫がいる。
猫は小さく、丸まる。
画面の下の端にいる。
細長い画面に、人と猫が縦に並ぶ。
館の記録では、題は湯上りである。
湯も、盥も、描かれていない。
描かれるのは、その後の暑さだけである。
柱絵という形について、書いておきたい。
幅が11センチしかない。
人の体は、その幅に収めるしかない。
だから、体は縦に細く描かれる。
横向きにすれば、幅が要る。
斜めに立たせれば、線が長く取れる。
この絵の女も、やや斜めに立つ。
裾の広がりだけが、幅いっぱいになる。
上の格子と、下の猫が画面を留める。
細長い紙は、貼る場所も限られる。
柱に貼れば、狭い部屋でも飾れる。
形が、使い方から決まっている。
縁側に出た娘が、鉢を見る
五点目も、版画である。

縦長の紙である。
紙は27×19.2センチある。
画面の右に、家の柱と縁側がある。
床板は灰色で、線が引かれる。
上に、風鈴が下がる。
風鈴には、短冊が結ばれる。
短冊は、風で揺れている。
左には、水辺がある。
草が生え、葉が立つ。
館の記録では、そこに花が咲く。
画面の中央に、娘が立つ。
娘は横を向く。
着物は白く、裾が長い。
袖は肩から落ちかける。
首と胸元が、少し見える。
髪は結い上げられる。
視線は、下へ向く。
その先に、鉢がある。
鉢は小さく、床に置かれる。
中に、細い花がある。
撫子である。
館の記録では、娘は湯から上がったところである。
そして、縁側に出て鉢を見ている。
館は、そう説明している。
つまり、この絵も湯上りである。
題には、湯の語がない。
館の記録では、これは四枚組の一枚である。
四季の花を当てた組だという。
この一枚は、夏にあたる。
撫子が、その季節の花である。
風鈴も、短冊も、夏のしるしである。
湯上りは、暑さを示す場面でもある。
館は、この画家についても書く。
色ごとに版木を分けた最初の人だという。
その方法で刷った版画は、錦絵と呼ばれた。
織物の錦に、似ているからである。
この絵には、空摺も使われる。
色を付けない版木で、紙に凹凸を作る。
水の波と花に、その凹凸がある。
布に包まれた子と、母がいる
六点目は、パステルである。

横長の紙である。
紙は66×100センチある。
背景は、明るい緑である。
色は塗り残しが多い。
紙の地が、ところどころ見える。
画面の中央に、女がいる。
女は、こちらを向く。
髪は暗い色で、まとめられる。
顔だけが、細かく描かれる。
目も、口も、輪郭がはっきりする。
女の右腕は、前へ回る。
その腕に、子が抱かれる。
子は裸である。
体には、白い布が巻かれる。
布は厚く、皺が寄る。
子の髪は明るい。
顔は女のほうを向く。
画面の右に、もう一人の子がいる。
その子は、橙色の服を着る。
女の肩に、手を掛ける。
三人の体は、近く重なる。
館の記録では、この画家は顔だけを細かく描いた。
ほかの部分は、粗いままにしたという。
たしかに、服と背景の線は速い。
館の記録では、この画家はパステルを長く使った。
七十年代から、試し続けたという。
そして、こう言ったと館は書く。
パステルは、子を描くのにいちばん良い。
子は長く座っていられないからである。
速く描ける材料が、要る。
紙は大きい。
幅は一メートルある。
その上を、色の棒が走る。
線の跡が、そのまま残る。
塗り重ねると、色が濁る。
重ねずに、隣に置く。
緑の背景も、点や線の集まりである。
黒い木立の下に、白い人がいる
七点目は、大きな油彩である。

縦長の画面である。
172.5×101センチある。
人の背丈ほどの高さがある。
画面の上のほうは、空である。
空は明るい青である。
雲は薄い。
その手前に、木が並ぶ。
木は細く、まっすぐ高い。
幹は暗く、ほとんど黒に見える。
葉は上に固まる。
木は五、六本ある。
木のあいだから、遠い山が見える。
山は青灰色である。
画面の下は、水である。
水は暗く、木を映す。
映った像は、黒く伸びる。
水際に、人が立つ。
人は白い。
大きさは、画面の十分の一もない。
顔も、姿勢も分かりにくい。
布を体に当てているように見える。
題は湯浴みのあとである。
しかし、画面の主役は木と水である。
人は、その中の小さな明るい点でしかない。
画面の分け方を見る。
上から三分の二が、木と空である。
下の三分の一が、水である。
人は、そのちょうど境目にいる。
境目に置かれると、目が留まる。
小さくても、見落とされない。
木の黒と水の黒が、上下で対になる。
そのあいだにだけ、明るい草地がある。
人は、その明るい帯の上にいる。
色の設計が、人の位置を決めている。
館の記録では、制作は1910年である。
題は、湯浴みのあととされる。
しかし場所は、家の中ではない。