作品を知る

湯浴みの絵は、上がった後を描く——ドガ・クルーエ・春信ほか九点

湯浴みを描いた九点を数えると、湯に体を入れている人は二点しかいなかった。多くは上がった後で、扇を使い、鉢を見ている。湯も盥も画面の外にある。こちらを見る人は二点だけで、残る七点は見られていることを知らない。

浴槽から出る女
エドガー・ドガ《浴槽から出る女》クリーヴランド美術館蔵

盥の縁を掴んで、片脚を上げる

正方形に近い版画である。

浴槽から出る女
エドガー・ドガ《浴槽から出る女》1879年から80年。館の記録では、ドライポイント、アクアチント。画面と版は12.7×12.7センチ。番号は2025.198。クリーヴランド美術館蔵。エドガー・ドガ《浴槽から出る女》クリーヴランド美術館蔵

画面と版は12.7×12.7センチある。

手のひらほどの大きさである。

線は細かく、灰色に沈む。

黒い部分と白い部分の差が強い。

画面の左に、女がいる。

女は裸で、後ろを向く。

背が丸く曲がる。

腰は高く上がる。

右脚は、まだ盥の中にある。

左脚は、外へ出ようとする。

両手は、盥の縁を掴む。

指に力が入る。

体は、不安定に見える。

盥は円く、浅い。

床には、布が広がる。

画面の右に、もう一人いる。

その人は、大きな布を持つ。

布は、体のほとんどを隠す。

顔も見えない。

館の記録では、それは女中である。

布は、体を拭き温めるためのものだという。

背景は、粗い線でしか描かれない。

家具らしい塊がある。

窓か、扉らしい四角もある。

館の記録は、こう書いている。

この描き方は、見る人を覗く位置に置く。

二人は、こちらに気づいていない。

館は、そう説明している。

館の記録には、道具の話もある。

この版は、銅の板に直接描かれた。

しかし、使われたのは針ではない。

銅の棒だったという。

それは、古い電灯の部品である。

画家は、その線の出方を気に入った。

家に持ち帰って、さらに手を加えた。

研磨用の鉛筆や、石まで使ったという。

館は、そこまで記録している。

つまり、この黒は道具の実験から出ている。

版画についても、館は書いている。

この画家は、版画を重く見ていた。

仲間の展覧会で、絵と並べて出した。

古い巨匠の版画も、図書館で調べていた。

湯浴みは、九つの場所に現れる

このコラムでは、湯浴みの絵を九点並べる。

九点は、館も年代も技法も違う。

版画があり、板絵があり、掛幅があり、パステルがある。

写真もあり、石版画もある。

共通するのは、館の記録に湯や浴の語があることだけである。

数えるのは、湯に入っている人の数である。

湯槽の中から、こちらを見る

二点目は、板に描かれた油彩である。

湯浴みする貴婦人
フランソワ・クルーエ《湯浴みする貴婦人》1571年ごろ。館の記録では、油彩・オーク板。全体は92.3×81.2センチ。番号は1961.9.13。ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵。フランソワ・クルーエ《湯浴みする貴婦人》ナショナル・ギャラリー(ワシントン)蔵

ほぼ正方形の画面である。

全体は92.3×81.2センチある。

上に、赤い幕が下がる。

幕は左右に分かれ、束ねられる。

布の襞は、厚く重い。

その下に、女がいる。

女は湯槽に入る。

湯槽は木で、縁が見える。

湯の面には、白い布が敷かれる。

布は、水面を覆う。

女の上半身は、湯の上にある。

胸から上が見える。

顔はこちらを向く。

目は、まっすぐ前を見る。

髪は結い上げられる。

額には、宝石の飾りがある。

耳にも、飾りが下がる。

右腕は、前へ伸びる。

手には、赤い花がある。

手前には、白い布を掛けた台がある。

台の上に、果物の皿がある。

葡萄と、桃らしいものが見える。

画面の左奥に、もう一人の女がいる。

その女は、乳を与えている。

腕の中に、赤子がいる。

その隣に、幼い子がいる。

子は、果物へ手を伸ばす。

奥には、暖炉と部屋が見える。

湯浴みの場面に、家の暮らしが重なる。

画面の構成を、もう一度見る。

上の幕、中央の人、手前の台。

三つが、横に層をなす。

手前の台は、画面の下を横切る。

白い布が、まっすぐ張られる。

その直線が、画面を支える。

女の腕は、その直線の上にある。

腕と布が、平行に近い。

幕の襞だけが、斜めに落ちる。

斜めと水平が、画面で組み合う。

湯槽の縁も、水平である。

垂直に立つのは、幕を吊る紐だけである。

落ち着いた形の中に、人が置かれている。

紅い薄物を通して、体が見える

三点目は、掛幅である。

楊貴妃出浴図
顧見龍《楊貴妃出浴図》十八世紀。館の記録では、掛幅・絹本着色に金。画のみで96.5×44.1センチ。番号は2017.65。クリーヴランド美術館蔵。顧見龍《楊貴妃出浴図》クリーヴランド美術館蔵

縦長の画面である。

画のみで96.5×44.1センチある。

床には、青と白の敷物がある。

模様は細かく、菱形が並ぶ。

右に、赤い柱と壁がある。

奥に、屏風が立つ。

屏風には、山水が描かれる。

上のほうに、花の枝が垂れる。

画面の中央に、女が立つ。

女は、赤い薄物を着る。

布は透ける。

体の輪郭が、布を通して見える。

館の記録では、これは薄い絹の衣である。

暑く湿った土地で作られたという。

館は、そう説明している。

女の前に、もう一人いる。

その人は膝を突く。

手に、椀を持つ。

椀を差し出している。

館の記録では、それは汁物である。

その人は、男の学者の身なりをする。

しかし、耳に飾りがある。

館は、それを根拠に女中だとする。

男がここにいるのは、作法に反するからである。

館の記録は、そこまで書いている。

物語についても、館は説明する。

これは、ある王朝の皇帝と妃の話である。

二人の恋は、長く語り継がれた。

しかし、描かれた部屋は後の時代のものである。

館は、それを南方の室内と見る。

つまり、昔の話を今の家で演じている。

屏風の山水にも、意味がある。

館の記録では、その中に落款が隠される。

画家の名が、風景の中に書き込まれている。

署名を絵の中に紛れ込ませる工夫である。

落款には、冬至の二日後という日付もある。

館の記録は、その年も記している。

柱の絵に、湯上りの女が立つ

四点目は、細長い版画である。