湯浴みの絵は、上がった後を描く——ドガ・クルーエ・春信ほか九点
湯浴みを描いた九点を数えると、湯に体を入れている人は二点しかいなかった。多くは上がった後で、扇を使い、鉢を見ている。湯も盥も画面の外にある。こちらを見る人は二点だけで、残る七点は見られていることを知らない。

盥の縁を掴んで、片脚を上げる
正方形に近い版画である。

画面と版は12.7×12.7センチある。
手のひらほどの大きさである。
線は細かく、灰色に沈む。
黒い部分と白い部分の差が強い。
画面の左に、女がいる。
女は裸で、後ろを向く。
背が丸く曲がる。
腰は高く上がる。
右脚は、まだ盥の中にある。
左脚は、外へ出ようとする。
両手は、盥の縁を掴む。
指に力が入る。
体は、不安定に見える。
盥は円く、浅い。
床には、布が広がる。
画面の右に、もう一人いる。
その人は、大きな布を持つ。
布は、体のほとんどを隠す。
顔も見えない。
館の記録では、それは女中である。
布は、体を拭き温めるためのものだという。
背景は、粗い線でしか描かれない。
家具らしい塊がある。
窓か、扉らしい四角もある。
館の記録は、こう書いている。
この描き方は、見る人を覗く位置に置く。
二人は、こちらに気づいていない。
館は、そう説明している。
館の記録には、道具の話もある。
この版は、銅の板に直接描かれた。
しかし、使われたのは針ではない。
銅の棒だったという。
それは、古い電灯の部品である。
画家は、その線の出方を気に入った。
家に持ち帰って、さらに手を加えた。
研磨用の鉛筆や、石まで使ったという。
館は、そこまで記録している。
つまり、この黒は道具の実験から出ている。
版画についても、館は書いている。
この画家は、版画を重く見ていた。
仲間の展覧会で、絵と並べて出した。
古い巨匠の版画も、図書館で調べていた。
湯浴みは、九つの場所に現れる
このコラムでは、湯浴みの絵を九点並べる。
九点は、館も年代も技法も違う。
版画があり、板絵があり、掛幅があり、パステルがある。
写真もあり、石版画もある。
共通するのは、館の記録に湯や浴の語があることだけである。
数えるのは、湯に入っている人の数である。
湯槽の中から、こちらを見る
二点目は、板に描かれた油彩である。

ほぼ正方形の画面である。
全体は92.3×81.2センチある。
上に、赤い幕が下がる。
幕は左右に分かれ、束ねられる。
布の襞は、厚く重い。
その下に、女がいる。
女は湯槽に入る。
湯槽は木で、縁が見える。
湯の面には、白い布が敷かれる。
布は、水面を覆う。
女の上半身は、湯の上にある。
胸から上が見える。
顔はこちらを向く。
目は、まっすぐ前を見る。
髪は結い上げられる。
額には、宝石の飾りがある。
耳にも、飾りが下がる。
右腕は、前へ伸びる。
手には、赤い花がある。
手前には、白い布を掛けた台がある。
台の上に、果物の皿がある。
葡萄と、桃らしいものが見える。
画面の左奥に、もう一人の女がいる。
その女は、乳を与えている。
腕の中に、赤子がいる。
その隣に、幼い子がいる。
子は、果物へ手を伸ばす。
奥には、暖炉と部屋が見える。
湯浴みの場面に、家の暮らしが重なる。
画面の構成を、もう一度見る。
上の幕、中央の人、手前の台。
三つが、横に層をなす。
手前の台は、画面の下を横切る。
白い布が、まっすぐ張られる。
その直線が、画面を支える。
女の腕は、その直線の上にある。
腕と布が、平行に近い。
幕の襞だけが、斜めに落ちる。
斜めと水平が、画面で組み合う。
湯槽の縁も、水平である。
垂直に立つのは、幕を吊る紐だけである。
落ち着いた形の中に、人が置かれている。
紅い薄物を通して、体が見える
三点目は、掛幅である。

縦長の画面である。
画のみで96.5×44.1センチある。
床には、青と白の敷物がある。
模様は細かく、菱形が並ぶ。
右に、赤い柱と壁がある。
奥に、屏風が立つ。
屏風には、山水が描かれる。
上のほうに、花の枝が垂れる。
画面の中央に、女が立つ。
女は、赤い薄物を着る。
布は透ける。
体の輪郭が、布を通して見える。
館の記録では、これは薄い絹の衣である。
暑く湿った土地で作られたという。
館は、そう説明している。
女の前に、もう一人いる。
その人は膝を突く。
手に、椀を持つ。
椀を差し出している。
館の記録では、それは汁物である。
その人は、男の学者の身なりをする。
しかし、耳に飾りがある。
館は、それを根拠に女中だとする。
男がここにいるのは、作法に反するからである。
館の記録は、そこまで書いている。
物語についても、館は説明する。
これは、ある王朝の皇帝と妃の話である。
二人の恋は、長く語り継がれた。
しかし、描かれた部屋は後の時代のものである。
館は、それを南方の室内と見る。
つまり、昔の話を今の家で演じている。
屏風の山水にも、意味がある。
館の記録では、その中に落款が隠される。
画家の名が、風景の中に書き込まれている。
署名を絵の中に紛れ込ませる工夫である。
落款には、冬至の二日後という日付もある。
館の記録は、その年も記している。
柱の絵に、湯上りの女が立つ
四点目は、細長い版画である。